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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
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34話 旅の途中での拾いもの

 行き先が同じなため、荷馬車の護衛任務をしているマリーたちと共に次の町へと向かう。どうやら荷馬車の目的地は王都のようで、この先にある大きいな町を二つほど超えたところに王都は存在しているようだ。移動日数は、約一週間程とのこと。

 日が暮れ始め、夜になると魔物に襲われる危険が高くなるため、早めに野営の準備にかかる。どうやらこちらも面子に入っているらしく、パーティリーダーから手伝うように指示を受けた。

 アオとしては指揮られていることに納得ができないらくし、少し不満げな表情を浮かべながら指示に従い野営の準備を手伝い始める。アルはそのあたりについて、気にしているようには見えず、言われた通り作業を手伝いながら笑顔を振り撒いていた。

 作業を手伝っていると、マリーがアオの隙をみて近くに寄ってきた。


「リョータさん、リヒテンブルクでの活躍は聞きましたよ! 流石は私達の師匠ですよね!」


 満面の笑みでマリーは言うが、正直に言ってマリーたちに師匠扱いされても、特に何かを教えたというわけではなく、ただ単に『生きて戻ることが大事』『危険だと思ったら引き返すは、恥ずかしいことではない』の二つくらいで、他のことに関しては全てアオに任せており、彼女らのことについてはほとんど知らないことだらけであり、マリーたち五人の実力がどの程度なのかさっぱり分からない。

 そして、何故ここまでマリーが自分に懐いているのかも分からず、困惑してしまう。


「活躍と言ったって、本当はそれほど凄いことをした訳ではないし、かなり話が盛られて困っているくらいなんだ。それに、お前だってリヒテンブルクに居たんだろ? 多少の戦果を上げたんじゃないのか?」


「そりゃ……いましたけど、私は後方支援の部隊だったので、前線にはいくことありませんでし、戦果という戦果は上げることはできませんでしたよ。でも、ギルドで師匠やアオさんが活躍したという噂話を聞き、私はまるで自分のことのように嬉しくって誇らしく思いましたよ!」


「誇らしいって……噂に尾ひれがついているだけだって。それで、他の奴らとは連絡をとったりしているのか?」


「え? いえ……別に。私達は一緒に教えていただきましたが、特に仲が良かったわけではありませんから……」


 今時の若い子って、皆このような感じなのか? 自分がいた世界では、同年代なのだから、連絡先の交換程度はしていると思うのだが……しかし、この世界では連絡先を交換するようなツールがあるわけではないため、このように、サバサバとした人間関係になってしまうのかも知れない。文化が全く異なっているだから仕方がないことなのかも知れないな。


「ふ〜ん。そんなものなのかね。まぁ、俺たちはしばらくの間、一緒に旅をするんだ。仲良くやっていこうぜ」


「はい!」


 元気よく返事をするマリー。アオは横目でこちらの様子を伺っていたが、特に何をするわけでもなく、黙って野営の準備をしていた。それからパーティリーダーが不寝番を決め、休むことになった。

 どうやら、このリーダーは仕切りたがりなのかも知れないし、命令できる立場が嬉しく、調子に乗ってしまっているのかも知れないが、取り敢えず揉め事を起こすのは面倒なので黙って指示に従うことにした。

 翌朝、スマホのアラームが鳴り目を覚ます。隣で眠っていたアオもアラームの音で目を醒ましたらしく、身体を起こすが、頭が覚醒していないのか、少しの間、ボーッとしていた。


「おはよう、アオ」


「んあ? あ、おはようございまふ……ふぁ〜……」


 まだ眠り足りないのか、大きく欠伸をして目を擦る。早く準備をしろよと声をかけてからテントの外に出て、朝食の準備を始めようと、スマホから食材を取り出そうとしていたら、既にアルが下準備だけ済ませてくれており、笑顔で挨拶をしてくる。


「お早うございます。下準備は済ませてありますよ。いつもと変わりなくて良いですよね?」


「おはよう。あぁ、構わない。いつも悪いな、助かるよ」


 いつもと変わらない朝食とは、目玉焼きと肉である。朝から随分と脂っこい食生活だが、慣れてくるとほとんど気にならなくなる。

 転生前の世界では、南米の人達はこのような物を朝から食べていると聞いたことがあり、文化の違いもあるだろうが、やはり慣れというものなのだろう。まぁ、できることならば米が食べたいのは言うまでもない。


 マリー達のパーティとは一緒の席で食べることはなく、向こうは向こうのグループで朝食をとっている。できうる限り関わりたくないのが本音で、昨晩、食事だけは別々でという話をしたのだ。しかし、マリーはこちらが気になるのか、チラチラと見ており、なんだか落ち着きがない。


「こちらの食事が気になるんですかね?」


 視線に気が付いているのは自分だけではなかったらしく、アオも視線に気がついていおり、朝食の肉を食べながら言う。


「さーね。一緒に食事をしていた時のことでも思い出しているんじゃないか?」


 特に気にする必要もないため、アオの質問に適当に答えると、アオは「確かに懐かしさは感じますよね」と、少しだけ感傷にふけたようなことを言う。


 朝食を食べ終わり片づけを始める。片づけるといっても、食器類に浄化の魔法をかけてスマホの中へ仕舞うだけなので、それほど大変という訳ではない。マリーたちの片付け方を横目で確認してみると、やはり魔法で食器類を綺麗にしてから魔法の袋へ仕舞っていた。

 それから移動を始め、次の町へと歩き始めるのだが、荷馬車を護衛するため編隊のような隊列で歩いており、進む速度は通常よりも遅いのもあるが、周囲を警戒しながら移動しているのも原因の一つであった。

 もう少し早く移動したいため、スマホで辺りの様子を調べてみるが、魔物や猛獣はいないため、いきなり襲われることはない。もう少しスピードを上げても良いのではないかと提案したが、マリーたちのリーダーは、昨日の件があるので今の速度で進むと言うため、仕方なくその指示に従うことにした。

 しかし、編隊を組んで移動しているにもかかわらず、マリーは何故か自分の周りにまとわり付くようにして歩いており、どうしてか分からないが自分の趣味など、色々と質問してくる。

 そして、どうしてか分からず、何故かアオが自分の趣味や好きなものを答えており、マリーはその回答に対して適当に受け流す。

 趣味は違うし好みもアオとは違うが、アオはどうやって調べたのか分からないが好みだけは的確に当てていくことに驚愕してしまった。

 マリーたちのパーティと一緒に旅をすることになってから数日が過ぎたが、何も起きることなく時間が流れていく。

 スマホで魔物や猛獣などの様子を伺っていたが、何度確認してもスマホの画面に表示されることはなく、魔物や猛獣は襲ってくることはなく次の町へと到着してしまったのだった。

 しかし、一途機でもベッドの中でゆっくり眠れると考えると、少しだけ気が楽になる。マリーたちのリーダーに宿屋へ向かうことを進言したところ、リーダーは了承してくれた。

 了承してくれなければ勝手に宿屋を探すつもりだったので、どちらでもよかったのだが、嫌悪な雰囲気になるのを避けれたのは良かったのかも知れない。

 大勢で宿屋の場所を探すには小さすぎる町で、宿屋は直ぐに見つけることができたのと、宿泊することもできたのは不幸中の幸いである。どうやらこの町は、つい最近、村が町になったばかりらしく、そのため、大きい建物が比較的少なくて、辺りを見渡しても、冒険者と思われる人たちが見当たらない。

 この町ではリヒテンブルクで暴れた自分たちのことを知っている人がいないようで、この町でのんびりと暮らすのも悪くはない。

 エリエートの町同様、冒険者ギルドが酒場と同様になっているが、食事は宿屋で済ませることができないらくし、仕方なしに冒険者ギルドで食事することにして出かけることとなった。

 街にいる連中は、この町へ冒険者がやってくるのをめずらしく思っているらしく、チラチラと視線を向けてくる。

 物珍しい物を見るかのような視線を受けながら、冒険者ギルドへと到着し、ホールにいた職員に食事をしにきたことを伝えると、適当な場所に腰掛けてくれと言われたため、空いている席に座り、テーブルに置かれているメニューに目を通してから適当に食事を注文する。

 ギルドホール内は閑散としており、思っっていた通り冒険者がいないことを告げていた。時折、ギルド職員がこちらをチラチラと目を向けるが気にしないようにしていたが、こちらには聞こえないようにヒソヒソと何か話しており、少し君が悪く感じる。

 アオにギルド職員の話している内容が聞こえているか聞いてみると、アオは「冒険者の数が少ないらしいようです。そのため、目玉になるような冒険者が欲しいと言っております」と、少し苦笑いをしながら小さな声で教えてくれた。

 のんびりとした生活を送りたいのに、目玉になる冒険者なんかなってしまったら、そのような生活ができなくなってしまう。正直に言ってお断りだ。

 だが、そんなことも梅雨知らず、近くの席に座ったマリーが「リョータさんがここで活動したら如何ですか?」などと、寝ぼけたことを言ってきやがった。

 リヒテンブルクの町からそれ程離れている訳ではないため、いつ、自分の噂話がこの町へやってくるのか分からないため、長居するつもりもなければ、目玉になる冒険者になるつもりもない。一刻も早くこの街から離れたいという気分でいっぱいである。


「リョータさんがここの町で冒険者をやるのであれば、私もここに残って冒険者をやりますよ! 成長した私を見せてあげますよ!」


 楽しそうにマリーは言うのだが、自分が請け負った仕事はどうするのかとツッコミを入れたい気持ちを抑えつつ、冷めた目でその会話を聞きながら食事をしていたアオに聞いてみる。


「アオ、お前はどう思うよ?」


 すると、アオは手を止めて少しだけ難しい表情を浮かべながら答える。


「アオはリョータ様の意思におまかせ致します。ですが、ここの町はリヒテンブルクの町から近いですから……。リョータ様がここにいるという事を知った冒険者の方が、どの様な行動を起こすか分かりかねます。アオとしては、出来うる限り止まることは望ましくない……と、思います」


 アオもこの町に留まるのは反対のようだ。また、アルの方に顔を向けたところで、同じような答えが返ってくるだろうと思い、声はかけないで目だけを見つめると、まるで訴えかけるような目で見つめ返してくるため、アルも同意見らしい。


「気持ちはありがたいけどね。もう少し旅を続けたいかな」


 無難な回答をマリーにするのだが、マリーは「でも!」と、やけに食い下がってくる。何か思惑でもあるのではないかと勘繰ってしまう。


「なんでそこまで俺達をここに留めておきたがるんだよ?」


「べ、別にそういう訳では……」


 歯切れが悪いマリー。何を考えているのかが分からないため、少しだけ彼女の言動について警戒をすることにした。

 翌朝になり、スマホのアラームで目を覚ます。一泊しかしないため、アルには申し訳ないが同じ部屋で休んでもらっていた。そして、アルとアオが身支度を済ませる間、部屋の外で次の町へ行くための経路をスマホで調べ、二人が部屋を出てきてチェックアウトを済ませ、朝食を食べるためにギルドへと向かった。

 ギルド内にはすでにマリーたちも居て、簡単な挨拶をしてから朝食を注文する。こちらの様子を探るかのようにマリーはチラチラと観ており、折角の朝食が台無しだと思いながら手早く済ませた。

 朝食を済ませた後は、マリーたち冒険者と同行する形で次の町へと移動を開始する。別に依頼料が欲しいと言う訳ではない。自分たちはただ単に行き先が同じというだけであるため、依頼料を貰う権利は無いし、依頼した御者も支払うだけのお金も無いとのことだった。だが、マリーたちのリーダーは、それでは納得がいかないので、自分たちが貰う報酬の半分を渡すと言ってきた。

 だが、どうにか言いくるめて報酬をもらうことは断り、その代わり、こちらが退治した魔物や猛獣については、自分たちの物とさせてもらうことで納得してもらった。

 それに、人が多いほど不寝番の時間が少なくて済むから、お互いに損はないだろう。

 実際、こちらとしてはアルの経験が乏しい。なので、少しでも戦闘に慣らす必要がある。

 御者は欠伸をしながら馬の手綱を握り先へと進み始め、町を後にする。スマホで時間を確認したところ、午前9時過ぎで、そこまで遅い時間ではない。

 徐々に町から離れていき、街が小さく見え始めると、マリーは何度も後ろを振り返り、見えなくなる町を少しだけ名残惜しそうな目で見ていた。マリーはあの街に何かしらの思い入れでもあるのか気になり、質問をしてみることにした。


「なぁ、マリー。あの町に何か思い入れがあるのか?」


「いえ、長閑(のどか)な町で暮らしたら幸せになりそうだなぁって……」


 確かに村から町に変わったばかりで長閑な町だった。気楽に暮らすにはあのような町が一番楽なのかも知れないが、まだ若く、冒険者として上を目指している者の台詞ではない。彼女は何を考えているのだろうか……。


「ふ~ん」


 取り敢えずこれ以上は聞かないことにして、話を終わらせることにした。余計なことに首を突っ込んで、自分の首を絞めることになりそうな気がしたからである。

 それから特に何かがある訳もなく時間が過ぎていく。皆はそれなりにコミュニケーションを取っており、和やかなムードで先へと進んでいく。

 自分としては他人の行動に興味がある訳ではないため、アオとアル、それとマリーの三人とほとんど会話せず、相手に話しかけるなよ的なオーラを出しながら、スマホで周囲の状況を確認しながら先へと進んでいた。

 普通に生きていると、長閑な時間が長いと何かしらの面倒事が起きたり、巻き込まれたりするものである。特に自分たちは冒険者として生活をしているわけであり、厄介ごとに巻き込まれるのは日常茶飯事と思っていないといけない。それを常に頭の片隅に入れておくのが冒険者というものであると、スマホには書かれてあった。

 そして、長閑な時間というのは簡単に終わりを告げたのである。

 夕方になり、野営の準備をしていると、突如辺りが異様な空気に変わり、アオが少し険しい表情で装備を整え始める。

 その異様な雰囲気に気がついたのは自分だけであり、アルを含めた周りの冒険者たちは、談笑をしながら野営の準備をしていて、異様な雰囲気に気がついていない。スマホから武器を取り出して周囲を確認してみると、先ほどまでは無かった人の反応があり、自分たちの周囲を囲んでいた。

 人が周囲を囲むということは、物取りか何かである。平和ボケをしている彼らを守るためにはこちらから仕掛け、制圧した方が手っ取り早い。スマホで何か良い策はないかと検索してみると、【隠密】というスキルがあるらしく、そのスキルを購入して、こちらから先に攻撃を仕掛けられるようにした。

 アオも囲まれていることに気がついており、直ぐに銃を取り出せる準備をしながらこちらを見ており、号令を待っている。


「アオ、今回は俺がやる」


 合計で八人。自分たちの周囲を囲んでおり、相手に気が付かれないよう制圧をする必要がある。隠密のスキルはそれに最適なスキルだ。


「ですが……」


「気が付いているのは俺とアオの二人だけ。他の奴らは気が付いていないため、何かあった場合に備える必要がある。今回は俺に任せとけよ」


 アオは呑気に野営の準備をしている奴らに目を向け、少し納得がいかないような顔をしてから「……分かりました」と、返事をした。


「皆のことは頼んだぞ。おいおい、そんな顔をするなよ。大丈夫だよ。俺の強さはお前が一番知ってるだろ?」


「う~……。アオも一緒に戦いたいですぅ」


「人には人の役割ってやつがあるだろ? 任せろよ」


「ですが、本来であればこのような仕事はアオがやるべきことなんですよ?」


 納得ができないといった顔をするアオ。子供を宥めるかのように頭を撫でると、渋々頷いた。


「どうか無茶だけはしないでください」


「わかってるって」


「う~……。どうか御武運を……」


 この会話に聞き耳を立てていたアルとマリー。二人は話している内容の意味がわからず首を傾げている。深く息を吐いてから「トイレ」と、一言だけ言うと、周りの奴らは笑いながら「遠くへ行かないでくださいよ」と、呑気な台詞を言いながら準備を進めており、その間に茂みの中へと向かった。

 スマホで大体の位置は把握しており、隠密のスキルが発動しているらしく音を立てることなくスマホに表示されていた奴らの側へと近寄ることができた。

 囲んでいた奴らの身なりをみる限り、どうやら盗賊のようで、こちらの行動を探っているようだった。

 取り敢えず奴らの目的を聞き出す必要があるため、音を立てずに側へ近寄って首元に剣を押し付けた。


「……声を出すと殺す。少しでも怪しい動きをしても殺す。この状況で逃げられると思うなよ」


「な、なんだってんだよ……」


 怯えた声でこちらの行動を探っていた男が言う。


「お前達は何者だ? なんでこんな場所から俺たちの様子を探ってやがる」


「な、何を言って……。お、俺は、ま、迷い人さ……。道に迷ってしまって――」


「へぇ~。お前を含めて八人もいて、この森を迷ったとでも言うのか?」


「あ、い、いや、それは……グハッ!!」


 こちらの隙を伺っており、腰に装備していたナイフに手をかけたため、仕方なしに男の首を斬り裂き、一人目を始末した。本当であれば腕を掴んで制止させることもできたが、他にも聞ける奴がいる。

 他の七人に何か連絡手段があるかも知れないため、残りの六人を始末し、最後の一人をボコボコに殴りつけて力の差をみせつけると、男はこちらの言うことを素直に聞くようになった。

 やはりこいつらは盗賊らしく、近くに自分たちのアジトがあるらしい。取り敢えずアジトまで案内せ、用済みとなった案内役の盗賊を始末した。

 何故、こうも簡単に命を奪うのかというと、案内役をしていた盗賊が、仲間にならないかと言ってきてたのである。そして、盗賊がどのような生活かを自慢げに説明してくるのだが、はっきり言って胸糞が悪くなる話であった。

 彼らは商人や冒険者などを襲い、金品などを巻き上げた挙句、年齢を問わずに女を犯す。そして、飽きたら奴隷商人に売りさばき、収入を得る。このようなクズなど生きていて良いはずがない。

 盗賊のアジトと言っても、洞窟を拠点としており、入り口には見張り役の男が一人だけ立っているだけで、隙を見て見張りの盗賊を背後に忍び寄り、口を塞いでからナイフで喉笛を切り裂いた。そして中を覗いてみると、奥の方に灯りらしき光が見え、音を立てることなく中へと進み、岩陰に隠れながら様子を伺ってみる。

 奥には盗賊が酒盛りをしており、その数はおよそ10人程度だった。もしかしたら拐われた人がいるのかも知れないと思い、目を凝らして更に奥の方を確認してみるが、更に奥の方は薄暗くなっており確認することができないため、盗賊たちに気がつかれないよう音を立てず、慎重に近づいていくと、態度のでかい女盗賊が鎮座していて、少しだけ動揺してしまった。

 聞き耳を立てながら様子を伺っていると、どうやら盗賊の頭は態度のでかい女盗賊のようで、他の盗賊どもはその女に頭が上がらないように見えた。だが、どう見ても他の盗賊に比べても若いようにしか見えない。年齢的にはアオやマリーと同じくらいにしか見えず、どういうことなのか理解に苦しむ。

 しかし、このまま奴らを野放しにしてしまったら犠牲者が増える可能性があるため、ここで壊滅させる必要がある。岩陰に隠れるのをやめて姿を現し、取り敢えず挨拶をしてみた。


「どうも、こんばんは」


 酒盛りしていた盗賊たちに挨拶をすると、盗賊たちは一斉にこちらを見て驚いた顔をする。それもそのはず、入り口には見張りがいたはずだし、見ず知らずの男が突然現れて挨拶をしてくる。しかも、侵入してきたことに誰も気が付かなかったのだから……。だが、こちらからすれば、見張り役が一人しかいないことは不用心過ぎで、頭が悪いとしか言いようがないのだが……。


「な! だ、誰だ! お前は!!」


 突然現れたことにより、盗賊たちは動揺を隠せずにいる。


「えーと、一応聞いておくけど……お前らは盗賊か?」


 盗賊が案内してきたのだから間違いではないはずだが、一応聞いてみる。


「だったらなんだって言うんだ!!」


 先ほどまで動揺していた盗賊だったが、自分たちが舐められていることを理解したらしく、殺気立つ盗賊たち。そばに置いてあった獲物を手にして睨みつけてきた。


「まぁ、聞くだけ無駄だと思ってはいるんだけど、更生するつもりは無い? 更生するのなら命はとらない。無駄な殺生はしたくないんだよね」


 真面目な話、人を殺すという行為は気が引ける。だが、降りかかる火の粉は払わなければならないため、自分たちを囲んでいた盗賊は始末しただけである。入り口を見張っていた奴に関しては、言っても聞かなそうだから、仕方がないと自分に言い聞かせていた。


「ふ、巫山戯(ふざけ)るな!!」


 そう簡単には言うことを聞いてくれるはずがないと分かっていた。相手は何人もの人を手にかけた盗賊であり、簡単に話を聞いてくれたのならば盗賊なんてやっているはずがないだろう。

 盗賊たちは数にものをいわせて襲いかかってくる。しかし、力の差は歴然としており、攻撃を避けながら盗賊どもを無力化させていき、呆気なく地面に倒れ込む盗賊たち。

 それを黙ってみていた女盗賊。10人ほどいた屈強な盗賊たちが地面に転がっているのをみて、頬を引き攣らせている。

 

「まだやる気? 見ての通り、俺はあんた達よりも強いよ? あと、いくら女性だからといって、手加減するつもりは一切ないからな」


 軽く笑みを浮かべながら女盗賊に言う。ただの脅しと思われないために、地面に落ちていた剣を足でひろいあげ、地面を這いつくばっている盗賊の太腿に剣を突き刺して、その傷口を踏み付けた。

 剣で刺された時に叫んだ盗賊は、踏みつけられて更に大声をあげる。他の者たちが復活したら面倒になるので、全員の太腿に剣を突き突き刺す。そして、一人ひとり蹴り飛ばしながら一箇所にまとめ、再び女盗賊を見る。側から見ればサイコパスのように思うのかも知れない。


「あ、あんた何者なの……」


 怯えながら女盗賊は言う。


「ただの冒険者だよ。旅の途中にあんた等の仲間が俺たちを襲おうとしていたものだから、取り敢えず全員始末させてもらった。その中の一人を脅し、ここまで案内をしてもらったってわけだ」


 『全員始末』これは殺したことを意味する。アオだったら捕まえる程度に抑えてしまうだろうが、自分はそこまで寛大な心を持っているわけではない。襲いかかる火の粉は払い除けるだけではなく、完全に消し去る。

 町のギルドや衛兵に突き出せば幾らか金になるかも知れないが、このような奴らを連れて歩くのは正直にいって、面倒で邪魔なだけだ。その理由として、こいつ等が悪さしないよう見張らなくてはならないし、他の連中が何と言うかわかったものではない。

 それに、あの速度で移動していたら、次の町へ到着するのにかなり時間がかかるし、その間、こいつ等にも食事を与えなければならない。

 また、何かの拍子に逃げられることも考えられるため、できればここで全てを終わりにした方が良いのかも知れない。だが、無駄な殺生をして、自分の心を痛める必要もない。

 正直に言って、ものすごく悩ましく、面倒なことに首を突っ込んでしまったものだと思いながら考えを巡らせる。

 最終的には皆のところへ戻らなければならないため、今起きていることを説明しなければいけないのが、かなり面倒で憂鬱な気分になってしまう。


「それで、どうするだ? 更生するなら生かしてやるし、町まで連れて行ってやらない事は……ない」


 できれば連れて行きたくないのが本音である。


「も、もし……。こ、断ったら?」


「このようになるよ」


 そう言って倒れている盗賊の脚に目掛けて再び剣を突き刺す。その程度なら罪悪感なんて感じない。こいつ盗賊たちがやってきた事に比べれば、全く大したことはないのだから。

 脚を刺された盗賊は、あまりの痛さに絶叫を上げる。それが物凄く耳障りだったため、腹部を蹴り飛ばすと、脚を刺された盗賊は悶絶する。


「これで理解できただろ。二つのうち一つを選ぶのはアンタの自由。俺も仲間を待たしてるんだ。それ程余裕がある訳じゃない。決めるなら早くしてくれ」


 少しだけ低い声で言うと、女盗賊は顔を青ざめて「わ、分かった、こ、更生する……更生するから命だけは赦して……」と、命乞いをした。

 そして、よく見ると女盗賊の股から液体が漏れており、恐怖のあまり漏らしてしまったようだ。


「あんた等はどうする?」


 倒れている盗賊たちに声を掛けのだが、女盗賊のように命乞いをすることはなく、呪いのような言葉を呟いているため、更生するつもりはないと判断して盗賊どもの首を斬り飛ばし、後味の悪い思いに駆られた。

 そして、てにしていた剣を放り投げ、深い溜め息を吐いてから女盗賊についてくるよう指示し、アオたちがいる場所へと戻って行く。

 その間、自分は良い死に方をしないだろうと思いつつ、何と皆に説明しようか考えるのだった。

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