ビニールプール
央くんの死の真相を知ってから、私は皆を避けるようになった。
博との噂を否定しても、からかわれて皆のおもちゃにされるだけだし、何より今までのように振る舞う気力も無かった。
今日は皆、朝からピクニックに出掛けている。広い食堂で私は1人日記を書いていた。
「おー!書いてるな。感心、感心」
博が覗き込んできた。急いで日記帳を閉じる。
「皆と行かなかったの?」
「こんな暑い日でも喜んで外に出るのはオチビさんとあの保育士ぐらいだろ」
いつの間にか、食堂には幾人かの子供達が集まっていた。
「皆、悪かったと思ってるんだぜ」
「何の事よ?」
「お前が思ったより気にしてるみたいだからさ」
どうやら博は変な噂を流した事と、からかった事を言っているようだ。
「ごめんな」
「悪かったよ」
「許してね」
集まっていた子供達が私に順番に謝りに来た。皆、私が落ち込んでいるのは自分達のせいだと本気で思っている。
「気にしないで、もう大丈夫よ。許してあげるから」
私が、そう言うと皆の顔がパッと明るくなった。
あなた達のせいじゃないのに...。私は罪悪感でいっぱいだった。
「よし!それじゃ行くぞ、お前ら!!」
博が私の手を取って何処へ連れて行く。後から皆も笑いながら付いて来る。
誘導されたのは裏庭だった。この場所の石は小粒なので保育士が駐車場として使っている。
「じゃじゃ~ん、凄いだろ?皆、早起きして造ったんだぜ」
そこには、真夏の太陽に照らされてキラキラ光る即席のビニールプールがあった。
「ねぇ、これ掴み食べ用のビニールシートよね?」
「いいから、いいから」
皆が私をプールへと誘う。手を浸けてみると少し生ぬるい。
「ひゃっはーい!!」
バシャン!!バシャン!!
皆がプールへ飛び込む。跳ねた水の中で笑う彼等はとても楽しそうだ。
「ほら、お前も」
博がプールの中から私を引っ張った。足が滑って前のめりに倒れてしまう。すかさず博が水をかける。
「なっ?気持ちいいだろ」
博が白い歯を見せて笑う。皆笑っている。私もつられて笑ってしまう。
水しぶきがキラキラと、とても美しい。
皆の笑顔がとても美しい。
皆のはしゃぐ姿を見て思った。彼等は、純粋で幼くて可愛いのだ。
これが母性なのだろうか?それとも、ただの強がりか?
私は彼等の前では強くあろうと誓った。
必ず彼等にとって最善の選択をする。次は絶対に間違えない。