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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
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60話 デバッグモード?

 遂に本格的な練習が始まり、アオが厳しい声で叱咤する。的に向けてエアガンのトリガーを二人は引きまくる。

 しかし、全く的に当たらない事で苛立つシイナ。


「ねぇ、本当に当たるの? これ!!」


 苛立つ声で言うのに対し、アオがシイナからエアガンを奪い的の中心に当てまくる。


「実力不足だから的に当たらないのよ。落ち着いて、一発一発しっかり狙いなさい。土下手くそ」


 ポイっとエアガンをシイナに投げ渡すと、シイナはおっかなびっくりに受け取り、深呼吸をして的へ向かって銃を構える。


 暫くの間、練習をしたのだが……シイナは一発も的に当てることが出来ず、取り敢えず今はあきらめて先を急ぐ事にした。

 移動しながらスマホで位置を確認し、冒険者達がいる場所へ向かう。

 その間にもシイナは何度も練習を繰り返しているのだが、シイナは的に当てることが出来ず、アオが呆れた顔をしながら何度も同じことを説明していた。


「これほど……センスが無いやつも珍しいぞ。何かしらの特技はないのかよ?」


 魔法でも教えてみようかと思いながらシイナの事を考えていると、アオがシイナの側から離れ、俺の隣にやってきた。


「シイナの能力はどのような数字なのでしょうか?」


 アオが言いたいのは「アイツ、使えないから売っちまいましょう」と言いたいらしく、かなり苛立ちを見せている。

 アオが苛立ちを見せるのも分からなくも無い。もしかしたら魔法適性があり、魔法を覚えることが出来るのではないかと魔力を流してみたのだが、全く魔力を感じる事ができず、ドワーフ族のサナリィが魔法を覚えてしまうという予定外な状況にまでなっていた。

 基本的にドワーフ族には、魔法を使うより籠める力を持っているらしく、サナリィのように魔法を使うドワーフ族はそんなに多くは居ないらしい。

 しかも、サナリィが覚えたのは火魔法ではなく、氷魔法であり、通常のドワーフでは考え難い事らしい。

 ドワーフ族は鍛冶を行うため、火の神に愛されていると言われているらしく、氷魔法を使える者はほぼいない。

 『ほぼ』と言うのは、居たと言う伝承が有るとか、ないとか……よく分からないからである。


「明日まで様子を見よう。今日は二人を同じ様に扱ってくれるか?」


「かしこまりました……」


 奴隷の事についてアオに教えてもらったのだが、奴隷が買われたあと、改めて奴隷商へ売られるという事は、奴隷商が躾を失敗したという事になるらしく、奴隷として売りに出される期間が通常より短くなり、更には中古奴隷品扱いになるため、娼館送りになるか、鉱山送りになる可能性が非常に高いらしい。


 【冷酷】のスキルを習得しているアオが、シイナを見限ってしまったのであれば売ってしまうのも悪くはないだろう。しかも初物だという話だから、上手く交渉すれば数千Gで売れるかもしれない。

 別にお金に困っている訳ではないが、使い物にならない無駄飯ぐらいな奴と、使えなかったが無駄飯ぐらい奴とでは大違いであり、自分としてはそこまで寛容ではないのである。

 更にはMMORPG等をやったことがある訳でもないので、NPCがナンタラ……という話も知るよしもない。

 だが、奴隷の売却は現代社会でも現存していると言われているし、過去にはその様な制度もあったのは確かである。

 それに、アオ曰く、本人が成長する気がないようなので、このまま教えても意味はないし、これ以上の成長が見込めない。そして、元貴族の娘と言うプライドが非常に強く、何かとあると「貴族の娘であるこの私を……」と、言うらしく、自分を優遇しろと言うらしい。

 貴族の娘という理由で、マリーの様な王族などの扱いに馴れているかもと購入したが、マリー本人が毛嫌いしている傾向もあり(これはアルフォンスにも言えることなのでなんとも言えないが)、シイナがいる必要性がないという事でもある。

 唯一良心的な考え方を持つサナリィに、それとなく話を聞いてみるのだが、サナリィは苦笑いをして「彼女は奴隷になってから教育という物を余り受けていないようです。ですので、本人に奴隷という自覚をもたせ、躾をしてからお考えになっても良いのではないでしょうか……」と、返答が返ってきた。これには少しだけ驚いた。

 想像していた以上にサナリィの頭は良いし、優しさも持っている。いや、アオも冷酷を持っているわりには優しい気がするが……。これは元々の正確なのだろう。

 本人にそれとなくシイナに「町に着いたら、商館で売られてしまうかもよ?」と、言う言葉をサナリィに言わせたのも、そのためである。

 アオはできる事なら……という優しさが少しだけあったのか、それとも自分を助けてくれた『おねえさん』を思い出したのか、シイナに対して激昂しかけたのだが、ぐっと堪える様にしてそれ以上の話をすることは無かった。

 そして先程の話に戻る……と言う訳である。


「あと数時間もすれば、人と出くわすだろう」


 スマホを見ながら三人に言うと、アオとサナリィは微妙な顔をしており、シイナは嬉しそうな顔をする。


 人と出くわすという事は街道に出るということであり、町へ着実に近づいている事となる。

 そうなると、シイナは結果を残さなければならず、少しでも役に立つ様な事が出来るようにならなければならない。

 慌ててアオが銃の持ち方や狙い方等を呟くようにシイナに言う……が、シイナは「こんな時まで練習の話をしないでよ! 鬱陶しいわね」と、優しさを無駄にしていた。

 そして、遂に冒険者達と合流してしまう。残念そうな顔をするアオだったが、それは一瞬だけであり、直ぐに頭の中を切り替えていた。そんな中、俺は町の状況を冒険者達に聞く。


 マリーはギルドに魔石を差し出し、洞窟内の状況を説明したらしい。そんな中、亡くなった人達のギルドカードを出すと、町を挙げて弔いを行って欲しいとお願いしたそうだ。

 そして、自分がマリエルだと正体を明かし、戦姫の名前を町に轟かせ、次第に他の町でも戦姫マリエルの名前が響き渡るだろうと、興奮しながら説明してくる冒険者がいた。

 急いでシイナに練習を繰り返させるアオ。

 しかし、それをウザがるシイナに対して決断を下す時がやってくる。

 町に到着したら売られる。その事は言わないように命令されているアオとサナリィ。

 初めは売る気はなかったが、一向に改善しない性格と、守られてばかりいて自分の立場を理解していないシイナに、俺は『どこかの穀潰し』と重ね合わせていたのだが、その穀潰しは成長する気があり、アシスターから魔法使いへ変貌を遂げていた。だが、俺の側に居る奴はただの穀潰し以下ともなれば、元いた場所へ返してやるのが親心と言うやつではないだろうか。


 そんな中、スマホで町の中を確認すると、随分と人が集まっているのが分かる。

 いったい何事だと思いながら、その人混みを掻き分けて中央を見るとマリー達が馬車で俺達を迎えに行こうとしている途中であった。

 だが、馬車は人混みに囲まれており、進路を塞がれているため作業は難航している様に見え、いくら待っても来なかった理由を知る。


「アオとサナリィの二人は、マリーのところへ行って俺達が町に到着した事を知らせるんだ。シイナは俺と一緒について来い」


 「()()()()、シイナ」と、アオは顔を見ずに言い、サナリィは同情するような目でシイナを見ていたのだが、本人は何を言われているのかさっぱり理解出来ていないらしく、首を傾げてから俺の後を付いてくるのだった。


 本人が自分の置かれている状況に気が付くのにはそれほど時間がかかる事はなく、商館を前にして呆然として立ち尽くしていた。


「真面目に話も聞かず、言う事も反抗的……練習はいい加減で真面目に取り組もうとはしない。そんな奴隷がいつまでも必要だと思ったりするか?」


 立ち尽くすシイナの顔を見ずに言うと、シイナは振り返る。


「――どうしたら……」


「――もう遅いって言ったら?」


 その言葉に対して顔面蒼白になり、膝から崩れるように座り込む。俺は覚悟が決まるまでスマホを弄りながら待っていると、シイナが初めて俺の方に向かって土下座をする。


「ご、ご主人様! ど、どうか御慈悲をお与え下さいませ!!」


「――ずぅっと与えて来たつもりだけど?」


「お願い致します! な、何でも致しますから!! 私を売っても大したGにしかなりません! これからは心を入れ替え、奴隷として何でもやっていきますので、どうか……どうかご慈悲を!!」


 そこまで言うのなら、多少は忠誠心が上がっている筈であろうとステータスを確認するが、全く上がっていないのを見て、その場限りで言っているのが分かる。

 そして、俺の足にしがみつき、泣きながら「御慈悲を!!」と泣き叫ぶ。

 スマホを見ていて気になった事がありシイナのステータスを弄って見る事にする。


名前:シイナ

種族:人

年齢:15

忠誠心:18 → 50

恋愛感情:0 → 20

Lv:0

HP:5

MP:0

STR():3

AGI(敏捷):2

DEX(器用):8

VIT(生命):4

INT(知性):3


 やはり忠誠心や感情も弄ることが出来、俺は頬を引き攣らせる。人の感情も弄る事ができるという事は、デバッグモードに近い話である。金を使ってデバッグを弄らせてもらっていると考えたほうが良いのではないだろうか……。


 そんな事を思いながら更新ボタンをタッチし、能力を反映させて見る。すると、先程まで足にしがみつき、泣き叫んでいたシイナだったが……足から手を離し、片膝を付いて改めて謝罪の言葉を述べて来た。


「ご主人様、今まで私を可愛がって頂き、新たな名前を頂いたことに大変感謝致しております。再び名前を変えられてしまう悲しみは有りますが、ご主人様が与えてくれた素敵な名前の思い出は私の心に残ります。私を売る事により獲たお金で、ご主人様のより良い生活ができれば、私は最後の使命を果たせたと思い、色々な事で我が儘なことを言い、ご主人様だけでは無く、アオ様やサナリィにまでご迷惑をかけたお詫びになればと……。覚悟は決まりました。さぁご主人様、私をお売り下さいませ……。これからも一緒に居られない悲しみは有りますが、どこかで見かけたら……いえ、私のような物の存在を忘れて下さい」


 50にしただけでこうなってしまうとは思っていなかった。


「もう一度やり直せるならと考えは捨てたか?」


「多少は有りますが、これまでの振る舞いでそれを言ってしまうのはご主人様に迷惑をかけ、気持ちが鈍ってしまう……。さぁ、私をあの館にお連れ下さいませ……」


 その言葉を言い切り、一滴の涙を零したところで売るのを止めた。アオがなんと言うのか考えるのは止め、シイナの手を引っ張り皆の所へ戻ることにしたのだった。

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