55話 予定は未定であり、決定ではない
周囲に魔物などがいないのはスマホで確認済み。
だからこのような場所でも野営を張るのだが、誰もその事を知る者はいない。自分を除く六人は真剣に野営しており、自分が起こされた時は疲れた顔をしていて良い経験を積んでいるようだった。
大きな声で欠伸をしてからスマホを取り出し、周りの状況を改めて確認する。
近くに魔物やアンデッドの存在はなく、六人は洞窟内での野営という恐ろしい経験を怪我するなく無く体験する事ができた。
俺に怒られ、側に寄るなと言われたアオ。離れた場所で身体を丸めて眠っており、言う事を聞いていた。
自分の持っているスマホの能力を、他人に教えるには危険が伴う。アルに関しては能力は消す事はしなかったが、スマホに関する情報を漏らさないという約束と、そのためにアルが望むスキル一つと、呪いを掛けさせてもらっている。
『喋らせない事を約束させるには』と、検索してみると、呪詛に関するアプリがある事が判明。
そこから秘密を守るという呪いを掛け、アルのステータスアイコンをゴミ箱へと捨てたのである。
能力がそのまま引き継がれているのかは本人しか分からないが、基本スペックが異常だったことから、アイコンを消しても能力は残っており、呪いも有効そうだという事も分かった。
だから、アルとの別れに関してスマホの事を気にする必要はない。と言っても、今まで会った全員に呪いを掛けるわけにもいかないし、自分が持っているスマホの能力を完全に知っているのはアオ一人だけなのである。
皆は地図のアーティファクトだと思っているこのスマホ……。それでだけでも十分だし、持ち主である自分しか使えない事も分かっている。
だが、能力を上げることができ、更には好きな魔法やスキルを身に付けることができると解れば話は別である。
変な輩が自分に付きまとい、仲間になりたがる可能性も考えられるのだから。
だからアオを強く叱りつけ、この秘密を明かさない様にしないといけない。
アオの側に寄り顔を覗いて見ると、寂しそうな顔をしていたので頭を少しだけ持ち上げ、膝枕をしてあげながら皆のステータスを改めて確認した。
名前:サナリィ
種族:ドワーフ族
年齢:19
忠誠心:56
恋愛感情:10
Lv:0
HP:20
MP:10
STR:13
AGI:2
DEX:10
VIT:10
INT:6
スキル:【鍛冶1】
思ったよりもサナリィのステータスが高く、少しだけニヤついてしまう。そして何より、鍛冶ができるという事が大事なのだ。
武器は斧がメインとなっているため、アジリティーが低い。けれど、剣を持って戦うことを躊躇うような奴ではないらしく、サナリィの側には剣も大事そうに置かれていた。
盾はバックラーを装備していたのだが、アンデッドが持っていた鉄の盾を装備したらしく、今は枕代わりにして寝ている。
バイタリティが高いので、それなりに頑丈なのだろうし、アオとの訓練でも、それなりに粘っていたのを思い出し、スタミナもそれなりに高いことが分かる。
名前:シイナ
種族:人
年齢:15
忠誠心:18
恋愛感情:0
Lv:0
HP:3
MP:0
STR:1
AGI:1
DEX:8
VIT:3
INT:3
雑魚である。
どのように鍛えるか考えられない程の雑魚だ。どうやって人並みの冒険者にするか……。多少手先が器用なのは、メイドでも虐めたり、悪戯などしたりしていたためであろうか。
武器はナイフをメインとしているが、それしか装備できないからである。鉄のレガースを付けていて、鉄の篭手を装備しているが、腕を上げたり下げたりするので精一杯らしく、訓練どころではなかったのを思い出す。仕方無く力を1だけ上げ、多少動けるようにさせてやる。
名前:シイナ
種族:人
年齢:15
忠誠心:18
恋愛感情:0
Lv:0
HP:3
MP:0
STR:1 → 2
AGI:1
DEX:8
VIT:3
INT:3
スキルがないのも個性だと思い込みたい。そう思いながら溜め息を吐くと、アオが「リョータ様……ムニャムニャ……」と寝言を言い、頭を優しく撫でた。
そして、新ステータスの恋愛感情……。これは見ないことにして、これからについて考える事にしたのだった。
それから時間が経ち、アオが目を覚まし、いつもの土下座ポーズをする。
「何故、俺が怒ったのか理解しているのか?」
「アオが聞き分けなかったのと……言いつけを守らなかた事にございます……」
「暫くはシイナをこき使って体力を付けさせろ」
「お、お許し……頂けるのでしょうか……」
「アオの役目は何だ?」
「リョータ様の言う事全てが正しい事でございます……」
別にそういう訳ではないが、「よろしい。これからも頼むぞ」と言うと、アオは顔を綻ばし抱き付いて来るので、その頭を撫でてやる。
これを理解出来ないシイナは首を傾げながらこちらを見ていたのだが、これから自分に襲い掛かる不幸を理解していないのだった。
「ハァハァ……。ね、ねぇ……そ、そろそろ……きゅ、休憩……」
大きい荷物を持たされ、足をぷるぷると震わせながらシイナが言う。それもそのはず、仕留めた冒険者だった者達の荷物を回収しており、シイナとサナリィは沢山の道具や武器を手にしていて、マリーは少しだけ同情していた。
「別に休憩しても構わないが、したら次は武器の使い方の練習だぞ。それでも良いのか?」
意地悪を言うように言うと、シイナはこちらを睨み付ける。だが、サナリィは「私はそこまで疲れておりません。ですので、休憩せずとも……」と、シイナを裏切るかのようなことを言う。
アオは何も言わず自分の側にいる。それはとても幸せそうな顔をしており、シイナの事など全く気にする事なく歩いていた。
戦闘は主に三人にやらせている。
自分とアオがやってしまえば既に帰り道となっているはずだが、それでは戦姫と呼ばれるまで時間が掛かってしまうし、実戦に優る練習はない。だから、マリーとラスク、アルフォンスの三人で戦闘をさせ、それなりの経験を積ませているという訳である。
襲い掛かってくるアンデッドを撃退し、息を切らせるマリー。倒されたアンデッドから使えそうな物を探すサナリィは、嫌な顔をせず必死に仕事をこなしていく。
だが、シイナは「貴族だった私が……」と、ブツブツ文句を言いながら使えそうな道具を嫌な顔して探し、アオに怒られる。
いくら年が下でも上下関係はアオの方が上であり、サナリィはアオのことを「アオ様」と呼ぶ。
アオはサナリィの事を呼び捨てして、自分が先輩であることを主張しているが、相手のほうが年齢が上な分、多少気を使っていたりもするし、サナリィの素直さを気に入っていたりもしていた。
だが、それとは真逆にシイナはアオのことを呼び捨てにしており、アオは呼ばれてもシカトするのだが。
躾をするため更に重い荷物を持たせて喋らせないようにしたり、食事の量を減らしたりと、解りやすい嫌がらせをしていた。
暫くの間三人に任せていたが、目的地付近に近づいたので交代を命じる。
「マリー、そろそろ交代しよう。目的地が近い」
「ま、まだ行けます!」
連戦連勝だから少し自信が付き始め、交代を拒否するのだろう。
「ヨワッチーノ、説得してくれません? この先にはウィル・ウィプスの悪魔が待っている可能性が高い。俺とアオが殺るから、三人は自分の身を守る事に集中してくれ」
すると、アルフォンスは苛ついた顔をして歯向かってきた。
「別に構わねーんじゃないのか? 本人がやりたいと言っているんだから。それに、自信過剰なこと言ってんじゃねーよ! 姫の実力なら、ウィル・ウィプスの悪魔は倒せる!」
「アンタはその姫を守るのが役目なんじゃないのか!何かあってからでは遅いんだぞ」
「それでも守るのが俺の役目だ!素人の冒険者は黙って見ていろ!」
「じゃあ、そうさせてもらうよ!何かが起きてからでは遅いんだからな……言う事を聞けないというのなら、勝手にやれば良いさ」
そう言って二人から少しだけ距離を取り、勝手にやらせる事にした。
「宜しいのですか? リョータ様……」
心配そうな顔してアオが聞いてくる。
「本人がやりたいなら、やれば良いさ。怪我をするのは俺じゃない。そういう事を言うなら、こっちは勝手にやらせて貰うさ」
吐き捨てるように言い、腕を組んで見守る事にした。アオは不安そうな表情をしている。
「我が儘言ってごめんなさい……師匠」
マリーはこちらを見ずに言い、先を歩いて行く。その背中は小さく、この国を背負うにはまだ荷が重い。
何故、ウィル・ウィプスの悪魔との戦闘は俺達がやるというのは、ジャック・オ・ランタンが持っている武器に問題がある。
奴が持っている武器が鎌が問題だ。
小さいデスサイズなのなら問題はないが、大きいサイズだったら……アルフォンスはそこまで考えているのかが問題である。
デスサイズの大きさにより相手の強さが変わるジャック・オ・ランタン。死へと誘うその武器は、死神の鎌である。とは言っても、自分もスマホに写っている写真しか見ていないのだが、これだけアンデッドが存在しているのなら、かなりの精気を吸っている事になる。
それを分からないアルフォンスではない筈だが……。
そう思いながら後ろを歩いていると、蒼い鬼火が姿を現す。
「アオ、準備!」
「はい!」
何が起きても直ぐに動けるようにしろと言う事である。予想しているより大きい鎌を持っているジャック・オ・ランタン。
コイツ一匹だけなら何も言わないが、鬼火の数が異常過ぎるのが不気味なのである。通常(スマホに書かれている数)では、ウィル・オ・ウィスプ……蒼い鬼火は三つが良いところだ。だが、こちらが目視できる鬼火の数は、数え切れないほど蒼い鬼火が宙を漂う。
考えられるのは二つ……。
ジャック・オ・ランタンが異常に強いのか……それとも、異常に多いのかである。
そして死神の持つ鎌。
それが強さを物語っている訳だ。
「(ダンジョン化したのはこう言う理由か……)」
小さく舌打ちをして、頼んでおいた武器を取り出しアオに渡す。
自分だって馬鹿ではない。
もしもの事があったら……なんて、ゲームの定石を考えない訳ではない。幾らステータスが高くとも、ダメージが与えられなければ負けは確定なのだ。
そして、このゲームはやり直しが利かないリアルなゲームであり、自分はチート能力を持つアイテム保持者。
攻略に必要な金はドラゴンで稼がせて貰ったし、能力も有る……が、その仲間が馬鹿だと言うことを計算に入れていなかった事だけは誤算だった。
けれど、どのようなゲームにも必ず不確定要素は盛り込まれている……が、今回のミッションは姫を強くしながら守る……である。
難易度が高く、非常に面倒くさい!! 自分が大っ嫌いなミッション系RPGなのだ。
そう言ったゲームはやった事がない訳ではない。だが、現実世界名ためタイミングを計り、プライドを守らないといけないのが鬱陶しい!
実力不足の魔剣使いの騎士団員と、負けん気が強いお姫様。このミッションが終わったらお別れさせて頂こうと思いながら銃を手にしてアルフォンスの太股を撃ち抜いた。
叫び声を上げて倒れるアルフォンス。それを見て驚いた顔をする全員。
「お前は馬鹿か? 俺は勝手にさせてもらうと言っただろ。それに、ヨワッチーノのくせに生意気なんだよ。そこで痛がりながら藻掻いてろ。さて、マリー……お前も同じように撃たれたいなら目の前に居る敵に襲いかかると良い。その剣が相手に届く前に俺の放つ弾丸がお前の肩を貫くだろうけどな。これは死ぬほど痛いらしいぜ?」
そう言ってもう一発アルフォンスの太股に撃ち放ち、叫び声がダンジョン内に響き渡る。
「リョ、リョータ……様?」
「アオ、俺は本気だ。邪魔をするのなら……殺してやるよ。いくら王国の姫でもな。ここは洞窟の中だ……姫は名誉の戦死を遂げてしまったのさ……そこで藻掻いて、情けない姿をさらしている騎士団様が守る事ができずにね。知っているか? 死人に口無しって言葉があるんだぜ……」
「ほ、本気……なのですね……リョータ様……」
軽く頷くと、アオは冷酷な表情に変わり、アルフォンスの足を蹴っ飛ばした。
「マリー様、我が主が仰有っているのでこの場で死んで頂くか、後ろに下がって頂けませんか? アオは本気です。我が主が望まれているのなら、アオはそれに従うまでです。1秒以内にご決断を」
短い決断時間。両手には見た事のない美しいナイフを握り、氷のように冷たい言葉で言うアオ。決断するとかそう言った事を考えないで下がれと命令しているのだ。
「わ、分かり……ました……」
両目には涙を浮かべながらトボトボと下がるマリー。正直、鬼火が三つであればやらせていたかも知れない。けれども、弱冠14歳の少女を目の前で傷つけられる姿を見るのは男として嫌なものである。
許してくれとは言わない。恨んでくれて構わないけれど、アオだけは恨んでは駄目だよ。アオは俺の命令を聞いているのだから。そう思いながらマリーの頭をポンポンと叩き、選手交代する。




