92話 広がる世界観
情報の出所が分からないが、統率が取れている魔物達。
夜になり、焚き火を見つめながら考えを巡らせる。
だが、魔物達の情報源が何処なのか答えは出ない。
考えても仕方がない事は理解しているのだが、ここまで統率を取れているのに納得がいかない。
情報化社会で生きてきた俺。
自分のいた世界を思い出し、何かしらの通信手段が在るとイメージする。
しかし、スマホのような情報ツールを持っていない魔物達を思い浮かべ、ユラユラと揺れる炎の微睡みに苛立ちを覚える。
「リョータ様、お休みされるのであれば、テントの中で休まれた方が……」
周囲の偵察を終わったのか、俺の元へ戻ってきたアオが心配そうに声をかけてきた。
炎を眺めていた俺だったが、アオの言葉を聞き、顔を上げ満天に輝く星空を見つめて、深い溜め息を吐く。
何を悩んでいるのか分からないため、心配そうに後ろ姿を見つめるアオ。
「……不思議なんだよねー。俺のように情報を知る事が出来ない世界で、どうして魔物は統率を取ることができんだ?」
出ない答えをアオに求めてみる。
「私が分かるのであれば、とっくにリョータ様が知っている筈ですよ……。『スマホ』が世界中に落ちているのだったら話は別ですが……」
簡易スマホを手にしながらアオが答えると、俺はマリーのガラフォーを手にしようとして、スマホを取り出してアイテム欄をタッチする。
だが、スマホのアイテム欄には、マリーのガラフォーが無くなっていた。
「……無くなってる。何で……?」
増える疑問に戸惑い、更に頭を混乱させる俺だったが、直にその疑問は答えがやってくる。
手にしていたスマホが急に揺れ、『ブッブー・ブブッブー』と音を立てながら揺れ動き、慌てて俺は両手でスマホを握りしめる。
画面には『マリー』と書かれた文字と、受話器のマークが現れており、慌ててそのマークを上にスワイプした。
スマホを耳に当て、「もしもし」と、呼びかける。
しかし、『もしもし』の、意味を理解しているはずも無いこの世界。
だが、『向こう側』から同じように返事が返ってきた。
しかも女性の声で……。
「お、お前は……誰だ」
『……そ、その声は!』
知っている声が耳に入り、亮太は深い溜め息を吐いた。
電話元の声は自分たちの知っている人物で、ガラフォーの持ち主であるマリーであった。
「何でお前がガラフォーを持っているんだよ」
『な、何でと言われても……気が付いたらポケットに入っていて……』
その言葉を聞いて、俺は思い出す。小林氏が言っていた言葉を……。
「持ち主のもとへ戻るシステムが働いたのか……。チッ! まぁ良い。説明書は持っているだろ。それの使い方をちゃんと理解しておけよ。じゃーな」
そう言って電話を切ろうとしたが、電話口からは『ちょ、ちょっと待って下さい!』と、マリーが言い、俺は再びスマホを耳に当てる。
「――何だよ。手短に話せよな」
『えっと……昼頃なんですが、空飛ぶ魔物を数体発見しました。弓では届かない高さで飛行してまして……何かご存知ですか?』
「……知らん。じゃーな。何かあったら連絡する」
そう言って電話を切り、スマホで『空 情報』と入力して調べてみると、マリーの言葉通り、各地方で目撃されている事がNEWSに上がっており、アオの言葉が正しかった事が分かったし、謎が解明されてホッと息を吐く。
マリーの事をアオに話、アオも言われた事を入力して調べてみると、亮太が読んだ記事に辿り着き、空を見上げる。
「魔王というのは、そこまで頭が回る奴なんですね……」
空を眺めながらアオが呟き、俺は「みたいだな」と、小さく答えてテントの中へ入って行く。
翌朝、アオが目を覚ますと、隣で寝ていたはずの主の姿が見当たらず、慌ててテントの外に出る。
すると、いつものように朝食を作っており、アオはホッと息を吐き、俺に声を掛けてきた。
「おはようございます。リョータ様。お手伝い致します」
「おう、おはよう。もう直ぐ出来上がるから、先にテントを片付けてくれるか?」
その声を聞いた限りでは機嫌が悪いように感じられず、アオはホッと息を撫で下ろしながら返事をして、テントを片付け始めた。
それから暫くして、朝食を食べ最短ルートであるが、道なき道を進み始める。
雨が降り始め、雨宿りするため岩場の陰に身を潜め、雨を凌ぐ俺とアオ。
先へ進みたいが、この雨は暫く止まないとスマホの天気予報が教えてくれる。
アオは徐々に使い方を理解し始めているようで、雨が降る事と、岩場の場所を調べていた。
「今日はここで休むしかありませんね」
季節は冬。
一月の雨は冷たく、晴れた日でも白い息が出る。
だが、降り注ぐ雨は更に気温を下げ、凍えてしまうかのように体温を下げてしまう。
寒さを凌ぐため俺たちは身体を寄せ合い、毛布で身体を暖めあい、アオは俺の温もりを感じながら眠りにつく。
アオが目覚めた時、隣にいないので慌てて立ち上がって岩に頭をぶつけ、痛みに耐えながら辺りを見渡す。
すると、後ろの方から何か音がし、振り向いて見る。
「よお、起きたか」
そう声を掛けられ、アオはホッと胸を撫で下ろす。
そこに立っていたのは主である俺で、アオは笑顔で返事をした。
「雨は上がったようだけど、早く寒いな。温かいもん食って、身体を暖めようぜ」
そう言ってスマホから食材などを取りだし、朝食の準備を始める。アオも手伝い珍しく二人で朝食を作るのだった。
朝食を食べながら昨日までの事をまとめる。
「どうやら奴等、空飛ぶ魔物が情報を流していたようだな」
「その様ですね。モグモグ……。こちらにはその様な手段が有りませんから、どうしようも出来ませんね」
アオの言葉に納得しながら食事を終え、片付け始める。
それを見てアオも急いで食事を終わらせ、片付けるのだった。
俺たちの歩く速さは一般人よりも速く、予定していたよりも早めに目的地へ辿り着いた。
「ようやく辿り着いたな……。町は襲われていないようだし、ゆっくり身体を休める事が出来そうだ」
怠そうに言う俺の言葉に、アオは苦笑いしながら町の入り口へ近き、そして門番をしている兵士に冒険者の証しを見せて中へ入って行く。
町中は静まり返っており、港町だというのに活気が見えない。
辺りを見渡しながら進み、身体を休ませるため宿屋へと足を運ばせる。
「リョータ様、この町は……活気がありませんね」
そんなの見れば直ぐに分かる。
そんな事を思いつつも簡単な返事をして、スマホで安い宿屋を探しながら歩き、店を探す。
暫く歩き、ようやく店の近くへとやって来ると、アオが大きな声を上げて指を差す。
「あーっ!! でっかい水溜まりですよ!」
「……おいおい、ありゃ水溜まりじゃなくて、海だろ。お前が依頼された国は、海の向こう側にある大陸なんだ。この町から出港している船に乗って、海を渡るんだぞ。分かってなかったのか?」
「……い、いえ……。は、初めて見るので……。あれが海……なんですね……」
初めて見る海に感動しているのか、アオの目が輝いているように見え、俺は小さく息を吐く。
「宿の手配が終わったら、間近で海を見りゃ良いだろ。先ずは休む場所の確保が先だ」
「はい!」
俺の言葉に元気よく返事をして、俺たちは宿屋の中へ入って行く。
受け付けを済ませ、指示された部屋に行くと、アオは窓の外を見て再び声を上げた。
「凄い……水が広がっている……」
「スマホによると、世界の半分以上は海らしいぜ。ふ~ん……まるで地球と変わらない作りなんだな。ただ地形が異なるだけ……か」
「せ、世界の……半分以上……そんなに大きい……ですか。海って……」
「あぁ、そうだよ。元々は一つの大陸だったらしいぜ。時間を掛けて大陸が割れ、今の状態になったようだな」
「た、大陸が……割れた? ど、どういう事ですか……」
その言葉に「ハァ……」と、溜め息を吐き、自分が使っているスマホをアオに投げ渡し、「スマホを使って自分で調べろ」と言い、ベッドに寝そべる。
別にアオのスマホでも調べる事はできるが、既にwikiの画面を開いているため、どうやって調べるのか教える必要はない。
アオは食い入る様に文面を読み、小さい声で驚きの声を上げていた。
身体を休める場所を確保した俺たち。
この町へ来るまでに倒した魔物を換金するためギルドへ向かう事にして出かける。
港町なのに活気が無い事が気になる。
「リョータ様……」
「考えたくない。それ以上言うな」
分かりましたとアオが言う。
俺は海に目をやるのだが、出ている漁船が見当たらない。「まさか……ね……」と、小さく呟き、スマホを見ながらギルドを目指す。
ギルドへ到着し、アオと一緒には換金を始める。
スラベトイラの町へ来るまでに、相当な魔物と出くわしており、所持金は10万6,572Gとなった。
これから新たに食料を購入する必要がある。
だが、その前に自分達の食事である。
「ここは港町だから魚貝類が豊富だと『スマホ』に書かれてありましたね」
「あぁ、楽しみと言えば楽しみだけど、本当に食べれたらの話だがな……」
俺の言葉にアオは首を傾げる。何が言いたいのだろうと……。
その答えは直ぐに出る。
食事をするため、レストランの様な店を見つけ、アオが行きたそうな目で俺に訴えかける。
たまには良いだろうと思い、「分かったよ。今日はここで食べることにしよう」と言い、店の中へ入る。
店員に席を案内され、俺たちは席に座る。
席に置いてあるメニューに目を通すのだが、どう見ても肉中心の料理ばかり。
流石に俺とアオは頬を引き攣らせる。
「リョータ様……さ、魚が……」
アオの言いたい言葉が理解できるため、俺は深い溜め息を吐く。
だが、溜め息を吐いたところで何が変わる訳でもない。
アオにさっさと頼んで、腹の中を満たしてしまおうと言うと、アオは元気のない声で返事をして、店員を呼び、注文をするのだった。




