67話 魔石とは?
数日間お城で生活していると分かるのだが、糞つまらない生活である。
何故かと言うと、監視されているかのように周りから見られるし、侍女達は俺の姿を見た瞬間、そさくさと逃げだしていき、話し相手にもなってくれない。
その代わりといっては何だが、城の兵士は俺に勝負を挑んでくる。
理由は簡単だ。俺と勝負をして勝てば、自分の評価という物が上がるからである。
優しい俺は、「手合わせをお願いしたい」と、言われた瞬間にワンパンで勝負を終わらせてあげている。
このような事をして、こいつらの訓練になっているのだろうか……等と思いながら、暫くの間はお城での生活を過ごしていた。
だが、いずれ限界という物がはやってくる。
「もう嫌だ! 何で、こう見張られているような目で見られ、侍女に何かお願いをしようとしたら避けられ、兵士には勝負を挑まれるし……。アオ! 旅の支度をするんだ!! 明日にはこの城を出よう!」
「ですが、陛下のお許しとかが……」
「マリーに伝えれば十分だろ! それに王都へ来たのは魔石を加工する事ができるからであって、軟禁されるためじゃない! 俺は自由に生活がしたいんだ! しかもお城に用があったのはマリーとアルフォンスさんの2人だけだ!」
そうなのだ。
考えてみてもこの場所に留まる必要はなく、俺は自由気ままな生活を送ることができる筈なのに、このような場所に留まっているのがおかしい。
ここで言い合っていても仕方がないと判断したリツミが立ち上がり「姫様に伝えて来ます」と言って、部屋から出ていく。皆、城の中にいるのだからそれなりの格好をしており、見た目的には町娘である。
だが、アオは腰に剣とダガーを装備しており、何が起きても即時対応出来そうで、一番油断ができない相手だと噂されていた。
しかも動きが素早く、見たことのない武器を装備しているので近づくことすらままならない。
ある意味、俺よりも恐れられていた。
ステータスは俺の方が上なのにね。
暫くして、リツミが戻ってくる。
「お待たせ致しました。姫は大変ご立腹でしたが、了承して下さいました」
ご立腹とはタチが悪い。俺は何もしていないし何もする気もない。
「じゃあ街に出て、荷物を揃えよう。リツミ、馬車を動かせると聞いているが……」
そう言うと、「はい、できますので問題ありません」片膝を付き、そう答える。奴隷というか、使用人の見本の様な動きをするため、いまいちつかみ所が無くてコミュニケーションが厄介である。
その点、シイナは調子に乗らなくなったが、普段と変わらず安心させてくれる。
「お姉さん! お姉さんはどのような武器をお使いになりますか?」
何気ないアオの一言。リツミはアオが言った言葉の意味を理解できないようで首を傾げるが、アオは「剣は格好良いですが、お姉さんの力では少し難しいですね。槍など如何ですか?」と、勝手に話を進めている。
多分、自分は戦闘に参加するとは思いないリツミ。けれど、アオは戦闘に参加するものだと思っているのだろう。
先日の訓練は、護身のためにやっていたものだと言う事をリツミは俺に言っていた。
リツミ曰く、「いつか、危険が迫った時、武器くらいは使えたらと思うのは当たりまではないでしょうか?」と、自分は何もできないから多少はってところだろう。
しかしアオはそう言った考えは無く、一緒に冒険の旅に出るのだからリツミも戦うものだと思っているらしく、どのような武器が合うのか楽しそうに想像していた。
街に出て買い物をしていると、ラスクがリツミに話しかけており、リツミは少し驚いた顔をしていた。
「何を悪だくみしているんだ? 二人して」
少し気になったので話しかけると、リツミは更に驚いた顔をしていたがラスクは澄ました顔をしている。
「この子、魔法の素質があるって話をしてたのよ」
チラッとリツミを見ると怯えているように見える。
「……なら、ラスクに任せるよ。魔法の素質があるなら覚えたほうが今後のためになるだろうし、俺達は魔法使いが少ないからな」
その言葉に「任しといて!」と言って、ラスクはリツミを攫うかのように連れて行き、アオは納得ができないようでラスクの背中を睨んでいた。
「アオ! 俺達は剣士だろ。魔法使いは魔法使いに任せるのが一番だ」
「お姉さんは魔法使いになるんですか……私と一緒の剣士じゃ駄目なんですか!」
「人には得意不得意があるだろ。それに、お姉さんが怪我したら誰が治療すると思っているんだ? 面倒だろ。お姉さんが回復魔法を覚えたら楽になるだろ? 俺は戦いに集中できるし、治せるやつは多い方がいい」
「うぅ〜。リョータ様がそう言うなら……」
残念そうな顔をするアオだが、俺達には鍛えなきゃいけない奴が二人もいる……いや、四人だった。
サナリィにシイナ、マリーにアルフォンス。コイツ達も鍛えなければならない。
何故なら、キナ臭い噂を町で聞いたからだ。
一向に消えない戦争の噂…………幾ら戦姫がいようが、チャンスは逃さない。そう俺には感じてしまうし、王都へ戻るまでに出会った兵士の数を考えると、予想以上に魔剣が揃っているのではないだろうか。もしくは、魔剣ではなく聖剣の可能性だってあるだろう。
サナリィに鉱物はどのくらいあるの種類があるのかと聞くと、かなり多いが、武具に使われるのはゲームで聞くような物ばかりである。『鉄鉱石』『ミスリル』『玉鋼』『アダマンタイト』『クリスタル』『オリハルコン』……等など。その中で上級鉱物として扱われているのが魔石であり、生き物の魂からなっていると言われているらしい。
それは……ある意味『賢者の石』に近い物なのではないだろうか。
そんな事を思いながら魔石を手にし見つめていると、成仏できない生き物の囁きが聞こえてきた気がして、手から魔石が落ちて行く。
魔石とは一体何なのだろう。
そう思いながら落とした魔石を拾ってスマホの中に仕舞う。
スマホで調べてみても、魔力を宿した鉱石としか書かれておらず、その正体について答えを教えてくれる訳ではなかった。
その鉱物を使って物を作る。生命の冒涜なのではないだろうか……。そんな事を考えてしまうなんてどうかしているのかも知れない。
「如何が致しましたか? リョータ様」
心配そうな顔をして覗き込むアオ。どうやら俺は魔石の事で頭が一杯になりすぎて、周りを見ていなかったらしい。既に買い物が終わっているラスク達が不思議そうな顔して俺を見ている。
「……魔石ってどうやって出来るんだろうって考えてた。生物の命でこうやって……」
「ほへ? 何を仰有っているのですか? 魔石は魔力の集まった石ですよ?」
「そうだけどさ……それは生命があっての話だろ? と言うことは、魔石というのは生命の塊なんじゃないのか?」
そう説明すると、「えっと……」と言い、アオが困った顔をしながら俺を見つめる。
「それはちょっと違いますよ。生命ではなく魔力の塊なのですから……」
「だから生命があっての魔力なんじゃないのか?」
難しい話なのか、「えっと、アオの頭では説明するのが難しいです……」と言って、リツミの方を見る。
それに気が付いたリツミは小さく溜め息を付き、俺の方に向き直り説明を始めた。
「ご主人様、少し言葉が悪いことをお許し下さい。ご主人様がお悩みになっている理由ですが、魔石が生命の塊なのではないかということですよね?」
「あ、あぁ……」
「ではご質問を致しますが、ご主人様は食べ物を食されないというわけでしょうか? 肥えプルスやビッグラビ……他にも生き物を殺して食べたりしていないのですか? 聖人君子でもそのような事は無理です。生き物が生きるためには必ず必要なことなのです」
綺麗事を言っているんじゃねーよとでも言いたげな目で見るリツミに対して、アオは困った顔をする。だが、その様な言葉は俺がいた世界でも聞く話であり、生き物が生きるには必要な事なのも理解している。しかし、俺が聞きたいのは『魔石が生命の塊』なのかであり、常識の話なんてどうでも良いのである。
「お前は何を言ってんの? 俺が聞いているのは『魔石は生命の塊』なのかという話だ。殺しが悪い事だとは一言も言っていないし、生きるのに必要なんてお前より理解しているつもりだ。それに馬鹿にしているようだから言っておくが、魔石は『鉱物』とは少し『異なる物質』だぞ。生命が関係ないのであれば、魔石はどうやって精製されるというのかが知りたいと言っているんだ。リツミ、お前は答えることができるのか?」
「そ、それは……ま、魔物が……いえ、『魔族』が生命力を上げたらできると言うか……」
「それだけ分かれば十分だ。で、俺が倒したドラゴンにも魔石があった……そうだろ? だから王国は高値でドラゴンの死骸を買い取った……」
何を言っているのか分かっていないサナリィ達は怪訝な表情をしていたが、ラスクは小さく頷き、俺の想像道理だと言わんばかりの顔をしていたのだった。
魔石は魔族の身体の中で精製し、魔物にはそれができない。何故なら、魔物は魔法が使えるものが少なすぎるからだ。
ジャック・オー・ランタンは初期はそれなりの強さだが、人を倒す事でレベルが上り、あそこまでの強さとなったのだろう。
なら、違う考え方をするとしたのなら、ゴブリンが大量に人を倒すと、物凄い強さと知性を得たゴブリンがいる可能性もあり、人を襲っているのか、それとも自給自足をしている奴がいるのかも知れない。
スマホで『ゴブリン ステータス』と入力してみると、レベルが表示されており、俺の予想は当たりに近いということが分かった。
「確認だが、魔石を鉱物という理由は、鉱山からたまに発掘されたりするから……なのか?」
質問に対して「は、はい……」と、戸惑いながらリツミが答える。それに続いてサナリィも頷き、リツミの言っている事の正確性を現していた。
そこで俺は1つ予想を立てる。
・魔物も魔法が使えるものに限らず、魔力を持っている奴は魔石を体内に秘めている可能性がある。
・魔物の他に魔族という種類がおり、そいつ等は多少の知性を秘めている可能性があり、かなり厄介そうだと言う事だ。その一つがジャック・オー・ランタンなのだろう。
ジャック・オー・ランタンは洞窟を異界化に変えることができると言う事は、魔力を魔剣レベルまで秘めており、大きい魔石を所持しているかと思われる。
これで魔石に関する仮説が出来上がり、魔物は同じ種族でもレベルの差があることが分かったのだが、どうやって皆に伝えれば良いのか……と、違う悩みができるのだった。




