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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
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73話 バーサーカーは馬鹿だ

「お、お前……何をしてんだよ!!」


 瞬殺で倒した戦士の背中に片足を乗せて、褒めてくれと言わんばかりの顔をしていたアオだった。

 だが、俺の言葉を聞いて、何かを思い出した顔をする。

 そして、アオの顔は『テヘペロ』状態になる。

 お仕置き決定である。


 しかし、やってしまったものは仕方がないと判断したアオは、相手の戦士が持っていた魔剣を拾いあげ、相手戦士の目の前に魔剣を突き刺して小さい声で一言言う。


「これ、場所を間違えてたらオジサンは死んでたかも知れませんね。まだ続けると言うなら、このまま剣をその頭へ刺しますけど……どういたしますか?」


 可愛い表情をした獣人の少女は、可愛いらしい声で容赦無い一言を叩き付けるかのように言う。


「実力の差があるのも分かり、魔剣を相手に取られて……どうやって勝つおつもりですか? 降参するなら今だと思うのですが、如何でしょうか? 一応、これが最終勧告ってやつなのですが、答えて頂けますか。アオは今すぐにでもリョータ様に謝罪をしなければならないため、無駄な時間をかけてられないのです。申し訳ありませんね」


 舌をペロッと出して茶目っ気たっぷりに言う。だが、それは冗談ではなく、突き刺した剣の位置を見ても本気だという事を思い知るだけの迫力がある。

 更に、会場に響き渡る悲痛な叫び声。それはアオが戦士の膝を踏み潰し、戦闘不能にしたからであった。

 静まり返る会場。誰もが想像していなかった惨劇。


 やってしまったものは仕方がないと、俺も思うようにしマリーに小声で言う。


「マリー、続けるかどうするか相手に問いかけろ。それも超強気で……だ」


「へ? な、何故?」


「ドラゴンを倒したのはお前だということになっている。そのお供があれだけ強いのだから、お前がどれだけ強いかなんて想像できるか? 世間的にはドラゴンを倒した戦姫だぞ……お前は」


 その言葉の意味を把握するまでに少し時間をかかったのか、「ど、ドラゴンを……わ、分かりました」と、慌てて聖剣を抜くと鈴がなったような音がしたが、リーグと比べ物にならないほど小さな粒子が剣から出てきた。


「あ、あの……え、えっと、こ、これで……これで私達の実力は分かったでしょ!! 無駄な争いは避けたいの……降参してくれませんか」


 強気にと言ったのに、マリーはどもりまくって説得力っていうのが感じられない。


「い、否! 俺達は降参なんぞしない!」


 説得力の薄いマリーが言う言葉では、相手も日和ることはなかった。そして、剣を構えて襲い掛かってくる。

 マリーは慌てて剣を構え、相手の剣を受け止めた。聖剣同士の力がぶつかり合い、マリーの持つ剣から粒子が飛び散る。

 だが、相手より力の差があるのかマリーは吹っ飛ばされるように押し切られそうになる。

 もう一人も俺に斬り掛かって来るが、能力に差があり過ぎて軽々と避けていく。

 しかし、マリーの方が気になり余所見しながら避けていると、相手はバカにされている事に気が付き、怒りを露わにして頭を沸騰させていた。

 仕方なしに落ちている小指の爪程度の石を親指で弾き、マリーと戦っている戦士の足に当てる。

 すると、戦士は突然足に激痛が走ったらしく、優勢だった体勢を崩す。

 この一ヶ月、アオと愛を育んでいた訳ではなく、こちらだってそれなりの修行らしきことをやって、【指弾】のスキルを身に付けた。

 その時に気が付いたのだが、俺のステータスに変化が現れていた。

 その変化とは、【剣技】のスキルに数字がなくなってしまったのである。

 だが、アオやマリー達には【剣技】のスキルに数字が有り数字が高いほど技術があるのだが……俺にはその数字がなくなってしまっている。

 不思議に思いながら人の剣技を見ていると、何故だか自分にもできそうな気がして試してみると、出来てしまう。

 まぁ、多少ゆっくりとした攻撃になるのだが、皆は声を上げて驚いていた。

 考えられる事としたら自分自身の動きが速くなったと同時に、相手の動きがゆっくりに見えてしまうからではないだろうか。

 そのため、剣技にレベルを付けることができなくなり、数字が消えてしまった可能性が考えられるが、それ以上このことに対して考えるのがバカらしく、見なかったことにして指弾の練習を繰り返した訳だ。


 突然体制が崩れた戦士に対し、形勢が逆転した事に驚きながらもこのチャンスを見逃さず、マリーは相手の剣を弾き飛ばす。

 いくら剣技に差があったとしても、マリーが装備している剣は聖剣であり、それが首元に近付けられており、相手はマリーの聖剣を素手で触ることができないため、降参をするしかなかったのであった。


 プレートを溶かす粒子は魔力によって出るものだと分かっている。だが、俺程の回復量を持つ人間にはその効果は薄く、火傷にもならない程ダメージも無い。

 実際、リーグが装備していた時に俺を攻撃していたが、服や防具が溶けただけで、怪我など一つも負っていない。見極めるために顔を近づけても問題なかったので、異常なほどの回復量を持っていることが分かる。

 自分で言うのも恥ずかしいが、ある一種、魔王がと呼ばれてもおかしくはないだろう。

 しかし、悪魔とかそういったものではないから……勇者? みたいな存在と言うことにしよう。

 うん、そうしよう……。


 そんなことを考えながら目の前で魔剣を奮っている戦士の攻撃を躱したり、剣で上手く受け流したりと防戦一方に見える俺。

 そんな俺に対してアオは手伝うこともせずに土下座をしており、状況ってものを理解していないように思える。


「リョータ様! アオは忘れていた訳じゃないんです! ただ、あのオジサンが鬱陶しく、リョータ様とアオの邪魔をするから片付けただけでして……」


 などと、戦っているはずの俺に対し、必死に言い訳をしている。

 観客は出来レースだと思い始め、ブーイングの嵐が飛び交い始める。眼の前で必死に戦っているはずの戦士は何でブーイングされているのかも分からず俺に刃を剥けているのだが、尽く躱し、受け流されているのであった。

 もちろんお互いの国は出来レースなどしていない。

 相手の国は国内最強と呼ばれている戦士を連れてきているし、関係者だって観に来ているのだ。

 その最中、イカサマなどする事などできないし、国の威信がかかっているのでやるはずが無い。

 だが、眼の前でアオが土下座をしているのを観て、観客はデキレースだと思い込んでおり、関係者はどよめく。

 しかも、必死に戦っている相手戦士からすれば、バカにされているような状態で、マリーは呆れた顔して頬を釣り上げてこちらの戦いを観ている。

 そして戦いはアオの行動で展開が大きく変わる。「お許し下さい! リョータ様!!」と、言いながら相手の攻撃を躱している俺の脚に抱き付き、俺の視線はアオに向けられ、振り払うとアオが怪我をしてしまう可能性があると感じ、振り払わずに尻餅を付く。

 すると「これで止めだ!!」と、相手の戦士は息を切らせながら剣を俺の首元に剣を突き付ける。

 手で振り払うの簡単だが、それは普通の冒険者や騎士には出来やしない。

 なので……。


「参った……俺の負けだ……」


 降参宣言をして大の字になって溜め息を吐く。

 もう、何がなんだか分からない状態だが、色々な意味で体裁は保たれたのかも知れない。などと考えていると、ここからが本番だったとは誰も気が付かない。

 俺が降参した事で呆気に取られるマリー。驚いた顔して更にやらかしてしまったことに気が付いたアオ。


「二対一となったが、我が国はまだ終わらんぞ!」


 はいはいそうですね。と、言いたいのだが、言う気すら失せている俺。

 掴んでいた脚を解放し、ユラユラ……っと、アオが立ち上がる。

 その手には俺が持っていたミスリルの剣。

 何かをブツブツ言いながら相手戦士に身体を向ける。


 呟いている声を聞いていると、「リョータ様がお前如きに負けるはずが無い! ありえない話なんだ――」と、小さく呟き、俺と戦っていた戦士に刃を向ける。


 相手戦士は距離を取り、アオと戦うつもりだった……が、バーサーカーモードのアオ。全力で走り出し剣を振り始める。

 相手戦士も疲れているとはいえ、それなりの実力者だから魔剣でアオの攻撃を捌いていく。

 どよめく観客と関係者。

 突然のことに何が起きているのかさっぱり理解ができていない。

 先程は邪魔をしたくせに、今度は武器を取り戦い始める。

 自分で舞台を滅茶苦茶にしている事を気にもせず、剣を振り続けるアオ。

 相手戦士もアオの剣さばきに対して徐々に対応しきれなくなり始め、攻撃を受け始めるのだが、フルプレートの防具で守られているためダメージをそこまで受けている訳ではない。

 しかも、相手戦士だって馬鹿ではないので反撃をしてくる。

 早く倒れてくれない相手戦士に対して少し苛立ちを見せ始めているのか、アオは舌打ちをしながらもそれを躱し、速い剣さばきでプレートを徐々に崩し始めていく。

 あのか細い腕で、フルプレートを破壊していくのだから、観ている観客達は先程のヤラセ疑惑を忘れたかのように歓声を上げ始める。

 可愛らしい獣人族の女の子が、フルプレートで屈強な戦士を圧倒している姿はまるで戦乙女。戦姫と呼ばれるマリーと、戦乙女のアオ。

 この二人に浴びせられる歓声は物凄く、普通だったら少しは恥じらいを覚えるかも知れない。

 しかし、今のアオは周りを見ておらず、ただ目の前にいる戦士を殺そうとしているだけ。

 それに気がついているのは呆れている自分とマリーのみ。

 実際、一番面倒そうな相手を俺が相手にしていたのだから時間がかかるのは当たり前であり、そろそろ冷静なアオに戻さなければ、相手を殺してしまう可能性がある。

 その身体のどこに秘められているのか分からない力で相手を蹴り飛ばし、ユラリユラリと相手に恐怖を与えながらゆっくりと近寄っていく姿は戦乙女と言うよりもバーサーカーである。

 相手戦士は立ち上がり剣を構えると、物凄いスピードで戦士に攻撃を始める。

 もう、一方的にアオが攻撃していることに気が付き始める観客達。徐々に歓声から悲鳴に似た声も上がり始める。


「やれやれ……そろそろ止めさせるか。アオ! 俺の声が聞こえるか?」


 聞こえなかったら気絶させるつもりだったが、アオの可愛い耳がピクリと動き、相手戦士の首元に剣を突き付け動きを止める。

 どうやら『俺の声だけ』は届くらしく、焦点があっていない目が戻って行く。

 先程の事を忘れたかの様に剣を投げ捨て俺の側へ駆け寄って、「リョータ様! お怪我はありませんか! 何処か痛い場所などがあれば……」と、俺の心配し始める。

 横目でチラリとマリーを見ると、他の戦士同様、呆気にとられている状態で俺は頭痛がしている気分に襲われる。


「アオ、相手に降参宣言をさせろ。それで俺達の勝ちだ」


「えっと……、かしこまりました!」


 そう言ってアオは先程の戦士に再び剣を突き付け「いい加減に降参したら如何ですか! これ以上やるのであれば、本当に殺しますよ」と、降参宣言をしろと言う。だが、『殺しますよ』という言葉だけはリアリティーがあり、相手戦士はその恐怖に勝つことができず「こ、降参だ……」と言って、俺達は勝利を収めた……。

 ざわつきが治まらない会場で、俺だけが恥をかいている気がして大の字になって寝転がる。天気は良いのに、何故恥をかかなければならないのか……。

 そのようなことを考えながら空を見ていると、何かが大空に高く浮遊しているように見える。

 身体を起こし、目を凝らすと何か人形の生き物が羽ばたきながらこちらを見ている気がし、物凄く嫌な予感がし始める。

 スマホから拳銃を取り出し、立ち上がって狙いを定める。


「マリー! アオ! 戦闘準備を怠るな!!」


 何を言っているのだろうと言った顔をしている戦士達対し、俺が何かしようとしている事に気が付き、武器を構えて空を見上げる。

 俺は「アオ! 何か見えるか!」と、声を掛けると「羽が生えた……化け物? みたいな……」と言う。


 舌打ちをして何発か発砲してみる。すると、少しだけ動いたように見え、それに気が付いた観客達が空を見上げ始めた。

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