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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
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35話 働かざる者食うべからず

 女盗賊を連れて皆のところへ戻ると、アオを除く全員が驚いた顔をしていた。たしかにトイレへ行くといって皆のところから離れ、戻ってきたら女連れだから仕方がない。

 しかし、驚いていたマリーは、直ぐに我へと返ったようで、女盗賊に向ける目は非常に冷たい。どうやら彼女を敵と認識しているようであった。

 そして、アオは盗賊の存在に気が付いていたため、何かしらあったのだろうと思っているようで、普段道理の表情だったが、少しだけ殺意に似たような雰囲気を醸し出していた。


「あっちで用を足していたら出くわした。彼女は旅をしていたらしいのだが、道に迷ってしまったらしく、次の町まで連れて行ってあげることにしたんだけど、別に構わないよね? 放置するわけにもいかないでしょ? 人として」


 道に迷った旅人ということにして皆に説明すると、アオを除く全員が安堵の表情を浮かべ、アルは優しい言葉をかけながら温かい飲み物を用意して、女盗賊に渡す。

 戸惑いをみせながら女盗賊はアルから飲み物を受け取り、少し離れた場所に座ってこちらの様子を窺っていたが、アオが女盗賊の側へ近寄り、小さい声で何かを言うと、女盗賊は目を見開き、少し青ざめた表情を浮かべていた。

 その後、アオは何もなかったかのように戻り、小さい声で「あの女はですが…」と、探りを入れるかのように聞いてくる。


「ご察しの通り、彼女は盗賊の一味だった奴だ」


「危険ではないのですか?」


「それは大丈夫じゃないか? 俺はともかくとして、今のアオやアルに敵う奴なんてほとんどいないだろ。だから大丈夫だと思うよ。それに、本人は更生するって言っているしね」


「――それで、他の者については……」


 他の者とは、周りを取り囲んでいた者たちと、その仲間たちを表している。


「彼女以外は言うことを聞かなかったから、仕方がないけど全員始末したよ。俺個人としては、アオが人を()やめてもらいたくないからね」


 業を背負うのは自分だけで良い。アオが業を背負う必要なんてないのだ。


「まぁ! リョータ様……有り難き幸せ。アオは幸せものでございます……」


 アオは涙目になり、祈りを捧げるようなポーズをしており、アオの中で自分はどのような人物として映っているのだろうか。しかし、悪い気がしないので、これ以上考えるのは止めることにした。


「おい、お前が盗賊だということが周りにバレたら、どうなるのか分からねー。取り敢えず、怪しまれないよう、自己紹介くらいしたらどうだ? 迷子ってことになってるんだからよ」


 小声でオドオドしている女盗賊に言う。


「じ、じこ……しょうか……い?」


 自分のことをどのように答えれば正解なのか分からず、言葉が詰まってしまう女盗賊。仕方がないので助け舟を出してやることにした。


「どうやら迷子になって大変な思いをしていたようだな。仕方がない、アオ! 休めるところへ案内してやってくれないか」


 迷子でさまよい、ようやく人と出会うことができたとはいえ、見ず知らずの冒険者たちに囲まれれば、誰だって動揺の一つくらいみせるものだろう。休める場所へ案内してあげてくれという言葉に対し、誰も異論を言うものなどはいなかった。


「かしこまりました。どうぞこちらへ……」


 休める場所へ案内するため、女盗賊に近づくアオ。その目は何かを物語っているかのように見えたらしく、女盗賊は一瞬だけ顔を強張らせるが、アオが小さな声で何かを呟くと、女盗賊は動揺した声で返事をして、アオに付き添われながらテントへと向かった。


「だけどこのような場所で迷子って、珍しいですね。どこへ向かうつもりだったのかしら」


 何も知らないマリーが少しだけ違和感を覚えたのか、疑問を口にした。だが、「何かの依頼で薬草の採取でもしに来たんだろ」と、仲間の冒険者が言うと、マリーは「あ、なるほど!」と、理解を示していた。

 しかし、こちらが気が付いていなければ、ここにいる冒険者や行商人は襲われているはずで、場合によっては彼女が自分たちを殺していた可能性だってあったのだが、今のところ怪しい動きはなく、アオが見張っているため、他の者に言う必要もないだろう。


 食事を済ませてから不寝番の順番を決めると、各々が自由行動をし始める。スマホで確認したところ、特に異常は見られなかったため、周囲を警戒する必要もない。

 徐々に夜が更けていくと、アオは睡魔に襲われ始めたのか、横で船を漕ぎ始める。盗賊がいたことで細心の注意を払っていた緊張の糸が解けてしまったのだろう。

 スマホから毛布を取り出してアオに掛け、焚き火が消えないよう、注意しながらスマホ弄っていると、隣から寝息が聞こえはずめた。どうやら睡魔に負けてしまったらしく、アオは気持ちよさそうな顔をしながら人の太腿を枕代わりにして眠ってしまったのだが、その寝顔は純粋無垢のように見え、とても心が癒される。

 本当ならば順番的にアオが不寝番だったのだが、このままゆっくりと寝かせてあげることにしてスマホを弄りながら時間をつぶすのだった。

 翌朝、いつものようにスマホのアラームが鳴り響き目を覚ます。気持ちよく眠っているアオに毛布を掛けてから朝食を作り始めると、女盗賊も目を覚ましたらしく、恐る恐るテントから出てきた。


「よぉ、よく寝れたか?」


 軽い口調で言うと、女盗賊は眉間に皺を寄せながら睨みつけるようにしてこちらを見る。そして、「ど、どの口が……」と、女盗賊が言いかけた瞬間、女盗賊の首元にダガーが突き付けられ、女盗賊は動きを止める。


「リョータ様が情けをかけてあげたのですから、そのような言葉は慎みべきではないでしょうか。今、この場で貴女様を始末することは簡単なことですよ」


 先ほどまで眠っていたはずのアオだったが、話し声が聞こえたのか、それとも目が覚めていたのか分からないが、女盗賊に気が付かれることなく忍び寄り、脅す言葉を投げかける。

 一歩でも動いたら首が切りつけられることを悟った女盗賊は、両手をゆっくりと上にあげて万歳のポーズをして逆らわない意思を見せるが、アオはダガーを仕舞うことはせず、首元に押し付けたままである。


(あるじ)に謝罪の言葉を……」


 冷たい目をしながらアオが女盗賊の耳元でささやく。


「も、申し訳……ありません……」


 怯えた表情で女盗賊が呟くと、アオはこちらを見つめてきたので、軽く頷いてみせる。すると、首元に押し付けられていたダガーをゆっくりと離して鞘に仕舞うと、女盗賊は青ざめた表情で地面に座り込み、冷や汗のようなものをかいて息を整える。

 よほどアオの動きや口調が怖かったのだろう。だが、アオは何事もなかったように明るい笑顔で「おはようございます!」と、挨拶をして、朝食の準備を手伝い始めた。

 まさかアオが起きているとは思っていなかったため、女盗賊との会話がこれで終わってしまう形となってしまったのは、少し予定外だったし、アオがあのような行動に出るなんて思っていなかったため、かなり驚いてしまった。だが、顔には出さないように気を付けていたため、アオには気が付かれていないと思うが、アオが自分に対する思いが重すぎるように感じてしまった。

 食事の準備が終わり、アオが未だ眠っている皆を起こしに行き、女盗賊と共に食事を器に装っていく。寝惚け眼で他の者たちがテントから出てくる。

 普段であれば、アルが早起きして朝食を作ってくれるのだが、よほど疲れが溜まっていたようで、寝癖がついたまま慌ててやって来た。

 そして、女盗賊と共に他の冒険者たちに食事を配り、それぞれがお礼の言葉を述べながら食べ始めた。


「リョータさん、食事ありがとうございます!」


 アル達から食事を受け取ったマリーがお礼を言いながら側へとやって来て、隣の席に座ろうとした。だが、いち早くアオがそれを阻止するかのように隣を陣取り、マリーを睨み付ける。すると、マリーも負けじとアオを睨み付けた。一体何が起きているのかさっぱり理解が出来ないため、苦笑いをするしかできなかった。

 結局、右側の席にアオが座り、左側の席にマリーが座ることとなったのだが、アオが話しかけようと口を開くと、何故かそれを遮るかのようにマリーが喋り始める。

 別に二人の仲が悪いわけではないのだが、男の自分には女性の気持ちなんて分かるはずがなく、困っていると、を少し離れた場所で食事をしていたアルは、ニヤニヤとしながらこちらをみてわらっているのだった。

 女盗賊はというと、自分たちより離れた場所で食事をしており、どこかで怯えているように見えた。

 そして、ちょうど朝食を食べ終わったらしく、食器をアルへ渡す。最終的にはアオが食器類を集めるのだから、アオに渡した方が早いのだが、食器を渡さないのは、先程の件があったからだろう。


 年齢を知っているからこそアオを一人の女性として扱っているが、全く知らない人は、まだ幼い少女と勘違いするだろう。また、アルは頼れるお姉さんタイプのようにみえる。その理由として、アルは言葉遣いも丁寧で、誰に対しても常に笑顔で対応する。だが、それは外面だけで、人がいないところでは愚痴を溢したり、裏の一面を持っているのだが、自分とアオのやる事に対しては嫌な顔を見せることはない。

 もしかしたら、言っても無駄と思っているのかもしれないし、雇い主と愛玩奴隷の関係だと思っているからかも知れない。実際、リヒテンブルクの町でアルを迎え入れた時に、アオはアルに対して「リョータ様の下の世話はアオの仕事で御座います! いくらアル様がお美しくとも、アオの仕事を取らないようお願い致します! アオはリョータ様を愛しておりますし、リョータ様のためなら死ねます!」と、公言しており、その時の表情は、なんて表現して良いのかわからないものだった。

 そういう事もあり、アルからその手の話は一切なく、ましてや恋愛感情などと言うものが全く無い空気を醸し出していることから、アルとはそう言う関係になることは一切ないと考えられる。

 だが、正直に言うと、異世界ものといえばハーレム展開が期待される者であり、アルの胸はそれなりにめだつため、少しだけあのオッパイが触ることができないというのは勿体なく感じてしまう。……が、アオのオッパイも柔らかくて、いつでも触ることができるため、今はそれだけでよしとしておくことにしたのだった。


 話がそれてしまったが、朝食を終わらせて移動の準備を始めるのだが、相変わらずアオとマリーはお互いを牽制しあっており、二人はまるで自分を奪い取るかのように片腕を抱きしめて歩き始める。

 皮の胸当てや鉄の鎧を装備していないければ二人の胸の感触を確かめられるのだが、その二つが邪魔をしているため、楽しみを半減させている。それに、マリーの年齢はまだ14歳のため、アオよりも発育が遅いため小さく見えるし、ジロジロと胸を見るわけにも行かない。法律的にマリーは未成年のため、彼女に手を出したら犯罪であるが、この世界にそのような法律があるようには全く思えない。

 実際のところ、犯罪だと思うのは個人の倫理的なもののため、そのようなことを調べる気が起きない。というのが本音である……。このような日常が数日ほど経ち、周りの冒険者には当たり前のような光景となってしまっており、誰も何もいうことはなかった。

 そして、ようやく次の町が見え始めてきたのだが、少し状況がおかしい。


「あれは……煙か?」


 馬車の歩みを止め、様子を窺うように状況を確認してみるが、ここから町まではかなり離れているため、町の状況を把握する事が難しい。

 この世界にも双眼鏡のようなものがあるはずっだが、この冒険者一行が持っているようには思えず、仕方がなくスマホからスナイパースコープを取り出して確認してみる。

 どうやら魔物か何かの襲撃があったらしく、町は防衛に追われていたらしく、ようやくひと段落がついたかのように見受けられる。

 もしかしたら魔物が町の中にいるかもしれないと思い、スマホで町の中を調べてみるが、町の周囲には魔物の気配はなく、このまま町へ行けば、問題なく町の中へ入ることは可能である。だが、どう考えても町の厄介ごとに巻き込まれることは必須だろう。

 町の状況を依頼を受けた冒険者たちへ知らせると、冒険者たちは行商人と話をしてどうするか確認する。このままこの場所にとどまっていても、他の何かに襲われる可能性があるのには変わりがない。考えても仕方がないので、町へ行って状況を確認した方が良いだろうと言う事となり、煙が立ち上っている町へと向かうことにした。

 それから急足で町へと向かうこと二時間。ようやく町へ到着することができたのだが、町の防壁は随分とボロボロになっており、激しい戦闘があったことを物語っていた。町の中へ入ろうとしたが、警備兵に止められ、しばらくの間、町の外で待たされることとなった。行商人と冒険者たちが何かを説明しており、ようやく町の中へ入れてもらうことができたが、女盗賊は持ち合わせがないため仕方がなくこちらで支払うこととなった。

 町の中を彷徨いていると、疲れ切った人が地面に座り込んでいたり、傷ついた者が治療を受けていたりしており、戦闘の厳しさを物語っていた。


「随分と傷ついた人ばかりですね……」


 周りを見渡しながらアルが呟く。


「何かから町を防衛しているんだろ。まずはギルドに行って、この状況を確認する必要してみるか。だけど、先ずは女盗賊(こいつ)をどうにかしなきゃいけないしな」


 横目で女盗賊に目をやると、脅えたような目で見つめている。


「何かしたんですか? 彼女は……」


 何も知らないアルが聞き返す。


「別に。何もしてないよ。しばらくの間、一人で旅をしていたらしいから人見知りでもしているんじゃないか? ギルドへ連れて行けば、少しは落ち着くだろ」


「そう……なんですか?」


 その言葉にアルは首を傾げ、何も喋ろうとしない女盗賊を見る。アルは何かこの様子に疑問を感じるところがあるのだろうか。

 その後、カミナラス亭という名の宿屋で泊まることができることがわかり、その店へと向かう。そして、宿泊の手続きをしてから部屋に貴重品を除く荷物を置いて、ギルドへと向かった。もちろん女盗賊も連れて行く必要がある。何故なら、女盗賊を冒険者とし登録させて、ギルドの管理下に置かせる必要がある。更生するにしても、お金を稼ぐにはギルドの登録は必須項目であり、どこへ行くにしたとしても、冒険者登録をしておいた方が何かと便利だからだ。


 町を探索しながらギルドへ向かうと、ギルドの建物はかなりボロボロな状態になっていた。見る限り冒険者ギルドが狙われていたようで、他の建物と比べると被害状況は雲泥の差があったが、冒険者ギルドは営業しており、ギルドの職員はせっせと荷物を片付けたり、冒険者の対応をしたりしていた。

 しかし、その忙しさを見ていると、職員に声をかけるのも気が引けてしまう。だが、話を進めなければ先へ進むことが出来ない。


 ちょうど目の前を通りかかった女性の職員に、新規に冒険者登録がしたいと話しかけると、久し振りに新規の冒険者を見たかのように、これまで見せた事もないような笑顔で対応してきた。


「今はこのような状況ですからね、久し振りに冒険者登録ができますよ! あ、そこの女性ですか?」


 本当に仕事が出来ることが嬉しいのだろう。女性職員はテキパキと仕事を来なし、冒険者カードを女盗賊に渡す。と、言うか、今思えば冒険者登録もせずに盗賊家業をしていたのか?

 普通に考えると、冒険者になってから盗賊家業をやるものではないだろうか。ものすごく疑問を抱くが、聞いたところで問題が起きても厄介なだけであり、更生するのであれば問題ないのでそのまま流すことにしたが、カードを渡したところで後ろにいたアルが疑問を投げかける。


「あれ? 審査を行わないのですか? 普通は審議官が……」


 審議官とは、嘘を見破るという怪しげなフードを被った奴だ。自分も冒険者になるとき、そいつが立ち会ったのを思い出す。


「この間の襲撃で亡くなられたんです……」


 物凄く気まずい空気となり、これ以上は突っ込んだ話を聞ける雰囲気ではなくなった。


「そ、そうなんですか……」


 しかし、審議官が亡くなったということは、随分と大変な出来事が起きたのだろう。珍しくアルも顔を引き攣らせており、なんとも言えないという顔をしていた。だが、そのおかげで女盗賊の面倒な履歴を知らないという点では、ラッキーだったのかもしれない。


「あの、ちょっと気になっていたんですが、先ほどから襲撃されたと言ってましたけど、魔物に襲撃をされたんですか?」


 町の状態などをみても、ただ事ではないという事だけは分かるが、町の中に魔物の死骸などがないため、不思議に思っていたところである。

 この惨状を説明してもらいたいと言うと、女性職員は少し困った顔をしてしまった。

 どうやらこの惨状を引き起こしたのは魔物ではないらしく、更に厄介な奴らだということなのだろう。だが、他に厄介な奴らと言っても、どの様な奴らが町を襲ったのか全く思い浮かばず、誰もが首を傾げていた。


「説明をするのは構いませんが、もし、よろしければ、ギルドマスターに会っていただけると助かります……」


 困った顔をしながら言われ、他の者たちの顔を窺ってみると、どうやら会うしかなさそうな雰囲気を醸し出しており、物凄く厄介な出来事に遭遇したことを改めて理解し、深い溜め息を吐いてからギルドマスターと面会することを了承した。

 しかし、建物はボロボロとなっており、どこにギルドマスターがいるのか見当つかなかったが、案内された場所は地下への入り口で、ギルドマスターはそこの中にいるとのことだった。

 頑丈そうな鉄扉を開けるギルド職員。まるで一人だけ安全地帯に避難しているように感じられる。その理由として、食料や飲料水の備蓄品が大量に置かれており、それを一人で独占しているかのように見えた。

 町の惨状を知っているのなら、ここにある備蓄品を町の人に配るなどするはずであるが、備蓄品を私物化して、自分はのうのうと美味しい食事にありついており、ギルド職員の説明では、かつてギルドマスターも冒険者だったらしいが、今ではその姿とはかけ離れたもので、私腹を肥やした豚野郎でしかなかった。


「おぉ、冒険者よ!」


 まるで演技をしているように立ち上がり、両手を広げて部屋へ招き入れる素振りを見せている。どうやら豚野郎は食事中だったらしく、目の前にのテーブルには、美味しそうなステーキや、ワインの様な飲み物が置かれており、どこを見てもコイツは困っているようには見えなかった。


「えっと、初めまして。俺達は今日、この町へやってきたばかりの冒険者なんですが……。いったいこの町はどうなっているんですか?」


 挨拶もそこそこにして本題に移ると、ギルドマスターは眉間に皺を寄せて渋い顔をする。だが、ギルドマスターの脂ぎった顔が、余計に醜くなっただけであるが……。


「実は……この街は盗賊の集団に襲っていおるのだよ」


 深い溜め息を吐くような素振りを見せながらギルドマスターが言う。


「盗賊の集団が町を?」


 もしかして、女盗賊の仲間かと思い、横目で女盗賊(まだ名前は教えてもらっていないため、後で無理やりでも教えてもらうつもりだ)様子を伺ってみるが、こちらの視線に気が付いた女盗賊は、慌てて首を横に振って自分には全く関係ないが無いことをアピールする。しかし、そこまで慌てて首を振る必要はないと思うのだが……。


「ですが、盗賊の集団でしたらギルドの冒険者たちだけでどうにかなるのでは? 成功報酬を上げれば、このような依頼なら食いついてきそうな気がしますし、盗賊たちを捕まえたのであれば、更に報奨金も貰えるような気がしますが……それに、盗賊は鉱山送りになるのではなかったのでは?」


 疑問に思っていることをギルドマスターに述べる。


「そうなんだが……。その……冒険者たちだが、山脈付近にドラゴンが出没したとの情報が入った瞬間、逃げるように街から去って行ってしまってな。その隙に盗賊の集団が狙われて襲ってきたという訳だ。今はギルドが中心となって、町に残った冒険者たちと、町の若い者たちで防衛をしているという訳だ」


 ドラゴンの情報が街に流れた途端に盗賊……。どう考えても不自然で気に入らない。


「本当にドラゴンが現れたのですか?」


「あぁ、東の山脈付近にいると言われている」


 ギルドマスターに話を聞く限りでは、東の山脈付近にドラゴンが居座っていると町の者が言っているらしく、どうやらギルドの誰かが本当にドラゴンがいたのか調べたわけではないとのことだった。

 だが、その話を信じてしまったギルドは、ドラゴン討伐の依頼を掲示してしまったそうで、ドラゴンとまともにやりあっても勝ち目は薄いことを知っている冒険者たちは、一斉にこの町から離れてしまったようだ。

 何故、ギルドが確かめに行かないかと言うと、やはりドラゴンは恐ろしい生き物であり、その嗅覚は鋭く、近寄るのが難しいと言われているとのこと。

 だから町の噂レベルでも信じてしまったようだった。

 取り敢えず本当にドラゴンがいるのかスマホを取り出して調べてみると、確かに東の山脈付近に複数の魔物が存在していたが、とてもドラゴンがいるようには見受けられない。何故なら、範囲を絞って魔物の動きを観察してみると、殆どの魔物が群れで行動しているように表示されていた。

 考えられるとしたら、盗賊の一味が、この町へ侵入し、ドラゴンがいるとガセネタを流して冒険者たちを町から追い払い、冒険者が町からいなくなったタイミングでこの町へ襲撃をかけてきたのではないだろうか。


「しかしですね、どうしてここまで苦戦を強いられているんですか? 盗賊といっても、元は冒険者だった奴らが落ちぶれて人を襲うようになったのでしょ? それだったらギルドの職員でも簡単に盗賊を排除することができると思うんですが……」


 ギルドの職員はそれなりの手練れでなければできない仕事らしく、マリーの仲間が疑問を投げかけるように質問する。これは初めて聞いた話だったので、口を挟むことはせずに黙って聞いていた。


「それが、相手には凄腕の魔法使いがいてな……」


 盗賊の中に魔法使いがいて、そいつの魔法が厄介らしく、ギルドの職員たちは手を焼いているらしいが、魔法を使う者などはどこの町にでもいるはずだし、ギルドの職員でも魔法を使用する人だっているので、魔法に対抗する手段くらいギルドの職員なら知っているはずだ。

 ただ単にこの豚野郎は自分が動きたくないがための言い訳を言っているだけにしか過ぎず、協力してやる気など起きるはずもなかったため、「それは大変なことですねぇ。町を防衛できることを祈ってますよ」と、冷たく突き放した。

 ギルドマスターなら、自分が管理している町の一つくらい守ってやるのが当たり前であるが、そういった素振りすら見せずに、美味しいお肉や酒を飲んで、助けてくれというのは納得ができるはずがない。

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