69話 鉱山の敵
俺を除いた面子がワイワイと騒ぎ出し、鉱物を採取するために、鶴嘴を手にして未知なる材質が場所へ向かいだす。
「――ちょっと待て、愚か者共よ……」
アオの襟首を掴み動きを止める。「グェ!」っと苦しそうな表情をして咽返る。
「な、何をするんですか! ラスクさんが調べた所を掘ると、鉱物が出てくるんですよ! 早く回収してしまいましょうよ」
ゲホゲホッと咳をしながらアオが言う。が、俺にはそれ程物事が上手くいくとは思えない。
何故なら、スマホに魔物のマーカーが付いているからであり、鉱山には魔物がいる事を現していた。
普段であればスマホに反応する事はないはずだが、鉱山は穴だらけになっているから、普段反応しなかった地中の魔物に反応したのだろう。
そしてその場所は未知なる材質がある場所であり、魔石があると言われている場所を示している。
それに、いくらアオと俺が強くとも、この鉱山全部を掘るのは非常に難しい。
鉱山の壁を触って状態を確認する。それは魔法で穴を塞ぐことができるのか試すためである。
鉱物が魔法によって砂のようになったら面倒だけれどスマホに収納さえしてしまえば仕分けるのは簡単だ。
その事をアオに説明しようとしたが、自分でやってしまった方が簡単に思え、壁に手を添え『クエイル』の魔法を唱える。
すると、鉱山は崩れ始めていき、目的の獲物が姿を現し、俺を除く全員が立ち尽くして、茫然としていた。
そう、目の前に現れたのはお肌がツヤツヤしている部分があるが、人の手によって鉱物と間違われていた所は多少の傷が見えるドラゴンであった。地場が硬すぎて、身動を取ることが出来なかったのだろう。あと数十年は地中で育っていたはずだったが、俺が成長過程中に起こしてしまったという事になる。
それを見て「な、なんでこのような場所に……!」と、声を揃えるかのようにして全員が同じ台詞を吐く。
コアが地中や鉱山等で発見されるというのなら、仮設の一つくらいは立てておくべきものだろう。いや、多分だが、昔はそう言った仮説があったのかも知れないが、その内、オーク等が人を攫い、人種などに種付けするものだから皆が勘違いしてもおかしくはないし、俺もそうやって生まれて来るものだと思っていた。
だが、そう言う生物がいるだけで、他の生物だっているのである。今回はそれを教えてくれた一つであった……が、これはないだろ! って叫びたくなる 奴で、驚くことしかできない。
「亀の化け物?」
俺が指をさしながらタスクに確認してみる。
ラスクは顔を真っ青にして武器を構えていた。
それを見て他の者たちも武器を取り出して構え、攻撃態勢に移る。ボサッとしているのは俺一人で、状況判断するのと相手の実力を測るために後ろに下がり様子を見ることにした。
スマホで相手のステータスを確認できないか確認してみると、写真付きで載っており、やはり地中で育つ生き物らしく、魔物や動物等の死骸を栄養分として成長するらしい。だが、今までの中で最長10m程度にも育つらしい。
甲羅は滅茶苦茶堅く、そこそこの剣では傷を付けることもできないらしい。この中で戦えるのはラスクだけ。
アオは難しい顔してP320では効かないことを直ぐに悟り、スミス&ウェッソンM500取り出し、相手から距離を取って、攻略方法を考えていた。
慌ててアルフォンスがマリーを抱え、走ってその場から離脱を始める。あれでも護衛対象なので、当たり前の行動だと思うのだが……。
リツミとサナリィ、シイナの三人は腰を抜かしていた。初めて見る化け物……本能で分かるのだろう。通常の魔物ではないという事を。
ラスクは炎属性の魔法を唱え、目の前に火柱を数本立ち昇らせ牽制する。皆が状況判断出来るまでの時間稼ぎにでもするつもりなのだろう。
しかし、ドラゴンは冬眠していたのを邪魔されたかのように怒り狂っており、火柱なんて無かったように突進してくる。
六人は散り散りなりながら突進を避け、間一髪難を逃れる。
火を噴くドラゴンに対して何で火魔法なんだよ。と、突っ込みを入れたいが、本人達はそれどころではなく必死になりながらも回避しており、アオが隙を見て射撃を行う。
弾丸の威力が強く、手傷を負うドラゴン。しかしドラゴンのくせに翼が無いと思い、スマホで相手の情報を確認していると、ドラゴンは俺に向かって突進してきた。
大きな口を開き、ドラゴンは俺を飲み込もうとする。だが、俺の速さに付いて来られる訳がなく、呆気ないほど簡単に避けられてしまう。それが悔しかったのか大きな尻尾を振り回そうとしてきた。邪魔されると調べる事が出来ないので、少しだけ大人しくしてもらおうと顔面を殴りつける。
すると、ドラゴンは吹っ飛んでしまい、鉱山が崩れた跡にぶつかり粉塵を巻き上げた。
「煙たいなぁ」
鬱陶しそうに言いながらスマホでステータスが乗っていないか確認すると、レベル1のステータスしか載っていなかった。これはどういう事なのだろうか。
そんな事を考えていると、殴られて吹っ飛ばされたドラゴンは怒り狂ったように雄叫びを上げた。そして、口を大きく上げると、熱の塊が口の中に集まりだす。
「ブレスを吐くきか!」
離れていたアルフォンスが叫び、俺はスマホの中からミスリルの剣を取り出す。
通常よりも大きいドラゴン。そのブレスをまともに食らったら消し炭にされてしまうかも知れない。
アルフォンスは盾を構え、マリーを守る。アオは銃で攻撃をするが、ドラゴンの皮膚が硬く、多少の傷を与える程度しかダメージを与える事が出来なかった。
ラスクは三人を守るために防御壁の魔法を唱えたらしく、光の膜に包まれていた。が、それでも守りきれるかわからないらしく、険しい顔をしていた。
「要はあの口を塞げば良いだけの話だろ」
その言葉に「それが出来れば苦労しないだろ!」と、アルフォンスが身を屈めながらマリーを守るようにして叫び終わった頃には、ドラゴンの口にミスリルの剣が縦に刺さっており、皆を焼き尽くそうとしていた口が塞がられていた。
――――――――――
いつまでもブレスを待っていてもやって来ないことに疑問を抱いたアルフォンスがゆっくりと顔を上げると、首が逆方向を向いたドラゴンが倒れており、それを椅子替わりにしてリョータが座ってアーティファクトを弄っていて、戦いが終わっている事を現していた。
「た、倒したのか……ドラゴンを……」
「見ればわかるでしょ。コイツは首が折れて死んでるよ。皆、慌て過ぎだよ? 全く……」
呆れたような顔をしながらリョータが言うのだが、アルフォンスは絶対に有り得ない光景を目にしていおり、「お、お前は……」それ以上の言葉が出なかった。
あっという間に倒してしまったリョータを見て、確かに街で暴れていた竜を殺しのはリョータだと言う事を理解したアルフォンス。
この面子でドラゴンを倒すことはできないと思っており、どのようにしてマリエル……姫を逃がすか……それだけを考えていた。
しかも、リョータだけは鉱山の中に何かがいる事を知っていたかのような反応であり、イシバシ=リョータとは何者なのか……それだけを考えていた。
確かに強い。
目付きが悪くて私の好みではないが、金の臭いがしてならない男。
その男が示した結果がこれである。
確かに砂塵が舞った後、ドラゴンはブレスで私達を燃やし尽くそうとしていた。私は魔法で防ごうとしたが、それはただの付け焼き刃でしかない。力の差……魔力の差って奴が私達に襲い掛かってくるはずだった。
しかし、一瞬で最強種と呼ばれているドラゴンの口を塞ぎ、不発に終わらせたと思ったら、角を掴んで首を回してしまう。
呆気ないほど簡単に倒してしまったのが、情弱な人種。最強種の一つであるドラゴン。それを気怠そうに、意図も簡単にしてしまった目つきの悪い青年。
――――――――――
「く、首を……へし折った……のか?」
「さっさと終わらせる必要があったからね。取り敢えず首をへし折って殺した」
そう言って俺はスマホをポケットから取り出し、ドラゴンの骸を収納する。
画面上には、『土竜を解体しますか?』と表示されており、このドラゴンは土竜と言う名だった事が判明した。
「解体解体っと……」
解体のパネルをタッチして、先程仕留めたドラゴンをスマホの中で解体する。周りには俺が何をしているのか理解が出来ていないが、そのような事は気にしない。
目的さえ果たせばそれで良いし、説明しても理解なんてできやしないのだから。
そんな事を思いながら鉱山跡を収納し、スマホに色々な鉱物が表記させられ、必要以上に鉱物を手に入れた。
馬車に乗り込み、荷台で横になる。正直に言うと身体中がボロボロであり、無理をし過ぎたということである。
AGIだけであれば問題なかっただろうが、STRは身体にかかる負担が大きい。多分だが、VITがSTRに比べて低過ぎるといったところだろう。筋肉痛に似た痛みが身体中駆け巡る。これに関して回復魔法の【リカバ】を掛けてみたのだが、治ることはなかった。
全く、変なところでリアルなのが困る。しかし、お金はまだまだ有るのだから残り三つ上げておいて損はないし、上げたことで痛みがどうなるかというのも確認する必要がある。
最悪、他をその倍上げてみるのも良いだろうが、俺のステだけがインフレしていないか?
そんな事を考えつつ、バキバキと音を立てている身体を動かし、スマホを弄る。
正直、指を動かすのもかなりキツくて辛い。
名前:石橋亮太
称号:竜殺し
年齢:18
Lv:23 → 28
HP:451 → 488
MP:349 → 391
STR:2327 → 2,340
AGI:1,381 → 1,410
DEX:388 → 2,400
VIT:341 → 2,396
INT:276 → 2,291
生活魔法:【浄化】【飲料水】【ライト】
回復魔法:【リカバ】
土魔法:【クエイル】
状態回復:【キュア3】
スキル:【剣技1】【投擲1】【危険察知能力】【毒無効】
これで動だろうかと思い身体を動かそうとするが、物凄い睡魔が遅い掛かり、目の前がブラックアウトしてしまった。
気が付いたらテントの中で眠っており、アオが幸せそうな顔して膝枕をしていた。
「こ、ここは?」
「もう! 何度起こしてもリョータ様はお目覚めにならず、今まで眠っていたんですよ? 随分とお疲れのご様子で……お身体は大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……悪い。どのくらい寝ていた?」
「半日程ですね。特に何かがあった訳ではありません。一応、マリー様のご指示で王都へ戻っている最中ですが……」
「王都へ?」
「はい。マリー様曰く、ドラゴンの話は周知させた方が良いのではという事になりまして……」
「――で、野営をしている最中と言う訳か」
「はい……」
確かに、今回のドラゴン騒ぎはどこの鉱山で起きてもおかしくはない。しかも、下手したら眠りを醒ましてしまった俺達が負けた場合、ドラゴンは人里へ降りていく可能性もある訳だ。
その事を考え、マリーは王宮へ王国しておく事を選んだのだろう。そんな事を考えながらもう少しゆっくりしようと思い、アオを抱き寄せ、抱き締めるように眠りについた。




