71話 猛特訓という名の苛め?
次にやることは、マリーが王様へ報告することである。
だが、俺は城の奴らから嫌われているため、全く乗り気がしない。
まあ、原因を作ったのは自分だから仕方が無いのだけれども、ここの連中はあからさま過ぎる。
城へ赴くメンバーは次の通り。
自分、アオ、マリー、アルフォンスの四人だけ。
ラスクはリツミたちに魔法を教えるという事で宿屋に残る事になり、このメンバーになった。
大勢で行く意味がないと言うのがラスクの意見であり、しかも奴隷を城の中へ連れて行くには人数が多過ぎるとも言われたのも理由の一つであった。
言っていることは間違っていないので、仕方なしに言われた通り、この面子で城へ向かう。すると、思っていた通りの手荒い歓迎を受けるのであった。
姫であるマリーには背筋を伸ばし敬礼をするのだが、俺には聞こえるか聞こえないかくらいの声で『死ねばいいのに』や、『チッ!』と、睨みつけてきたり、舌打ちしたりしていた。
俺だけに……。
「罵詈雑言ですね。リョータさん……」
無邪気な顔しているマリーに罪はない。何故、俺がここまで手洗い歓迎を受けているかが問題であり、その答えは俺にあるからだった。
実は、騎士団長を勤めていたリーグが騎士団を辞めたという事と、アルがリーグと一緒に消えてしまった事が原因となっていた。
リーグは聖剣を返上し、一騎士としてやり直すという事になったのが気に入らなかったらしく、恋仲になっていたアルは追いかける様に付いて行く。
この国には現在、騎士団長が不在という『イレギュラー』が発生しているのであり、兵士及び騎士の皆さんは、こちら側に全て責任を擦り付けてきたのであった。
「やれやれ……。元はと言えば、王様が調子こいてるのが原因だろ……。被疑者は俺だ」
「そうですよ! どこかの姫様が家出をしないで、大人しくしていればこんな事が起きなかったはずです!」
アオと俺は文句を言いながらジト目でマリーを見るが、開き直っているマリーには何を言っても無駄で、笑っているだけであった。
そして、王様と対面して再び俺達は顔を引き攣らせる事となる。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!今なんて言いました!!」
俺は謁見の間で叫ぶように王様に聴き直す。
「隣国と武術大会を開くこととなったと言ったのだ……」
なんの事を話しているのかさっぱり分かっていないマリー。「武術大会をしたら何がいけないの?」と、空いた口が塞がらないアルフォンスに問いかけていた。
「一応確認致しますが、誰が出場するのですか?」
そして「もう聞く気も起きない」って、顔をしているアオが質問すると、王様はマリーと俺、アオに指をさす。
「どうしてそうなったんだよ! 納得がいく説明をしろ! この阿呆が!!」
もう、敬語なんて使う必要は無い。こんな阿呆共に敬語を使う必要がないのだ!
怒気を含んだ俺の声にビビる王様達に対し、詰め寄るように近付いていくと、仰け反るように王様は逃げようとする。
相当、前回の俺が怖かったのだろうしリーグがいなくなったためにリーグがいなくなったために統率が取れているとは思えない。
すると、怯えながらも王様は説明を始める。
簡単に言うと、戦姫の名は隣国に広まっているらしいのだが、一度その戦姫と手合わせをしてみたいと言ってきたらしい。しかし、ここまでは想定内だった。
そして、王は断りを入れる。戦乙女は見世物ではないと……。うん、想定内であり、突っぱねても問題ないだろう。
だが、そこから隣国の挑発が始まり、それにブチ切れた王が挑発に乗ってしまったらしく、こちらが考える斜め上へと行き始める。
挑発に応じてしまった王は、相手側に言われるがまま武術大会を開く事となり、戦姫と含めた国の代表が騎士が戦うこととなった。
徐々に強気になってくる王。まるで力説するかのようにいってくるのだが、俺もアオは茫然しながらその話を聞いていたのだった。
鼻息荒く説明が終わると、王様は『てへぺろ』状態のかおをしており、アオと二人で深い溜め息を吐くの結末となってしまったのである。
期間はマリーが旅立っているという理由で一ヶ月後となり、それまでにマリーがリーグ並に強くならないといけないということで、俺とアオは応接室の椅子に座って天井を眺める。
「……今の状態ってどうなんですか?」
「……「誰?」って、言っても一人しかいないか……えっと――」
名前:マリー=タランタ=ブルフォント
年齢:14
忠誠心:70 → 90
Lv:4 → 15
HP:20 → 31
MP:7 → 20
STR:13 → 21
AGI:10 → 26
DEX5 → 14
VIT:7 → 18
INT:8 →13
スキル:【剣技 2】【弓 2】【夜目】
「こんな状態だ。戦姫と呼ばれるには最低でもアルフォンス程の力が必要って事だな」
「ですが、一ヶ月にはその戦姫様に戦ってもらわなければ……」
「取り敢えずドワーフ族の村へ行き、武器を作ろう。究極の手段として、『アレ』が残ってる」
「それなのですが、アオももう少しだけ上げて頂けないでしょうか?」
疲れる話をしたあとなので、アオも椅子に凭れ掛かるように座っていたが、その話になった途端、身体を起こしてお願いをしてくる。
「どうしてだ? 能力的にアオはどんな人にも負けない程の力を持っているんだぞ?」
「『人を相手に』ですよね、アオはリョータ様に魔物や魔獣を含む、全ての虫ケラやゴミ共を排除したいのです!!」
虫ケラと言ったが、それは人を差しているのではないだろうか。今更ながら少しだけ心配になってきた……。
だが、アオの真剣な眼差しに少しだけ気持ちを理解し「考えておくよ」と答え、今後について考えていた。
先ず初めにやる事は武器を作ることである。
現在ある魔石は六個。
頭の中ではイメージを作り上げ、アオと俺が装備できる物を作り上げるのが一番良いだろう。
余った材料で皆の装備を作り上げる。
今回はそれで良いだろう。
マリーに関しては一日1〜2ポイントずつステータスを上げていけばおかしい事はないだろうという話でアオとの会話は落ち着き、俺達は宿屋へ戻っていく。
しかし、マリーとアルフォンスの二人については、俺達が鉱山へ行っている時の情報を集める仕事が有るため、城に泊まる事となり、来月の催し物について話し合う機会を持てず、暫くの間は相談することが出来なかった。
やっと合流出来たのはそれから一週間が過ぎてであり、リツミはその間にも【ファイア】の魔法と、【浄化】の魔法を覚えることに成功していたのだが、やはりシイナは魔法のセンスがないらしく、アオに剣やダガーの使い方を習い、【剣技 1】を覚えたのである。
想像していたよりもそちらの方にセンスがあるらしく、マリーに教えるよりもシイナに教えた方が上達が早いとアオはベッドの上で教えてくれる。
ドワーフ族のサナリィは、鍛冶の技術を鍛冶屋に習いに行く日々が続いていた。
サナリィは奴隷だから、本来であればこのような勉強事は教えてもらうことなんて出来ないらしいく、幼い姿をしているドワーフ族は、愛玩奴隷として扱われるらしい。
だが、いくらなんでも子供みたいな成りをしているサナリィを愛玩奴隷なんかできるはずもないし、アオがいるから必要がない。
ペロペロするならアオにする。
それはサナリィの割れた腹筋を見たからではなく、それだけアオが自分に尽くしてくれるのだ。本当に可愛い! この天使様。
ほぼ頭打ち状態になっていると考えられるマリーのステータス。
これから先、鍛えても余り上がることがない。
これは断言出来きる。
何故なら、アルフォンスが良い例であり、悪い例だからである。
アルフォンスのレベルは70で平均が50であり、女性がそこまで強くなるには獣人族か、ドワーフ族でないとならないらしい。
だが、そこにも落とし穴は有る。
獣人やドワーフ、エルフ族などのステータスには偏りがあり、ある一定の能力しか上がらないのである。
例えば獣人は、スピードや力、生命力に特化しているが、ドワーフは並外れたパワーと守備力、魔力である。
今後を考えると獣人族かドワーフ族を仲間にした方が良いと思うが、エルフ族は魔法を桁違いに覚えるとのことと、弓の技術が天下一と言われているらしい。どうやら力が無いぶん、それを補う何かの特技を覚えるのであろう。
人も同じで魔法や他種類の武器を使いこなせたり、魔法が使えたりと悪い所を補っている。
昔は魔王という奴も存在しており、人々は力を合わせて戦っていたという話だ。だが、魔王は討伐され、世界は平和に……なったと、言えるのだろうか。
魔物は蔓延り、人を襲う世界。
ドラゴンが出てきたり悪魔っぽい奴等も要る世界だ……。
本当に魔王は討伐されたのか?
そんな事を考えつつアオと今後について話をしていた。
最終的には汚い手を使う事にした俺とアオ。
その手段とは、マリーの能力を上げてしまおうということであるが、一気に上げたらそれはおかしな話になってしまうし、アルフォンス程度まで徐々に強くしておけば体裁を保てるだろう。
翌朝、元気ハツラツな顔してやって来たマリーだったが、「時間が無いので俺が直々に訓練をつけてやる」と言うと、はじける笑顔を見せた…………が、昼頃にはバテバテになり中々休憩から戻ってこない。
仕方なく確認しに行くと、見えにくい場所で隠れるように眠っており、叩き起こした。
午後も同じように、これでもかと言うほど走らせたり、腕立てをやらされたり、まるで高校の部活動の如く身体を動かせてやった。
宿屋に戻り、食事もそこそこにマリーは部屋で休み、俺はスマホでステータスのVITとSTRを1〜2ずつ上げる。
身体をいじめ抜いたので普通にも上がっているのだが、それでも間に合うはずがない。
これは仕方ないのである。
恨むのなら自分の父親を恨んでもらいたい。
翌朝になると、復活したマリーは元気いっぱいだ。
だが、宿屋へ戻る頃にはフラつきながら歩いて行く日々を暫く続けると、ようやくまともに食事ができるまで身体が仕上がってきた。
残り一週間となり、マリーに剣術を教える暇はないがやらないよりはマシだということで、シイナとアルフォンスの二人を相手に、マリーがヘトヘトになるまで戦わせる。
気絶したら水をぶっかけて回復魔法をかけてすぐに再開。
この、鬼の様な訓練を大会二日前まで続け、当日がやってくる。
名前:マリー=タランタ=ブルフォント
年齢:14
忠誠心:80
Lv:15
HP:31 → 98
MP:20 → 62
STR:21 → 70
AGI:26 → 66
DEX:14 → 56
VIT:18 → 88
INT:13 → 55
スキル:【剣技 2】【弓 2】【夜目】
何とかアルフォンスと同等の強さになり、体裁を守れるかな? って、ほどの強さにはなった。
自分自身で強くなった部分もあるが、一つのステータスに対して40ポイントも上げている。
そりゃ強くならないとおかしいってものだろう。
アルフォンスが互角の戦いをしており、かなり驚いた顔をしている。
マリーはそれほど余裕がある訳ではないが、自分が強くなっている事を実感しているようで、楽しそうにして戦っていた。
「あとはルール次第だな。あのクソジジィに提案しておくか……」
マリー達には明日に備えるため早めに切り上げさせ、俺は一人、王城へ足を運ぶのだった。




