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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
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79話 策士、策に溺れる

 ガラスのコップを壁に投げつけられ、中身がぶち撒けられながら転がる。

 側に立っていた担当の侍女がコップを拾い、慌てずに掃除を始める。

 コップを投げつけたのはマリーの姉であるブルーファウル。

 マリーのもう一人の姉である。

 そして、リョータが謁見の間から立ち去ろうとした時、彼女がすがりついたため、リョータは一週間という約束をしたのだ。


「冒険者風情が調子に乗って!!」


 苛立つブルーファウル。

 それもその筈、自分の国が一番強いと思っていたのに、その最強騎士団長であったリーグはリョータに敗れてしまい、挙げ句の果てにはどこぞの馬の骨かも分からない女と逃避行を計ったのだ。

 そして、魔王の復活してしまい、王国に脅威を与えようとしていた魔族を倒したのが女冒険者で、しかも女冒険者が慕う男の冒険者の方が更に強い。

 王国としては囲い込みたいのだが、リョータはそれを拒否。

 理由は冒険者として勇者の手助けと言う。

 その言葉に対し誰が反論できるというのだろうか。

 最終的な手段として色仕掛けしか無い……と、判断したブルーファウル。

 懇願するように演技をしたにも関わらず、一週間という期間だけしか留まらないと言い切ってしまわれたのだった。

 しかも、王宮で休むのでは無く、街の宿屋で休むと言い、リョータは王宮から出ていってしまう。

 それに続くかのように他の者も王とブルーファウルに一礼をして出て行き、自分達の存在価値が薄い事を示されてしまったのであった。

 これを苛立つなと言うには無理があるだろうが、そんな事をリョータに言っても「それは自分等で撒いた種でしょ?」の、一言で終わってしまう。

 現に、そう言われてしまったのである。


「どうにかしてあの男をこの国に留まらせなきゃ……」


 悔しそうな顔をしながら爪を噛むブルーファウル。

 いつ魔族が襲って来るか分からない今、どの様な手を使っても留まらせる必要がある。


 そんな事を考えているブルーファウルなど知るはずもないリョータ。

 宿屋の一室でアオに与えられた親書の場所を調べていた。


「アオに渡された親書、かなり遠い国だな」


「はい……」


 まるで落ち込んでいるかのように返事をするアオ。


「どうしたんだよ? そんな声を出して」


「……リョータ様は一週間もここに滞在されるのですよね……」


 どうやらアオは別々に動く事になると考えているようだ。


「馬鹿なことを言っているなよ。お前も一週間遅らせりゃ良いだけの話だろ? いつ行かなきゃいけないなんて、命令されてないぞ」


 その言葉にアオは驚いた顔して俺を見る。


「遅らせることに何か問題あるのか? 俺達は冒険者だ。つまらない事をするのは頭の固いやつだけで十分だよ。俺達は誰にも縛られない冒険者。王から依頼は受けたが、場所が遠いので準備に時間が掛かる。それで十分だろ……理由なんて」


 その言葉を聞いてアオは嬉しそうに飛び付き、俺を押し倒してくる。

 その夜、アオが激しかったのは言うまでもない。


 翌朝になると嫌がらせの様に兵士が宿屋へやって来た。

 俺が逃げる可能性を示唆したのだろう。

 スヤスヤ眠っている俺を起こした罪は、非常に重い事を思い知らせてあげなくてはいけない。

 あの王に……。

 トランクス姿で外に出て、起こしに来た兵士達を睨みつける。

 兵士達は鋭い眼光にビビって後退ると、スマホからロケットランチャーを取り出し、王が居ると思われる部屋をめがけて撃ち放つ。

 弾は勢い良く飛んで行き、見事に着弾して煙を上げるのであった。


「何人たりとも俺の眠りを妨げる奴は許さん!」


 スマホに撃ち終わったランチャーを収納して、再び兵士達を睨み付ける。


「残り六日間……城が破壊つくされないよう、精々気を付けな!」


 そう言って俺はアオが眠る部屋へと戻るのだった。

 しかし、この行動は面倒を呼ぶ事になる。

 怒り狂った王が俺を呼び付けるのだが、眼付きの悪さには定評がある俺。

 謁見の間に入って直ぐに王を睨みつけ、侍女に「椅子……」と、呟く。

 俺が何を言っているのか理解できていない侍女だが、再び「椅子!」と、声を上げて言うと、侍女は俺の意図を理解して椅子を持ってくる。

 それに座り、大袈裟に椅子に腰掛けて王を睨み付ける。


「き、今日……呼ばれた理由は分かるな」


「――知らん。興味がない」


 殺意を抱きながら王を睨み付けると、王は身を捩らせながら唾を飛ばす。


「貴様が城に対し、魔法攻撃をした事は分かっているのだぞ!」


「爆発系の魔法なんて習得しておらんわ! そして、俺の眠りを妨げる奴が悪い! あぁ……気が変わった」


 先程まで物凄くムカついていたが、ある事を思い付く。


「なんじゃ、詫びを入れるのなら今だぞ」


 俺の「気が変わった」と、言う言葉に対し、ホクホクの笑顔を見せる王。

 しかし、俺が告げる言葉を聞いて、顔を青くさせるのである。


「一週間は居てやると言ったが、その話は無かった事にしてもらう」


「おおぉ、遂に騎士団長になる気になったか!」


 オツムが花畑で羨ましいと思いながら首を横に振り、微笑みながら爆弾を投下する。


「今日この時点をもち、俺は王都を出て行く。これは決定事項であり、覆る事は絶対にない!」


 その場にいた全員の表情が凍り付くように固まり、まるで時間が停止したかのように動くことは無くて、俺は謁見の間を後にした。

 アオが待つ宿屋に戻るために城内の階段を下りていると、ブルーファウルが待ち構えていた。

 どうせ、城を破壊した文句の一言でも言われるのだろうと思っていたら、予想とは反しお茶に誘われる。

 だが、先程のやり取りを説明すると、少しばかり顔を引きつらせながらも再びお茶へと誘ってくるのだった。

 コイツは頭のネジが飛んでいるのか、それとも王との話を聞いており、思い留まるように仕向けるつもりなのか……そんな事を考えながら必要以上に言い寄って来る姫に負け、取り敢えず1杯飲んだら帰ると約束を取り付けて、俺はブルーファウルの茶室へとついていく。


 王宮御用達の茶室は豪華で、どれだけ税金を搾り取ってこのような部屋を作ったのだろうか。

 そんな事を考えながら室内を観ていると、ブルーファウルが適当な場所に腰掛けろと言う。

 少しばかり警戒している俺は、ブルーファウルから少し離れた場所の椅子に腰掛けると、フワフワなソファーの感触を楽しんだ。

 ブルーファウルが手を叩くと侍女が飲み物と茶菓子を運んで来る。

 そして、綺麗なテーブルに茶菓子と飲み物を置くと、姫だけに一礼し、俺の事は落ちているゴミの様な目で一瞬だけ見て、部屋をあとにする。

 この城へ来たときから歓迎されていなかったのは理解しているが、今回に限っては無理矢理お茶をしたいと言ってきたのだから、侍女に対して教育がなっていない事を言っても良いだろう。

 だが、早くこの場から立ち去りたいため言葉を飲み込む。


「さあ、イシバシ様……ゆっくりと寛いで下さいませ」


 微笑みを絶やさずに姫が言う。

 寛げと言われても、お前が無理矢理連れてきたくせにと思いながら紅茶を手にすると、何か不安な気持ちに襲われる。


(これは危険察知のスキルが発動している状態と変わらない感じだが……)


 コップを持った瞬間に現れた現象。

 以前も似たような事があったのを思い出し、一度コップをテーブルに置く。

 すると、先程までの違和感が消えて心が落ち着くような感覚になり、飲み物に毒が仕込まれている可能性が示唆される。

 こういう時にアオがいると、匂いなどで毒の判別をしてくれるから助かるのだが、アオはスマホの練習するのと、旅支度のために今日は着いてきていない。

 なので俺一人でお城へやって来た。


「どうかしたの?」


 カップを手にしたのに、再びコースターに戻した事でブルーファウルは質問してくる。

 分かっているくせに……。


「いや、俺……猫舌なんですよ。熱いのが苦手で……」


 苦笑いしながら言い、飲み物を飲もうとしない俺にブルーファウルは楽しそうに笑いながら言う。


「ドラゴンをも倒す御方が、熱い飲み物が苦手って……。やはり人には、何かしらの弱点があるのですね」


「弱点がない人なんていませんよ。それよりも、私の事なんて気にせず、紅茶を飲んだら如何ですか?」


 そう、コイツは俺の飲み物に毒が入っている事を知っているので、それを眺めたくてしょうがないのだ。

 だが、俺が猫舌と偽り飲み物を飲まなければ、今度は自分が飲むしかない。

 何故、コップに毒を塗り込むような事をしなかったのが問題なのだが、そこは策士、策に溺れると言う事なのだろ。

 その証拠に、先程まで微笑んでいたのが嘘のように引き攣った顔をしているブルーファウル。

 この国が平和すぎるから頭が回らないのかも知れない。


「わ……私は毎日飲んでいますから……」


「……だから? 毎日飲んでいるのと、今飲むのに何のご関係があるのですか?」


「ご、ご関係と言われましても……」


 困った顔をしながら答え、ブルーファウルはお菓子に手を伸ばすのだが、お菓子は水分を欲するビスケットみたいな物で、墓穴を掘っている。

 そろそろ虐めるのも飽きてきた事なので、お茶を一気飲みし、侍女にお代わりを告げる。

 わくわくした顔をするブルーファウル。

 毒の種類までは分からないが、取り敢えずコップを落とし、そのまま前のめりに倒れてみせる。

 すると、ブルーファウルの歓喜余った声が室内に響き渡った。


「愚民のくせに生意気だから悪いのよ! いくら竜殺しでも、毒には勝てるはずがないわ!」


 そう言ったところで身体を起こし、目の前にあったお菓子を手にして食べる。

 すると、ブルーファウルは時が止まったように動かなくなった。


「アーモンドの匂いがしたから青酸カリのような物を使ったのかな? でも、俺のような冒険者に毒が効くとでも?」


「な、何のこと……」


「残念だが……」


 スマホを手にして、再生ボタンを押す。

 すると、ブルーファウルの高笑いと共に自分が仕掛けた毒の事を喋り始める。

 チートアイテムを持っている人間に対して愚行な策である。

 真面目にコイツは馬鹿なのか?


 ブルーファウルからしたら、板から自分の声が出ている事も驚きだが、自分が喋った言葉がそのまま返されている事に酷く驚愕していた。


「さて、この証拠をどうしてあげようかなぁ」


「そ、それは! それは私の声じゃない!」


 人は、自分に聞こえている声と実際の声は異なる。

 それを知らないブルーファウルは必死に否定をするのだが、俺は首を振り「なら、他の人に聴いてもらうか? 俺を殺そうとした音源を」と、ニヤつきながら言う。


「う、嘘よ……。そんなはずは……」


 そう言って膝から崩れ落ちるブルーファウルを尻目に「これで後腐れなくこの国から出ていける。感謝しているよ……お馬鹿なお姫様」そう言い残して部屋から出て行く。

 さて、アオの依頼は断らせてもらっても構わないが……アオがなんと言うだろうか……。

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