63話 ライバルと年齢と力の差
「ま! マリエル様! 自分が何を言っているのか分かっているんのですか!」
アルフォンスが慌てて肩を掴んで言うのだが、マリーはそれを振り払い言葉を続ける。
「分かってる。我が儘だと言うことも分かってる。だけど、アオ師匠がリョータ師匠を愛しているように、私だってリョータ師匠が好きなの! どうせ私は第三王女よ。戦略結婚の道具にされるのならば、ドラゴンを倒した師匠と一緒になった方が良い! それが国のためであり、私自身のため!」
まるで宣言をするかのようにマリーは言い、アオをキッと睨みつけるような目で見つめる。
「アオさんは姉弟子であり私のライバル……必ず勝ち取って見せます!」
宣戦布告をするマリーだが、アオは「構いませんよ。アオの旦那様はその程度の甲斐性が無ければ駄目だと思います。沢山の子を産み、幸せな家庭を築ければアオはそれだけで幸せ……ですが、正妻の座は譲りません!」
その「正妻の座は譲りません!」と、言い放ったアオの顔は氷のように冷たく、言葉には殺意を込めていた。
「それに、リョータ様の常識では、16歳以上でないと身体を重ね合わせる事は無いので、姫は……いえ、『マリー』は伽が出来ないと言うことを憶えておきなさい!」
ズガンッ!! と雷が落ちて、ショックな顔をするマリーだったが、話は俺を飛び越えて勝手に進んでおり、まるで俺には拒否権という物が無いことを現しているようだった。
「あ、あのぉ……お、俺の意見とかは……」
途中まで言いかけたのだが、アオとマリーに睨まれ喋ることを拒否させられてしまう。
「ご主人様は随分と女好きなのですね」
ボソリとサナリィが呟いたのを俺は聞き逃さない。
「ち、違うぞサナリィ! 俺は……」
「往生際の悪いですよ! 『マリー』は姫という立場を捨てて、リョータ様と共に生きて行くと言っているんです! 『マリー』の親を救ってやる程度、私とリョータ様であれば楽勝ではありませんか!」
親を救うとは、周りを囲んでいる『敵』に関して言っているのだろう。アルフォンスが俺に依頼したのはマリーと魔石を王都へ無事に運ぶ事である。
アオは銃を手にしてトリガーを引き、一人……また一人と仕留めていく。サナリィはリツミを連れて、安全と思われるアルフォンスの側へ逃げて武器を構える。
「嬢ちゃん達は俺に任せてリョータは自由に、姫とシイナはアオの嬢ちゃんから離れないでくれよ!」
「シイナ! 外れても構わないから襲い掛かってくる敵を『その武器』で殺るんだ! アオの側から離れるなよ! マリーはアオの背後を守るように警戒しろ!」
「師匠は!」
「アルフォンスさんが言ったろ? 自由にやれってさ……」
そう言って馬車から飛び降り、スマホで相手の位置を確認する。相手は人間らしく、マーカーはアオを示している。多分、魔石と戦姫マリエルを狙っている刺客だろう。と言う事は、この国を守る兵士ではないという事。侵略行為が始まっているのか、それとも洞窟に入ろうとした者が、横取りを狙っているのかも知れない。
「相手が人間というのは……ちょっと厄介だな。アオは問題ないとして、問題なのはシイナか……」
そう思っていたのだが、思っていた以上にサナリィが仕事をし、シイナやマリーに敵を寄せ付けない。更に、アオは半分の力で戦っているのか、周りの状況を確認しながら離れた敵を狙撃して近寄せる事はさせない。
これでは俺の仕事がなくなってしまうと思いつつも、楽ができるのであれば問題ないかと、頭の中を切り替えながら仕留めていく。
最後の一人は尋問用にアルフォンスが捕獲し、どこの国の者か問い掛けていた。
俺はアオ達が怪我していないか確認するが特に問題ないらしく、俺達は完勝したのだった。
「これは不味いことになったな……」
アルフォンスが舌打ちをしながら捕まえた奴に止めを刺し、聞き出した情報を俺達に伝える。
「面倒な話だな。相手はエリエントル帝国軍の兵士だったようだ。こっちまで来ているという噂はあったが、その姿を見たものはいないと聞いていたのに……」
「噂が立ったのに、その姿を目視してなかったのか?」
「あぁ、冒険者に登録している可能性が考えられ、そして他国に間者を送り込んだりする……。国境には関所を設けているが、冒険者カードを出されちまうと通過させなきゃならねー。この抜け目を狙ってくる連中なんだよ」
「こっちもやれば良いじゃないか。相手がしているのなら、問題ないだろ?」
「暗黙の了解ってやつさ……。条約を結んでいる国もあるくらいだ」
「なるほどね。馬鹿正直にそれを守って、相手に魔剣などを沢山保有されているんだろ……どうせ。だからドラゴンを倒した俺の力が必要という訳か……」
図星のようで、アルフォンスは言い返せず。苦虫を潰した顔をした。
「まあ、それはさて置き、先ずは王都へ戻らなければ話にならないな。マリーの事を含め……だけどね」
厄介事が増えて「ハァ〜」と、深い溜め息を吐き、俺は馬車の荷台へ乗り込む。他のメンバーも乗り込むのだが、右にアオが陣取り、左にマリーが陣取る。これでは自分がロリコン野郎に見えてしまうかも知れず、再びデカイ溜め息を吐いて天を仰ぐよう寝そべるのだった。
それから幾度も戦闘を繰り返す事になる。
俺達の持っている魔石を狙っていた国がこんなにも多いとは思っていなかった。あの洞窟の情報は、近隣の国に情報が流れていたらしく、俺達はエリエントル帝国軍だけではなく、シルファースト王国も狙っていたようであった。
おかげで色々な奴らに狙われ、その度に戦闘を繰り返すのだった。
面倒だなと感じたのは、通常の兵士であればスマホやアオの反応で分かるのだが、商人に変装しているやつがおり、俺達は油断してしまったりしてしまった。その度にアオと俺が瞬時に変装した兵士を始末して、事なきを得る。
騎士団のアルフォンスも警戒はしているが、反応が遅すぎて手遅れになってしまうのではないかと思ってしまう。
「リョータ、お前は武闘家なのか?」
動きの速さで疑問を抱いたアルフォンスが質問してくる。
「いや、俺は剣士だよ。アオも剣士。シイナは雑用係でサナリィは鍛冶師か戦士を目指して貰おうかと思ってる。リツミは……まだ考えてない。あまり話したことが無いからね。王都へ言ったら考えるつもりですかね」
ラスクに関しては魔法使いだから特に説明をする必要は無いだろう。
「し、師匠……わ、私は?」
「マリーは王都に言ってから考えるつもりだ。俺個人の判断ではどうも出来ないだろ? お前の親父さんが何と言うのか分からないし、そちらに関してはアルフォンスさんが詳しいと思うぞ」
名前:マリー=タランタ=ブルフォント
年齢:14
忠誠心:75
Lv:8
HP:29
MP:14
STR:17
AGI:17
DEX9
VIT:11
INT:11
スキル:【剣技 2】【弓 1】
多少強くなっているし、剣技も2になっているそれなりの冒険者となり始めている。そこいらの冒険者よりは強いのではないだろうか。多分、当時のセリカよりも……。
グッタリとして疲れを見せているシイナ。少しの間、休憩をする事にして、アオと手合わせを行い事にした。
「リョータ様、お手柔らかにお願いします!」
木剣を手にしてアオが襲い掛かってくる。その目は真剣で、こちらの実力を理解しているはずだから油断はしないはずである。
ゆっくりと剣を振り、俺は紙一重で躱す。マリーは真剣な目で俺達の手合わせを見ており、勉強でもしているつもりなのだろうか……。
そして、前は馬鹿にしていたアルフォンスだが、今回は真面目に見ている。
「疲れない程度にやろうぜ。剣の腕はアオの方が上なんだしな」
「ご謙遜を……リョータ様はそんな事を仰有っておりますが、剣速は私の目で追えませんからね……」
だから距離を取り、攻撃を当てられそうなタイミングを狙うと言う事なのだろうが、俺の敏捷を理解していない。が、アオには【忍び足】のスキルがあり、距離を詰めるのにそんなに手古摺る事は少ないだろうし、【冷酷】のスキルがあるので腕の1本くらい捨てる覚悟がありそうな気がする。
だが、そこまでの殺気は出しておらず、俺と練習できることに喜びを感じているようにも見え、手の内が読めない。
しかし、勝負は一瞬である事はアルフォンスやマリー、ラスクは理解しており、ウィル・オ・ウィプスでの戦い方を思い出すと、俺の方が魔法が使える分、有利と考えているのだろう。
「じゃあ、そろそろ俺から攻めるぞ」
アオの攻撃を数激躱してから言うと、アオは「ど、どうぞ……」と、緊張した声で答えた瞬間、アオの喉元に木剣があり、アオは少し悲しそうな顔して「ま、参りました……」と答えるしかなかった。
「能力の差だな。普通に戦ったらアオが勝つだろうね」
そう言って剣を仕舞い、アオに手を差し伸べる。
「それも実力のうちですよ」
これは実力ではなく、スマホで手に入れた力だが、今使いこなしているのは俺だからと言う意味なのだろうか……少し申し訳ない気分になるが、皆は呆気に取られており、何が起きたのかさっぱり理解ができていないようであった。ただ、マリーが目を輝かして俺を見ているのだけは分かり、たまにはこう言うのも悪くないと思いつつ、休憩をするのだった。
あり得ない出来事を目にした六人。だが、目の前で起きたのは紛れもない事実で有り、誰一人声を出す事は出来なかった。
休憩が終わり、アルフォンスが馬車を動かし始めるが、誰一人として俺に声をかける者はおらず、荷台で出発するのを横になりながら待っていた。
暫く横になっていると眠ってしまったらしく、気が付いたらアオが膝枕をしてくれていた。柔らかい太腿にしゃぶりつきたい気持ちを抑えながら身体を起こし、寝ている間のことを確認すると、魔物が数匹現れた程度で、敵兵は現れていなかった。
「随分とお疲れだったようですね」
「そんなに長く寝ていたのか?」
そう言って外を見ると、日が落ち始め、皆は野営の準備を始めていた。
「もう、こんなに日が落ちてるのかよ! 悪い、直ぐに手伝うよ」
「いえいえ、設営は我々にお任せください。リョータ様は働き過ぎなのです。たまにはゆっくりされるのも大事ですし、アオの脚は硬くて寝心地が悪いですか?」
「そんな事あるはずがない! 柔らかくて最高の気分だよ。じゃあ、お言葉に甘えてゆっくりとさせてもらおうかな」
再びアオの太腿に頭を置くと、アオは嬉しそうに微笑む。
「そう言えば……リツミ……さんは、どんな様子だ?」
「随分と酷い目にあられたようですね。アオを可愛がってくれた時と大違いです。リョータ様、どうにかなりませんか?」
どうかと言われても、どうする事も出来ないのが現状であり、本人がどんな思いをしたのか聞くしかない。だが、アオにそれを求めるのは厳しい話で、結局俺がやるしか無いというパターンとなる。
「まぁ、なんとかしてみるよ。なんと言っても、俺がご主人様だしな」
アオの顔が明るくなり、嬉しそうだということが分かり再び太腿を撫で回したのだった。




