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……だけど、思ったよりも恥ずかしい。
私のことを親友だと思っている、記憶のない君が、ここまで私に熱烈な愛さえ感じる視線を向けてくれるとは思わなかった。
こうなったら、私と君との恋物語は、運命だったとも言えるじゃないか。
二人きりじゃないことが、反対に私をドキドキさせているように思えた。
「そ、そんな、そんなに見ないでよっ。恥ずかしいから、こっち向かないで」
親友だったら絶対にしない反応だろうけれど、恥ずかしかったから、私は思わずそう言ってしまっていた。
前と同じ君ではないのに、前と同じ君にするように。
気持ち悪いとだけは思われたくないのに、君が私を好きでいてくれているつもりで、そうしてしまっていた。
「駄目だ。どう見たって男なのが、隣で見ていてわからないわけがないのに、俺は何を思ってしまっているんだろう。可愛いなんて、馬鹿らしいよな」
「か、可愛い? 本当に私は可愛いかな?」
これ以上、私は何を言おうというのだろう。
可愛いと言われてしまったら、どうしたって、もっと求めてしまったって仕方がない。
好きな人に可愛いと言われて、嬉しくないはずがないじゃないか。
「もっと言って。私を見て。可愛いって言ってよ」
つい迫ってしまって、誘ってしまって、後悔が私を襲う。
「な~んてね。冗談に決まってるでしょ、本気にしないで、私は男だよ?」
どうにか誤魔化そうとしたのだが、これで誤魔化せているだろうか。
君が動揺してしまっているから、とても私にはどうしようもないのだ。
他にも人がいるのに、どうして私はこんなことをしてしまっているのだろう。
今までみたいに私に絡んでくる君にはできないことだったから、尚更ってことなのかな。もしかして、本当の私はこちらなのか?
せっかく二度目の恋なのだし、全く別のことをしたいのだろう。
共寝をしたら感覚で私の味を思い出してくれるかもしれない。
って、何を考えているんだか。
今のところ私と君は親友なんだもの、そんなことになりようはずもないよね。
「最初は私が女に見えるのかもしれないけど、慣れたらさすがに、男として見るしかなくなるよ。何せ私は、こう見えて男らしい性格なのだからね」
その上で私という人を好きって言ってくれたら、それはもう君は君だ。
そうなるまでの君は君じゃないっていうわけじゃないんだよ。
だけどやっぱりそれまでは、私からは本当のことをなど話せるはずもない。
君からの拒絶だけは、抵抗ですら、絶対に何があったって聞きたくないからね。
それに、負けた気になって嫌じゃないか
どうせなら、性別という壁をもう一度乗り越えてほしい。
「記憶が混乱してしまっているんだろうね。大切の記憶が、だれかに対する大切と混ざってしまっているのだろうか。親友よりも恋人寄りに感じられる……」
混乱なんてしているものか。それが正しいのだよ。
思い出して、自信を持って私を恋人だって言ってくれ。むしろ私を妻だと言って。
君が妻って言ってくれたら、「私は男だ、馬鹿」って言って、君のことを叩いてやるって言うのに……。
親友でも嬉しいけれどさ。
記憶を戻すことよりも、私に恋することの方が、この調子じゃあ早そうだね。
「それなら恋人になってあげてもいいんだよ? ふふっ」
小悪魔的なことをするのは、慣れないことで緊張してしまう。
こうして君が私を見てくれるの嬉しくて、葛藤しているのが面白くて、だから揶揄ってしまうのも仕方のないことだよね。
好きな人のことは揶揄いたいって言うじゃないか。
今の君は私のことをどう思っているんだろう。
男だと、男らしいと自称しておきながら、誘惑して、遂には恋人になってもいいなどと言い出したのだ。
普通に親友として話をしたいのに変だな。
君といると、どうしても私は変になってしまうようだ。
それが君もそうだったらいいな。
「悪い。すぐにちゃんと男として見るから。気持ち悪いだろうけれど、我慢してもらえるか? 親友の感覚を取り戻せるまでは、本気で意識しちゃいそうだから止めてくれ」
嫌だ。気持ち悪いなんて言わないでよ。
「わかった、ごめんね。親友の君に戻ってくれるのを待ってるからね。ゆっくりでいいから、思い悩まず、無理はしなくていいんだよ。ね?」
キスでもサービスしたかったけれど、引き返せなくなるのが怖くて、私はただ微笑むことしかできなかった。
結局は、臆病な私は成長できていなかったんだ。
いつも君から求めてくれていたから、そんな気がしちゃってたんだね。
馬鹿らしいのは私みたいだよ。