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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
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81話 惨劇の宴のあと

 襲撃された場所から少し離れたところで野営をし、俺達は一夜を明かしたのだが……グッスリ眠ったのは俺だけのようだった。

 なんだかんだ言って、ラスクも周囲を警戒していたらしく、アクビを噛み殺しているのがよく分かる。

 アオも俺の安全が一番だと言いはり、夜明けと共に起きて周囲を警戒していたとのこと。

 俺はスマホと【危険察知】スキルがあるので、深く考える事はせず、身体を休める事ができた。

 全員がアクビを噛み殺しながら進んでいるため、歩みが遅い。スマホで魔物がいるか確認してみたのだが、魔物のマークは無い。

 この辺には魔物が少ないようなのだが、皆はそれを知らないし、奇襲されるのに怯えているようだ。


「アオ、この辺には魔物の姿は無い。もう少し馬を速く走らせても大丈夫だぞ」


 スマホで周囲を調べられることを知っているため、「かしこまりました」と返事をして、アオはリツミに説明をするのだが、馬が走る速度は変わっていないように感じる。

 俺の言う、「大丈夫」という言葉に根拠がないため、速度を上げる事ができないのか、それとも眠くて判断ができていないのか……。

 俺とアオの二人で旅をするのであれば全く気にしないのだが、俺達二人以外にリツミやサナリィ、マリーにシイナがいる状態だ。

 仕方無しにスマホで周辺を警戒す事にし、近場の村へ向かわせるようアオに指示を出した。

 何度スマホで辺りを確認するのだが、魔物や動物達の姿はなく、俺は違和感を覚える。

 普通であれば、猛獣のマーカーがあってもおかしくはないのだが、『全く姿を見せてはいない』のである。


「アオ、馬車を止めろ」


「は?」


「良いから早く停めるんだ!」


 少し怒鳴るように言うと、アオは慌ててリツミに馬車を停車させ、恐る恐る俺の方を見る。


「……おかしい」


「な、何が……ですか?」


 スマホの画面を見せるのだが、アオとマリーは首を傾げるだけで、何がおかしいのかさっぱり理解ができていない。


「本来であれば、この画面上に魔物や猛獣などのマーカーが記されるんだ。だけど画面には俺達だけしか映し出されていない」


 そう説明をしても皆は理解をしておらず、俺は深い溜め息を吐く。


「おかしいと思わないかな……。魔物がいないのもそうだが、『動物や人すらいないんだぞ』」


「……え?」


 呆けたしている皆に対して俺は再び深い溜め息を吐いた。


「ハァァ……。お前等がここまで……」


 馬鹿だったとはと、言いたかったが、後々面倒臭い事になるかも知れないし、アオは元々考えていない。

 アオは俺の言う事を忠実に聞く獣人で、他の奴等は俺の奴隷と、ただのお姫様だ。

 そして、俺はスマホのアプリで全ての能力を向上させている。もう少ししたら他の者達も気が付くのかも知れないし……が。


「ここ等に動物がいない! 鳥一羽もいないんだぞ……お前達はおかしいと思わないのか?」


「そ、そう言えば……」


 俺の言葉でようやく異変に気が付くマリー。しかし、アオは無表情のままだった。


「昨夜から鳥がいない事に気が付いていましたが、それがおかしいのですか? リョータ様」


 アオらしいと言えばアオらしい。


「鳥もいない、動物の気配もない……。これは何かあったに違いない。アオ、先行して様子を見てきてもらえないか?」


 俺の言葉に頷き、アオは直ぐに走り出した。


「警戒は俺がするから、お前達はこのまま馬車を走らせろ。速度は先程と変わらないくらいで良い」


 そう言って俺は目を凝らしながら前方を確認していると、アオが道端で突っ立っていた。


 それに気が付きリツミは馬車を止め、アオが見ている景色を確認する。


「こ、これは……!!」


「――やはりな……」


 驚くリツミの横で俺は小さく呟く。

 敵や猛獣の気配もない。しかも『冒険者』の姿も無いのだ。

 ここまで言えば馬鹿でも理解できるだろう……。

 そう、町か村があった場所は廃墟となっており、馬車でゆっくり進んで行くが、生き物はおろか人の姿すら見当たらない。


「やってくれるじゃないか。まさかここまでやるとはね……」


 周りを見渡しながら俺が呟くと、マリーは「な、何を言っているんですか! こんな酷い事を……」と、最後の方は言葉にならないといった様子で俯き憤りを隠せない様子だった。

 悔しそうに地面を叩くマリーを見て、俺は深く溜め息を吐く。


「何を言ってんだよ。やっている事は俺達も同じだろ? それが魔物か人かの違いなだけだ」


「ば、馬鹿なことを言わないで下さい!!」


 俺の言葉に納得ができないマリーが叫びながら言う。


「じゃあ、お前はゴブリンやオークの巣を見つけたら放置するのか? しないだろ。なら、やっている事は同じだよ」


「違う!」


 マリーの声は悲痛な叫び声にも思える。


「同じだろ。種族などの違いなだけだ。それに、全滅した訳じゃないだろ」


 馬車から降り、瓦礫を退けてみる。すると、地下へ続階段が現れ、皆が驚いた顔をする。


「俺達がいるのは地上だ。地下に入ればスマホの画面が切り替わるはずだ。もしかしたら生き残りがいるかも知れないぜ」


 よくある話の一つである。

 このような世界だから、シェルターとまでは言えないだろうが、防空壕に近い何かを作っている可能性だってある。

 俺のスマホに反応しないのは、地下へ入っているからだって事も考えられる。

 実際にジャック・オー・ランタンのいた洞窟で立証されている。

 殺された奴もいるかも知れないが、生き延びた奴だっているかも知れない。

 なので悲観する事はない。


 地下への入り口を塞いでいる建物の柱など退け、軽くノックをしてみるのだが、何の返答も無い。

 もしかしたら、逃げ遅れた可能性も示唆されるのだが……。

 そんな事を考えつつ入り口を開けると、中は暗闇に包まれていて奥を見る事ができなかった。


「ふぅ……。明かりが必要か……。おい! 中に誰かいるか!!」


 いちいち中に入るのが面倒だったので、大きい声を出して呼んでみる。しかし、何も聴こえず、アオの顔を見る。

 俺よりも耳が良いアオであれば、小さな物音を聞きとっているかも知れない。そう思ってアオを見ると、アオは真剣な眼差しで頷いた。

 この地下には誰かいる。

 アオの目はそう訴えかけており、生活魔法の【ライト】を唱え、地下を見渡す。すると、奥に続く通路が有り、俺はマリー達を残して地下へ降りて、奥を確認することにした。

 奥は随分と長い通路となっており、アオの聞き間違いではないかと思い始めた。

 暫く歩いていくと扉が設置されており、扉に耳を押しあて、中の様子を確認する。だが、息を潜めているのか、何も聞こえないため、扉をゆっくりと開けると、十人程の子供が怯えた目で俺を見つめる。


「外に敵はいないぞ、生き残りはお前たちだけか?」


 怯える子供達に問い掛けるのだが、誰も答えようとはしない。


「全く……。俺は冒険者だ。ほら、これが証拠だよ」


 そう言って冒険者の証しを見せると、ホッと息を吐く者もいたが、誰も答える者はいなかった。


「……怪我人はいるか? いたら教えてくれ。傷薬を持っているから」


 しかし無言。


「仕方が無い、他に生き残りがいないか確認でもしてくるか……」


 深い溜め息と共に部屋から出ていき、皆が待っている場所へ戻っていく。

 外で待っていたマリー達に状況を説明し、アオに他の生き残りを探すよう指示して、アオと共に三人の奴隷達も生き残りを探し始める。

 俺はと言うと、スマホでニュースを観ながら現在の状況を整理していた。


 生き残っていたのは100人程で、思っていたより多くの人々が逃げ切っていたようだ。

 だが、家の中に作った地下壕。建物が崩れれば生き埋めになるとまでは考えていなかったようで、助けてもらった時はホッと息を吐いている者が多かった。


「リョータ様、この後はいかが致しますか?」


「何もしない」


「――え?」


「生き残りがいたこと言う事は、自分等でどうにか出来るはずだ。見たところ、家族連れや冒険者等がいない訳じゃない。人に頼ってばかりじゃ先へ進む事なんて出来やしない。後は自分達でどうにかするだろ」


 そこまで構ってあげる必要はないし、復興するのは国の役目であり、俺の役目ではない。

 それに、魔王が復活しただけでこれである。

 他の町などは大丈夫なのか確認する必要もあるし、ここは王都からそんなに離れた場所ではない。

 スマホで広域範囲を調べたが、王都は現在も無事のようだった。あの魔物一体でここまでやったと言うのであれば、少しだけでも勇者って奴に協力してやるべきなのかも知れない。

 そんな事を考えていると、マリーが「師匠! 町はこの状態なんですよ! 本当に何もしないのですか!!」と、憤りを感じているようで、俺に詰め寄ろうとする。

 しかし、アオがそれを制止し宥めようとしていた。


「俺一人でどうしろと言うんだよ。できいる事と出来ない事くらい……お前だって判るだろ。俺達がする事は一人でも犠牲者を出させないようにするだけだ。ここで足止めをする必要はない」


「――けど!」


「復興を手伝いたいと言うのなら、お前が勝手にやれば良いだろ……。『マリエル殿下』」


 自分の立場で物事を考えているなら……。

 そう思いつつ、嫌がらせの如く言い放つと、マリーは悔しそうな顔した後に俯く。

 俺が復興を手伝うと思っていたならそれは間違えで、同じ惨劇を止める方に力を使う。

 これは今まで経験してきた事で、人は他人に手伝ってもらわなくても何とか出来る。

 そうやって人は成長して行くのだと俺は思う。

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