40話 理解していない状況
正直に言うとドラゴンがどれほど強いのか分からないため、先ほどポケットに仕舞ったスマホを取り出してドラゴンを検索し、ステータス情報が載っていないか確認してみると、ドラゴンには様々な種類がいるらしく、ステータスを調べるには少し時間がかかりそうだった。だが、この検索エンジンはよほど優れているのか、それとも意思があるのか分からないが、今回現れたドラゴンを慌てて調べたにしては都合が良過ぎるくらい写真付きで載っており、奴がどれほど強いのかが数値で教えてくれた。
名前:新生竜
年齢:5歳
Lv:57
HP:1225
MP:2124
STR:358
AGI:155
DEX:188
VIT:273
INT:296
スキル:【ブレス(炎)】
奴には大きな翼があり、空を飛ぶことができるのだが、それはスキルで空が飛べるという訳ではないらしく、奴のスキル欄にはブレスしか記載されていない。
翼がある奴は、基本的に空を飛ぶことができるようだ。しかし、ペンギンのように空を飛ぶことができない奴もいるかもしれない事もあるので、一概には決めつけることができないだろう。
名前:石橋亮太
年齢:18歳
Lv:7 → 17
HP:225 → 380
MP:124 → 287
STR:155 → 273
AGI:177 → 297
DEX:181 → 311
VIT:152 → 273
INT:145 → 196
生活魔法:【浄化】【飲料水】【ライト】
回復魔法:【リカバ】
土魔法:【クエイル】
状態回復:【キュア3】
スキル:【剣技1】
前に確認したとき、レベルは7だったが、いつの間にか10もレベルが上がっており、ステータスもかなり上がっている。だが、アオやアルなどのステータスを比べてみると、サイコロを3つほど振った位のステータスの上昇具合である。これも恩恵の一つなのだろうか。
ドラゴンのステータスと比べると、どうやら自分と同等なレベルの強さを持っているようで、簡単に始末するのは難しい。
取り敢えず、課金料金が1万Gもする【危険察知能力】のスキルを取得させ、奴の攻撃に対して直ぐに避けられるように安全対策して、どのように攻撃をしようかと考える。
すると、足元には避難した冒険者達の武器が沢山落ちており、取り敢えず、その武器をドラゴンにめがけて投げ付けた。先ほど兵士たちが攻撃していたが、全く傷をつけることができなかったため、ダメージを与えることは難しいか? と、思ったのだが、自分が投げつけた剣や槍などは、ドラゴンの身体に突き刺さっていた。
なので、自分の攻撃に関してはダメージを与えることができるはずだと思い、投げつけた剣や槍などが刺さっているか確認してみると、案の定、投げ付けた剣や槍は突き刺さっており、ドラゴンに対しダメージを与えていた。
「取り敢えず、俺が攻撃をしたらダメージを与えることができるようだな」
投げた剣や槍などが、ドラゴンの体に突き刺さっているのを確認しながら言うと、一生懸命逃げようと腕を引っ張っていたアオが、息を切らせながら今起きている非現実的な出来事に目を開かせて呆気にとられていた。
「そ、そう……みたいですね。普通では考えられない出来事なのですが……」
頬を引き攣らせながらアオは言う。
「なぁ、アオ。前に言ったことを覚えているか?」
キョトンとした顔しながらアオはこちらを見る。
「え?」
「前に、俺がアオのことを守ってやるって言っただろ。忘れたのか?」
頭を撫でるようにして言うと、アオは何を言われているのか理解できていないような顔をしており、状況を掴めていないようだった。
「だっ! ちょ……」
このような状況で言われたとしても、やはり嬉しかったことには変わりがなかったらしく、アオは顔を真っ赤にして口をパクパクと動かして、何を言えば良いのか頭を働かしているようにもみえた。
「ですがっ! この状況下で、そのような事を言っている場合はありませんよ! 相手はドラゴンなんですよ! この世で最強の一種と言われている生物なんですよ!!」
いくらダメージを与えられたからといって、最強の生物を相手に勝てるはずがない。と、アオは強く説明をしてくる。
「だからといって、その相手を仕留められないという訳ではないんだろ? 俺が仕留めてやるよ」
そう言ってアオの頭をなでた後、掴まれていた手を離させてドラゴンがいる方へと歩いていく。自分のステータスとドラゴンのステータス的にはほぼ互角。
ドラゴンに勝つためにはSTRか、AGIのどちらかをあげておく必要がある。STRを上げて殴り合いをするよりかは、AGIを上げて全ての攻撃を避けた方が得策だろう。
名前:石橋亮太
年齢:18
Lv:17
HP:380
MP:287
STR:273
AGI:297 → 1,297
DEX:311
VIT:273
INT:196
生活魔法:【浄化】【飲料水】【ライト】
回復魔法:【リカバ】
土魔法:【クエイル】
状態回復:【キュア3】
スキル:【剣技1】【危険察知能力】
これだけ上げてしまえば、どのような相手からも攻撃を受けることはないはず。逆に、どんな相手にでも近づいて攻撃することが可能なはずだ。しかし、1万Gも課金するのは少し勿体ない気がするが、できうる限り痛い思いはしたくない。
攻撃など、当たらなければどうという事はない……と、どこかの赤いスーツを着て変なマスクをかぶった男の名言もあるので、AGIを上げることにこした事はないだろう。
戦う準備を済ませ、ひと息吐く。そして、剣や槍などで攻撃されたことに怒り狂って暴れているドラゴンに向かって走り出すと、さっそく先ほど上げたAGIの能力が発動し、目にも止まらぬ速さでドラゴンの懐に潜り込み、装備していた剣でドラゴンの胸にめがけて剣を突き刺す。
突然の出来事に、先ほどまで暴れていたドラゴンは動きを止める。だが、ふと疑問が浮かび、自分の身体の状態を確認してみた。
普通に考えれば、世の中には摩擦というものがあり、目にも止まらないほどのスピードで動いたのであれば、自分が着ている服なんて、あっという間に燃えてしまうものである。だが、自分の服を確認してみると、服は摩擦で燃えてなどいない。しかも、自分の身体にかかる負担などは一切なく、摩擦などによる火傷はしていなかったのであった。これは別世界だからという事なのかは不明だが、素っ裸になっていないのは良かった。
突き刺した剣を抜き、素早い動きでドラゴンの背中に飛び乗ると、ドラゴンの背中に生えている翼の根元めがけ、勢いよく剣を振り下ろして翼を斬り落とす。
ドラゴンは雄たけびを上げるかのように声を上げるが、攻撃の手を緩めることせずに、もう片側の根元めがけて剣を振り下ろして翼を裂き、ドラゴンが空へ逃げることができない状態にして、もしものことがあった場合に備えて購入していた、『110 mm個人携帯対戦車弾(通称LAM)』をスマホから取り出し、ドラゴンから少しだけ距離を取り、首元めがけて110 mm個人携帯対戦車弾(通称LAM)を撃ち込んだ。
流石に強度の鱗を持つドラゴンであっても、対戦車用の武器で攻撃されてしまってはどうすることもできない様子で、ドラゴンは断末魔のような声を上げた後、地面に倒れ込んでしまった。
少し離れた場所からドラゴンの首元を確認してみると、言葉では言い表せないほど悲惨でグロい状態になっており、スマホで生死を確認してみると、反応が無いためドラゴンは絶命していることを表している。
周囲にいた兵士たちは、何が起きたのか理解するのに頭が追い付かず、唖然とした顔でドラゴンの死骸を見ており、誰一人として声を出すことを忘れているようだった。
「災悪をもたらすドラゴンは倒れた!! これで王都に再び平和が訪れたぞ!!」
静まり返っている状態のままだと薄気味が悪かったため、取り敢えず大きな声で平和が戻ってきたと言う。すると、言葉を失っていた兵士たちは、ようやく我を取り戻したかのように大歓声を上げた。
誰もがドラゴンに立ち向かうことができないと思っていた最中、颯爽と現れた冒険者にドラゴンが倒されたことで、兵士たちがこちらへと押し寄せてきた。
だが、できれば関わりたくなかったため、その場から急いで逃げるのだが、それを見逃さない二人の女。思いっきり飛びついてきて押し倒された。
「す、凄いじゃないですか!! 師匠!!」
攻撃の意思がないからか、危険察知の能力は作動しなかったようで、思いっきり背中を地面に打ち付けてしまい、一瞬だけ息ができない状態になった。
「流石、アオのご主人様です!! まさかドラゴンを倒してしまうなんて!!」
どうやら飛び付いてきたのはアオとマリーの二人だったようで、二人とも覆いかぶさるようようにしながら興奮した声で言う。
「アイタタタァ……。だから言っただろ、俺がやられるはずはないって。何故、あんなトカゲごときに殺されなきゃいけないんだよ。俺はそれなりに強いんだって――」
「でも、『ビューン』って! 目にも止まらない速さで――」
マリーが胸ぐらを掴んで唾を飛ばしながら言ってくる。
「んなことよりも、さっさとこの場から離れるぞ! 後々面倒くさそうだからな」
続々と兵士達が集まりだしており、先ほどまで暴れていたドラゴンが、本当に死んだのか確認している。ほかにも、他の冒険者たちにドラゴンとの戦闘していた者が誰なのかを確認したり、どの様にしてあのドラゴンが倒されたのかと確認したりしている。
「で、でも! あのドラゴンを倒したんですよ!」
この場から逃げようとするが、マリーは掴んだ服の裾を離してくれない。
「だから嫌なんだよ。厄介事に巻き込まれるのは……。俺はのんびりとした、平和で楽しい生活がしたいの!」
マリーにそんなことを言ったが、世の中はそれを許してくれるほど甘くはない。戦いを観ていた者たちがいるため、誰がドラゴンを倒したのかと聞かれれば、皆は先ほどまで武闘会で戦っていた者だと口をそろえて言うはずである。
どこにいても逃げることなどできやしない。その結果、翌日には自分の居場所が明らかになってしまい、お城へと連れて行かれてしまう。別に何か悪いことをしている訳ではないため堂々としていれば良いのだが、このような状況に慣れていないので動揺するのは当たり前の話だろう。
兵士に案内された場所は、王宮で一番偉い人が座っている玉座がある謁見の間で、自分達の身に何が起きているのか、これから何が起きるのか……そんなことは誰も理解できるはずがないため、呆気に取られながら厳つい兵士たちに囲まれた状況化で突っ立っているしかなかった。
「ゴホンッ!」
離れた場所から咳払いが聞こえると、兵士たちは一斉に列を組んで並び、辺りは静けさと緊張に包まれる。すると、偉そうな冠を冠った長い髭を蓄えているオッサンが、宝石のような物を装飾している杖をつきながら、玉座に腰かけた。
町を荒らしていたドラゴンを倒したのは自分なので、この場にいるのは自分の奴隷であるアオだけ……の、はずなのだが、全く関係のないマリーだけではなく、アルやシールス、元盗賊の女まで同行している。
どうしてこの四人がこの場にいるか……。それは、この場所へ来なければならなくなった元凶を作った者たちがおり、その元凶がアルとシールス、元盗賊の女であった。
だが、どういう訳か知らないが、兵士に連れられていくところに出くわしたマリーまで、連れて来られてしまったのであった。
何故、このような場所にいるのか説明するのも馬鹿らしくなるのだが、説明しないと訳が分からなくなってしまうので説明しよう。
ドラゴンを退治した後、騒ぎに巻き込まれたくないため逃げるように宿屋へ戻り、自分達が泊まっている部屋の扉を開けると、アルやシールス、元盗賊の女が部屋の中で談笑しており、自分は泊まっている部屋を間違えたのではないかと思い、開けた扉を再び閉めた。
改めて部屋番号を確認してみるが、たしかに自分がアオと共に休むために借りた部屋であった。眉間に皺を寄せて、首を傾げながら改めて部屋を開けてみると、部屋の中には三人が談笑しており、自分と共に群衆から逃げてきたアオと、マリーの二人に対して状況を確認するしているが、どうやらアオとマリーの二人は状況が飲み込めていないならしく、二人は口を開けたまま、何が起きているのか理解ができていない表情で三人が談笑しているのを観ているのだった。
「えっと、ここで何をしてるんだ? お前達は……」
頭の中に浮かんだ疑問を言葉して三人に質問すると、ようやくこちらの存在にに気がついた元盗賊の女が、「いや~……。あんた、見かけに寄らず凄いじゃない!」と、馴れ馴れしく言って、肩を叩いてくる。
それに続いてシールスが肩をバシバシ叩きながら「見直しちゃったよ!」と、今までどのように思っていたのか知りたいと思うほどの笑顔で言い、「眼つきが悪いだけで、本当はとてつもなく強い人だったんですね! まさか、たった一人でドラゴンを倒しちゃうんですから……」と、さらに失礼な一言を言う。
アルは、自分が窮地に追い詰められたいた状態から脱するために、親身になって救いの手を差し伸べた恩人の人に対し、どうしてこのような言葉を吐けるのかと思いながら項垂れていると、側にいたアオが前に出てきた。
「あ、貴女方は! リョータ様のことをその様な目で見られていたのですか! 確かに、私達程度の人間がドラゴンを相手にするなんてできません。ですが、リョータ様は無敵なんですよ! とても強いんですよ! 勇者様なんかよりも強いんです! なのに、そのような目でリョータ様を観ておられていたなんて……貴女方は万死に値しますよ!」
捲し立てるかのように言うアオ。三人の態度に本気で怒っているらしく、腰に装備していた剣の柄に右手を添え、左手は拳銃に手をかけており、今にもでも三人に襲い掛からんとする雰囲気を醸し出していたため、慌ててアオの服を掴んで制止する。
多分だが、アオを制止しなければアルたち三人に向かって突撃していただろうし、部屋の中が血まみれになっていた可能性が高い。
実際のところ、アオの実力はアルよりも少しだけ上だが、アオのスキルには剣術が2なっており、主人である自分よりも剣術のレベルが高くなっているし、狙撃のスキルも2になっているため、AGIを上げていなければ、アオはこの場にいる全員を抹殺することができるだけの能力を秘めていた。
しかし、アルもスマホで能力を上げているため、そう易々と負けることはないはずだが、油断さえしなければアオが負けることは考えられないだろう。
因みにアオのステータスは、こうなっている。
名前:アオ
年齢:16
Lv:3 → 11
HP:43 → 254
MP:6 → 8
STR:123 → 126
AGI:125 → 155
DEX:129 → 159
VIT:124 → 158
INT:115 → 129
スキル:【超回復】【丈夫】【聴覚2】【嗅覚2】【剣技2】【射撃】【狙撃2】【弓2】【ピント】
生活魔法:【浄化】
いつの間にかスキルが沢山増えているおり、スキルだけならば自分よりも強いと思う。しかし、射撃と狙撃の違いはどのように違うのかは分からないので、スマホで違いを調べてみると、射撃は銃砲に弾を込めて目標を狙い撃つことで、狙撃については、射撃とあまり大差はないが、目標を絞って正確に的を射抜くらしい。
なお、自分の知らぬところで新スキルを覚えていたらしく、その新スキルの【ピント】を調べてみると、どうやら遠くの獲物を狙うための能力らしく、アオが狙撃の練習として遠くにある的を狙っていたことから、いつの間にか習得してしまった能力なのだろう。
【千里眼】という名のスキルもあるらしいが、【ピント】は狙い撃つための能力であり、遠くを観るための能力とは異なっているらしく、アオのように射撃を得意としている人は、この【ピント】が適しているようである……が、アオを購入した目的と異なり始めており、どんどん化け物のような強さを手にしていくことが怖くてたまらない気がしている。
見知らぬ人に彼女が伝説の勇者様だと言いふらし、この化け物じみた能力を見せつけてしまえば、皆はアオが伝説の勇者様だと信じるはずだと思う。
この世界の冒険者はランクがものをいうため、ランクを言ってしまえば誰も信じてくれるはずがないだろう……が、一般のHランク冒険者が相手にならないほどの強さを兼ね備えており、ドラゴンと対等に戦えるほどの能力を持っているにもかかわらず、このような容姿をしているのだから間違われても仕方がないだろう。
だが、当人はそのことに対して理解していないし、分かっていない。それに、アオは自分の奴隷であるため、自分の側から離れることはないし、手放すつもりもない。アオはただ可愛いだけではなく、主人である自分のために、こんなにも怒りを露わにしてくれるのだ。
そんな存在を手放す奴がいるとしたら、余程の馬鹿か愚か者としかいないだろう。
「――アオ、別に言わせとけば良いよ。だけどアル、ドラゴンが現れた時はどこへ行っていたんだ? それにお前ら二人も……」
その言葉に三人は顔を見合わせると苦笑いをして返答に困っていた。
率直に言ってしまうと、三人は一目散に逃げたのだろう。
普通に考えてみれば、三人が一目散に逃げるのは当然のことであるが、仲間を置いてきぼりにして逃げると言うのはどういったものなのだろうか。
しかも、アルに至ってはこちらが仕方が無く養ってあげていると言っても過言ではないし、ドラゴンと戦うにはそれなりに戦力となるだけの実力を持っている。
それなのに一目散に逃げ出してしまうとは情けないといったらありゃしない……が、あの混乱の中では仕方がないか?
「い、いや……。わ、わざとじゃない……ですよ! だって、普通に考えてもドラゴンに真正面から立ち向かう人なんて……ねぇ」
そう言ってアルはシールスと元盗賊の女に同意を求める。すると、まるで二人は示し合わせていたかのように頷いて、普通に考えたら誰だって逃げると口を揃えて言いやがった。
そんな三人に対してアオは犬歯を剥き出すかのように怒りを露わにしており、頭を撫でて落ち着かせる。
「リョータ様! 我々は主人の命を護るのが使命なのです! それなのに、この御三方はリョータ様にお世話なっておりながらも忠義というものが……」
今にも襲いかかりそうな顔をして「ガルル……」と、再び剣の柄と銃を握り、直ぐにでも襲える準備をしている。射撃と狙撃がある分、かなり早く銃を抜く事ができ、剣を振る事が出来るだろう。そして、物の数秒でアル以外を殺すことができてしまうだろう……。
ある意味、この世界で最強に近い獣人。そして魔法も使えるという優れもの。
話を再び元に戻してしまったが、最強の武器を手にしていると言っても過言ではない可愛い野獣が、目の前にいると知っているのはアル以外いない。シールスと元盗賊の女はアオの強さについてほとんど理解している様子がなく、「そんなに怒るなって~」と、笑いながら言っている。
だが、アルは引き笑いしている。アオの目が冗談ではないのを理解しており、どのタイミングで動くのか分からないため、表情をこわばらせながら身を守る準備をしていた。
「アオ、そんな事より今日はもう休もう」
惨劇を見たいとは思わないため、なだめるように言う。
「――ですが!」
納得ができないアオ。
「珍しく働いちゃったから疲れたよ。三人の処遇については明日にで考えよう」
そう言うと、アオは頬を膨らませて殺気を収めていく。
「ほら、お前らもいい加減に自分の部屋へ戻れよ……全く。いつまで人の部屋を占拠するつもりなんだよ」
そう言ってこの場をやり過ごし、皆はアオの脅威から解放されてホッと息を撫で下ろしながら部屋へ戻っていく。
何だかんだ言ってマリーも言うことを聞き、自分達にあてがわれた部屋へと戻っていった。
部屋へと戻って行ったのを確認後、ようやくアオと二人っきりなれたため、先にアオを風呂へ入らせてから愛を育みつつ眠りについた。
翌朝、何度も扉を叩かれ目を覚ます。いつも起こされるか、食事の匂いで起きたりするアオ。
今回はそのような起こされかたをした訳ではなく、五月蝿い音で起こされ、物凄く不機嫌そうな顔をして布団から這い出ると、仏頂面で服の代わりにシーツを身に纏わせてから銃を手にし、背中に隠しながらドアの方へ寄っていく。
アオの身体能力からして、外に居るのが誰なのか分かっているはずなのだが、それでも不機嫌な顔をしている。たまに思うのだが、この世界では奴隷というものはどういった扱いになっているのか分からないため、扱いに困ってしまうことがある。
「そんなに強く扉を叩かないでくれませんか、兵士様。我が主に対して非常に失礼です」
扉を開け、挨拶もせずに言い放つ。普段のアオであれば必ずと言って良いほど礼儀正しく、相手に対して敬意を払った話し方をするはずだ。
「なっ!! ど、奴隷のくせに!!」
アオの肩に刻まれた奴隷紋が目に入っていたらしく、奴隷だと分かったのだろう。
奴隷の分際で階級差がある自分に対しての言い方が気に入らなかったのか、兵士は怒りを見せる……だが。
「――兵士様もご存知でしょう。この国の法律で、奴隷には奴隷法というものがあり、主の命が最優先とされていることと、主の命令がどの方の命令よりも優先されるか……。それに、私はリョータ様という最高で最上の主様がおりますゆえ、私に何かありましたら奴隷法により兵士様に処罰が下されるのではないでは?」
『それでも自分達に何かをするのであれば、貴様を一瞬で殺してやる』と、アオの眼は兵士に訴えかけている。
そして、この国の兵士をやっているからには法を知っているはずであり、アオの冷めた目を見て潜在的に何をしても敵わないことを……この訪れた兵士は悟ったのだった。




