27話 異世界での食事
翌日、アラームをかけていなかったため、思っていた以上に眠っていたらしく、徐々に意識を覚醒していき、目を覚ます。すると、太陽は既に真上辺りまで登っており、隣に眠っていたアオを起こしてから身体を解すように動かしていると、ようやく寝坊したことに気が付いたアオ。
何故、この様な時間に目を覚ましたのかというと、昨晩、アオと一緒に楽しんだからである。
なので、寝坊した原因はアオではなく、調子に乗り過ぎた自分達のが悪いのであり、別にアオが責任を感じる必要は無い。だが、アオは責任を感じているらしく、ひたすら謝罪の言葉を述べるため、説明するのが面倒になり、素直に謝罪の言葉を受け取り「次回からは気をつけろよ」と、頭を撫でながら言い、この話を終わりにさせた。
だが、既に太陽は真上にあり、外出することを諦め庭に生えている雑草をどうにかすることにした。
この家には小さいながらも庭がある。だが、借り手のいなかった期間が長かったのか、庭の手入れなどは全くされておらず、雑草が多い茂っていて、その処理をする必要があった。
できることならば、除草剤のような物があれば処理をするのは楽ちんだと思うが、そのような便利な道具がこの世界にあるはずがない。どうやったら雑草の処理をできるのか少し考えながらスマホで検索していると、『雑草には塩!』と、かかれたサイトがあり、気になったので少しだけ読んでみる。
たしかに雑草を駆除するのには塩が手っ取り早いようだが、塩を撒くことにより、土に栄養がなくなってしまうらしい。そのうち庭で何か作ろうかと考えているため、塩で雑草を駆除するのは止め、次の手を考え始めると、深い溜め息が出てしまった。
それから暫くの間、どうやって雑草を根絶やしにできるのか考えていると、アオが袖をまくり上げた姿で庭へ向かい、軽い準備運動をしてから雑草を抜き始めた。
「リョータ様のお手を煩わせる訳にはいきません! ここはアオにお任せください!」
元気いっぱいの表情で言い、勢いよく草をむしっていく。しかし、雑草を抜く作業は腰に負担がかかるので、日が暮れるときには動けなくなってしまう。この様なことを考えてしまう自分は、野蛮な猿にでもなってしまったのだろうか。いや、全てアオが悪い! あんなに可愛くて、自分を甘やかすのだから。
必死で雑草を引っこ抜いているアオ。どうにか楽にさせる方法がないか、再びスマホで調べていると、土魔法で雑草だけ土の中から出してしまえば簡単と、誰かが書き込みをしているページを見つけた。しかも、雑草の根っこまで出せるので、暫くの間は雑草が生えてこなくなる。
熱湯を雑草にぶっかけるという方法もあるが、直ぐに効果があらわれるわけではないらしいし、お湯を沸かすまで時間もかかる。時間や手間を考え、土魔法の【クエイル】という魔法をえらび、魔法を習得する。この土魔法は、本来攻撃魔法なのだが、使い方によっては生活魔法として使えるため、お得感が強い。
アオに作業を止めるように指示し、不思議そうな顔をして自分の側へやってくる。魔法を覚えてみると分かるのだが、簡単な作業程度なら、少し魔力を消費するだけで、地面を柔らかくする事ができる。そして、魔法を使い、地面を柔らかくさせていくと、雑草の根っこが浮き上がってくる。
アオは「フォォ! 凄いですよ!」と、両手を上げながらぴょんぴょん飛び跳ね、喜びを身体で表現していた。抜く必要がなくなった雑草を1箇所に集め、鬱陶しい雑草を一網打尽にした。
「あっという間に終わってしまいましたね」
雑草がなくなった庭を眺めながら寂しそうにアオが呟き、身を預けてくるので抱き寄せると、アオは嬉しそうな顔をして腰に抱きついてきた。
しばらくの間、二人で雑草がなくなった庭を見つめながら日向ぼっこをしていると、スマホのランプが点滅していることに気が付き、何かを受信していたことに気が付き、スマホを手にし、何を受信したのか確認すると、受信していたのはメールであり、昨晩連絡したリフォーム業者からだった。
メールに書かれていた内容は、『先程、建物の水廻り調査が完了し、見積書を作成いたしましたのでご確認のほど、よろしくお願い致します』と、いつの間にか調査を済ませたという内容だった。
いつの間に訪れたのだろうか。いや、そのようなことより、不法侵入にあたるのではないのだろうか。などと、考えても仕方がないことを考えてしまうのは、今の世界に対して、まだ順応しきれていないからだろうし、前にいた世界と同じで、物事を深く考えすぎているのかも知れない。メールの文面には、こちらが雑草の処理していたため邪魔をしてはいけない……と、記載されていたため、自分たちが何をしていたのかも把握していたようだった。
それに、彼らを訴えようにも、この世界にその様な法律が有るのかすら分からないし、玄関などの戸締まりをしていなかった、自分たちにも責任がある。ここは前にいた世界とは異なるのだから、考え方を改めなければいけない。そんなことを思いながら見積書の内容を確認してみると、現在使用している井戸を塞ぎ、給排水の設備を中心に改良するようで、改良後の図面も添付してくれており、かなり分かりやすい。エネルギーに関しては色々な魔法石を使用するらしく、その費用も含まれていた。
「見積もりの総額は12万Gか……」
現在、手持ちのお金は9万と少しだけ。他の場所にお金を預けているわけではなく、魔法の袋の中に端数収納しており、残りは全てスマホの中へ収納しているため、どこを探してもお金がある訳ではないのだ。また、この家を借りた際、初期費用として随分と必要と思われる物を購入するため使ってしまったのが悔やまれる。
初期費用として購入した物の中で、一番値が張ったのが服である。基本的にこの世界の服は、中古の服しか市場はに出回っていない。新しい服に関しては貴族が仕立て、使い古された物が市場に出回るのだが、それでもそれなりにお金を持っているものだけしか購入することができず、更に使い古されたものが、ようやく一般市民の市場へと出回るという流れとなっており、それなりの服を求めてしまうと、値が張ってしまうのであった。
業者から送られてきた見積書の有効期限を確認すると、期限は3ヶ月と記載されており、現状ではお金がないため、改めてこちらから連絡すると返信した。
日はすでに暮れ始めていたが、夕方の街並みを確認するためアオと共に町を探索することにして家の戸締まりをして町へとくり出した。このリヒテンブルクはエリエートの町より数倍の広さを誇る。エリエートの町よりも沢山のお店があり、それなりに賑わっていた。ブラブラと目的もなく歩いていくと、出店が沢山ある場所に辿り着いた。アオは見慣れない物が多く、アオは物珍しさに目を輝か出ながら出店を観ており、ウインドショッピングをしながら時間を潰す。
「なぁ、アオ」
店を観ながら疑問に感じていたことがあった。
「どうかなされましたか?」
こちらが少しだけ難しい顔をしていることに気が付いたらしく、アオは真剣な眼差しで見つめかえす。
「物凄いくだらないことなんだが、食べ物ってどれも似た食材を使用した食べ物しかないけど、他に違う食材を使っている食べ物はないのか?」
難しい顔をしている理由が本当にくだらないことだったらしく、アオは少し呆れたような顔をしたが、直ぐに表情を元に戻し、少しだけ何かを考えるそぶりを見せてから出店の方に顔を向け、首を傾げた。
「あのぉ、それはどういう意味でしょうか? 色々な食べ物があるように思いますが……」
こちらが何を伝えたいのか分かっていないらしく、アオは出店の方を再び見つめる。こちらの世界に来て色々なはを食したが、基本的に肉をメインとして考えられているメニューしかなかった。確かにサラダのような物もあるのだが、芋などを使用した食べ物が一つもないのである。
「例えばさぁ、芋を使った料理とかあるじゃん?」
例えた食材に対し、アオは不思議そうな顔をする。
「イモ……ですか? それはどのような物なのでしょうか?」
どうやら芋を知らないらしい。アオは眉間にシワを寄せながら腕を組み、芋という物がどういう物なのか考えこむ。しかし、この世界では名前が異なっている可能性があるため、スマホでジャガイモを検索し、ジャガイモの画像を見せた。だが、アオはジャガイモよりもスマホに映し出された画像の方に驚いていた。
「リョ、リョータ様の神器は凄いですね……まさかこの様な鮮明な絵を……」
まじまじとスマホに映し出されたジャガイモの画像を見つめるアオ。そんな事よりも、ジャガイモがこの世界に存在しているのかを知りたいのだが……。
「確かにこれは凄い代物だ。だけど、それよりもコレは見覚えはないか?」
そう言うと、アオは難しい顔をして画面に映し出されたジャガイモを見つめながら口を開く。
「えっと……物凄く言い難いのですが……それは……毒物で、食べることなんてできない代物ですよ。それ……」
少しだけ頬を引き攣らせながらアオは言っているように見えるが、その眼は残念な奴を見るかのような目をしていた。まさかこの世界では、ジャガイモが毒物だというのが常識なんて、誰が思うだろうか。やはり、この世界の物は、自分の知っているものと異なっているのだろうか……。
改めてスマホでジャガイモの事を検索してみると、この世界でもジャガイモは、食材として扱うことが出来るものだと記載されていた。
「う~ん……。やはり、これはれっきとした食べ物だぞ? 知らないのかアオ」
「知らないのはリョータ様ですよ! それは悪魔の実として有名な実ですよ! そのような物を食べてしまうと嘔吐や頭痛、酷い場合は死んでしまう事もあるとか……」
眼をかっぴらいて身体を震わせながらアオが説明をする。もしかしてジャガイモの芽に毒があるだけで、芽を取れば食材として扱える事を知らないようだ。
「もしかして、芽に毒があるのを知らないのか? その毒って言うのはソラニンとかチャコニンって天然の毒素なんだけどな」
実際は変色した皮にも同じ毒が含まれているのだから、悪魔の実と言われても仕方がないのかもしれないが、しっかりと処理をしたら問題ない。
アオは言われている意味が理解できていないらしく、難しい顔をしながら首をかしげる。
「え? そら……ちゃこ……んん? 何ですかそれは。どこかの国や町の名前でしょうか?」
どうやら芋の芽に毒素があることを知らないらしい。
「たしかにこれは毒がある。だけど、それは芋の芽に含まれているソラニンとかチャコニンいう毒素の成分が原因なんだよ。それを取り除けば、普通に食べることができるんだよ」
うんちくを述べてみたものの、ただスマホで調べた内容を読んだだけなのだが……。
「またまた~……。リョータ様はアオが田舎者だと思って馬鹿にしておられるのですか? アオはそのような嘘には騙されませんよ」
全く信用されていない。だが、それは仕方がないことである。相手は悪魔の実と言われている代物だ。信用する方がおかしいだろう。
「アオ、これが売っている店はあるのか?」
「そんな店は存在しません! 誰が好き好んで毒を食べるというのですか!」
腕を組み、まるで説教をするかのように呆れた様子でジャガイモの危険性を説明するのだが、ジャガイモの危険性はアオよりも知っているのだから、アオの言葉に耳を傾けることなどせず、スマホでジャガイモが栽培されている場所を探し始めると、町の中ではジャガイモは栽培されていなかった。
だが、町の外に出れば天然のジャガイモがあるらしく、説明しているアオをシカトして家に置いている荷物を取りに戻ることにした。
ブツブツと説明をしていたアオだったが、目の前に誰もいないことにようやく気が付き、大きな声を上げて追いかけてきたのだった。家にたどり着き、家に置きっぱなしにしていた荷物をスマホの中へしまうと、ようやく帰り着いたアオ。荷物を整理していることに気が付き自分の荷物をまとめ始め、剣や銃などを装備する。どこへ行くのか説明はしていないが、町の外へ出るということだけは理解したらしい。普通であればどこへ行くのかと質問してくるものだが、奴隷の身分であるアオにはそのようなことを聞くことができない。その部分に関しては少しだけ申し訳ない気持ちになった。
どこへ行くのか説明をした方が良いのか迷ったが、ジャガイモを取りに行くと言ったところで、悪魔の実と言われているくらいなので反対されるに決まっている。
戸締まりの確認を改めて行って、一言もアオと話すことなく町の外へ出ていき、スマホで調べた場所へ向かう。小一時間ほど歩いた場所にジャガイモが埋まっており、蔦を勢いよく引っこ抜くと、たくさんのジャガイモが掘り起こされる。アオはその光景にドン引きした様子でそれを見つめていた。
ジャガイモは悪魔の実と言われているため、誰も手にすることはしていなかったようで、5キロほどのジャガイモを収穫し、町へ戻っていく。掘り起こしている間もアオは喋ることはなく、少しだけ離れた場所で見守っていた。
町へたどり着き、どこにも寄ることはなく家に帰ると、さっそくスマホからジャガイモを出して泥を落とす作業に入る。主人が一生懸命作業をしているさなか、アオは柱の陰に隠れながら見守っていた。少しくらいは手伝ってくれたって良いのではないかと思い、チラッとアオがいる方を見ると、少し怯えた表情をしていたため、アオに何かを求めるのを止めた。
「リョ、リョータ様! 身体の調子が悪くなったら、直ぐにその場から引き剥がしますからね!!」
ようやくアオが口を開いたと思いきや、手伝うという言葉ではなかったことに笑いを堪えながら、ジャガイモを洗い、包丁で芽を取り除く。
取り敢えず6個ほどのジャガイモを切り、鍋に油を入れて火を付ける。竈式のためかなり面倒くさい。台所は早めに改善する必要があることを改めて認識し、早々にお金を貯めようと心に刻み、鍋を熱していき菜箸で油の温度を見極める。少しすると、菜箸から『シュワシュワ』と、少しだけ泡がてくるのが適温といえるだろう。そして、先ほど切ったジャガイモを鍋に投下すると、『ジュワ~』と音を立てて芋が揚げられていく。良い音を立てながら芋の色を見極めつつ転がしていき、一つだけ取り出して皿に置く。皿に置かれた芋を割って状態を確認し、口の中へ放り込む。
「うめぇ!! やっぱりポテトはこうでなくっちゃな!」
懐かしい味が口の中に広がり、ついつい言葉が漏れてしまう。そして、投下したジャガイモを全て皿へ移し、塩を振りかけて再び口の中へ芋を放り込む。
懐かしさにどんどん口に入れ、ポテトの味を噛みしめていると、先ほどまで離れていたはずのアオだったが、いつの間にか側へ寄ってきており、口を開けて見つめていた。
「お前も食べるか?」
「ど、毒がないか……確認を致します……」
今さら毒味をする必要性は全くない。ただ単に、おいしそうに食べているのを見て、自分も食べたくなったのだろう。
「ほれ、口を開けてみな」
そういうと、アオは口を大きく開けて「あ~ん」と言う。大きく開かれた口の中に、熱々のポテトを放り込むと、その熱さに驚いた顔をして、ホフホフと声を出しながら咀嚼し、初めてのポテトを味わい、飲み込むと、アオは「も、もう一つ食べてみないと……」と言うので、苦笑しながら大きく開かれた口の中へポテトを放り込んだ。
再びホフホフと言いながらポテトを味わい、飲み込む。ポテトの味が気に入ったのか、「もう一つ!」と、おねだりをしてきた。
「そんなに慌てるなよ、新しいのを作ってやるからさ。そこにある奴は自分で食べろよ」
そう言ってアオに箸を渡すと、目を輝かせながらポテトを次々と口に放り込むアオ。あれだけ毒の事を気にしていたのが嘘のように食べまくる。気が済むまでポテトを食べさせていると、満足した表情をしていたので、「美味かったか?」と、少し嫌味ったらしい声を出し、笑いながら質問すると、アオは自分が口にしていたものが何だったのか思い出したようで、箸を落として顔を青くする。
「美味しかったか?」
再び聞いてみると、アオはどもりながら「と、とても美味しかった……デス……」と答えた。
「なら、俺が言ったことが嘘ではないということで良かったよ。なぁ、これって町で売る事ができると思うか?」
町の外へ行かずに稼ぐことができるのであれば、アオを危険な思いをさせずに済む。
「見た目は悪魔の実ではないので売れるとは思いますが、正直に言うと分かりません。ですが……ですが、アオが店の前で試食をしながら売り込みを致しましょう!」
試食しながら売り込みをすると言っているが、その顔はただ単にポテトが食べたいと言っているだけの顔である。しかし、あえてそこには触れないでおこう。何故なら、アオの目が輝いているから。
「そうだな、材料があれば他にも色々と作る事ができるし、露店ができるならやってみたいな」
レシピを売るという手もあるが、ジャガイモを悪魔の実と言われているほどの物だから、早々簡単に買い取り手が付くわけではないだろう。だったら自分で作って販売をした方が早い
「なら、材料など調べに行きませんか! アオはリョータ様のお手伝いをしたいです!」
「そうだな。でも、今日はもう遅いから、明日からにするか」
明日にしようと提案すると、アオは元気よく返事をした。この世界には一応、牛が存在しているため牛乳やチーズはあるが、マヨネーズやプリンなどの卵を使用した食べ物がない。その理由の一つとして、プルスが凶暴なため、卵は高級品として扱われているからだ。そのため、卵を使用した料理は高級品として扱われてしまっているのである。だけれどパンは普通に流通しているため、小麦粉などは存在しているはずであるが、卵は簡単に仕入れることは出来ないため、何が食材として流通しているのか確認する必要がある。
翌日、アラームをセットしていたため寝坊せずに起きることができ、朝早くアオと共に食材を購入しに街へ向かう。
食材が売っている露店で話を聞いてみると、予想していた通り小麦粉などは普通に販売されており、値段もどれほど高いわけではなく、小麦粉はキロ30Gで売られていた。
取り敢えず10キロ程小麦粉を購入したついでに、お店を出すにはどうすれば良いのか聞いてみると、冒険者ギルドの他にもギルドは存在していたらしく、そこで登録すれば出店することができるようだ。ギルドの場所を店の人に聞いて、教えてもらった場所へと向かった。
冒険者ギルドの他に商業ギルドというギルドがあり、物を販売するためには、商業ギルドで商人登録をする必要があり、冒険者ギルドから少し離れた場所に商業ギルドがあり、冒険者らしくない人達が多く出入りしていた。
商業ギルドは冒険者ギルドよりも規模が小さく、冒険者ギルドよりも半分くらいの建物だった。しかし、冒険者ギルドは訓練場や酒場が合併しているため、スーパーマーケット並みに広いのは当たり前なのかもしれない(エリエートの練習場は地下にあったので、ギルドとしての大きさは居酒屋くらいだった)。
取り敢えず商業ギルドの前に立っていても仕方がないため、ギルドの中に入って行くと、ギルドの中には沢山の人で賑わっており、入り口では番号札を渡す人がいて、番号が呼ばれたらカウンターで要件を話するシステムとなっていた。まるで郵便局か銀行のようだった。
番号札を受け取り、自分たちが呼ばれるのを椅子に座って持つことにして開いている席に腰かける。ボケっとしながらカウンターで行われている手続きなどをみていると、職員らしき人から何かの品物を受け取っている人がいた。もしかしたら商業ギルドでしか購入できないものがあるのかもしれないなぁ……などと思いながら目線を横に動かすと、どこかで会った事がある人が隣の席に座っており、一瞬だけ時間が止まったような気分に陥った。
「えっと……あれ? もしかして、君は……エリエートの町で防具屋にいた……えっと、アルか?」
「――え?」
一度だけしか会ったことはないが、彼女のような美人を忘れるわけがない。そう、エリエートの町で防具屋に勤めていたアルケミ=エレ=サナタリだ。というか、フルネームで彼女の名を覚えていた自分もすごい……。
「えっと……どちら様……でしたっけ?」
「ほら、俺だよ! エリエートの町でぼったくりの店に入ってしまったリョータ! 覚えてないのか?」
エリエートの町でアルに会ったのは、既に3週間以上前になる。その間に彼女は沢山の人と出会っている可能性もあるため、自分のことを忘れてしまっていてもおかしくはない。だが、思い出してもらうための説明が情けなさ過ぎて、恥ずかしさが込み上げてくた。
「え? あ~……。えっと……た、たしか……かなり不思議なアーティファクトをお持ちになっていた……」
少し困惑した表情を浮かべていたのに傷ついたが、覚えていてくれたことが嬉しく話を続けた。
「そう! そうだよ! 良かった~。アルマに行ったら辞めたと聞いていたからな。元気かなって……」
「え……あぁ……。お店に行ったんですか……」
店の話をした瞬間、アルは表情を曇らせていたが、直ぐに笑顔を作る。何か変なことを言ってしまったようだ。
しかも、よく見るとアルの姿は薄汚れているように見え、ここ数日間、風呂などに入っているようには感じられない。
「アル、その格好……どうしたの?」
聞いてはいけないとわかっていても、つい言葉が出てしまい、アルは「いやぁ~……ちょっと……」と、苦笑いしたところで、アルは自分の番号が呼ばれたことに気が付き、「ごめんね」と、一言言って席を立つ。
何がなんだかサッパリ理解することができず、首を傾げながらその後ろ姿を見送った。




