70話 頼りなき護衛
翌朝、上半身を起こしてみると昨日のような痛みはなくなっており、筋肉痛は治ったようである。
アオは幸せそうな顔して俺の太腿に頭を置いて、枕代わりにしているようだった。
取り敢えず起きる事にしてアオを起こしていると、外から『ブンッ! ブンッ! ……』と、何かを振る音が聴こえてくる。
「おいアオ、起きるんだ。外で変な音がするぞ」
「ふぇ……? ふぁ〜ぁ。あの声はヨワッチの声ですね……。一体、何をしているのでしょうか……」
アオはダルそうに身体を起こし、軽く身体を伸ばしてからテントの外を見る。すると、アルフォンスが素振りをしている音で、アオが聴いたのは、振った時の息遣いだったようだ。
「何をしているのでしょうか?」
「練習……だな。日課ってわけ……ではなさそうだな」
必死でミスリルの剣を振り続けるアルフォンスを見続けていると、マリーが目を覚ましたらしくアルフォンスに問い掛ける。
「どうしたの? 急に……」
「……何でもありませんよ」
顔を歪めながら剣を振るうアルフォンス。何時間、剣を振り続けていたのだろう。悔しいそうな顔して振り続けており、マリーは呆れた顔をしていた。
皆が起き、朝食の準備を始める。アルフォンスは食事を終え、再び剣を振り始める。今度は先程と異なり、ゆっくりと剣を振って、見えない敵を相手にしているかのようにしいるかのように。
全員が不思議そうな顔してアルフォンスを見ており、その動きは剣舞を舞っているかのように動き、皆はそれを見惚れていた。
ただし、俺以外の人だけである……。
暫くして馬車で王都の側まで戻って来ると、馬車を停めさせる。
「王都に入らなくて良いの?」
ラスクが質問する。
「俺が倒したドラゴンをマリーに渡すんだよ。ほら、ガラフォーを出せよ。マリー」
「こ、これですか?」
そう言ってマリーはガラフォーを取り出し、俺に見せる。スマホからドラゴンの死骸を出して、マリーのガラフォーに仕舞わせる。
これを城内で観せていたらどうなるか……。
作られた戦姫が本物になり、無駄な争いがなくなる可能性があるという事であり、アルフォンスの評価も多少は回復するのではないだろうか。
「で、でも……これって師匠が倒した土竜……」
「んなこたーどうでも良いんだよ。先ずは無駄に争う事を止めるのが先決だ。マリーはコイツをギルドに出し、『自分達で仕留めた』と言う」
「わ、私……達ですか?」
「アルフォンスさん等と協力し倒したことにすれば、この国には数人でドラゴンを倒せる奴がいると言う話が広がるだろ? それに、お前達は無傷だしな。圧倒的な力で倒した事を知らしめられる」
「で、でも! 冒険者カードで私が倒してないという事がバレちゃう……」
「バーカ、そんなのは幾らでもごまかせるだろ? 仲間が止めを刺したとか言えば問題ない。現に、アオやラスクは攻撃をしているんだ。ドラゴンにもその傷跡がある」
「そ、そうかなぁ……」
心配そうな顔をするマリー。その理由は、傷といってもそんなに目立つような傷ではないし、首を折って一撃で仕留めているのだから説得力が無い。
しかし、未来の旦那になる(かもしれない)男に「大丈夫だ。問題ない」と言われ、マリーは渋々納得するしかなかったのである。
王都に辿り着き、不安そうな表情をしているマリーは「ねぇ、師匠も付いて来て下さいよ〜」と、アオにお願いする。
しかし、アオは嫌そうな顔して断る理由を探し、俺の顔を見るのだが……。
「じゃあ、アオも一緒に行って来てよ。魔石は売らないようにしてくれよ。鍛冶屋で武器に変えるんだから」
その一言でアオは固まり、動かなくなる。だが、マリーは嬉しそうな顔して歓びをアオに抱きつくという形で表す……が、俺の目にはアオが血の涙を流しているように見え、少し可哀想なことをしたかもと思う。
けれど、これには理由があり、アオが付いていけば信用性が高まる。
この面子二二番目に強いのはアオである。
面倒事がおきても、苛ついているアオが暴力で事を収めるだろう。正直、アルフォンスでは信頼性が足りない。
力の差を見せ付けられて悔しかったのか、王都へ戻る途中、ずっと訓練をしていた。
しかし、俺からしたらデコピンで頭を吹っ飛ばせる程の差があり、例えるならばライオン対瀕死状態のウサギほどの差があるのだ。
もはやカモとか、そう言ったものではなく目の前に餌が転がっている……。
これ以上例えると俺が泣きたくなるので言わないでおこう。
相当苛ついた表情をしたアオ達と別れ、俺達は宿屋へ向かう。
「ねぇ、ずっと聞きたかったんだけど、丁度アオがいないから聞いて良い?」
唐突にラスクが言い出す。
そりゃそうだ。ラスクが俺に話しかけようとすると、必ずアオが邪魔をする。と言うか、ラスクに余計な事を聞くなといった、プレッシャーを与えてくる。そのため、誰も質問をすることが出来ずにいたのだ。
「あん? 何を聞きたいのさ?」
「あんたの強さって異常過ぎるんだけど……どうしてなの?」
核心に迫る事を聞いてくるラスク。遠回しはしたくないらしい。まぁ、いつアオが帰ってくるか分かったものではないから、直球勝負できたのだろう。
「じゃあ、お前は何で偽名を名乗ってんだ?」
その一言でラスクは目線を反らす。
俺の質問に対して言いたくないのか、言えないのか分からないが、それ以上の会話をする事無く、俺達は宿屋へ入って行くのだった。
宿屋の場所はアオとマリーにメールをして、宿屋まで来られるか試してみる。すると、真面目に説明書を読んでいたアオは、しっかりと『かしこまりました』と返信してきた。
俺は心から驚き、アオの成長に歓びを感じていたが、いくら待ってもマリーから返信がなく、帰ってきたら説教をする事を心に誓う。
数時間後、ラスクがリツミに魔法を教えているとアオ達が帰ってきた。
流石のアオも不機嫌な顔をして部屋に入り、黙って俺の隣に座ったので、頭を撫でご機嫌を取る。すると、徐々にアオの表情が緩んできて、最終的には満面の笑みへと変わったのだった。
「どうだった?」
帰ってくるのが遅くなったという事は、「どうだった?」は愚問である。ドラゴンを倒しギルドに渡したという事はそれだけの騒ぎだったはず。
アルフォンスが説明してくれるのだが、随分とアオがやってくれたらしい。
緊張した顔をしているマリーは、ドラゴンの事をギルドの職員へ伝える。すると、それを聞いたギルド職員を含めた皆は、失笑する。
何故なら、ドラゴンが鉱山の中にいたなんて誰が信じるというのか。そんな中、リョータが側にいない事が気にいらないアオが、テーブルを少し強く叩き、失笑していた連中を黙らせる。
「マリエル殿下! ……論より証拠。早く換金して我が主の元へ戻りましょう」
アオがテーブルを強めに叩いた事により、室内は静まり返り、アオの声が室内全体に響き渡る。しかも、『マリエル殿下』を強調するように言ったため、今度は室内全体がどよめき出した。
本来はアルフォンスの役目なのだが、迫力不足とアオが思ったのと、さっさとリョータの元へ行きたいがためにやった事。
アルフォンスは自分の役目を取られ口元がヒクついており、アオに文句を言いたかったが、リョータがいないアオは、檻から解き放たれた魔獣よりも恐ろしい雰囲気を醸し出しており、逆らうと、その場でノックアウトされてしまうのではないかとアルフォンスは思い、文句を言わず踏み止まった。
誰が見ても苛ついている事が判るのだが、空気が読めていないマリーは「それが一番早いわね」と、答え、ガラフォーからドラゴンの死骸を部分的に取り出す。
ドラゴンの死骸は、リョータのスマホで解体されており面倒を省かれている状態で渡されており、普通、証拠として出すのであれば、頭を出すべきなのだ。
だが、それを理解していないマリーは、本当に身体の一部しか取り出さず、それがドラゴンだと思う者はいなかった。ざわついていた室内は爆笑の渦に包み込まれ、アオが舌打ちをしてマリーを睨みつける。
この時、もっとも恐怖を抱いたのがアルフォンスであり、慌ててマリーに耳打ちをした。
「姫、身体の一部を出してどうするんスカ! 出すなら頭でしょう!」
「え? そうなの? でも、これだってドラゴンの一部じゃん?」
その言葉に「チッ、これだから主以外の奴はバカなんだ……」と、マリーに聞こえない声でアオが呟く。
「殿下、これでは鑑定するのに時間がかかるでしょに……頭を出してしまった方が手っ取り早いですよ」
苛つき、指でテーブルをトントンと何度も叩きながらアオが吐き捨てるかのように言うと、マリーは「でも、部屋が……」等と呑気なことを言い、アオは不気味な笑みを浮かべて「皆に知らしめるにはそれが早いのですのよ、姫……」と青筋を立て、声を震わせながら言うと、マリーはその言葉に納得をする。
しかし、アオが怒っている事を理解しているアルフォンスの背中には、先程からずっと冷や汗しか流れておらず、いつ、魔獣が暴れ出すのか分からずハラハラしていた。
対極的な二人。
リョータが居ないだけでここまで恐怖を味わうとは思ってもいなかったため、早く宿屋へ帰りたい気分になっていた。
「でも師匠、頭は大きくて置くのが大変ですよ?」
呑気なことを言っているマリーに対し、アオは青筋を立てながら微笑み、にこやかな声で「良いから出せって言ってるだろ。我が主の命じゃ無かったら、姫を殴りつけているところですよ」と、恐ろしい言葉を発していた。
「えー。じゃあ、仕方ないですね……」
「ハヤクヤレヨ」
ドスの利いた声で言う可愛い顔した獣人の冒険者。その声は皆には聞こえておらず、アルフォンスはハラハラさせられていた。
早くこの時間が過ぎることを祈るしか無いのである。
アルフォンスは騎士だ。
だが、マリーは姫で、アオは自分よりも数倍も強く頭も切れる。そして、主人であるリョータに絶対の服從をしており、しかもリョータの嫁ときている。
そして、マリーは姫にして戦姫と呼ばれる修行中の身。だが、それだけではなく、リョータの婚約者にもなっているため自分の立場ってものが無い。
アルフォンスには全くと言って良いほど発言権がなく、何故自分がここにいるのかとリョータを恨んでいた。
ようやくマリーが頭を出すと、職員は慌てだす。バカでかいドラゴンの頭がカウンターに置かれると、噂が本当だったと騒ぎ出す者が現れ出す。
職員は急いで冷凍部屋にマリー達を連れていき、そこでドラゴンの死骸を全部出す。
ギルドの部屋に戻ると、冒険者達は『戦姫』とマリーを称えまくるが、一刻も早くリョータの側に戻りたいアオには煩く感じ、近くにあったハンマーを片手で握り潰し、周りを黙らせる。
「金額は査定が終わってから受け取りに来るから……よろしくね」
マリーがそう言い終わった頃にメールが届き、アオが急いで返信をしたのだが、マリーはそこまで使い方を理解しておらず、返信することができなかったのだった。
と、言うところまでをアルフォンスとアオに聞き、俺は深く溜め息を吐く。
「マリー、お前との婚約は基本的に戦姫になると言うのが条件だ。それが守れないのなら婚約は破棄。そして、勝手に戦争でもやってくれ」
まだマリーは王女と言う立場と、冒険者で戦姫と呼ばれ、戦争回避のために動かなければ行けないという事を理解していない。
「まずはそこから始めるのか……」
そう呟き、アルフォンスの頼りなさにも呆れるしかなかった。




