天の川で夜釣りを_5
次に目を覚ましたら、私は自分の部屋のベッドに寝ていた。時計を見ると既にお昼近くになっている。
きっと、いつもの悪夢を見たのだろう。シーツが汗でびっしょり濡れていた。
もしかして、央くんとの昨夜の出来事も全て夢だったのだろうか?皆の居る部屋へ行けば央くんがいつも通り、そこに居るんじゃないだろうか?
廊下へ出ると雪子が駆け寄って来た。
「聞いたわよ。あなた、博と駆け落ちしようとしたんですって?」
「はあー!?」
周りを見渡すと、私に対しての皆の視線がいつもと違う気がする。どうしてこうなった!?
リビングへ行くと保育士が鼻歌を歌いながら赤ちゃん達の離乳食の準備をしている。何故か、いつものビニールシートが無い。
ガヤガヤ
博が数人の連れを従えてやって来た。途端に賑やかになる。
「あんた、皆に何か言ったの?」
博はニヤケて何も言わない。
「博君は鳥居の外で倒れて居る君をここまで背負って連れて来てくれたんだよ」
保育士が配膳の手を止めて言った。
「あの熱い夜の忍び逢いを忘れたかー」
ギヤハハハ
博が顔の横で両手をヒラヒラさせて言うとその場に居た子達は大声で笑いだした。
「勘違いされるような事言わないでよ!」
私は、そう叫ぶとリビングを後にした。
保育士との会話で、やっぱり昨夜私は央くんと鳥居の向こう側に行ったんだと確信できた。
夢の事は気になるが、央くんはお母さんにちゃんと出逢えたんだと思う事にした。
「豆チキン、豆チキン」
中庭から小さな子供達の声が聞こえる。
豆チキンとは、この園で飼われているぶち猫だ。賽の河原でさ迷っているところを小さな子供達が連れてきた。
「お姉ちゃん、豆チキンを知らない?」
子供達の一人が聞いてきた。
「いきなり居なくなっちゃたんだ」
その時、保育士が子供達を呼びにやって来た。手には新聞を持っている。
「先生、豆チキンが居ないんだ」
「もしかしたら、パパとママが迎えに来たのかもしれないよ」
保育士は、その子の頭を撫でながら応えた。
「ごめんね瑠璃ちゃん、この新聞をリビングの床に敷いて来てくれる?」
そう言って保育士は私に新聞を手渡した。
私は、その新聞を見て人目も憚らずに声を出して泣いた。
「あの子にとっては...ここが天国だったのに...」
保育士はそう冷たく言い残して、その場を後にした。