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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
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85話 逃走

 目の前で起きていることに唖然としていると、リツミを抱きかかえていたアオが、息を切らせながら到着する。


「さ、流石リョータ様……です! 全く……ハァハァ、追い付けませんでした……ハァハァ……」


 などと、悠長なセリフを吐いており、俺は顔を引き攣らせながら現状の把握に努める。


「――アオ、俺達は馬車でここまでやって来たよな?」


「え? あ……ハァハァ……。はい……ハァハァ、そう……ですよ。マリー様が奥へ行かれた……ので、ハァハァ……。私達も奥に……ハァハァ」


「――じゃあ、あれは……何だ?」


 そう言って泣きじゃくるサナリィを指差し、馬車が無いことを示すのだが、息を切らせていたため頭が働いておらず、アオは首を傾げて状況を把握するように考える。

 それから暫くしてマリーが追い付き、膝から崩れ落ちる様にへたり込み、天井を見上げて息を荒くしていた。


「――え? リョータ様が仰有っている……ハァふぅ……意味が理解できないのですが…………」


 一生懸命に息を整えて状況の整理をしているアオではなく、シイナの顔を見る。

 シイナは俺の言葉を理解しているのか、茫然と口を開けながら馬車があった場所を、見つめている。

 泣きじゃくるサナリィ。

 その声がハッキリ言って鬱陶しい。

 泣いてばかりでは何が起きたのかさっぱり分からず、俺とシイナの二人は、途方に暮れるのだった。


 暫くして落ち着きを取り戻したアオ。

 抱きかかえられていたリツミは状況を理解していたため、今後について俺と打ち合わせを行っており、それにアオが話に加わり状況を整理し始めた。


「――現状、今いるメンバーは俺にアオ、シイナにリツミ、サナリィとマリーの六人だ。マリーが言う事を聴かずに奥へ入り込んで行っている間、サナリィとラスクに馬車や火の番を頼んでいた……が、戻ってきた時には泣きじゃくるサナリィがおり、ラスクと馬車だけが消えていた。ここ迄は理解できるな?」


 五人に問いかけると、皆は真剣な目をして頷く。


「――で、何故……サナリィは泣きじゃくっていたんだ? そして馬車とラスクの阿呆んだらは何処へ消えた?」


 俺達の視線がサナリィの瞳に突き刺さるように見つめると、サナリィがポツリ、ポツリと話し始める。


「――ご主人様たちが奥へ……」


 簡単に言うと、俺達が奥へ行ってから少しして、ラスクがお金が入った魔法の袋が荷馬車に積んであったままなのを確認後、裏切るかのように馬車を盗んで逃走したという事だった。

 しかも、用意周到なラスクは、サナリィに麻痺の魔法を掛け、動けなくなったところで馬車を奪ったらしい。

 ようやく麻痺の魔法が解けたところで俺達が戻ってきたらしく、怒られると思ったサナリィは、大泣きしてしまったとの事だった。


 別にサナリィに対して文句を言うつもりはない。

 相手は魔法使いだったのだから、ドワーフ族のサナリィがどうにか出来る訳ではない。

 深い溜め息を吐きたいのを我慢し、この後のことを考える。

 馬車がなくなってしまったという事は、俺達は徒歩で移動するしかない。腕を組みながなチラッと、シイナとリツミの二人に目をやる。

 この二人が俺達の移動速度に付いて来る事が出来るのか……いや、どう考えても難しいだろう。

 思考を巡らせていると、アオの耳が『ピクピク』ッと、何かの動きに気が付き、俺の服を引っ張り教えてくれる。


「リョータ様、先程の奴等が……」


 足止めの炎が弱まったらしく、『奴』等がこちらへ向かって来ているらしい。

 想像するだけでも悍ましい。

 俺が部屋を片付けていたとき、気が付かずに『奴』を親指で踏み潰してしまった事がある。

 その事を思い出し、鳥肌が立つ。


「あ"ー畜生! 今すぐにここの洞窟から離れるぞ!!」


 その言葉に五人は驚いた顔して俺を見る。


「なっ! た、倒せば良いじゃないですか!!」


「――嫌なんだよ!! 『ゴキブリ』は嫌いなんだ!!! だから逃げる! 戦いたきゃ、お前が戦え!! 俺は嫌だ! まだ濡れた方がマシだ!」


 そう言って土砂降りの雨の中、俺は走り出して逃走した。


 それを見て「ち、ちょっと待って……」と、アオが言いかけたのだが、そんな事を気にする訳がない。

 俺は全力でその場から離れるかの如く走って逃げ出す。

 それから暫くして、後ろを振り向き確認する。

 洞窟からかなり離れたらしく、洞窟の灯りは見えなくなっていた。


「ハァハァハァ……振り切った……か?」


 スマホで自分のいる場所を確認してみると、洞窟から随分と離れている事に気が付き、アオ達を置いてきぼりにしてしまったの事を思い出した。そしてスマホを取り出し、皆のいる場所を確認する。


「随分走って来ちまったな……」


 スマホで位置を確認しながら、来た道を歩きながら戻って行く。スマホには『人のマーカー』四つと、『アオのマーカー』があり、『魔物のマーカー』は見当たらなかったので、ゴキブリの追撃は無いようだ。

 と、いう事は、アオ達は無事だという事を現している。


 暫く歩き、アオ達と合流するのだが……アオ達は疲れた顔をしていた。


「リョ、リョータ様、いきなりどうしたんですか……?」


 合流して直ぐにアオが息を整えながら質問してくる。


「……俺、あの魔物が苦手なんだよ」


「あれが苦手……なんですか?」


 なんだか不思議そうな顔して聞いてくる。


「あれはゴキブリと言って、黴菌だらけの魔物なんだよ。しかもギルドでは買い取ってくれない代物ときたもんだ。相手にするだけ時間と労力の無駄になる」


 親指で踏んづけて以来、奴のことを苦手だという事は内緒にしておこう。


「ば、黴菌!! 何で!!」


「俺が知るはずが無いだろ……。兎に角、アレは売り物にならないから、捕獲した奴は処分しろ」


 俺の『処分しろ』と、いう言葉に納得が出来ていないのか、アオは折角収納したゴキブリの死骸をスマホから取り出し、道の端へ蹴っ飛ばす。ある意味、少しだけ八つ当たりのように感じたが、今、何を言っても理解はしてもらえないだろう。


「しっかし、ラスクの奴……やってくれるよ。馬車に乗せてあった荷物を全部、持ち逃げするとはな……」


「全くです。恩知らずとは、あの人のことを指すんです!」


 怒りの矛先をラスクに向けるアオ。

 唇を尖らし、石を蹴っ飛ばして八つ当たりをする。

 暫くしてマリー達が合流し、何故逃げ出したのかを説明すると、マリーはしかめっ面な顔をして装備していた防具や武器を手放す。


「【浄化】の魔法を掛ければ問題ないだろ」


 そう言って浄化の魔法を唱え、マリーの武具を綺麗にする。

 しかし、一度植え付けられた『汚い』は、そう簡単に拭えるものでは無い。

 嫌々ながらマリーは武具を装備し直する。


 雨は既に止んでおり、洞窟へ戻る気分も失せた俺達は、スマホからテントを取り出して、交代交替で不寝番をしながら野営をすることにしたのだった。

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