天の川で夜釣りを_4
ああ、7月の夜風が潮の香りを運んでくる。瞼の裏に満月が見える。私は、1人残された暗闇の中で夢を見た。
美しい満月の夜、中年の女性と青年が並んで釣りをしている。男の子は私と同い年位だろうか?スヤスヤと眠っている。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
傍らの女は何度も呟く。
「やるしかないだろ」
女の背後から男が囁く。
女と男は男の子の身体を持ち上げると漆黒の海に勢いをつけて放り投げた。
男は笑っている...。女はまるで魂が抜けたような顔をして佇む。
「2度目だろ?お前もよくやるよな。金のためなら血が繋がった我が子さえ手にかけるんだもんな」
男は声を上げて笑う。女はただただ佇む。
ゴボッ...ゴボボボボ
突然、海面に泡が立ち上ったかと思うと、男の子が浮かび上がって来た。どうやら目を覚ましてしまったようだ。
「やれよ!」
男が車から持ってきた金槌を女に手渡す。
「母さん!母さん!」
この声は...
男の子が母親にすがるように岸辺にしがみつく。
「やれ!!」
男が語気を強めると母親は意を決したように金槌を振り下ろした。
「ギャッ」
男の子が短く叫ぶ。それでも母親にすがりつく。
「母さん、母さん」
やっぱり央くんだ!央くんの声だ!
「やれ!!やれよ!!」
男が更に語気を強める。母親はもう一度金槌を振り下ろす。
「母さん...母さん...」
もう止めて、お願い止めて。口は動くのに声が出ない。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「母さん...母さん...」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「母さん...かあ......」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
母親は、そう繰り返しながら何度も何度も金槌を振り下ろした。
お願い...止めて...その子はあなたを愛しているのよ
とうとう男の子は力尽きたようで、滑るように海へと沈んでいった。
天の川で夜釣りを_5に続きます