37話 意思を砕く
町の外に出て、スマホで盗賊がいる場所をかくにんすると、町の状況を確認しようとしている盗賊が数名いるらしく、盗賊の群れらしき場所から数人のマーカーが動き始めていた。
どうやら相手は手慣れているようで、町の状況を確認するのと共に、騒ぎに乗じて混乱させる計画なのだろう。
しかし、そんなことをされたら厄介なため、斥候部隊と思われる盗賊の方へ向かうことにして移動を始める。
こちらの人数は自分を合わせて五人。何故かマリーは自分の仲間たちと共に行動せず、自分たちの方に付いてきており、後で問題になるの勘弁願いたい。
「おい、マリー」
「はい、何でしょうか?」
何でしょうか? ではない。
「どうして俺たちに付いてきてるんだよ? お前は自分の仲間と共に、依頼主を守る必要があるんじゃないのか?」
正直に言うと邪魔なだけであるが、馬鹿正直に言って彼女を傷つける必要はないため、適当な理由を述べてみた。
「いえ、それには問題ありません! リョータさんは私の師匠にあたる方なので、彼らも納得してくれました!」
それはそれで問題があるだろう。だが、ここまで来て引き返させるのも可哀そうなため、小さく溜め息を吐いて盗賊のいる方へと向かっていった。
こちらからすれば相手の位置なんてまるわかりであり、町に潜入しようとした盗賊の一味に奇襲を仕掛けるのは容易であった。
余りにも正確に相手の居場所を掴んでいるため、シールスとマリーは驚いていたが、マリーは尊敬しているというより、もっと違ったように見ているように感じる。だが、シールスは怪しんでいる目でこちらを見ているようだった。
「あらかた斥候部隊を捕らえることができたな。これで相手が引いてくれると助かるんだけど……」
気怠そうに言うと、マリーの癇に障ったらしく、訪ねてくる。
「リョータさんの口振りから察するに、あまり町を救いたいように聞こえないんですが、どうしてですか?」
不機嫌な顔してマリーが言う。
「はぁ? 俺は町が盗賊に襲われても構わないと思ってるよ。だって、ギルドマスターを見ただろ? 町を良くしようとしているようには見えず、私利私欲のためにギルドマスターをやっているみたいだろ? 自分は安全な場所に隠れて指示をだしているだけ。できるのならば、さっさとあの町を出て行きたいね。まぁ、町の住人にはそんなこと関係ないから仕方なくやっているけどさ」
この町なんて放っておいても構わないと、遠回しに言われて、少し驚いた顔をするマリー。その言葉に同調するように「全くその通りですね!」と、アオも言い、アルは少し顔を引き攣らせながら苦笑いをしており、シールスはドン引きした顔をしていた。
今いるメンバーの中で一番使えない人物は、マリーか、シールスのどちらか二人だろう。万が一に備え、アオとアルが二人と共に行動すれば問題ないだろうが、油断は大敵である。
「町を救うとかの話は置いておいて、斥候隊を捕らえた今、どうするんですか?」
今は町に関してどうするのか話しても時間の無駄と判断したマリー。斥候部隊を捕らえることで、町に混乱が起きなくなることだけは理解しているようだったが、この先の展開については分かっていないようだ。もう少し自分で考えても良いと思うのだが、今更そのような話をしても仕方がないし、早くこのような面倒ごとを終わらせて、次へと進みたい。
「普通に考えたら、こいつ等をギルドへ連れて行けば良いんじゃないか? 拷問でもしてアジトを探るっていう手もある」
「なるほど……。なら、こいつ等を町へ連れて行け――」
「だが、俺はそんな面倒なことをしたくない」
斥候部隊を町へ連れて行こうとマリーが言いかけたが、途中で言葉を遮る。
「え? いや、だって……。敵の本拠地だって分からないのに、どうやって……」
驚いた顔をしながらマリーが言う。本当に何も考えていないらしく、アルは『面倒なことをしない』という言葉の意味をすぐに理解をしたらしく、マリーの驚いた顔に苦笑いしており、アオは馬鹿を見るような目でマリーを見つめる。
「おいおい、さっきも言ったけど、普通に考えた場合の話をしたまでであって、あの町の状態が普通ではないのはない。そのくらいお前だって知っているだろ……。そんで、今、俺たちの目の前に大切な情報源が転がってるいる。もう少し頭を使えよ。俺は面倒なことが大っ嫌いなんだ。だからこうやって斥候部隊を捕まえたんじゃないか」
深い溜め息と共にマリー言う。マリーは口をパクパクとさせながら言っている意味の言葉を理解しようとしているが、頭が状況に追い付いていないようだった。
「おい、起きろ!」
ドカッと蹴りをお腹に入れ、盗賊の斥候を起こす。
「おい! 起きろクソ野郎!!」
そう言って再び蹴りを入れて盗賊を叩き起こす。痛みでようやく目を開けた盗賊の髪の毛をいち早く掴み、アオは盗賊の首元にダガーを押し付けたので質問を始める。
「死になければ、素直に答えな……。お前たちの親玉はどこに居る?」
低い声で脅しながら言うと、捕らえられた盗賊は怯えながら喋り始める。そして、その盗賊が示した場所をスマホで確認すると、複数人のマーカーがあり、その場所に盗賊がいることは間違いないと思われる。
情報は多ければ多いほど役に立つため、捕らえた盗賊に、親玉と思われる魔法使いのことも聞き出そうと試みるが、結束力が強いのか、中々喋ろうとはしないため、盗賊の右手人差し指をへし折った。すると、盗賊は痛みで大声を上げたので、黙らせるために顔面を蹴り飛ばす。
「こうなりたくなければ、さっさと喋った方が良いと思うけどな」
他の盗賊に向かい言い放つと、恐れをなしたのか仲間の盗賊は魔法使いのことについて喋り始める。魔法使いは、元々どこかの貴族の娘だったらしいが、他の帰属に騙されたことによって、落ちぶれてしまい、一家離散となってしまったそうだ。
そして、生きていくために農産物などを泥棒して食いつないでいくうち、旅人などを襲うようになってしまい、盗賊として生きていくことになてしまったようだ。
その後、似たような境遇の奴らが集まり始め、盗賊としての勢力は拡大していき、現在襲っている町のギルドマスターがクズだという情報を手に入れたことから、町を奪い取ってしまおうということになったらしい。
「リョータ様、如何いたしますが?」
必要な情報は手に入ったが、斥候部隊を町まで連れていく時間が惜しいため、剣を抜いて心臓を一突きして止めを刺す。その光景に全員が絶句しながら見つめていた。
他に捕まえたやつも同様に始末し、アンデッド化しないよう、首を斬り落として剣についた血を払い鞘へと納めると、我に返ったマリーが悲痛な声で「いくら何でも殺す必要はなかった!」と、言ってくる。
マリーたちの言い分も理解できるが、「こいつらは命乞いをしていた人を殺し、挙句の果てに捕まえた女性を陵辱して用が済んだら殺している。そのような奴らを生かしている意味など全くない」と言い放つと、アルが胸ぐらをつかみながら「だからって!」と、声を上げた。
「言いたいことは理解ができる。だけど、もし、自分の大切な人が同じような目にあっていたとしたら、同じことを言えるのか? 悪いが、俺は言えないね。もし、自分の目の前で大切な人を陵辱されて、殺されたりなどしたら、俺はそいつらを許すことなんてできやしない。今すぐにでも殺したいって思うよ」
言い返したいが、言い返せないといった表情をするアルとマリー。シールスは何も言わず顔をそむける。何か思うところがあるのだろう。
アオは心配そうな顔をしてこちらを見ていたので、「俺はお前を守ってやる。だから安心しろ」と言い、アオの頭をなでると、アオは少しうれしそうな顔をしたが、場の雰囲気が暗いため、直ぐに俯いてしまった。
このような場所で言い争いをしてもしょうがないと思ったのか、マリーは始末した盗賊が言っていた方角へと身体を向けて歩き始める。
アルは少し迷ったような顔をしてから、追いかけるようにして歩き始めると、アオは「行きましょう」と、一言だけ呟き盗賊の親玉がいる場所へと向かった。
聞き出した情報の近くへ到着すると、盗賊らしき者たちの声が聞こえてきたため、茂みに身を隠して様子を窺う。
盗賊どもは談笑しながら武器の手入れなどを行っており、斥候部隊の状況を確認する者がいない様子で少しだけ気持ちが楽になる。
「さてさて、親玉はどいつかな?」
茂みの隙間から覗いてみるが、親玉らしき人物は見当たらない。
「どうしますか?」
少し緊張したような顔をしてマリーが聞いてくる。だが、どうすると言われても、親玉が誰なのかわからないため、無暗に行動を起こすわけにはいかない。
「もう少し様子を窺うしかないだろうな。無暗に突入して、何かあったら困るから……」
「なら、ギルドへ報告しに行った方が良かったんじゃないですか?」
ギルドへ報告し、みんなで突入すれば一網打尽だとマリーは言いたげな顔をしており、少しだけ状況を整理して頭を働かせてみる。すると、アオが眉間に皺を寄せながら「ギルドに報告しても、それが真実だと信じてくれる方が何人いると思いますか? それに、あのギルドマスターが、町の守備を手薄にすることはしないような気がいたします。ここは少しだけ様子を窺って、相手の出方を見てから判断した方がよろしいかと、アオは思います」と、珍しくアオが自分の意見を述べたことに驚きを隠せない。だが、あの町のギルドマスターがどんな奴か、見ただけでわかるため、マリーは口を閉ざしてしまう。
夕方になると、ようやく盗賊どもが異変に気が付き始める。先行していたはずの斥候部隊から、何の連絡がないため、盗賊どもは少しだけ慌て始めたのだ。
そして、親玉らしき人物が姿を現したらしく、盗賊どもは、まるで訓練されたかのような動きで並び始め、親玉を出迎える。すると、想像していたよりも若い女性が、大きな声で「状況を伝えろと!」言い、並んでいた盗賊の一人が前に出て「斥候におくった奴からの連絡がありません!」と、少しおびえたような声で答える。
頭領と思われる女は、見た目からして10代半ばか後半といったところだろう。遠目からだが身長は憶測でしか分からないが、150cm位といったところだろう。髪の長さはショートで、色は日が落ち始めているため正確には分からないが、エメラルドグリーン。胸の大きさについては防具を着込んでいるため正確には判断できないが、アオと同じくらいか?
「リョータ様、相手は油断しております。このまま一気に攻め込みますか?」
確かに相手は油断している。だが、斥候に行かせた者が戻ってきていないことに気が付いたため、少し慎重に考えなければならない。
「正直に言って、先ほどの奴らのように殺してしまった方が手っ取り早いが……。いきなり全滅させてしまったら、あのギルドマスターは頭に乗ってしまうような気がするしなぁ……。取り敢えず、奴らを取り押さえて、言う事を聞かないようだったら殺ってしまおう」
先ほどは殺したくせにと言いたげな表情を浮かべるマリーとアル。
「そんな顔をで見るな。別に俺は殺したくて人を殺しているわけではない。相手がこちらに対して牙をむくのであれば、それまでの話だ。まぁ、相手の出方次第って奴だよ。それに、この計画について聞いてみたいこともあるしな」
こちらの言い分に「分かりました」と、少し納得ができていない表情で答えるマリー。アルは「一理ありますね」と、理解をしてくれているため、内輪もめは回避できたようだ。
「リョータ様、あの数を相手にするのは厳しくありませんか?」
少し弱気になっているのか、アオが不安そうな顔して問いかける。
「大丈夫だよ。アオに危害を加える奴は、全て俺が排除してやる」
そう言うと、アオは嬉しそうに微笑むので頭をなでてあげると、マリーが咳ばらいをしてムードを台無しにする。何故、マリーは不貞腐れた表情をしているのか理解ができない。
不貞腐れた顔をしていたマリーだったが、音をたてないように敵陣の背後へと回り込む。これは、スマホがあるからできるのであり、無かったら一気に襲い掛かるしか選択はできないだろう。盗賊の親玉らしき人物がコテージらしき建物へ戻って、中へ入っていくの確認後、警護していた盗賊を声をたてさせずに気絶させてコテージらしき建物の中へ入っていく。
誰かが報告に来たのかと思ったのか、椅子に腰かけている盗賊の親玉らしき女性とご対面することがきたが、相手はこちらが誰なのか分かっていないため、驚いた顔をしていた。
「お、お前たち! ど、どうやってここへ……」
怯える盗賊の頭領と思われる女性。情報通り少し幼さが残っているように感じるが、それでも10代半ばを過ぎているようにも思える。
「そこの扉を開けてだよ。で、あんたが盗賊の頭領で良いのか?」
馬鹿にしたような言い方をして挑発してみる。すると、盗賊の頭領と思われる女性は、大声を上げて仲間を呼ぼうとしたため、アオがいち早く行動し、盗賊の頭領らしき女性のお腹を殴る。女性は息ができなくなったらしく、お腹を押さえて悶絶しているため、アオは声を出させないよう後ろに回って首元にダガーを押し付け、黙らせた。
「あ~あぁ……。やっちまったなぁ~」
一瞬の出来事に唖然としているマリーとシールス。アルは苦笑いをしてアオを見ていた。
「――え? 駄目でしたか?」
キョトンとした顔してアオが言う。
「まだコイツがボスと決まった訳じゃないだろ……」
そう言うと、アオはハッとした顔して「あ! そうでした……」と、テヘペロをする。その仕草があどけなく、可愛かったので苦笑いをするしかなかった。
「やっちまったものは仕方がない。取り敢えず、この女を攫って町へ戻るか……。そこで事情聴取すりゃ良い訳だし、リーダーが突然姿を消したら、誰も統率する奴がいなくなって盗賊共は町を襲わなくなるだろうしな」
溜め息交じりに言うと、状況を整理できたのか、アオは申し訳なさそうな顔をしたため「結果オーライだ。何も問題はない」と、アオの頭をポンポンと叩く。そして、女の腕を掴もうとしたところでアオが「リョータ様に何かあられたら大変ですし、小汚い雌を持たせる訳にはまいりません。ここはアオが連れて行きます!」と言って、アオは無理やり女を立たせて耳元で何かを呟くと、女は口を閉じたまま頷くのだった。
他の盗賊たちに見つからないよう女を連れ出し、最短距離で尚且つ、盗賊がいない場所を通りながら町へと向かう。戻る途中、女は隙を見て逃げようと暴れると、アオは首元に押し付けているダガーを素早く仕舞い、暴れる女の顔面を数発殴り付けた。
「大丈夫です、気絶させただけですから」
ニコッと天使のスマイルでアオは言うが、もう少しまともな黙らせ方はなかったのかと思ってしまう。
スマホのマップを見ながら移動し、盗賊に出くわすことなく町へと戻ると、アオが気絶させたため女が冒険者登録しているのかすら分からないため、仕方がなく女の通行料を支払い、宿屋のカミナラス亭へと向かった。
宿に到着し、店の者に女の分の追加料金を支払って部屋へと戻り、気絶している女を椅子に座らせ、ロープで身体や手足などを縛り付けて動けないようにし、アオが殴った部分を回復魔法で癒して目が覚めるのを待つ。
女が目覚めるまでシールスに色々と話を聞いていたが、話題が尽きてしまい、しばらくの間、無言状態が続いてしまった。
業を煮やして気絶している女の頬を軽く叩いて起こしてみる。すると、ようやく眠り姫様は目を覚まし、虚ろながら辺りを見渡すのだった。
「……ウッウゥ……こ、ここは……」
いまだ現状を理解していないらしくぼんやりしている。
「ここは町の宿屋だよ」
埒が明かないため、ここが何処なのか教えてあげると、女は何かを思い出したのか、ガバッと顔を上げてこちらを睨みつけてくる。
近くで見るとかなり整った顔をしており、予想以上に可愛い。アルと同等? いや、上品さが多少ある……いやいや、甲乙付けがたい。マリーもそれなりに可愛いし、美人に囲まれているのは悪い気はしない。だが、睨まれているのは良い気分がしない。
「お、お前らはいったい!」
「まずは黙ろうか。言いたいことが沢山あるだろうが、まずはこちらから話をさせてもらうぞ」
喉元にダガーを押し付けると、女は黙り込む。目だけを動かしてこの中で誰がリーダーなのか探っているようにも思える。
「わ、私を……ど、どうするつもり……」
こちらを睨みつけながら女は言う。相当な修羅場をくぐってきたのか、その目には諦めというものが感じられない。
「単刀直入に言うよ。この町を襲うのをやめてくれない?」
軽い口調で言ってみるが、女は更に鋭い目でこちらを睨んでくる
「な、何を言っている……」
「いやぁ、まぁ……なに、こんな町を襲ったところで、お前の何になるんだよ? もしくは、何の利益になるんだよ? 魔法使いさん」
「こ、ここを私達のアジトにするのよ! これだけの町なら、盗賊をやらなくても十分に生活できるでしょ!!」
そのようなことをしなくても、あれだけの人数がいれば、町おこしなんて簡単にできるのではないだろうか。このような腐った街を襲うだけ時間の無駄だと思うし、無駄なけが人を増やすだけである。
「あのさぁ、あれだけ仲間がいるのならば、自分等で町や村を作ったらどうなのさ? 農業の知識くらい持ったやつが、少し位はいるんじゃないの?」
その言葉に対し、女は怒気を強めて言う。
「始めから町を作るのがどれだ開け大変なのかあんた達には分からないでしょ! だったら奪い取ってしまった方が早い! 知ったようなことを言わないで!」
「ふーん。なるほどね。確かに俺は町を作るのがどれほど大変なのか知らねーなぁ。だからって、いちいち奪い取らなくたって良くないか?」
「こんな糞みたいな町は、無くたって誰も困りゃしないだろ! あんた達だってあのギルドマスターを見たんじゃないのか!」
言いたいことは理解できるのだが、もう少しまともな方法があるのではないだろうか。
「でもさぁ、暴力に訴えても良いことはないだろ? 違う方法を模索して、奪い取ってしまった方が楽じゃないのか?」
「あんたに何が分かる! 貴族ってだけで偉そうにできるこの世界で、どうやって奪い取れば良いって言うんだ! あいつはギルドマスターの座を金で買った奴だ! 話し合いで物事が済むのなら、とっくにやっている!」
流石元貴族の娘。言う事に説得力があって、反論するのも面倒臭くなる。
「じゃあ、解散してくれない? そうでもしてくれないと、君達全員をひっ捕らえるか、殺すしか方法がないんだよね。ついでに、更生してくれると助かるんだけど……如何なものだろうか」
「ふ、ふざけるな!」
「ふざけてなんかいないよ。全て本気」
全員を始末するのは面倒だし、気が引けてくる。なので、更生してくれた方が面倒ごとが減るし、できれば女性を手にかけたくはない。
「い、今更あとに引けると思っているのか!」
「……けどさぁ、元々統制が取れていなかった集団のボスが、いきなり行方が分からなくなったらどうなってしまうと思う?」
「――え?」
単純な話、チームの統制が取れなくなった場合、そのチームは次のリーダーを決めるため争いごとが起きる可能性が高く、その結果によってはそのチームが崩壊してしまうケースもあるのだ。
この女がまとめていたという事は、この女の独裁状態であり、そのリーダーであった女がいなくなったのだから、誰がまとめ上げるのかが問題となってくる。この町を乗っ取ろうとしていた事で考えると、他にまとめ役はいないのかも知れない。
そうなってしまえば、あの盗賊団は町を襲うことをせずに仲間割れを起こすのが関の山だろう。
「まぁ、いいや。もう、止めてくれとは言わないから、更生してくれる? 厄介そうなのは君だけのようだから。だからさぁ、真面目に冒険者とかやってくれると助かるんだけど」
「い、今更冒険者なんて!」
どうやら頭は回る方らしく、盗賊団のその後を想像できているのだろう。先ほどに比べて言葉に覇気がないように感じられる。
「あぁ、もしかして盗賊をやっていた件が問題になると考えているのか? それなら問題はない。今なら、この町では誰でも冒険者になれるようだからな」
「――でも、審議官が……」
どうやら冒険者になるための方法は知っているようだ。。
「その審議官がいないようなんだよね。この町。で、もしも、更生するっていうのを断るのなら……」
袋の中から拳大の石を取り出し、女の前で握り潰して粉々にする。それを見たシールスと盗賊の女は顔を真っ青にさせて頬を引き攣らせる。
アオはその光景に動じることなく、床に散らばった石の破片などを掻き集めて掃除を始める。
「これが頭だったら、トマトのように握り潰されることは間違いないだろうね。どうする?」
言う事を聞くか、それとも死ぬか……。究極の選択を女に迫ると、女は「な、なります! ぼ、冒険者にならせて頂きます!」と、まるで叫ぶかのように言い、こちらの思惑通りになったことで、この町とおさらばできると思いながら、女を冒険者ギルドに連れて行った。




