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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
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94話 少女の実力

 食事を終えた少女。

 自分が何をしたのかにようやく気が付くのだが、時は既に遅い。

 呆れた顔をしている女性冒険者が立ち上がっており、少女の逃げ場は失われていた。


「さっ……ここでは無い、別の場所で()()()()話をしようじゃないか」


 目付きが悪い男性冒険者が、口元を軽く緩ませながら言う。

 まるで「今から誘拐をするぞ」と、言っているようにも感じ取られる。

 目付きの悪い男性冒険者が席を立つと、女性冒険者は少女の椅子を引き、優しく肩を掴む。

 傍から見れば少女を脅して、何処かへ連れ攫って行くかの様にも見えるのだが、誰も男女(だんじょ)の行動に注視する者は居らず、まるで他人事のように見向きもしない。

 少女は、女性冒険者に連れて行かれるかのように店を出て行き、一瞬だけ店内は重い空気に包まれるのだが、まるで先程の事は無かったの如く、室内は喧騒に包まれたのだった。


――――――――――


 少女は俺とアオに連れられて、宿泊している宿屋へと来ていた。

 宿屋の店員は、少女の姿を見て顔をしかめるが、何も言う事はなかった。

 部屋に連れて来られた少女は、アオに目配せで座るよう指示されて、椅子に座らされる。


「さて、それじゃあ話をしようか」


 椅子に座った俺が口にすると、少女は顔を強張らせて俯いてしまう。


「えっと……君の職業は『アシスター』で間違いがないのかな?」


 俯いていた少女は顔を上げる事はなく、小さく頷き、自分がアシスターだと認める。

 アオも椅子に座り、俺たちのやり取りを聞いていたが、少女が逃げ出さないよう、出入り口の側に陣取って座っている。


「で、アシスターとして何ができるの?」


 椅子の背もたれに寄り掛かりながら俺が素っ気なく質問してみる。


「に、荷物持ちとか! な、何でも出来ます!!」


 バッと顔を上げ、必死に訴えかけるように少女が言う。


「その身体で荷物持ち? 無理じゃないか?」


「ゆ、弓を使う事もできます!」


 と、言うが、どう見ても弓を使えるようには見えないし、たとえ使えたとしても、その弓を持っているようには見えない。


「ふ〜ん。じゃぁ……武器は何処かに隠してるのか? 俺達にはどう見ても武器を持っているようには見えないけどねぇ」


 よく見ると少女の服は薄汚れていて、生活魔法の浄化すら使えないようであり、先程の酒場で食べた食事は、どうも久し振りに食べたようにも感じ取れた。

 そんな人間が、武器を持っているようには到底思える訳がない。


「雇う、雇わない以前に、君の名前を教えてくれないか? そうしないと話すらまともに出来ない」


 口元を緩ませながら言うと、少女は先程の勢いが完全に消えた状態で、呟くように名前を名乗った。


「……コ、コース=……オイト……ラン……です」


「コースね。で、何で俺達に声をかけた? 俺達は余所者だぜ。それに、仲間だったら、ギルドで探すのが普通だろ?」


「そ、それは……」


 どうやら話し難いらしく、コースはモゴモゴさせていた。


「言い難いなら言わなくても良いよ。じゃー、歳は何歳? アオよりも若そうに見えるけど」


 言い難そうに「14……歳です」と、コースと名乗った少女が答えると、アオが肩をガクッとさせた。


「確かに冒険者登録は可能な年齢だけど……。そんな身体でアシスターが勤まると思ってるの? 貴女は……」


 呆れた表情でアオが言う。

 だが、アオも16歳。年齢は2歳しか違わない。それに、他の者がアオと俺を見たてとしても、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)だとは思わないだろう。

 しかし、俺の目付きはヤンキー並みに悪く、普通にしていても、相手を睨んでいるかのように見えてしまうので、喧嘩はそれなりに強いのである。


「まあ、無駄に筋肉が有るよりはマシだろ。アオだって可愛い顔して敵を圧倒出来るじゃんか」


「か、可愛いだなんて……。リョータ様は褒めるのがお上手です! アオはリョータ様のお側に居られれば、それだけで幸せです!」


 頬を赤らめ、嬉しそうな仕草をしながら、身体をくねらせて尻尾を振るアオ。

 何故、こんなにも眼付きが悪い男に心酔しているのか、全く分からず不思議でならないコースであった。


「あぁ、言い忘れた。俺は石橋亮太(いしばしりょうた)。あいつはアオ。宜しくな」


「は、はぁ……」


 勝手に話が進んでいるような気がして、コースは少し不安を覚える。


「で、お前はどこの宿屋に泊まってるんだ?」


 その言葉にコースは口を紡ぎ、何も答えようとはしない。

 俺はアオに目をやると、アオは苦笑いをして部屋を出ていく。


「どうせ明日は雨だから、練習場で君の実力を見せてくれないか?」


「で、でも……」


 窓の外を見ると、既に日が落ちて暗くなっている。

 コースはチラチラと外を見ており不安そうにしていた。

 すると、アオが部屋に戻り、椅子に腰掛ける。

 そして……。


「あんたの部屋は隣よ。リョータ様に感謝なさい」


 何を言っているのかさっぱり理解できないコース。

 呆れた顔していたアオだったが、コースが理解していない事を分かっているので、説明する。


「どうせ、あんたは宿無しなんでしょ。私の大切なご主人様が、あんたの宿を手配してくれたのよ」


「手配したのはお前だろ。俺は何も言っていないぞ」


 俺の言葉に対し、アオはそっぽを向く。


「じゃあ、そういう事で……明日はお前の実力を見せてくれよな」


 何が起きているのかさっぱり理解が出来ず、コースは顔を引き攣らせるのだった。


 俺の指示により、手配した部屋へコースを連れて行くと、本当に宿を手配していた事に驚きを隠せず、コースは「嘘でしょ……」と、声を漏らす。


「嘘じゃないし夢でもないわよ。リョータ様の優しさに感謝しなさいよね」


「な、何で……」


「酒場であれだけ食べ、その姿だったら誰だって分かるでしょ? アンタが野宿しているって事くらい……。馬鹿なんですか?」


「そ、そうじゃなくて! 何故、私みたいな見知らぬ人にここまで出来るんですか!」


 声を荒らげながらコースが言うと、アオは深い溜め息を吐きながら言う。


「リョータ様はお優しい方なのよ。訳有りなんでしょ。どうせ……」


 ドアに寄り掛かり、腕組みをしながらアオは言い。

 これ以上は話しても無駄だと悟ったアオは、「じゃあ、明日の朝、迎えに来るからゆっくり休みなさい」そう言って、俺の居る部屋へと戻っていく。

 コースは何が起きているのか理解できなかったが、久し振りに布団で休める事に嬉しさを隠せず、ベッドへダイブするのだった。


 翌朝になりコースが目を覚ますと、見知らぬ部屋にいることに気が付く。


「……あ、そ、そうだ……私……」


 昨夜の事を思い出し、慌てて周りを確認する。

 だが、二人の姿がなくホッと息を吐く。

 しかし、突然扉がノックされ、コースは身体を飛び跳ねさせる。


「ねぇ、起きてる? 朝食の準備が出来てるってー」


 扉の向こう側からアオの声が聞こえ、少しだけ顔を強張らせる。

 しかし、まさかの朝食という言葉を聞くとは思っていなかった。


「開けるわよ」


 返事がないので勝手にアオはドアを開け、中へ入って行く。


「朝食、出来てるわよ。早く顔を洗って食べてくれませんか。この後、練習場へ行くのですから」


「は、はい! す、直ぐに準備します!」


 コースの言葉を聞いて、アオが部屋を出ようしたが立ち止まり振り返る。


「顔を洗う前に、その服もどうにかしないといけませんね……」


 人差し指をコースに向ける。

 すると、コースが着ていた服の汚れが落ち、綺麗になる。アオは浄化の魔法をコースに掛けたのだ。

 まさか獣人が魔法を使うなんて思ってもおらず、コースは呆気にとられるのだった。

 それから暫くしてコースがロビーに行くと、既に俺とアオが席に座っており、コースが俺たちの側に近寄ってくる。


「早く座って飯を食えよ。腹が減っては戦はできねーよ」


 食事をしながら空いている席に指を差し、コースは怯えた目をしながら席に座ると、アオがコースの食事を持ってきて、恐る恐るコースは食事を取り始めるのだった。

 コースが食事を終える頃には、俺たちは食事を終えており、スマホを弄りながらコースの食事が終わるのを待っていた。

 しかし、傍から見て俺たちが板切れの様な物で何をしているのか、全く理解ができなかった。

 ようやく食事を終えたコース。コップに入った水を飲み干して一息吐くと、スマホを弄っていた俺たちはポケットの中へスマホを仕舞う。


「よく寝れたようだな。昨日より顔色が良い。じゃあ、食事を終えたようだし、練習場でお前の実力を見せてもらおうかな」


 ニヤニヤと顔をさせながら言い、席を立つ。

 実力と言われても、所詮は『アシスター』であるので、大した実力がある訳ではない。

 コースは言い訳のような言葉を口にしようとしたのだが、それをアオが阻止するかのように「ほら、行きますよ」と、腕を掴まれ無理矢理席を立たされてしまう。

 雨が降る中、嫌がろうにも腕を振り払う事ができず、俺たちに連れられギルドの練習場へ向かわされる。


「弓が使えるんだっけ? 取り敢えずその実力を見せてくれない?」


 そう言って、練習場の弓を押し付けるように渡す。

 コースは無理矢理受け取らされ、実力を見せろと言われてテンパっているようだった。

 本当は弓など使った事もないのだが、言ってしまったからにはやらないとならず、肩を落としながら的の前に立ち、見様見真似で弓を構え矢を放つ。だが、解き放った矢は力なく落ちてしまう。

 コースは「もう一度!」と、言って矢を放つが、的には当たる事はなく、力なく矢は地面に落ちてしまう。


「――だと思ったと。お前の身体で弓が扱えるとは思っていなかったからな」


 隣に立っていた俺が呟くと、コースは悔しそうな顔して俯いた。


「アオ、彼女に弓の使い方を教えてやれ。俺は他を見てくる」


 アオは「分かりました」と言って、コースに弓の使い方を教え始める。俺はその場から離れ、他人の練習を眺めていた。

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