78話 救えない
ギルドでは色々な情報が手に入るが、正確な情報を手に入れる事は困難である。
何故なら、噂話を鵜呑みにして人が勝手な事を言っている可能性があるからだ。
「リョータ様、これからどう致しますか?」
「そうだなぁ……。ここの国以外も行ってみたい気持ちが無いわけでもない。だが、他国がどうなっているのか分からないのであれば、無理に動くのは危険な気もする」
「そうね。ここに来た魔族はアオが仕留めたから問題ないけど、他国ではどうなっているのか情報が入って無いわ。暫く様子を見るのが正解っぽいわね」
情報収集を行っていたラスクが戻り、椅子の腰を掛けながら言う。
「だな。少し様子を見たほうが良いだろう。外の魔物も凶暴化している可能性も考えられるしな。なるべく安全策を取ったほうが良いだろう」
ラスクたちと意見は一致し、これからについては外の状況が分かってから動くことするのだが、外の状況を知るのにそれほど時間が掛かることはなかった。
スマホで現在のニュースを観ていると、普段では現れることのない魔物が現れ、町や村を襲っている事が掲載されており、全ては魔王が復活した事によるものであることは明白で、各国はその対応に追われているとのことだった。
そして、その魔王が復活した事で、密かに匿われていた勇者が現れ、他国で活躍を始めていることが判り、俺はホッと息を吐いた。
数日後、勇者が現れたことは直ぐに世界へと広まる。
マリーはガックリしながら俺達と共にギルドでジュースを飲んでいた。
「私は絶対にリョータさんが勇者だと思うんですよね……」
唇を尖らせ両肘を突き、顔を支えるようにしながらマリーが言う。
言いたい気持ちも分かるが、それはチートなスマホがあるからであり、自分自身が強い訳ではない。
通常の強さはマリーたちとあまり変わらない筈である。
スマホの課金システムがなければ、本当に雑魚専門の冒険者だっただろうし、アオとも出会っていなかった。そして、マリーたちはオークに種付けされていたはずである。
「俺は違うよ。それに、勇者が現れたという話をマリーだって聞いたんだろ?」
「そうですけどぉ……。なんか納得ができないんですよねぇ」
ジト目で俺を見つめるマリーだが、いちいちマリーの戯言に付き合っていても仕方がない。
スマホでニュースを読んでいると勇者の活躍が載っており、中々頑張っているようだった。
「どうやらお前の言っている勇者様は、別の大陸に居るみたいだぜ。場所は……ロッテリアン大陸って、場所らしいな」
ロッテリアン大陸が何処なのかすら分からないが、マリーが言うにはかなり離れた場所にある大陸らしく、勇者に会うには一年近くは掛かるのではないかと嘆いていた。
「じゃあ、マリーは勇者と合流するのか? だったら、ここで俺とはお別れだな。そのガラフォーを返してくれるか?」
「――へ?」
ポカーンとした顔をするマリー。
「おいおい。いつ何処で死ぬか分からん奴が、アーティファクトを持てると思っているのか? それはこの世界には無い代物なんだ。勇者に会いたければ自分の力で会いに行けよ」
冷たい台詞で突き放すと、ガラフォーを手にして何かを考える素振りを見せるマリー。
「アオは俺と一緒に来るから別に持っていても構わないけど、マリーは違うんだろ? だったら返してくれるか?」
手を差し出すと、マリーは納得できないといった表情をしながらガラフォーを俺に渡そうと、手を伸ばす。
「結局、マリー様はリョータ様をその程度にしか見ていなかったという事なんですね。プププッ……。やはりリョータ様にはアオしかいないと言う事……。リョータ様、アオはどこまでもお供いたしますからね!」
そう言って、俺の腕に絡み付くよう抱き付き、胸を押し当てるアオ。やはりこの位の大きさは素晴らし! 小さくもなければ大きくもない。丁度良い大きさである。
それを見ていたマリー。渡そうとしていたガラフォーを引っ込め、袋の中に仕舞う。
「どうした? マリーは勇者がいる所へ向かうんだろ?」
「――気が変わりました」
「はぁ?」
「気が変わったと言ったんです! ……考えてみたら、勇者様に会う必要はないんですよね。何処かの冒険者が魔王を倒してしまうかも知れませんし、旅を続けていれば勇者様に会うかもしれませんもの」
頬を膨らませながらマリーが言う。
俺はチラッとラスク達を見ると、ラスク達四人は首を左右に振り『アオの挑発』にマリーが乗せられたことを示し、アオは馬鹿にしたような目でマリーを見て笑っていた。
正直に言って子供のおもりをするのは疲れるので、ここらでマリーとは別れたかったのだが……。
そんな事を考えつつ俺は差し出した手を引っ込め、スマホを手にしながらジュースを飲み干す。
この様子ではマリーの奴、俺と一緒に行動をするという事なのだろう。
アオの奴が煽った時点でこういう状況になると想像できていた。
いったい、こいつは何を考えているのか……時々わからなくなる。
それから数日が経ち、世界的に魔族との争い落ち着いてきた頃、俺達はお城に呼ばれる。
別に何か悪い事をした訳ではないのだが……。
謁見の間で椅子に座って偉そうな態度をしていた王が、「楽にして良い」と言う、皆は少し緊張した顔をしながら片膝を突いて、声を揃えながら返事をする。
その中には俺がボコした冒険者のシサルやイース達も混ざっていた。
しかし、俺は楽にして良いと言う言葉を鵜呑みにして、胡座をかいて座る。
「リョ、リョータ様! 楽にして良いというのは社交辞令ですよ……」
それを横目で見たアオが、慌てて小さい声で教えてくれ。
だが、全ては今更の話である。
王は咳払いをして話を始めた。
「朝早く来てもらい申し訳なく思う」
全くその通りの話である。
「今日、ここへ来てもらったのは、他国の情勢を調べて来てもらいたいからだ」
「――他国の……情勢を?」
姫と言えど冒険者のマリー。
皆と同じように片膝を付き話を聞いていたのだが、王が他国の情勢を調べてきてくれと言ったので、頭を上げて聞き返す。
「うむ、魔王が復活し、勇者らしき者も現れたと言っても、世界の危険が去った訳ではない。我が国は運良く魔族を退ける事に成功したが……」
運良くとまぁ、あれだけ慌てていた奴が何をほざいているのだろうか。
俺は呆れた顔をしながら話を聞く。
「他の国はどうなっているのか……済まぬが、この親書を持って行って他国の王に渡してくれぬか。物資が必要であれば送る必要がある。今は国同士が啀み合っている場合ではないからな」
言っている事は正しいが、何か納得が出来ない。
まるで魔族を自分達で追い払ったかのような言いようである。
皆は親書が入った封筒を兵士から受け取り、それぞれ仕舞っていく……が、何故か俺だけには渡されない。
「俺は良いのか?」
もはや敬語を使う必要もない。
「リョータは良いのだ。お前は旅に行く必要はない。私を守るのが仕事だからな」
何か聞き間違いでもしたのだろうか。
「はぁ? 何を言ってんの? このオッサン……遂にボケが始まったか?」
その言葉にアオは頷き否定はしない。
しかし、周りの皆はざわついており、どう言う事か知りたそうにしていた。
「ボケてなどおらぬ! リーグがいなくなった今、この城を護れる者がおらぬからだ! したがって、貴様を騎士団長に任命してやると言っているのだ!!」
ドヤ顔で偉そうに言う王。
確かに王様なので偉いのだろうが、自分は民主主義の国にいた人間であり、独裁国にいたのではない。
なので……。
「――嫌だ。断る」
俺が騎士団長に任命された事で、周りがざわついている中で発した一言。
ざわついていた全員が「へ?」と、声を出して、皆が胡座をかいている俺に注目する。
「俺は冒険者。この国の騎士になったつもりは無いの! だから断る!」
「馬鹿な! この国の騎士団長という地位が欲しくないと申すのか!」
嘘だろって顔で驚く王に対し、俺は立ち上がって言う。
「そう言っているだろ。俺は冒険者で自由に生きると決めているんだ。それに、そんなに騎士団長が良いとも思えない。そんなに騎士団長が必要なら、夜逃げのように逃げたリーグでも探せばいいじゃん。俺には関係の無い話だ」
突き放す様に言い、背を向ける。
皆が不安そうな目で俺を見るのだが、この様な茶番に付き合っているほど暇ではないし、今更になってすがってくる意味も分からない。
「お待ちになって下さい……イシバシ様」
そう言って俺を呼び止め女性達の声。
そう、マリーの姉等である。自分たちのピンチを本能的に察知したのだろう。
「イシバシ様を一目見た時から私は……」
などと、全員が呆れるくらいの大嘘を噛ます姫ズ。
マリーが言うのなら吊り橋効果という奴で分からなくないし、マリーが自分に気がある事も知っている。
だからマリーが言うことに対しては嘘にはならないが、コイツ等については全く異なるのである。
俺が城で厄介になっている時は、汚物でも見るような眼差しをしていたくせに、こういう時は悲劇のヒロインをやれるこの根性……。
救えない。
というか、救いたくもない。
だが、なんだかんだ言ってもマリーの家族であり、マリーは俺の弟子である。
「姫様、その気持ちは大変嬉しく思います」
「なら……」
「――ですが、先刻も陛下に申し上げたよう、私は何処の馬の骨かも分からない冒険者であり、この国以外にも魔族や魔物などの驚異から救う必要がありますし、私を必要としてくれている人もおります。この城にいるとしたら、精々一週間……。私も冒険者ですので、多少なりとも勇者様のお役に立たなければなりません。そのあたりをご理解頂けないでしょうか」
それらしい事を言って、王都に留まる時間も設定し逃げの準備をする。
チラッとマリーを見ると、勇者の手伝いと言う言葉に対し、納得しているらしく「それなら仕方がないですよね……」と納得しており、アオは呆れた目で俺を見ていたのだが、どう考えてもそれしかこの場から逃げる作はないと判断したらしく、何も言わず黙って見守ってくれていのだった。




