74話 お説教のお時間です
「アオ! その場所から狙えるか?」
「もちろんです!!」
俺が険しい顔をしているのでアオも何かを覚ったようで、スマホからダネルNTW-20を取り出し狙いを定め弾丸を発射させる。
すると、アオはもう一撃とボルトアクションを引き狙いを定める。
「コイツで終わりです!!」
そう言ってアオはトリガーを引く。だが、命中するはずの弾丸は魔法か何かによって弾かれ、光の弾のような物が俺達の方へ飛んでくる。
会場はパニックになり人々は逃げ惑う。
「マリー!! その輪舞曲の鈴を俺に貸せ!!」
強い口調で言うと「は、はい!」と、鞘に収めていた輪舞曲の鈴を俺に投げ渡し、鞘から剣を引き抜く。すると、剣は光り輝き、リーグが使っていた以上の粒子が溢れ出てくる。
その剣を光の弾に向かって一振りすると、光の弾は空中真っ二つ割れ、弾け飛んだ。
再び攻撃されるかと相手を見定めると、姿を消しており、周りを見渡しても何処にも姿は見えなかった。
「ふぅ……やれやれ。アイツはいったい何者なんだよ……。全く」
そう呟きながら俺は剣を鞘に収め、深く息を吐く。
全て当たり前の如く自分がやっていた事を忘れて……。
マリーに剣を返そうとして横を振り向くと、会場は静まり返っており、マリー達は口をポカ~ンと開けていた。
何、呆けているのだと思いながら周りを見渡すと、大歓声が沸き起こる。
そう、何者かの攻撃に対して聖剣を使い真っ二つに斬り、会場にいた人々を救ってしまったのだ。
先程まで完全にアオがやらかしていたのを帳消し……もとい、自分自身がやらかしてしまっていることに気が付くまで時間が掛かり、アオやマリーが飛びついてくるまで何も考える事が出来なかったのだった。
暫くして王様の挨拶で閉幕する武闘会。
だが、それ以上のインパクトを残してしまい、俺は項垂れるしかなかった。
戦姫に戦乙女、更には『剣神』まで追加される始末。
全ての原因はアオにあるのだが、アオはすっかり忘れており、俺の腕に飛び付いてくる。
「流石リョータ様です! 魔法を斬り裂き、皆を救う英雄! アオは素敵な人に仕えて幸せでございます!」
「あれが聖剣の本当の姿……私には到底無理な話です!!」
二人は両腕にぶら下がるように掴まり同じ言葉を何度も言う。
それを見ながらラスク達は笑っているのだった。
城へ戻ると、侍女にとある部屋へと通される。
「この部屋に入れば良いんスか?」
そう質問をすると「はい……」と、頭を下げながら言う侍女。
他の面子も訳が分かっておらず、「誰がいるの?」と聞いたりしていたが、誰もわかるはずが無く俺達はドアを開ける。
本来であれば、マリーが一緒にいるはずなのだが、城の中だから、王族の格好に着替える必要があり、今は側にはいない。
いたら通される部屋の理由を教えてもらえるはずなのだが……。
まるで職員室に入るかのように「失礼しまーす……」と、言ってドアを開けると、そこには懐かしい面子が緊張した顔して座っていた。
そして俺に気が付くと、慌てて立ち上がり「お久し振りです! お師匠様!!」と言って頭を下げる。
「お、お前達!!」
頭を下げていたのは俺とアオにオークの集落から救って貰い、修行を付けていたイースとフォルト、シサルの三人が居たのだった。あと数名、知らない冒険者が緊張した面持ちで立っており、俺とアオは声をだす事ができない程、驚いていた。
すると、「まさか師匠がマリエル姫と御婚約されるとは思ってもおりませんでした……」と、シサルが言い、「ほ、本当にあのマリーがお姫様なんですか?」と、フォルトが疑心に満ちた声で質問し、イースは涙で言葉にならない程嬉しそうにしていた。
「えっと……久し振りだな。積もる話もあるが、先ずはそちらのお仲間さん達に自己紹介をするのが礼儀じゃないか?」
正直に言うと照れ臭い。
だから、少し話を逸らし俺達は中に入っていく。
「えっと、始めまして。石橋亮太です。そして、こっちが俺の妻で獣人の……」
「い、イシバシ=アオと言います。お見知り置きを……」
恥ずかしそうにアオが自己紹介をし、頭を下げる。三
人は俺達が結婚した事にキャッキャしながら聞いていると、顔を上げたアオの目が三人を捉える。
すると、三人はしごかれた日々を一瞬で思い出したらしく、姿勢を正し口を閉じて緊張した表情に変わった。
「そして、こっちが仲間の……」
「この国で騎士をしているアルフォンスだ。宜しくな、お嬢さん達。今は姫の護衛役を任されている」
格好をつけるようにアルフォンスが自己紹介し、ラスクが適当に自分の名を名乗って奴隷の三人が膝を突いて頭を下げながら自己紹介をする。
それを見た三人は、アオがどれだけ特別な人だったかを理解し、改めてアオの存在に恐怖する。
こちらの挨拶が終わると、シサルが自己紹介を始めていく。
どうやら三人共違うパーティに入っているようで、それぞれの道を歩いているようだった。
話をするのなら「取り敢えず席に座ったら?」と、ラスクが言うと、アオが頷いて三人は席に座る。やはりアオには逆らう事ができないらしく、三人はアオの顔色を窺いながら話を始めた。
暫く雑談していると、マリーが正装してやってくる。
俺達を抜かす全員が立ち上がり、膝を突いて挨拶をする。
こうやって見ると、マリーは王族なのだという事を改めて思い知らされるが、俺にとっては関係のない話であり、平和で自由な生活がしたいなぁ……などと、夢物語を想像しているのだった。
「皆さん、顔を上げてください……。私はマリエルではなく、マリー……。皆と一緒に旅をしたマリーだと思って下さい……」
このように訳の分からないことを抜かしてやがるが、側近が側にいたら萎縮するに決まっている。イースなんて「いえ、姫様と共に旅ができた事は光栄の極み……」と言っており俺達を除く全員が硬くなっている。
「取り敢えずマリー、側近を廊下に出させろ。話はそれからだ」
というと、嫌われ者の俺に犬歯剝き出しにする側近共。
しかし、未来の旦那である俺の言う事を素直に聞くマリーは、「貴方達、廊下で待っていなさい。ここには私の師匠がおりますし、アルフォンスも控えています」と、他の者達を外へと追いやる。
その言葉に従う側近共。俺を睨みながら部屋から出ていくのだが、そこまで恨む必要は無いのでは?
悪いのは全て、この国の王である。
そして、その振る舞いとアルフォンスのポジションが凄い事を現しているかのように三人は思い、改めてアオを尊敬し、アルフォンスには『様』を付けて呼び始める。が、アオが小さい声で「チッ!! ヨワッチのくせに……。リョータ様より格上みたいな態度をするな! 後でボコボコにしてやる……」と、言ったのだが、その事より、お前は朝まで説教してやる。寝かさないから覚悟しろ! と、心の中で俺は思うのだった。
ふぅ~、と息を吐き、マリーはいつもの様に席に座る。すると、三人はその姿が懐かしくなったようで、ホッと息を吐いた。
「じゃあ、本題に入ろうか……。先ずは説教からだな」
ウンウンと頷くアオ。だが、俺は優しい言葉でアオに言う。
「アオは部屋に戻ってから説教をする。覚悟しろよ絶対に許さんからな! 俺は……」
「は、はい? ど、どういう事でしょう。ま、マリー様……アオは何かとんでもない事をしでかしましたか!」
「え、えっと……それはリョータさんに聞いたほうが早いというか、夜になれば解りますし……私は別の部屋で休みますから……」
苦笑いをしながらマリーが答えると、アオは救いを求めるかの如くラスクや他の者達を見る。
「アオ、諦めた方が良いと思う。今回ばかりは何も言えないわ……」
珍しくラスクが首を横に振りながら答えると、全員が頷いた。そしてアオの絶叫が木霊したのは言うまでも無く、皆は笑いながらそれを見ていた。
「だが、まさか全員が揃うとはなぁ……」
俺の言葉に疑問を抱く三人。
「全員? でも、キリトが……」
「死んだよ。キリトは……私が……この手で安らかに……眠らせてあげたの……」
キョトンとする三人。
「ま、マリー……冗談でしょう? 冗談打よね!」
フェルトが顔を引き攣らせながら立ち上がりマリーの側に駆け寄る。
「ごめんなさい……私は気が付かなかったけど、キリトは私が……『倒したわ』」
「ど、どういう事……ねぇ、だって、私達はリョータさんに救って貰い、しかも、稽古まで付けてもらったんだよ! 言ってたじゃん! 逃げるが勝ちだって時もあるって! そうでしょ! リョータさん!」
「そうだ。強い相手と戦うのは馬鹿がやることだよ。勝てないと判断した瞬間、逃げる事。これは毎回言っていたよ……だけど、事実だ……マリーを責めるのはお門違いだ。全ての原因は俺にある……俺があの時終わらせておけば……キリトは死ぬことはなかった……かも知れない」
「か、『かも』って無責任な話じゃないですか! キリトはリョータさんの弟子でもあるんですよ! かもって……私達を馬鹿にしてるんですか!」
「どうせあのままでも死んでるんじゃないの?」
ここでも珍しくラスクが助け舟を出す。
「な、何で!」
「リョータは逃げろと命じたのよ。しかし死んだの。それってどういう事だか判る? そんな事も理解できないのであれば、あんた達も『全滅』するんじゃない? 仲間のとこに行けるわよ」
言葉に気を付けろとアオなら言うはずだが、今回に関しては一度だけ目線をラスクに送り、後は任せる形で黙っていた。
多分だが、アオも同じような事を考えていたのかも知れない。
「わ、私達はそんな事しません!」
「そうかしら? 同じ状況下になっても逃げる事が出来るの? 私は出来るけど……騎士のお坊ちゃんはどうかしら?」
「ぼ、坊っちゃん!? 全く……コイツ等は年上を何だと思ってやがる。確かにラスク嬢の言う通りだな。俺達騎士には誓いがあるが、お前ら冒険者にはそう言ったものがない。所詮、寄せ集めがチームを作っただけ何だと理解でき、そして見殺しにできる勇気があるのなら別だが……嬢ちゃん達の話を聞いていると、家族扱いだから、見捨てる事は出来ないだろう。ラスク嬢はそれを言いたかった訳さ……」
キッ!! とラスクを睨む三人だが、それだけキリトの死がショックなのだろう。
「リョータ様、アオは見捨てられるのですか?」
ポヤんとした顔で質問してくるアオ。少しだけ今日の事を許してやろうとも思えてしまう。
「見捨てないよ。俺は負けないし死なない。一度死んだ奴はしぶといんだぜ? だからラスクだってここにいるし、マリーだって俺の側から離れない。一度死線を潜り抜けた奴は自然と理解できるのさ、コイツは殺そうとしてもしななってね。マリーとラスクはドラゴンと直面したが、逃げようともしないで隙を作ることに集中していた。それは俺とアオがどうにかしてくれるって知っているし、アオは俺がドラゴンに負けないのを知っている。だから逃げれる時間を稼ぐことも出来るんだろ?」
コクリと頷くアオ。そして3人に問いかける。
「お前達はどうなのですか? リョータ様のようにドラゴンを倒せるほどの強さを持った仲間がいるんですか? アオにはリョータ様がいます。元々奴隷だったからご主人様を見捨てることなんてできやしませんが、アオはリョータ様が逃げるだけの時間は作れます。ですがリョータ様は……私を逃がす時間を作るでしょう。そして私は逃げて、ギルドに救出依頼を出すでしょう。君達はどうなの?」
今ならね。前は直ぐに逃げていたくせに……。やはりお仕置きが必要だな。
しかし、その言葉にカチンときた仲間の冒険者達。闘志をむき出しにしてアオを睨む。
「はい、何か? 気に障ることを言いましたか? 気に障ることを言ったとなら、あなた方にはそれができないということでしょうね」
馬鹿にしたように鼻で笑いながらアオが言う。まるで挑発をしているように……。
「もう我慢ならねぇ!! そこまで言うのなら、実力を示して貰おうじゃねーか! 偶然魔法弾を聖剣で斬り払っただけのくせによう!」
そう見えているのなら実力はそこまでという事だ。
マリーは黙って話を聞き、何も喋ることはなかったが、この一言には物申したかったらしく、「良いでしょう。実力の違いを見せつけて上げてくださいリョータさん。分かってもらうにはこれしかないでしょうし、師匠もそのつもりのようですし。マリエルの名の下に……これより親善試合を開催します!!」などと、勝手に話を進めてしまう困ったお姫様である。
しかし、その言葉に対してアオはニタァ……と、不気味な笑みを浮かべたのだが、これに関してアオにやらせる訳にはいかない。
「悪いがお断りさせて頂く」
俺の言葉に全員が「え?」と驚いた顔をする。
「臆したか! 臆病者め」
「何と言われても結構だが、俺達は先程まで下らない茶番をやっていたんだ。それで親善試合? 疲れている相手に対し勝つのがお前達の理想か? まあ、今やっても俺の勝ちは揺るがないけどな」
鼻で笑いながら言うと、確かにフェアではないことに気が付く。
「分かりました。では、二日後にお願いします。これは王国としての命令です! いくらリョータさんでも、この国で食料を取る事を禁止されたくはないでしょう。お願いします、彼女等に……分からせて上げて下さい!」
「了解した、マリエル殿下……アンタ等もそれで良いか?」
その言葉に「馬鹿にしたような目で見やがって……!」と、いきりだつ戦士風の冒険者。それで納得し、王宮の練習場に慣れるために冒険者の皆は移動し始めるが、俺達はそのまま動こうとはしなかった。
「理解しているようだな、アオ……」
「つ、付き合いが長いですから……」
そう言ってアオは目にも留まらぬ速さで土下座のポーズになり、俺はその襟首を掴むと、皆は苦笑いをしながらその光景を見ており、俺は部屋に連れていき、今日の事を朝まで説教したのであった。




