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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
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45話 王たちの算段

 パーティーが終わり、王と重鎮達が円卓を囲んでいる。


「それでイシバシリョータという者は我々の言うことを聞くような奴では無いと言うことが分かった」


 重い声で王が言うと、軍務大臣が腕を組む。


「ならば!! いっそうの事、その男を……」


 宰相がテーブルを叩きながら叫ぶと、軍務大臣が「待たれよ!」と、叫ぶ。


「相手は『竜殺し』ですぞ……騎士団長でも勝てるかどうか……」


 そう言って騎士団長の方を見ると、爽やか青年が首を横に振る。


「アハハ。無理でしょう。魔法使いの女性と、もう一人のシーフっぽい女性は簡単に始末することができると思いますよ。ですが、あとの女性一人と、奴隷の子は私と互角……いや、奴隷の子は私よりも実力が上の可能性がありましょうね。竜殺しをしたと言われている青年……彼はどうなんでしょうかね? 彼は底が見えないというか、本当に強いのかどうか分からないんですよね。持っている武器はハーフミスリルソードだったし、鎧は胸当てとか、そういった類のものだった。そのような装備でドラゴンを倒せるの言うのは考え難いんですよね。他に何か隠しているようにしか……。もしかしたら竜殺しは奴隷の子と、その仲間の女性が仕留めたのかも知れません。奴隷の子と女性はアーティファクトのような武器を持っていたという情報も入っていますし、止めの一撃を入れたのが彼で、それ以外は彼女ら二人がやった事かも知れません。それだったら……」


 ざわつく会場の中、テーブルを叩き立ち上がる宰相。


「騎士団長で『聖剣 輪舞曲の鈴(ロンド・ベル)』を持っている貴様でも奴隷の獣人に勝てぬと言うのか!!」


 腰には美しく輝く剣を装備している騎士団長。


「そう言われましても……パーティーだというのに、あそこまで人を寄せ付けぬ空気を作り上げる奴隷なんて見たことがありませんよ。あの『獣神』と言われているオルギスだってもう少しマシだというのに……」


 爽やかに笑いながら騎士団長が笑いながら言う。


「笑い事ではない!! その獣神と互角にやり合っている貴様がそんなのでは、騎士団としてどうなのだ!!」


「どうなのだと言われましても……。ねぇ……?」


 宰相の言葉に苦笑いをするしかない騎士団長。宰相は気が短い人のようであり、騎士団長はその笑みを崩すことはない。

 世界は7つの国があり、その国には必ず聖剣があると言われている。その中でこの国には『聖剣 輪舞曲の鈴(ロンド・ベル)』があり、その武器を手にする者は踊るかのような戦い方をし、剣を振るう度に鈴が鳴り響くような音がすることから名付けられた武器である。

 その聖剣の使い手が騎士団長事、リーグ=ホウ=テイラーである。


「落ち着くのだ、宰相。その奴隷だが、面白いことを言って帰って行ったのを覚えているか?」


 面白いこと……それは、手柄をマリエル=ルナ=オルランドに渡してしまえば良いのではないかと言う話である。戦姫……または戦乙女などでも何でも良いと言うことだ。自分の国にいる姫がこれほど強いと言うことを世界中に知らしめれば、パワーバランスが崩れることはない……。奴隷の女はそう言ってその場から離れていったのである。


 確かにイシバシリョータのパーティにはマリー=(マリエル=)タランタ=(ルナ=)ブルフォント(オルランド)が居たのは間違いがない。大会に出ていたのも確認されており、イシバシと一緒に行動しているという情報も入ってきていた。

 そして、予選とは言え、3開戦まで勝ち上がっているし、超が付くほどの温室育ちで、しかも14歳と年齢も若いのにそれなりの実力を備えている。もちろん戦姫と言うにはほど遠すぎるが、新生竜と戦っていたイシバシの側にも居たのは間違いない。

 これは本人に確認していることである。


「しかし陛下、姫君が納得すると思いですか? 相手の手柄を自分の物にして、しかもその手柄は自分の師匠と言っている人物ですよ?」


 騎士団長リーグが爽やかな笑みで言うと、全員が難しい顔をする。


「今、マリエルは何をしておる」


 王が問いかけると、侍女長が一礼をして「部屋で休んでおられます……」と答え、ここへ連れてくるようにと王は言うのだった。

 暫くしてマリエルがふて腐れた顔して連れられてくる。


「この様な場所に私を呼ぶなんて……何ようですか? お父様……」


 私は機嫌が悪い! と、遠回しに言っているような口調で言うと、宰相はギロリと睨み付ける。その目に気が付いたマリエルは少しだけたじろぎ、目を逸らす。


「姫様、良く戻られましたなぁ……」


 宰相が目を細めながらマリエルに話し掛ける。マリエルは睨み受けるような目で宰相を見つめたあと、その後に父である国王を睨み付けた。


「姫様、彼は何者なのですかな?」


「彼? 彼とは誰のことですか? ハッキリ名前を仰有ったら如何じゃないですか? ロンギム宰相」


 負けじとマリエルは言い返す。


「姫様が師匠と仰有っている『イシバシ・リョータ』とか言う田舎冒険者の事ですよ。彼はいったい何者なんですか?」


「彼は私をオークの集落から救ってくれた冒険者にして私の大師匠。そして、この国に降り懸かったドラゴンによる大獣害から救ってくれた英雄よ! それ以外でも、それ以上でもない! 分かり切った事を聞かないで下さい!!」


 強い口調で言うと、宰相はマリエルの勢いを消すかのようにテーブルを数度強く叩き、黙らせる。そして、馬鹿にするかのような口調で話を進める。


「そんな知っている情報はどうでも良いのですよ! 私達が知りたいのは出身が何処なのか、どうやってドラゴンを倒したのか、細かい情報が知りたいと言っているのです! これだからお子様は……」


 ジロリとマリエルを睨み、脅えさせる。マリエルはこの時ほどアオやリョータが側にいてくれればと思う。


「そ、そんなの……知りません……。ぎ、ギルドが……ギルドが彼を紹介してくれて、私を除く4人の女性冒険者をそれなりに戦えるよう鍛えてくれたくらいしか……」


 『チッ』と、舌打ちする声が聞こえ、悔しくなり涙が出そうになるのを堪えるマリエル。今は耐えるしかないと自分に言い聞かせ、どこかで反撃のチャンスがあるはずだと……そう願う事しかできなかった。


「マリエルよ、彼の物が言っておったが、お前が戦姫としてドラゴンを倒した事にしたらどうだと言っておった……」


 その事に驚くマリエル。まさか自分が戦姫としてドラゴンを倒したと言う事に祭り上げるつもりかと言うと、王は「奴隷の娘がそうしたらどうだと言っていたのだ。我々としては彼に爵位を与え、この国を守って貰いたいだけなのだ」と、溜め息を吐きながら言う。


「姫様、このまま彼をこの国から出て行かれますと戦争が起きる……と言っているんですよ。この国はドラゴンに襲われたという事を世界中が知る事となる。そうなると、我が国は隣国の『シルファースト王国』とやり合わなければなならない」


 宰相に任せていると面倒だし、マリエルを脅えさせるだけだとリーグは判断して話し始めた。


「ど、どういう事……」


「王都がドラゴンに襲われたという事は、国の機能が麻痺しているも同然と思われる。ドラゴンとはそれだけ暴れる生き物なのです。ですので、隣国のシルファースト王国はその隙を狙って、領土を奪いに来る……かも知れないと言っているのです」


「そ、それと戦姫がどういう関係が……」


「姫様が戦姫となってドラゴンを倒したというのであれば、弱冠14歳の姫が我ら騎士団や冒険者を率いて戦い、王都は殆ど無傷で守ったとあれば、相手は仕掛ける事が難しい……と言う事です」


「わ、私が……国を守るための宣伝になれ……と?」


 その言葉に対し全員が頷き、宰相は溜め息のような物を吐く。


「い、嫌よ……だ、だって、ドラゴンを倒したのはリョータさんだし、アオさんや私達は脅えていただけだもの……そ、それに私が戦姫だなんて……で、出来るはずがない!」


「できなければ戦争が起きると言っているのだ!! 家出なんぞして冒険者の真似事をし、城に迷惑をかけたにもかかわらず、挙げ句の果てには民を戦争に巻き込もうというのかね!! 姫様。竜殺しを連れてきたのは貴女ですぞ! それに姫が師匠と崇めている人がそう言っているのです! 我が儘を言わんで頂きたいものですなぁ」


 脅迫に近い言葉で宰相が言い、王は腕を組んで黙って目を瞑っている。マリエルは自分の立場を考えると、断る事ができないと言う事を理解し、小さい声で「わ、分かりました……」と言って悔しそうに俯いた。


「その師匠はマリーと言う弟子を返せと言ってましたよね? 陛下」


 リーグが言うと、全員がリーグの顔を見る。その顔は驚いている様に見え、リーグは爽やかに笑みでマリエルに言う。


「姫様は本当の戦姫となってもらうため、その師匠の元で修行してもらうしかないと思うんですよね。まぁ、今回はお供も付けなければなりませんが……如何ですか? ロンギム宰相」


「し、しかし……」


「戦姫はマリエル様でございますが、マリーとか言う冒険者は我々の知る余地はありませんよ。聞けば陛下の御前で騒いだらしく、兵士に連れて行かれたとか……」


 ニヤニヤしながらリーグが言うと、マリエルは顔を上げる。


「し、師匠が私を探している?」


 「姫様ではなく、マリーと言う冒険者の少女らしいですけどね」とリーグが言うと、王が立ち上がる。


「マリーとか言う冒険者を彼の者に預けよ、これはこの国にいる限りの命令であり、奴隷の娘に対する報酬である! リーグよ、マリーと言う冒険者を探し、2度とオークに攫われるようなことがないように計らえ!」


「かしこまりました……。魔剣使いのアルフォンスにでも仕事してもらいましょう」


 爽やかに笑いながら膝を突いて頭を下げ、宰相は眉間に皺を寄せるのであった。

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