8話 正式契約?
「この料理、美味しいわね……モグモグ」
「遠慮って言葉を知らんのか! お前は……モグモグ」
「リョータが奢ってやるって言ったんっでしょ。あ、お代わりお願いします~」
人の金で容赦なく食べるセリカ。
聞いたところによると、昨日は殆ど食べていなかったらしく、当面の生活費すら無いらしい。昨日は雇い主が亡くなってしまって報酬を手にする事ができずギルドの練習場で雨風を凌いだそうだ。
そして、次の寄生する相手を決めたらしく、そいつの側でお金を巻き上げる事にしたらしい。が、その相手というのは自分らしく、完全に自分が稼いだお金で生活を送るつもりである。
今回はビッグヴェルを倒した時に奢るという約束したから食事を奢っているだけで、次回からは自分のお金で飲み食いをしてもらうつもりだ。
本題に戻ると、ビッグヴェルとの戦いだが、先手を取った事でビッグヴェルは身構える前に足を斬り落とされ、身動きが取れなくなったところを止めの一撃を入れたため呆気なく仕留める事に成功した。
あっという間にビッグヴェルを始末した事に唖然とするセリカだったが、町へ戻りギルドへ報告しに行こうと言うと、我を取り戻して今に至る。
食事を終わらせ、ギルドへビッグヴェルの討伐した事をギルドへ報告すると、驚いた顔をするのは他の店員だけで、バルバスは別に驚きすらしておらず、出来て当たり前のような顔して仕留めたビッグヴェルを出すよう指示してくる。
ビッグヴェルの死骸(解体済み)を出すと、ようやくバルバスは驚いた顔をするのだった。
バルバス曰く、ビッグヴェルの数は当初一匹だけと報告があったらしく、六匹もいるとは思っていなかったそうだ。そして、その六匹を全て始末して、解体まで行っているのだから驚きもするのだろう。
ビッグヴェルは通常のヴェルと異なり、異常なまでの巨体。
そして、その巨体にもかかわらず俊敏であり突進力が強く、並の冒険者がその突進を受けてしまうと、交通事故にでも遭ったかのような怪我をするらしい。できる事ならば先にそのことを教えて欲しかったのは言うまでもない。
これはバルバスからの依頼と言うかお願いであったため、依頼料は貰うことが出来なかったが、ビッグヴェルの素材はかなり貴重な物らしく、ビッグヴェルだけで78,000Gとなった。
しかし、今日に限ってセリカと共に行動していたため、多少なりとも今回の報酬を分ける必要があり、横目でセリカを見る。
セリカは微妙な顔をしてこちらを見つめている。
セリカはただ単に付いて来ただけだという事を自分自身で理解しているらしく、恨めしそうな表情で報酬の入った袋に目をやる。
仕方がなく魔法の袋から2,000Gを取り出し、セリカに差し出す。
セリカは驚いた表情をしてこちらを見た後に、袋に目を向ける。
「一応、今日は一緒に行動するって約束だからな」
「い、良いの?」
「別に……嫌ならいいけど」
2,000Gが入った袋を魔法の袋へ仕舞う素振りを見せると、セリカは慌てて袋を奪い取って胸に抱きかかえた。そして、どんどんと顔がクシャクシャになり、ついには涙を零して座り込んでしまった。
どうやら今までこれ程のGを手に入れたことが無かったらしく、今までの辛い出来事が頭の中で走馬灯の如く甦ったようだ。
しかし、この状況では自分が嫌がらせをして仲間を泣かせたようにしか見えないため、慌ててセリカを起こして、ギルドから逃げるようにアスミカ亭へ連れて行ったのだった。
「で、いい加減にこの子が誰なのか教えてくれないかい? リョータ」
まるで母親の様な目で俺を見つめるライフリ。
ロリっ子にジト目で見られていると、違う意味で興奮する人間がいるらしいが、自分にその様な趣味はないので正直、迷惑で鬱陶しく感じてしまう。
「彼女はアシスターですよ。ライフリさんが雇ってみたらと言っていたので、今日一日だけ雇ってみたんです」
「へぇ~~。こんな可愛い子を雇ったのかい? リョータも隅に置けないいねぇ」
ニヤニヤ笑いながらライフリは言う。
だが、真面目な話、セリカを雇うのは今日で終了。
どのタイミングで「明日からは自分の力で稼いで生活をしろよ」と、言おうか探っている。
「で、アシスターの彼女は役に立っただろ?」
この言葉を待っていた! と、言わんばかりに残念そうな顔をしてライフリを見る。
「それが……なんですが、ライフリさんもご存知だと思いますが、俺はアーティファクトを持っていて、道や荷物持ちなどは必要がないんですよ」
その台詞でセリカの動きが止まったのが分かった。
セリカの見た目は美人だ。
しかし、いくら美人だろうと、戦力にならない奴が側に居るのは邪魔である。また、口の利き方が悪いのも仲間にしたくない要因の一つであり、そして何よりも胸が残念なのが許し難い。せめて一つくらいご褒美があっても良いと思うのだが、それすら無い。
「彼女が持てる荷物より、俺のアーティファクトの方が荷物を収納できるんです。しかも、このアーティファクトは解体もやってくれるし、道も教えてくれる。申し訳ないけど必要性が感じられませんでした」
本当に残念そうな顔をして言い、チラリとセリカの方に目を向けると、目に涙を溜めながらこちらを見ていた。しかし、本当に仕事していなかったのは確かだし、一緒に行動していても愚痴や文句しか言っていなかった。
その様な奴に対して情けをかける必要は無いだろう。
「そうか。じゃあ、リョータには戦える仲間の方が良いみたいだねぇ」
「そうですね。できるのであれば、背中を預ける事が出来る仲間の方が良いですね。ただ見ている奴は必要ありませんね」
キッパリと切り捨てる言い方をすると、セリカが咽せるようにして泣き始めてしまい、ライフリが哀れんだような目でセリカを見る。
「け、けれどさ、一人で何かするよりも、二人、三人とかで行動する方が楽しくないかい?」
なんとかフォローしてあげなければいけないと思ったのか、ライフリがどうにか出来ないかと、遠回しに言ってくる。
「楽しいと言うだけで冒険者が務まればそうしますが、殺伐としたこの世界で楽しさを求めるのは……どうなんですか?」
「イヤイヤ、リョータは分かってないな。気の合う奴と旅をした方が良いに決まっているさ。だって、気の合わない奴と旅をしていても、息が詰まるだけだし、揉め事が増えるだけだ」
ライフリが言っていることは理解できる。
だが、セリカが役立つとか以前に気が合わないので、この論議は無駄である。
「まぁ、リョータの話を聞いている限りだと……この子は半人前のアシスターのようだし、リョータが一人前に育てて上げたらどうなのさ? どう見たって上玉だし。他の冒険者だったら手を出してしまうんじゃないか?」
その言葉を聞き、泣きじゃくっていたセリカの動きが止まる。
セリカの年齢は15歳だ。手を出したら犯罪者である。
「だけど、彼女の年齢は15歳ですよ? 彼女に手を出したら犯罪じゃないですか」
「はぁ? 何を言っているのさ。結婚は12歳からできるんだよ? リョータ、頭は大丈夫なのかい? それに、貴族の奴は年齢なんて関係なく、好き勝手にやっちまうものさ。それがたとえ10歳未満でもね!」
ライフリが呆れながら言う。
当たり前のように生活ができ始めていたので忘れがちになっていたが、ここは元いた世界と異なる世界であり、結婚ができる年齢が異なっていても不思議でもない。
考えてみれば、殺伐とした世界で生命を残すには、早いうちに子作りを必要としているのかも知れない。
「まぁ……リョータがどの様にしようと、私等には全く関係がないがね。だけど、女を泣かせるのは余り感心しないよ」
そう言ってライフリは仕事に戻っていく。
女を泣かせるとか、そう言った問題ではない。
だが、このまま放置おくのは気が引けるし、セリカをどうにか戦力として扱えるようにすれば良いのだが、何か良い方法を考えなければならない。
だが、何の役に立たないセリカを雇うというのは気が引けるし……。
チラッと目をやると、セリカが真剣な目で俺を見ている。
そして、椅子から降りて土下座して「お願いします!」と言ってきた。
ここまでやらせておいて、お断りしますとは誰も言えないだろう。
「はぁ~……。じゃあ、先ずは魔法を覚える事から始めよう。魔法の一つでも覚えたら多少はマシだろ」
仕方が無さそうに言うと、先程まで泣きながら頭を下げていたセリカは勢い良く頭を上げる。
セリカの表情は涙で目元が腫れていたが、嬉しそうな顔をしてこちらを見ていた。
「いつまでも床に座っているなよ。そんでもって、明日は神殿でも行って魔法の勉強してみようぜ」
「う、うん!」
こうして何の役に立つことのないセリカを雇う|(寄生される)事となってしまった。なってしまったのである……。
翌朝、朝食を食べ終わり、ライフリに挨拶して出掛けようとして、宿屋のドアを開ける。すると、ドアの横でセリカが大きな欠伸をしながら待っていた。
セリカは魔法を使う事が出来ない。
と、言う事は、どの位お風呂に入っていないのか知れた物では無い。
そして、服も薄汚れており、セリカの方から漂ってくる臭いに朝食が逆流してくるような気分になる。
「おいセリカ……お前、物凄く臭いぞ……」
「う、うっさいわね!!」
何故、彼女は雇い主に対し、この様な横暴な態度が取れるのだろうか。
だが、このまま一緒に行動したとしても、気分が悪くなってしまうため【浄化】の魔法を唱え汚れを落とす。
しかし、セリカの心に溜まった汚れは取る事は出来ない。
「これで臭いはどうにかなったな。じゃあ、取り敢えず神殿に行くぞ。魔法は神殿で教えてくれるって話をバルバスさんから聞いたからな」
そう言って歩き始めると、セリカは自分の後を付いてくるが、小さい声でお礼の言葉を述べた。
だが、彼女のプライドを考えると、屈辱的だろうと思い、聞かなかった事にした。
スマホで神殿の位置を確認しながら向かって歩いていると、セリカが覗き込む様にして質問をしてくる。
「ねぇ、昨日もそれを使っていたけど、それは一体何なの?」
「お前には関係ない。気にするな」
そう言われても気になってしまうのが人である。だが、答える義務はないので教えず無視して歩いて行くが、セリカは必要以上に興味を抱いているらしく、五月蠅かった。
しかし、蚊蜻蛉が飛んでいる事にしてスマホをポケットに仕舞い、無視して神殿へ向かうのだった。
五月蝿い蝿を無視しながら暫く歩くと、少し離れた場所に神殿が見えてきた。
神殿へ辿り着くと色々な人が出入りしており、自分達も神殿の中へ入り神官らしき人が居たので話しかけると、笑顔で応対してくれた。
「――魔法を習いたいのですか……それは構いません。ですが、講習料として1日5,000Gを納めて頂く事になりますが、宜しいでしょうか」
どうやら魔法を覚えるためにはお金を支払う必要があるらしく、値段もそれなりにする。
そしてお金は前払いらしく、セリカのためにお金を魔法の袋から取り出して神官のような人に支払い、奥の部屋へと案内される。だが、1日5,000Gは高いのではないだろうか。
奥の部屋は治療院になっているらしく、怪我人や病人らしき人が並んでいて、その先に修道女らしき女性達が椅子に座って治療魔法を唱えているようだった。
その中にいたリーダーらしき修道女が呼ばれ、自分達の前に連れて来られたのだが、その修道女の笑顔はどう見ても作られており、安堵よりも恐怖感を漂わせていた。
「どーも、お早うございます。貴方達が魔法を覚えたい冒険者? 宜しくね〜」
随分と軽い口調で挨拶をする修道女。
しかし、修道女の目は笑っていない。セリカはその事に気が付いていないらしく、「宜しくお願いします」と頭を下げていた。
修道女に連れられて別室へ連れられ、椅子に座るように指示される。セリカと自分は椅子に腰掛け、魔法に付いて丁寧に使い方を教えてくれる。
だが、セリカは説明の意味を理解出来ていない様子で首を傾げて聴いていた。
修道女が言うには、魔法は体内にある魔力を出して使用するとの事だが、それには魔力の流れを理解していることが条件となる……らしい。
しかし、スマホで覚えた自分には、その流れというのは分からなかった。
「リョータ、アンタは魔法が使えるんでしょ? だったら魔法の基礎なんて聞かなくても分かるんじゃないの?」
「俺の魔法は特別なやり方で覚えてんだよ。だから、基本的な事など全く分からないんだよ」
特別なやり方と言われても、セリカに理解する事など出来るはずがない。
セリカは不思議そうな顔をしてこちらを見ていたが、「やり方が分からないのなら意味がないわ」と言い放ち、修道女の方へ向き直る。
別にスマホで魔法を覚えられたなどとセリカに教える必要は無い。
修道女曰く、手に魔力を集中させると出来るらしいが、その魔力をどの様に手に集中させるのか、説明が雑過ぎて解り難い。
スポーツ選手が大雑把な説明をするかの様な言い方をする修道女。
仕方なくスマホで確認すると、内面に気を張るようにすると書いてあり、そのやり方が難しいため、誰かに魔力を流してもらうと分かりやすいらしい。
「すいません、宜しければ俺達に魔力を流してくれませんか? 具体的にどうすれば良いか分からないので……」
スマホで魔法を覚えた事で、魔力の基礎など分からない。
今後の事を考え、自分も魔力を人に流す事ができた方が良いだろう。
もしかしたら、魔法をかける要領で良いのかも知れないが、お金を支払っているのだから、試してもらい、理解する方が良いだろう。
修道女にお願いすると、表情が一瞬だけ変わったように見えた。
だが、直ぐに微笑んで「良いですよ〜」と言い、手を掴み魔力を流し始める。
しかし、魔法を使ったことのない人だったら全く分からない微量な魔力を流し、理解させない様にしているとしか思えない。
この事から察すると、修道女は魔法を教える気があまりないと言うことなのだろう。そして、一日5,000Gをせしめるのが神殿でのやり方なのかも知れない。
だが、魔力の流し方は魔法を使う要領で問題なさそうなので、これを会得するのに時間が掛からない。
しかし、セリカは全く分かっていないらしく、首を傾げていた。その瞬間、修道女の顔が一瞬だけ悪い顔になったのを見逃さなかった。
「じゃあ、セリカ、今日一日魔法の練習をするんだぞ」
席を立とうとすると、セリカが驚いた顔をした。
「だって、俺は魔法が使えるもん。それに、さっきので魔力の流れってやつが分かったし、これ以上習う必要がない。今回はお前のためにやっている事だから、しっかりと覚えるんだぞ」
茫然としているセリカを尻目に部屋を出て行こうとしたら、修道女が舌打ちをしたように聞こえ、振り向いてみるが、修道女は笑顔を絶やすことなくこちらを見ている。
だが、その眼の奥はどう見ても憎悪に満ちているようであった。
これは車やバイクなどの教習所でよくあるパターンだ。
搾り取れるだけ搾り取って、諦めかけた時に合格させる……その手口と同じである。
セリカを生贄代わりにして神殿から出て行きギルドへ立ち寄ると、バルバスが暇そうな顔してコップを磨いていた。
「バルバスさん、お疲れ様です」
「おう、リョータか。あの子はどうしたんだ?」
「あの馬鹿は神殿送りですよ。仕事をしたいのなら、手に職を付けるのが一番良いですからね」
「なるほどな……考え方は間違ってないな。で、これから先どうするんだ?」
これからどうするのかと言われても、彼女が使い物にならなければ一緒に行動なんてすることは出来ない。
「これからは二人だけど、一人は戦力にならないからなぁ。戦力になる奴が居たら良いなぁって思っています」
「なら、誰かに声を掛ければ良いじゃねーか」
「声を掛けることが出来たら既にやってますよぉ。この町に来て日が浅く、友人と言えるとしたのなら、イルスくらいしかいません。バルバスさんがセリカに余計な事を言うからこうなったんじゃないですか」
拗ねたような声で言うと、バルバスは笑いながら「まさか本当にリョータのとこへ行くとは思ってなかった」と言う。
しかし、自分が思い描いているチートな世界は、もっとハーレム要素が強かった。
どこかの国のお姫様が街へお忍びでやって来て、それを助けたり守ったりする。
これぞハーレムのスタート! みたいな出来事を想像していた。
だけれど、現実はそんなに甘くはない。
これから先、どうなってしまうのか分からず深い溜め息を吐くのだった。
名前:石橋亮太
年齢:18
Lv:3
HP:68
MP:49
STR:54
AGI:52
DEX:58
VIT:56
INT:50
生活魔法:【浄化】【飲料水】
回復魔法:【リカバ】
スキル:剣技1
所持金:76,929G