87話 ハードタックル
正直、スマホが有れば何でも出来るのだから、仲間が居なくとも問題は無い。
王から親書を預かった訳でもないため魔王だってどうでも良い話である。
ここの世界へ来る時にも魔王を倒せとは言われた訳では無く、自由にして良いと言われたし、言われたとおり自由に生きれば良い。
そんな事を思いながらスマホで敵の位置を確認すると、敵は俺の存在に気が付いたらしく、徐々に距離を詰めてきていた。
アオが持っていたスマホを手にして、スナイパーライフルを取り出す。
そう言えば、アオ達の装備で王都へ戻る事は出来るのだろうか……。いや、アオとマリーの二人がい王都へ王都へ戻るのは簡単だろう。
アオの身体能力は、異常なのだから。そして、マリーは王宮の親衛隊並みだ。
そんな馬鹿な事を考えながらライフルのスコープを覗き、敵の姿を拝むと、ゴブリンやオークとは異なる種族の魔物らしく、頭に角の生えたガチムチの巨人……鬼と言った方が判りやすい魔物がこちらへゆっくりと歩いて来る。
魔族の出現から、この辺りに現れる魔物の種類もおかしくなっているようで、エリエートの町でビッグラヴィを相手にしていた事が懐かしく感じてしまう。
銃を構えるため地面に寝そべり、照準を鬼の眉間に合わせてトリガーを引く。
相手は俺の存在に気が付いていたが、弓矢よりも小さい弾丸で、速さも桁違いの武器だとは思っていなかったらしく、魔物の眉間に弾丸が貫き一匹目を仕留める。
すると、鬼の魔物は一瞬だけ躊躇したかのような素振りを見せるのだが、すぐさま散開を始め、回り込む様に動き始めた。
どうやら頭が悪い魔物という訳ではないらしく、散開して攻撃を仕掛けてくるようだ。
しかし、こちらはスマホで相手の位置を確認できるので、相手から先制攻撃を受ける事はないのでボルトアクションのレバーを引き、次へと備える。
回り込んできている鬼の蟀谷目掛けて狙撃をし、二匹目も仕留める。
残り一匹は、ライフルで攻撃は難しいので剣を抜いて、こちらから襲い掛かると、相手は自分が襲われる立場になっているとは思っていなかったらしく、油断して身体を硬直させ、驚き戸惑っていた。
素早く剣を抜いて、鬼の身体を切り刻む。
しかし、その代償は大きく、俺の剣は折れてしまった。
「……チッ! 剣の速に付いていかないのか? これだから安物は……」
使い物にならなくなった剣を捨て、スマホの中に鬼の様な魔物を収納すると、『オーガ』という名前が表示され、あれが伝承などで聞いたことのあるオーガだったという事を理解する。
しかし、俺の知っているオーガはゲームやお伽話の中でしかない生き物で、そこまで知性が有る生き物ではなかった。
だけど、先ほど戦ったオーガは、知性があるように感じられるような行動をしており、地球のファンタジーあてにならないものだと思いつつ、スマホの中にある、武器の在庫をチェックしながら先へと進んでいった。
――――――――――
その頃、アオ達はというと、亮太が一人で先へ進んでしまった事で、皆が呆気にとられており、暫くの間、誰も言葉を発する事はできなかった。
口火を切ったのは奴隷のリツミだった。
「ねぇ、アオ! 見つめていてもどうにもならないでしょ。彼奴、奴隷解放には契約者が居ないと解除してもらえないのよ。追い掛けないと……」
すると、アオが油の切れたロボットのように身体を動かしリツミ言う。
「……そ、それに関してですが……マリー様がいるので問題ない……はずです。王国の姫なのですから……」
アオの言葉にマリーが「まぁ、多分……問題ないと思うけど……」と、答え、眉間にシワを寄せている。
今後について考えているのか、難しい顔をしていた。
シイナは言葉を発することなく、ただ立ち尽くしており、何かを考えているか分からない様子だ。
アオはゆっくりと立ち上がり、フラフラ〜っと歩き始めた。
「し、師匠……? ど、何処へ……行かれるのですか?」
マリーがアオの動向を確認すると、アオはゆっくりと顔をマリーの方へ向けてボソボソと一言だけ言い放ち、冷たい目で睨み付ける。
「……無能共が……」
そう言ってゆっくりとした足取りで亮太の歩いて行った方へ歩き始めた。
その光景と言葉に全員が呼び止めようとしたが、一回だけ振り向いたアオの形相に、誰一人と言葉を出すことが出来ず、アオはユラリと身体を揺らしたと思ったら、全速力で走り出しす。
アオの全力に誰も追い付くはずはない。獣人であり、アオの身体能力は亮太のスマホで強化されており、亮太がステータスをリセットしていない限り、並の冒険者が追い付くはずもなく、マリーですら……無理な話であった。
アオの耳に届く数発の銃声。
亮太が何物かと戦っていると言う事であり、本来は側に自分が支えるのが役目であるはずなのに、周りを管理しきれなかったので全ての役目を亮太に押し付けてしまう事になってしまった。
その事を悔やみながらアオは亮太の元へと駆けて行くのだった。
亮太はと言うと、スマホに死骸を収納して先へと歩いていく。
お金はラスクに盗られてしまったし、奴隷解放のためにマリー達へ必要以上のお金を渡してしまったため、スマホに残っている残金は想像していたよりも少なくなっているため、このままだと旅を続ける事が出来ないと思いながら亮太は次の町へ歩き始める。
亮太の歩くスピードはそこらの人よりも速く、普通に追いかけるのは難しい。
だが、アオの走る速さは亮太の歩く速さよりも早く、追い付くにはそんなに時間は掛からなかった。
亮太の背中が見え始め、息を切らせながらも追い掛け、飛び付いた。
「――リョータ様!!」
腰に飛び付いてきたアオ。亮太は油断しており、ラグビーのタックルを食らった様に草むらに転げ落ちる。
何が起きたのか理解が出来ていない亮太。突然のタックルに戸惑いを隠せずにいた。
危険察知が反応しなかったため、激しく混乱する亮太。慌てて自分の腰に取り憑いたものを見ると、置いてきたはずのアオだった。
激しく息を切らせながら腰にしがみつくアオに対し、亮太は呆れた顔して溜め息を強く吐き出す。
「いきなり飛び付いてくると、危ないぞ」
呆れた声でアオに言うのだが、アオは息を整えるのと、亮太を逃さないといった力で腕を腰に巻き付ける。
アオの力では亮太を絞め殺すことは出来ないが、それなりに痛みを感じ、亮太は「いい加減に放せよ。痛いだろ。それに、お前の腕だって痛いだろ」と、声をかけると、アオは「……ハァハァ、に、逃しません!」と言って、覆い被さり、マウントポジションを取る。
「別に逃げてねーだろ……。お前」
「――置いていこうとしたじゃないですか!」
勝手に恐れていたからだと言おうとしたが、顔が押し付けられている場所が濡れている事に気が付き、亮太はうつ伏せの状態で、アオが落ち着くのをジッと待つのだった。




