36話 シールス=ラング=コルドラ
しかし、相手は簡単に諦めてくれずに引き留めようと必死になる。今まで見てきた中でも性根が腐っている奴はそんなにいなかったが、彼ほど醜い奴はいないだろう。
「ちょ、ちょっと待て! 何故だ! 何故町のために戦おうとしない! お前たちは冒険者だろが!!」
どの口がそう言うのだろうか。お前はギルドマスターだろうが……と、喉まで出かけた言葉を飲み込んで、都合の良い言い訳を言う。
「申し訳ないですが、俺たちは既に行商人の護衛(勝手に付いて行っているだけ)を受けてましてね、依頼人を危険な目に合わせるわけにはいきませんし、受けている依頼を放り投げるわけにはいかないんですよ」
別に自分たちがマリーたちと共に行動しているだけで、依頼を受けているわけではないのだが、ここは利用させてもらうことにした。
「(勝手に付いて行っているだけよね?)」
アルがアオに小声で言う。
「(リョータ様は心優しい方なのです。何だかんだ言われても、やはりマリー様のことが心配なのだと思われます。一応、弟子のようなものですから)」
その言葉にアルは苦笑いをしており、アオは妙に納得したような顔をして頷いていた。
「まぁ、俺たちがこの町に滞在している間に、盗賊たちが攻め込んできましたら、それなりに対処いたします。ですが、その間、何もなければ俺たちは対処できませんので、ご了承願いたいですね」
何を言っても無駄だと判断し、この町に滞在している間に何かが起きたらという事で納得してもらい、ようやくギルドから解放されたので、本日泊まるカミナラス亭へ戻ることにした。
ようやくまともな食事にありつけると思っていたのだが、出てきた料理は素朴なもので、野営をしている時の方がもう少しまともではないかと思うほど美味しくない。
料理人の腕が問題なのか、それともほかに原因があるのか分からないが、アオの表情が残念そうにしているので、あとで簡単な食事でも作ってあげようと思いながら、固いパンを千切って口の中へ放り込み、美味しくないスープを口に含んで流し込んだ。
マリーたちのグループはこの料理が納得できないらしく、カミナラス亭の主人に文句を言っており、主人はこのような状況だからと何度も頭を下げていた。
盗賊団から町を防衛している最中のため、この宿屋にも怪我人など運ばれてくる。その度に空いている部屋へ運ばれ、医療知識があると思われる人がベッドに寝かしつけたり、治療などを行ったりしていた。
本来であれば治癒魔法を使える者がいるはずなのだが、町の状態を見る限り間に合っていないのだろう。
今後についてマリーや、他の冒険者たちに相談してみると、リーダーらしき冒険者が、ギルドマスターの言うように町を守るのが冒険者の務めだと言い出す。
「別に町を守るのは構わないが、元々受けていた依頼はどうするんだよ。依頼主を王都まで護衛するのが請けた仕事であって、町の防衛をする仕事を請け負ってはいないんだ。それに、依頼主を危険に晒す必要もないだろ。あんた達の言いたい気持ちも理解できるが、まずは自分たちの置かれている状況をどうにかした方が良いんじゃないか?」
正論をぶつけてみる。本当は厄介ごとに巻き込まれたくないだけ。
「で、ですけど! このまま盗賊に襲われている町を見過ごせって言うんですか!」
正義感溢れだすように熱を込めた台詞を言うリーダーらしき冒険者。女性の目があるからだろうが、自分には関係のない話だ。
「気持ちは分かる。だけど、油ギトギトの顔をしたギルドマスターが、ワインのような物を飲みながらステーキを食っているくらいなんだぜ? ギルドとしては余裕があるんじゃないのか? 本来であれば、ギルドマスターが扇動に立ち、町の防衛や盗賊団の殲滅をするべきだろ」
更に正論をぶつけてみると、ギルドマスターのことを思い出したのか、皆は口をつむんでしまう。
「確かに町を守るというのは大事な事だと思う。だが、全て冒険者頼みっていうのはどうなんだろうって思うね。正直、俺たちは依頼を受けていないから、この町を守ってあげることくらいは、どうってことはない。だけど、いくら盗賊団からこの町を守ったところで、この町が元の状態まで復興するのにどれだけかかると思うよ?」
その問いかけに対し、マリーたちはお互いの顔を見合わせ、誰が答えるのか押し付けあっているように見えるのと、言われた台詞とギルドマスターの態度を想像しているかのように見えた。
沈黙が続いていたが、誰か氏らが答えなければならない。リーダーらしき冒険者が答えるのかと思っていたが、そいつは俯いてしまっており、代わりにマリーが代弁として恐る恐る答えた。
「い、一応、王国から復興支援金が出ると思いますが……」
「復興支援金ねぇ……。仮に、それが王国から貰えるとするとして、あのギルドマスターが復興のために支援金を使用すると思うか? 俺はどう考えてもギルドマスターが着服すると思うけどな。考えてみろよ、現在、町の状況は最悪な状態なのに、あのギルドマスターは自分だけ安全な場所に隠れていたんだぞ。それに、あのギルドマスターがいた部屋は倉庫として使われていたはずで、そこを隠れ蓑にして、一人だけ美味しいものを食べていやがったんだ。普通に考えれば、あの倉庫内にあった備蓄品は、町の人へ分配されるべきものであって、ギルドマスターが私利私欲のために使って良い物ではないはずだ。先ほど、『冒険者なら町を守るのが務め』って言っていたが、それはギルドの仕事であって、必ずしも冒険者が町を守らなければならない必要なんてないんだ。実力差がある冒険者に死にに行けなんてお前らは言えるのかよ?」
厭きれた口調で論破すると、全員口を閉ざして黙り込んでしまう。先ほど会ったギルドマスターのことを思い出しているらしく、復興支援金などについて、王国から配給されたとしても、本当に着服されないと言い切れないからである。
このままだと埒が明かないため、この町にいる限りは冒険者として防衛など、冒険者として行えることは協力するという事で話がつき、皆は少し不満げな顔をしながら各々の部屋へと戻て行く。
部屋に戻り、アオに女盗賊を連れてくよう指示し、椅子に腰かけて待つ。すると、女盗賊は怯えた顔をしながら部屋の中へ入りオドオドしていた。
何故おびえた顔をしているのかというと、連れてきたアオの目が非常に冷たく、何をされるのか分からないからだろう。
だが、そんな空気を醸し出しながらも自分の隣へやってきて、何か命令されたら直ぐに動けるように立っていた。
「疲れているところ申し訳ない。さっさと終わらせてあげるから質問に答えてもらいたい。あんたの名前と年齢を教えて教えてくれない?」
優しい口調で質問するが、隣からは殺意に似たようなオーラを感じる。
「答えろ。でないと……殺す」
沈黙していた女盗賊だったが、アオが低い声で脅すように言い、女盗賊は完全にビビってしまい、ガクガクと身体を震えながらようやく口を開いた。
「わ、私は……シ、シールス=ラング=コルドラ……と、年は、じゅ、15……歳……。お、お願いだから殺さないで!」
年齢は15歳と聞いて、少しだけ納得。初めて見た時から幼く見えたが、胸はもアオよりも大きかったので童顔なのかもしれないと思っていた。だが、アオよりも一つだけ年が違うのに、あの胸は強記だと思う。
「それで、どうして盗賊をやっていたんだ?」
「それは……」
「コタエナナケレバコロス!」
再びアオが低い声で縅の言葉を投げかけるが、その言葉は片言になっており、まるで猛獣が喋っているかのように思えた。横目でアオの様子を窺ってみると、アオの目は物凄く鋭く、まるで獲物を狙っているかのようにシールスと名乗った女盗賊を睨み付けおり、少しでも不審な行動を起こすのであれば、直ぐにでも襲いかかりそうだった。
「アオ?」
他人ではないことを確認するために名前を呼んでみる。
「はい? 如何致しましたか? 喉でも渇きましたか?」
こちらに顔向けたアオは、いつものように優しく天使のような笑みをみせており、先ほどまでシールスへ向けていた顔とは全く異なっていた。
この優しい顔をした少女が、あのような怖い顔をしていたはずはないと思いながら話を進めることにした。
元々シールスは農民の娘だったらしく、家の手伝いをしながら生活をしていた。だが、農村が盗賊団に襲われしまい、シールスは盗賊団に、殺されたくなければ言う事を聴けと言われたそうだ。
始めはアジトの雑用をこなしており、隙を見て逃げ出すはずだった。だが、時が経つにつれ、逃げられないと悟ったシールスは、盗賊としての技術を習い、盗賊として暮らしていくこととなったらしい。
ちなみに家族は盗賊団に殺されており、生きる意味を失っていたことも盗賊として生きていく覚悟を決めた要因の一つらしい。盗賊としての暮らしは快適とは言えなかったが、元々冒険者だったものが盗賊となっていたため、読み書きなどは盗賊団の連中から習っていたらしい。
「盗賊になった経緯は分かった。それで、更生するにしても、これからどうやって生活をして行くつもり?」
多少の同情するところはあるが、それでも人を殺したり、物を盗んだりして良いわけではない。
「そ、それは……まだ……」
隣から殺意を感じる。返答によっては、アオはシールスを始末するつもりだろう。できることならアオには人を殺してほしくはないため、アオの腕を軽く引っ張り、椅子に座るよう指示すると、アオは先ほどまで醸し出していた殺意を引っ込めて椅子を隣に置いて腰を掛ける。
返答に困っているシールスに対し、アオは鋭い目つきで睨みつけるため、気持ちを落ち着かせるようにアオの頭をなでると、先ほどまでの表情が嘘のように変わっていく。
まぁ、いきなり更生しろと言われても、どうやって生活していけばよいのか分からないだろうから、仕方なしに助け舟を出すことにした。
「まぁ、直ぐに仕事が見つかるわけでもないし、お前を信用できるわけでもないから、しばらくの間は俺たちと共に行動するか? 行動するといっても、目的地は王都だけどな」
言い終える前に物凄い勢いでこちらに顔を向けるアオ。その顔は目をカッピラき、口をパクパクさせていた。
「こ、この女を連れて行くというのですか! アル様だけでも手一杯なのに、この様な素性の分からない輩を連れて行くのは無謀かと思います! いつ、リョータ様や我々の寝込みを襲ってくるか、分からないのですよ!」
連れて行くのは反対だとアオは強く言ってくる。
「仕方がないだろ? 更生するにしたって、どの様にすれば良いのか全く分からないんだぞ。それに、武器は持っていないようだし、俺たちを襲うといっても、敵うはずがない。もし、アオが同じ立場だったら助けて欲しいだろ?」
「あ、アオは盗賊のような真似事などいたしません! それに、リョータ様がアオを見捨てるような事をなさるとは思えませんし、考えらえません!!」
胸を張りながら真剣な表情で言うが、論点が全くずれていることに気がついていない。確かにアオを見捨てたり、放置したりなどしないが、アオがシールスと同じ立場だったらとい話であって、自分と関わりがないことを前提とした話である。
だが、そんなことを説明しても理解してくれそうもないので、苦笑いをしてアオの頭を撫でながら「そうだな〜」と、適当に返答した。
「ふぅ……。まぁ、とにかくだ、シールスはこのままだと生活することができない。構成しろと言った手前、何もしないのは人として責任感がなさすぎるから、シールスが独立して生活ができる様になるまでは面倒を見てやる。アオ、これは決定事項だ」
決定事項と言われ、アオは「もう、リョータ様はお優し過ぎですよ……。まぁ、それがリョータ様の良いところなんですが……」と、項垂れながら言う。
この状況にシールスは呆然としており、話の内容について行けていないようで、目を泳がせながら何か言いたそうな顔をしているが、シールスには拒否権を持っていない。
先ほどアオに言ったように、シールスには一人で生活するだけの能力は持ち合わせていない。何故なら、シールスの所持金はゼロであり、何も購入することができないからだ。しかも、武器も持っていないため、町の外に出る事もできず、一人で稼ぐことができないのである。また、今回初めて冒険者登録をしたため、どのように生活して良いのか知らないのだ。
魔法を使う事もできないため、そこら辺にいる乱暴な女と変わりなく、少し悔しそうな顔して「あんたの指示に従うよ」と、シールスは小さい声でつぶやいたが、アオが素早い動きでダガーを抜き取り、シールスの首元にダガーを押し付ける。
「口の利き方に気を付けて下さい。アオのご主人様はお優しい方なので貴方のような方を」そばに置いてあげるのです。ですが、そのリョータ様に害する者は、全てアオが排除致しますのでお忘れなく……」
殺意のこもった眼で睨み付けるアオ。
「アオ、その辺にしておけ。更生すると言っているのだから、多少は大目にみてやれ」
そう言うと、首元に押し付けていたダガーを仕舞い、シールスを睨み付けながら席に戻る。シールスには何が起きたのか理解できておらず、頬を引き攣らせながらこちらを見ている。
「取り敢えず自己紹介くらいしておこうか。俺の名は石橋亮太。石橋が苗字で良太が名前だ。まぁ、面倒だからリョータと呼んでくれ。そんで、彼女の名はアオ。俺の奴隷だけど、相棒だ」
「ど、奴隷……」
顔を引き攣らせながら言うと、アオは「奴隷が何か問題でも?」と、目を細め、殺意を解放させながら言うと、シールスは両手を振りながら「問題ない! 問題ありません!!」と、慌てて椅子を盾にし、怯えてしまう。
「シールスの得意な獲物は何なんだ?」
「い、一応……剣と弓……です。ま、魔法は……使えません」
「実力は?」
「ご、ゴブリン程度なら、1人で何とかなるかなって感じです……。とは言っても、1匹を相手にするのがやっとだけど……」
「なんだ、使えない屑か……」
アオがボソリと呟くと、シールスは文句の言いたそうな顔してアオを睨み付ける。が、見下すような眼で睨み返すと、シールスは椅子の後ろに顔を隠してしまった。
「アオ、そんなに怯えさせるなよ。これから一緒に旅をする仲間なんだから」
一応これからのことも考えて注意だけはしておかないといけない。
「分かりました。ですが、シールスが危なくなろうとも、アオは一切助けることは致しません! アオはリョータ様の奴隷であり、シールスの奴隷ではありません。アオが忠誠を誓っているのは、リョータ様ただ一人なのですから!」
シールスの目の前でアオが言い切る。その台詞に苦笑いをするしかなかった。
話を終わらせると、シールスは逃げるように自分の部屋へ戻って行く。自分たちも明日に備えて休む事にしたのだが、アオは同じベッドで寝ると言い張るので、脚に差し支えない程度に楽しんで休むことになった。
翌朝、スマホのアラームが鳴り響き、それを止めて身体を起こす。隣には生まれたままの姿で横たわって眠っているアオがおり、アオ一度身体を大きく伸ばしてからアオを揺さぶって起こす。ご主人様よりも起きるのが遅い奴隷。普通に考えるなら、奴隷はご主人様をよりも早く起き、食事の準備などをしてからご主人様を起こすものだと思うのだが……彼女は少し変わった性格をした奴隷なのか、それとも甘やかせすぎているからこの様な立場になってしまったのだろうか。
「あ……ふぁ~……。おはほうございます。リョータ様」
ようやく目を醒ましたアオ。朝日がアオの身体を照らす姿が輝いてみえる。また、着替えている姿を眺めていると、アオは少しだけ恥じらいながら服を着る。その光景はなんとも言いがたく、アオと一緒に暮らして良かったと思える瞬間だった。
身支度が終わり食堂へ向かう。朝食だけは出してくれるらしく、適当な席に座ると質素な食事が出てくた。この料理で50Gも支払っていると思うと詐欺に近い。だが、この町の惨状を考えると食糧の調達なんかは難しいのかも知れないため、文句は言わないでおこう。
しかし、どうして盗賊はこの町を襲っているのだろうか。略奪が目当てだとしても、夜襲をかければ十分だと思う。だが、宿屋の店員などから話を聞く限りでは、略奪が目当てというわけではなさそうだ。
盗賊の企みを考えていると、マリーが慌てて食堂へやって来たのだが、慌てているため何を言っているのか全く分からず、水を飲ませて落ち着かせてから話を聞くことにした。
「ふ〜……あ、リョータさん! 大変なんです! 馬が、馬が毒を盛られて死んでしまいました!」
身を乗り出しながらマリーが早口で言う。
「へ~。馬が死んでしまったのか……。随分と街にとってご都合が良い話だな。こりゃ、もしかしたらギルドが一枚噛んでいる可能性もあるかもなぁ」
椅子の背もたれに寄りかかりながら言うと、マリーはポカーンと口を開けており、少しだけだらしなさそうな顔をしている。
「ギルドが……ですか? 何でギルドがそのような事をするんですか?」
唖然としていたマリーだったが、ギルドがどうしてそのようなことをするのか聞いてくる。
「そりゃぁ……。この町を防衛する冒険者の数が圧倒的に足りていないって話だろ? 俺たちは留まっている間は町の防衛に協力するって話だからさ。そうはいっても、盗賊が来るのを待って時間を無駄に潰すのももったいないし、お前らの依頼主のことを考えると可哀想だから、こっちから出向いてやるか……。さて、先ずは情報を集めることから始めようか。マリー、悪いけど手伝ってくれるか? アオは俺と一緒に情報集め、アルはシールスの武具を選んでやってくれ」
アオとアルに指示を出すと、二人は返事をして出かける準備を始める。だが、シールスは逆らうと昨日のような目に合うと頭では理解をしていたが、心の底から納得しているわけではなく、首を項垂れながらアルの後を追いかけていく。
宿屋を出て、馬を休ませていた厩舎を除いてみると、依頼人が馬の死骸を見つめながら途方に暮れた顔をしており、何と声をかけてよいのか分からず、その場を後にして、町で聞き込みを開始する。
町を防衛していた衛兵に話を聞くと、昨日ギルドマスターから聞いていた通り、盗賊団の中に魔法使いがいるらしいが、どうやら盗賊団の魔法使いは一人しかいないらしく、かなりの手練れだという事と、女性だということが分かった。
しかし、手練れの魔法使いがいたとしても一人しかいないのであれば、そんなに苦労するはずがない。どうしてそんなに苦労しているのか聞いてみると、その魔法使いは統率力があり、強力な魔法を使用するらしく、魔法使いに近づくのが難しいとのこと。
ある程度の情報が集まり、宿屋へ戻って対策を練ろうかと考えていると、突如、町の警報が激しく鳴り響いた。
この警報は、ギルドが冒険者を招集するための警報であり、何者かが町に危害を加える可能性があるときに慣らされる。
正直に言って招集には応じたくないのだが、行かないと何かの罰則があった気がしたので、仕方なくギルドがある場所へと向かうことにした。
ギルドの建物前には数人の冒険者が集まっており、本当にこの町には冒険者がいない事を現していた。そんな中、丸々肥えたギルドマスターが、慌てた口調で町に襲い掛かってくる盗賊について何か言っていたが、馬が殺された原因もわからない状態で、盗賊を相手に戦えと言っているギルドマスターの存在に苛立ちを覚えてしまうため、話の内容を聞くことなくスマホの画面を見ながら敵の様子を探っていた。
すると、盗賊らしき団体は、この町に向かっている途中らしく、物凄い速さで向かってきており、この人数で防衛するなんて無理ではないかと思わせる。ちんたら豚が話している暇があるのなら、早く守備位置へついた方が良い。
「この話に何の意味があるのでしょうか? リョータ様」
耳が良いアオが眉間に皺を寄せながら聞いてくる。正直意味はない。
「確かに、こんなことをしている暇があるのなら、相手を迎え討つ準備をした方が得策よね」
側にいたマリーも同じ事を思っていたらしく、ボヤくように呟く。それから数分後、無駄に長い話が終わって、ようやく盗賊を迎え討つ準備を始める。
アルたちも別の場所で話を聞いていたらしく、こちらを見つけて声をかけてきた。どうやらシールスの武具は購入できたらしく、今朝とは違ってしっかりと装備を固めていた。だが、元々盗賊だったことから、動きやすい恰好が良いらしく、所々動きやすいようにカスタマイズされており、それなりに金額がかかっただろう。
しかも、武器はブロンズソードを装備しており、ロングソードを装備している自分よりも高価で切れ味の良い物を装備しているのには納得ができなかったが、そのうちまとまったお金が入ったら、返済してもらおうとしよう。
アルたちと合流できたことだし、どのくらいで盗賊がやってくるのかスマホで確認をしてみるのだが、盗賊たちは動きを止めていた。
「ん? どういうことだ? 盗賊の奴ら、町を包囲したまま動く気配がないぞ? 何かトラブルでもあったのか?」
襲い掛かってこないことに疑問をおぼえ口にすると、シールスが「日が暮れてから襲い掛かってくるんじゃないの? 昼間に襲い掛かたら目立つだけじゃん。夜襲をかけて攻め落とすつもりなんだよ。きっと……」と、元盗賊の意見に納得してしまい、警戒していた自分が馬鹿らしくなった。
しかし、相手が襲い掛かってくるまで待っているのも面倒なので、先手を打つことにして町の外へと向かう。だが、町の外へ出ようとしたとき、ギルドの連中や衛兵が、「この町を見棄てるつもりじゃないだろうな!」と、詰め寄ってきたのが本当に鬱陶しく思えてならなかった。




