50話 悪魔再び
まさかウィル・オ・ウィスプの悪魔……もとい、ジャック・オ・ランタンのところへ行くことになるとは思ってもみなかった。
だが、魔石には興味があるし、討伐されていないという事であればかなり厄介な事になっているはずである。
取り敢えずは馬車を購入する事にして目的地へ目指す事にしたのだが、この中で馬車を動かした事がある奴がいるのだろうか。
「アオ、馬車の運転できるか?」
「も、申し訳ありません……。馬車は……」
流石のアオも馬車は無理なようで、ラスクを見ても首を横に振るだけである。
もちろんマリーも無理らしく、馬車を運転できる誰かを雇うか、奴隷を買うしかない事になる……はずだった。
「アル、アンタは馬車くらい動かせるわよね?」
「へ? そ、そりゃ……これでも騎士団員ですからね。馬くらい扱えますよ」
「じゃあ、アンタは御者ね。これは命令! 逆らうなら帰って頂戴!」
「そ、そりゃ無いっすよ! 何かあったら誰が姫様をお守りするんスカ!」
すると、マリーとアオ、ラスクは物凄い早さでこちらに目を向ける。見られても何も出ないのだが、これだけは分かる。
「まぁ、俺とアオだろうな」
ウンウンと頷くマリーとアオ、ラスクの三人。力関係という物が分かっている証拠である。
「ま、マジかよ~……。何かあってからでは遅いんですよ! 姫様!」
「大丈夫ですよ。一応、アオにも覚えるよう練習させますから」
その言葉に対し「本当か?」と、疑いの声を出しながら持ち場に付くアルフォンス。結局、マリーの目には勝てないという事である。
食料などを買い込み、スマホの中に仕舞って移動を開始する。以前は持っていなかったアオも持っているスマホ。
これにはマリーも羨ましがり、強請ってくる。だが、これは売っているものではないし、アオの物に関しては小林さんからの貰い物である。どういった理由で小林さんがアオに渡したのかも分からないのに、マリーに渡せるはずがない。
なので……「その資格を得ることができたらあげるよ」と、適当な言葉を言ってその場を誤魔化すことにしたのだった。
「しかし、ウィル・オ・ウィスプの悪魔ねぇ……。未だに討伐されていないのか……」
馬車の荷台で横になりながら呟くと、マリーが情けない声で聞いてくる。
「い、一度挑戦しているんですよね……。し、師匠達は敗走してきたんですか……」
すると、隣で寝そべっていたアオが身を起こし、マリーに説明を始めた。
「マリー様、リョータ様が敗走する筈がありません。あの時は、まだアオも知識が乏しく、アル様が仲間になられたばかりで全く役に立たない状態だったのです。洞窟の奥へ進んで行くと、牛の化け物が冒険者を襲っており、アオ達はそれを倒しました。しかし、リョータ様1人であれば楽々攻略していたでしょう。ですが、リョータ様は言われました。『無理して怪我をする必要はない。これは経験を積むための物で、死地へ向かうものでは無い。経験を皆に知らせ、情報を共有し、確実に攻略する事が大事だ!』と……だからアオ達は撤退したのです」
確かに似たような事を言った気がする。だが、美化し過ぎじゃないか? アオ。
「さ、流石……師匠! 戦略って奴ですね!」
いやいや、当たり前の事を当たり前に言っただけにすぎない。知識程重要なものはない。それは歴史が物語っている。
そんな事を考えていると、馬車を運転しているアルフォンスが「そう言って、ただ単に怖かっただけじゃ無いのか? ボーズ」と、性懲りもなく言ってくる。
その頭に突き付けられる銃口。銃弾を受けて地べたを這いずっていたくせ……本当に懲りない奴もいるものだと思いながらアオを止める。
「その牛の化け物……えっと、アンタウロス……だっけ? それを始末したのはアオだよ。アルフォンスさん。数人がかりで戦っていたが、負けそうだったので、アオが始末したんだ」
『アンタウロス』ミノタウロスの上位種に当たる化け物らしく、いくらウィル・オ・ウィスプの悪魔がいる洞窟だからと言っても、そんな奴が出てくる事は滅多にない話らしい(スマホ調べ)。
そういった化け物が現れる洞窟は騎士団が動くらしいが、そこまで情報が回っていないらしく、アルフォンスはその話に驚いた顔をしていた。
だからあの時に言ったのである。情報が一番大事だと……それを甘く考えていた冒険者達は、全滅は免れたようだが命からがら逃げてきた……と、いう事であろう。そして、大事なことを言う事ができず、犠牲者を増やしてしまい、今に至るのである。
その責任は多少なりとも自分達にもある。だから今回の依頼を受け、討伐しに行くことにしたのだ。でなければ、こんな面倒事は避けて通るに決まっている。
「アンタウロスだと! その様な話、全く聞いてないぞ!! 何かの間違いじゃないのか!」
アルフォンスが語気を強めながら言ってくる。
「騎士団は俺の討伐記録しか調べてないのかよ……。マリー、お前の国は大丈夫なのか? 情報は滅茶苦茶大事だって教えただろ」
「す、スミマセン……師匠。で、ですが、それを調べさせたのは……」
「マリー、お前の言い訳は聞きたくない。お前は姫様なんだろ? それなりの権力はあるはずだ。自分の身を周りの流れに任せ過ぎだ。自分のやりたい事は自分でどうにか出来るように戦略を練り、行動に移して周りを蹴落としてでも成し遂げろ!」
「そ、そんな……け、蹴落とすって……」
「お前さぁ……人がそんなに綺麗な生き物だと思ってるのか?」
「ど、どういう事……ですか……」
これだからお嬢様って奴は……アオの教育が甘過ぎるのが悪いのか……。それとも元から甘ちゃんなのか……。先ずは夜になったらアオを説教だな。
「どこかの騎士様に聞いてみたらどうだ? 姫様。ウィル・オ・ウィスプの悪魔……俺には退治ができないと思って、自分の活躍する場所を作ろうとした奴がいるんだよ」
「え?」
その言葉に対して「嘘……」と、何処までもお人好しなマリー。それに比べ、顔色一つ変えないアルフォンスは中々なものだ。
「ウィル・オ・ウィスプの悪魔。清められた武器か、魔法剣でしか倒す事のできない相手だ。どこかの騎士様は自分の武器を清めてあり、尚且つ魔法剣を使用できる。どこぞの姫には魔剣は使えないと言っておきながら、秘策を持っていた訳。これが情報」
いとも簡単にアルフォンスの策略を論破すると、「う、嘘でしょ? アルフォンス……」まさかの言葉に戸惑いを見せるマリー。アオの目が鋭くアルフォンスの背中を睨みつける。
ラスクも解っていたようでニヤニヤと笑っている。
「しかし、情報収集能力が低い騎士様は、そこに出てきた魔物がアンタウロスだなんて知りもしない。これが情報不足」
スマホを眺めながら話をしていると、危険察知能力のスキルに何かが反応し、スマホの地図を開いて確認を行う。すると、前方と言っても、2キロ先だと思われる場所で人と獣人が何物かに襲われており、直ぐに指示を出す。
「アオ! この距離で相手が何者分かるか!」
「直ぐに調べます!」
「ラスク! マリーの掩護! マリーは魔法使いと組んだ経験はあるか!」
「了解」
「ありません!」
「なら、ラスクの指示に従いながら動け! アルフォンスさんに関してはおまかせしますよ」
「そりゃ……どうも!」
そう言ってアルフォンスは馬車のスピードを速める。襲われていると聞いて、馬の脚を緩める訳にはいかないし、バカにされたままではいられない。
「アオ、捉えたか?」
「はい……リザードマン3体、レッグベア4体、コボルト5匹です! 冒険者は苦戦中、如何致しますか?」
「この状態からやれるか?」
「お望みとあれば……」
二人の会話に付いていけない三人。何が『やれるか?』で、何が『お望みとあらば』なのかと思っていると、アオはアルフォンスの隣に移動した事によって、アルフォンスは勘違いを起こす。
「嬢ちゃん、変わってくれるのか! 助かるぜ!」
「――はぁ? お前はそのまま真っすぐ運転をしていろ。グズ!」
そう言ってアオは冷たい目をし、両手でP320を持ち、まだ見えぬ敵に向かって射撃を始める。
目にも留まらぬ速さでマガジンを交換し、再び射撃を始め、数分後にその行為を止めてこちらに目をやる。
何が起きているのかさっぱり分からない三人。呆気に取られながらその光景を速いスピードの中で見ているのだっけ。
「ある程度始末しましたが、リザードマンの鱗が思ったより硬く、少し手古摺りました」
アルフォンスの隣からそう説明後、トトト……と、自分の定位置へ戻り、腰を下ろして弾丸の補充を始める。
「あ、アオ……さん?」
戸惑いながらマリーが話しかける。アルフォンスは現場に向かうため、馬車を走らせている。
「あぁ、あの騎士様に言ってください。焦っていく必要はありません。後はリョータ様のお仕事しかありませんから……あ、マリー様が魔法を覚える気があるのであれば、リョータ様に確認をしてみたら如何でしょう? せめて自分程度を回復出来るようにならなければ……『戦姫』とは言えませんからね」
ニコッと笑いながら言い、再び弾をマガジンの中に詰め込む。馬車を暫く走らせていくと、戦闘が行われた様な場所に辿り着き、アルフォンスは馬車を止める。
「アオ、二人の護衛。俺は様子を見るから油断はするなよ! アルフォンスさんも!」
「承知いたしました!」
「誰にモノを言ってやがんだよ」
少し苛ついているアルフォンスに「アルフォンスさん、アンタだよ!」と、ツッコミを入れたいが年長者で騎士団の魔剣使い。ステータス的にも問題なしなので大丈夫だとは思うが……。
実はこのメンバー全員のステータスを見る事ができるようになっていた。レベルが一番高く、年長者は確かにアルフォンスだった。
能力でのトップは自分で、次にアオ、アルフォンス、ラスク、マリーの順番となっている。
ラスクは年齢を隠している節を見せているが、実際は20歳であった。
なので、年長者はアルフォンスなのだが、次に年齢がいっているのラスクで、その次に自分、アオ、マリーとなっている。
スマホが示している日付は12月の終わり辺りを示しており、今年ももう少しで終わりを迎える。
日本の冬に比べて殆ど寒さを感じることはないが、時折吹く風は秋の様な寒さを身体に体感させる。そのため、皆は寒さを凌ぐためにマントのようなものを羽織っており、防寒対策をしていた……が、これで寒いといったら東北地方に住んでいる日本人の皆さんに失礼に当たる。
そんな事を思いながらスマホの機能を調べていると、アオが覗き込むようにこちらのスマホを見ていた。
自分のスマホとどれ程機能が違うか知りたいのだろう。アオと違うのはスキルを弄れたり、ステータスをイジれたりする部分である。ステータスを見ることもできないアオのスマホ。メールと電話機能、道具収納がメインとなっているため、少し残念そうにしていたが、こちらがスマホで購入したアプリをアオのスマホへ移すことが可能なのは黙っておこう。だって、必要性がないから。
ステータス欄を見ているとアルフォンスはレベル70近くあるようだが、全体的の能力は60前後である。
70でこれでは弱いとしか言いようがないが、普通はそうなのかも知れない。
そして、鎧の下は筋肉ガチムチで、かなり鍛えていることが分かる。馬鹿にするのは少し控えてあげるべきだろうか。
自分とアオの二人は課金してステータス能力を上げているから論外。チートでここまで強くなっているとは誰も思っていないだろう。
因みにアルフォンスのステータスは弄るつもりがないためゴミ箱の中へ捨てたのは言うまでもない。人を尊敬しない奴は全てゴミ箱行きにする予定だ。




