25話 卒業
その夜、アオにスマホの事を話すことにした。アオは奴隷だけれど、大切なパートナーでもある。
そして、これからも一緒に生活するのであれば、このスマホに対する理解者が必要だ。
「アオ、大切な話がある。そこに座ってくれないか」
「大切な……話ですか?」
アオはベッドの上に正座して、不思議そうな目で見つめてくる。
「とても大事な話だ」
「とても大事な……話。分かりました。アオは何を言われても、それを受け入れる所存です。リョータ様のお話を一言一句、聞き逃さないよう、頑張ります!」
真剣な目に変わり、唾を飲み込んで俺を見つめる。
「スマホなんだけど……」
そう言ってポケットからスマホを取り出してアオに見せるが、アオはスマホを見ることはなく瞳だけを見つめ、息を飲んだ。
「実はさ、これ……アーティファクトじゃないんだよ。これは俺にしか使えない神器のようなものだ。俺やアオの身体能力を上げてくれたり、地図が見る事ができたりする道具なんだ」
「リョータ様がそう仰有るのなら、そうなんですね」
真剣な目で見つめてくるのだが、どうも信用されているようには思えない言葉である。
「本当の話なんだよ。信じてもらうために、今から魔法をアオに覚えさせようと思う」
「え? アオが魔法を? リョータ様、ご存じないのですか? 獣人は魔法を使用する事ができないのですよ? 亜人であれば話は別ですけど……そりゃ……魔法が使えたら素敵だと思いますが……でも、使えないのですから……」
アオの口から『亜人』というワードが出て、少しだけ時間が止まった感覚が訪れる。
獣人の他に別の人種がいるのは分かるが、獣人は亜人の仲間なのではないのか? しかし、それよりも話を進めよう。
「だが、俺はアオに魔法を覚えさせる事ができる。何故なら、スマホがあるからな」
そう言って格好良くスマホを見せるが、アオは頬を引き攣らせ、言葉を否定するように手を振る。
「いやいやいや……。いくらリョータ様が凄い御方だとしても、獣人に魔法を覚えさせる事なんか……」
アオは無理だと言い張る。
「いいか、アオ。獣人には、魔法を使用するための魔力が極端に低いが、魔力が無いという訳ではない。その証拠に、獣人でも光魔石や水魔石を使用することができる。獣人にも魔力があるから、使用することができるんだ。簡単な魔法程度は覚えることが可能なくらいの魔力はあるんだ」
この町へ向かうのにかなり時間があり、光魔石や水魔石などを改めて調べた。
その結果、生活に必要な魔道具には、体内にある魔力に反応する事によって使用できる。
本当に魔力が無い者は、魔道具に触れても反応する事はない。生活するうえで必要な力だからこそ、誰にでも魔力が備わっているのである。
スマホの能力を証明させるため、スマホの魔法アプリから浄化の魔法を選択し、誰に覚えさせるかと選択肢が現れ、すでに覚えているため、自分の名前はグレーとなっており、選べるのはアオの名前だけ。
アオを選択すると、画面が変わり『インストール完了』の文字が現れる。
アオのステータス欄を見てみると、魔法のところに【浄化】の文字が追加されていた。
そして、アオに何かしらの変化があるのか様子を窺っていると、アオは突然、驚いた顔をする。
「あ……。そ、そんな……嘘……」
アオは後退り頭を抱える。
「どうだ? アオ」
「何でしょうか……これ。頭の中に浄化っていう言葉が……」
「使ってみろ。使い方は分かるな?」
「は、はい……なんとなくですが……」
返事をして、アオは両目を閉じて、頭の中に浮かんでいる【浄化】の魔法を自分の身体に掛ける。
すると、魔法が発動したらしくアオは驚いた顔をした。
だが、どこに魔法を掛けたのかはアオにしか分からないため、表情で理解するしかない。
「や、や……った! ア、アオは魔法使いになれました!」
歓びの声を上げると、歓喜まわりポロポロと涙を流す。
次第に声を上げて泣き始めてしまう。
「どうだ? これで信じてくれたか?」
何度も頷きながら涙を流すアオ。よほど嬉しかったらしい。
少しの間、アオは泣きじゃくっていたが、暫くしてアオは落ち着きを取り戻して、傍により甘え始める。
顔を胸に擦り寄せ、まるで動物が自分の臭いをマーキングするかのように擦り寄せたのだった。
「リョータ様は凄い御方です! アオを冒険者にしてしまい、更には獣人が魔法を使えるようにしてしまうんですから」
それはスマホのおかげなのだけれどね。
「言っただろ? これを使えば俺とアオの身体能力を上げる事もできるし、色々な事をできるようにする事もできる。これは2人の秘密だからな」
「素敵です……」
摺り寄せてくるアオの目はトロンとしており、エロい事をしているときと同じ目だった。アオは淫靡な空気を醸し出し、首筋をペロペロと舐め始め、身体を押し倒してくる。これ以上話をする雰囲気ではなく、アオは首筋から顔を舐めるようにキスをし、何度も唇を重ね合わせた。
翌朝、朝食を食べ終えると、アオと共にギルドへ向かった。
この町へたどり着くまでに仕留めた魔物や獣の換金を行い、その後、五人のトレーニングに付き合うためだ。
換金を終えると、五人はすでに弓の練習を始めており、それぞれに教官が付き添いながら指導していた。考えてみると、自分たちは弓など持っておらず、教えると言ったところでどうやって教えてよいのか分からない。
仕方なしにギルドから武器屋がある場所を教えてもらい、まずは弓を買いに出かけた。
武器屋に到着し、アオが使えそうな弓矢を購入し、アオは五人のもとへ向かわせる。
少し残念そうな表情をしていたが、これからの生活を考えても、生活費を少しでも多く稼がないとならない。
久し振りに一人での行動で少しだけ気が楽になり、鼻歌交じりに町の外へ出て魔物や獣を探し始める。誰かを守りながらの戦闘が多かったので、自由気ままに新しい武器の性能を確認しながら、安全に戦闘を着々とこなしていく。
夕方になり、ギルドへ戻って換金を行い、アオ達を迎えに練習場へ行き、宿屋へ戻る。このような生活を四日ほど続けていると、五日目の朝、朝食を食べている最中、イースとマリーの二人が、狩りに同行したいと言い出す。
できれば放っておいて欲しかったが、何かあったら夢見が悪い。今までの練習状況をアオに確認すると、「多分ですが、弓であれば問題ないかと思いますし、実戦を経験するのは良いことだと思います」と言い、アオとしては賛成らしいが、他の三人については何も語ることはなかった。
取り敢えず、アオの言葉を信用して二人だけ連れて行くことにし、二人が学んできた成果を確認するために町の外へ出て、獲物を探す。
今まで5人がかりでも結果を出すことができなかった二人は、ようやく蕾が出始め、それぞれがビッグラビを仕留めることに成功し、二人は抱擁し喜びを分かち合った。
五人のうち二人が結果を出してくれたことにホッと息を撫で下ろす。若手を育てた方が良いと言った手前、やる気を見せている若手冒険者を育てることができなかったら、ギルドマスター達に何と言われるか分かったものではない。
夕方になるころには、ゴブリン程度だったら二人で仕留めるまでに成長したので、町へ戻り、ギルドで換金を行ってみることにした。
二人は魔法の袋なんて持っている訳はなく、仕留めた獲物はスマホの中に仕舞っている。
二人にはスマホについてはぐらかしてきていたのだが、アオがいないことを良いことに、執拗に聞いてくる。
仕方なしに先祖代々伝わるアーティファクトだと嘘を教え、ようやく納得してもらった。
二人に換金のやり方を尋ねてみると、山菜や調合材料などの採取依頼とは異なっていることが分かり、これも良い機会だから、換金のやり方を教える。
山菜や調合材料の採取も冒険者カードをギルド職員に渡すのは同じだが、山菜や調合材料などの依頼を受ける者は、魔法の袋など持っているものは少ないため、袋ごとギルド職員に渡し、中身を確認後、報酬を貰うことができるらしい。ちなみに袋は返してもらうことができないため、新たに道具屋で袋を購入する必要があるとのこと。
袋くらい返してやれば良いのに……。
ギルドに到着し、二人はギルド職員に換金を依頼する。
二人の後ろで職員とのやり取りを聞いていると、かなり適当にあしらわれており、少しだけ苛立ちを覚えたので口を出す。
「なぁ、あんた。彼女たちは俺の弟子なんだぞ。しっかりと対応してやれよな」
すると、ギルド職員は怪訝な顔をしてこちらを見るのだが、直ぐに態度を改め、慌てて作業に取り掛かる。普段であればアオに任せっきりのため、このような状態で何かを言ってもらえると思っていなかった二人。
少し驚いた顔をして、こちらを見ていた。
「なんだよ? 俺の顔に何かついているのか?」
少しだけ照れ臭くなり、素っ気無い態度を取ると、二人は嬉しそうな表情に変わり、「ありがとうございます」と、お礼の言葉を述べる。
「別にお礼なんて言われる事なんてしてねーよ。あまり教えていないが、お前たちが俺の弟子だということは本当のことだろ。それよりも換金する場所はここじゃなくて、あっちだ」
そう言って換金する場所を指さし、先に移動する。
二人は弾んだ声で返事をしてついて来るのだった。それから、彼女たちが仕留めた獲物をスマホから取り出し(すでに解体済み)、換金を行う。
職員は少し怯えた表情で彼女らのカードを自分に渡そうとしてきたので、睨みつけると、慌てて職員は二人にカードを丁寧な態度で返す。
何故、ギルド職員が自分に対して怯えているのかというと、すでにアオと自分はエリエートの町に有った冒険者ギルドから連絡が入っていたからである。
冒険者になりたての二人が、オークの集落を落とすなんてありえない話だったが、カードの情報は嘘がつけないらしく、この町のギルド内で噂になってしまったのである。
カードの返却後、二人は初めて狩りを行った報酬を受け取る。初めて自分の手で仕留めた獲物を換金し、手に入れたお金は随分と重く感じたらしく、お金が入った袋を両手で持つ。その表情には、達成感が感じられる。だが、直ぐに二人は表情を硬くした。
何か不満でもあるのか? などと思っていると、マリーが手にした袋を差し出してくる。それを見たイースも同じように差し出してきた。
「こ、これ……少ないですけど……」
マリーが勇気を絞って言葉にする。
だが、何が言いたいのか理解することができず、首をかしげてしまう。
「なにそれ?」
「い、今はこれ位しか返済する事ができません……で、でも! 必ず返します!」
どうやら借金の返済をしようとしているらしい。
だが、どうしても受け取ることはできない。
「はぁ? 何を言ってるんだ? これを受け取ると、お前たちは生活できなくなっちまうじゃんか。それに、俺はお前たちから返済してもらうつもりは一切ない。それは自分たちの生活のために使え」
二人はポカーンとした顔をし、何を言われているのか理解できていないようだ。
「あのなぁ……。お前たちは名ばかりだとしても俺の弟子なんだぞ。弟子から金なんか受け取れるものかよ。そんな事を考えている暇があれば、剣でゴブリンを仕留められるよう、もう少し努力しろよ」
意外だった言葉らしく、二人は驚いた顔をしていた。
人を何だと思っているのだろうか……。
「前から何度も言っているけど、まずは生き残ることを考えろ。死んでしまったら全ての意味が無くなってしまう。自分の経験を他の人に伝えることは、どんなことよりも大切な財産だ。俺が教えられることは、生き残る術で、お前たちが教わることは生き抜くことの意味だ。それを忘れるんじゃないぞ」
袋を仕舞うように言い、アオ達がいる訓練場へ向かう。
後ろからはすすり泣く声が聞こえるが、振り返って優しい言葉をかけるつもりはない。
訓練場へ到着し、アオに今日の出来事を話す。
すると、アオは二人の手を取り、嬉しそうに「おめでとうございます!」と、言葉をかけた。必死で頑張っていたのをまじかで見ていた。自分の言葉より、アオの言葉の方が重みがあり、二人はアオに抱き着き、声を上げて泣き出してしまった。
それを見ていた三人。
少しだけ悔しそうな表情を見せたが、直ぐに練習へと戻っていった。その後、二人はアオに任せ、再びホールへ向かう。
二人が自立したことを伝えるためだ。
女性のギルド職員に事情を説明すると、「しばらくお待ちください」と言われ、職員は席を外す。
すると、アオに任せていた2人がやってきて、明日について話がしたいと言う。
「明日と言われてもなぁ……。2人はすでに魔物や獣を仕留められたのだから、そろそろ独り立ちしても良いんじゃないか?」
セリカとは異なり、彼女らは自分たちで狩りができるようになった。
今の彼女たちに必要なのは、実戦経験だけである。とは言っても、何かあっても困ってしまう。
そんなことを言っていると、職員が戻ってくる。
「ギルドマスターに2人の戦歴を確認していただきましたが、自立を認めるとのことです」
ギルド職員の話を聞いて、すでに自分たちは弟子を卒業させられた事に落胆する二人。だが……。
「しかし、二人の戦歴はまだ浅いため、もう少しだけ同伴していただけないでしょうか? これはギルドマスターからの『依頼』ではなく、ギルドとしての『お願い』です」
優しい笑みを浮かべながら言う女性ギルド職員。ギルドマスターの依頼ではなく、ギルドとしてのお願いと言う事は、お金が発生しないことを現している。
ようやく自由になれると思っていただけに、かなりショックを受けた。だが、ギルドのお願いを断ると、後々面倒なことになるかもしれないため、引き攣った顔で「わかりました」と、答えたのだった。
それから全員で宿に戻り、夕食を食べる。
イースと、マリーの二人は今まで見たことないほど嬉しそうにしていたが、残りの三人は複雑な表情を浮かべていた。
何だかんだ言って、二週間近く一緒に生活をしてきたが、自分よりも先に認められたことに納得ができるわけでない。
更に三日が過ぎ、いい加減、三人で行動するのも飽き飽きしてきた。
他の三人はどうなっているのかアオに聞くと、「ハッキリ言いますと、かなり微妙です」と、返ってきた。
確かに一生懸命に練習をしているらしく、弓はそこそこ扱えるようにはなったらしいが、まだ目を離すことはできないらしい。
しかし、宿の約束は今日までであり、先を考えるとしても彼女達に現実を分からせる必要を感じ、今日は訓練ではなく実戦を行ってもらう事にした。
久し振りに全員で町の外へ出ることとなり、イースとマリーの二人はご機嫌だったが、他の三人は微妙な表情を浮かべている。
それもそのはず、二人はすでに実戦を何度も経験しており、それなりに自信を付けているのに対し、他の三人はリヒテンブルクに来てからは、一度も町の外へ出ていないため、実戦は本当に久し振りと言う事になる。
だが、こちらとしてはそのような事を気になんてしていられない。彼女らの宿代が掛かっているのだから。
取り敢えずスマホで索敵を行い、適当な獲物を探す。少し離れた場所に獲物の反応があり、その場所へ向かう。
イースとマリーの二人にとっては、すでに日常となっているため気にした様子もなく着いてくるのだが、他の三人は緊張した様子で着いてくる。幾度となくイースとマリーが「大丈夫」と、声をかけるが、それは逆効果で、上から目線で話しているように感じているはずだ。
それとなく二人に言葉を慎むように言うと、納得していない表情を浮かべる。それを見ていたアオは、微笑ましく感じているのか、笑顔を絶やすことはなかった。
ようやく獲物の側に近づき、歩みを止める。アオも獲物の音が聞こえているらしく、三人に弓を構えるよう指示する。
誰が獲物に当てるのか分からないが、まずは仕留めることが大事。どこでそのような事を学んだのか分からないが、アオはそう言った。
しかし、三人は酷く緊張しており、このままでは外してしまうだろう。
「なぁ、お前ら……いっちょ前に緊張してんの?」
弦を引き、いつでも放てる態勢の三人に向かって言う。
しかし、三人には声が届いていないようで、誰も反応する事はなかった。
「お前らが外しても、誰も笑ったりなんかしないぞ。アオだって初めは外してばかりだったんだからな」
まさか自分の名前が出されるとは思っていなかったアオ。「ちょ! な、何を仰っているんですか!」と、恥ずかしそうにアオが声を上げる。
突然の言葉に三人は驚いた顔をし、アオを見る。
「誰だって初めは外してしまうもんだ。だから外しても笑ったりなんてしねーよ。だけど、気持ちだけは負けるんじゃない。外したからと言って、落ち込むな」
まだ外してもいないのに、外した扱いされる三人。
緊張していた表情から怒りの表情に変わり、「まだ外したとは決まってません!」と、キリトが睨みつけながら言い、再び獲物に目を向けると、キリトは矢を放つ。
解き放たれた矢は、勢いよく飛んでいき、獲物の胴体に突き刺さる。その獲物とはヴェルであり、初めて対峙したときは追い回された相手である。
矢が突き刺さったヴェルは、矢が刺さった勢いで横に転がるように倒れる。自分で撃ち放った矢が突き刺さったのを呆然と眺めるキリト。
その様子を見ていたイースと、マリーの二人は、まるで自分のことのように喜びを現す。
スマホで生死を確認すると、まだヴェルは生きており、「当たったから終わりってわけじゃないぞ」と言って、横たわっているヴェルの側へと近づく。
少し緊張した顔をして、キリトは腰に下げていたショート・ソードを鞘から抜き、ヴェルに止めの一撃を加える。
初めて自分の手で獲物を仕留めたことを実感しているのか、両手を見つめた後、その手を胸にし抱きしめるような仕草をみせる。
それを側から見ていた二人は、少しだけ悔しそうな表情を浮かべていた。
それから暫くして、シサル、フェルトの二人は獲物を仕留めることに成功し、ようやく二人は安堵の表情を浮かべるのであった。
イースとマリーの二人は、三人が獲物を仕留めたのを確認した後、アオと共に別の場所で狩りをおこないに行く。
アオは少し不貞腐れた表情をしていたが、これ以上、二人がいたら三人がやり難いのを察し、渋々ひき受けてくれた。
それから暫くの間、三人には手あたり次第に獲物を狩らせる。夕方になり、アオと合流するためにスマホで場所を探していると、誰かが数匹の魔物と戦っているのが分かり、取り敢えず戦闘が行われている場所へと向かう。
スマホで確認した場所の近くにたどり着くと、イースとマリーがコボルトと戦っており、二人は協力をしながら一匹ずつコボルトを仕留めていく。
それを見ていた三人は、随分と差がついたことを実感したらしく悔しそうな顔をしていた。
「なぁ、お前たちは何を勘違いしているんだ?」
溜め息交じりに問いかけると、三人は不貞腐れた顔をしながら「だって……」と呟く。
「他人のことよりも自分たちのことを考えろよ。これから先、俺やアオはお前たちの側にいないんだぞ……。あの二人は今、アオが側にいるから自由に戦う事ができるだけで、いなくなったらお前らと似たようなもんだ。まずは自分たちが何をできるのかを考え、行動に移せよ」
しかし、三人は納得ができない様子で見つめてくる。どんな優しい言葉をかけたとして、三人には響かない。
少し突き放した言葉の方が良さそうだ。
「そうやって何時までもいじけていろ。そうやっていじけているうちは、あの二人に追いつく事すらできない。一生そうやっていじけていろ」
離れた場所では、イースとマリーが最後の一匹を仕留め、周りを警戒しながらコボルトの死骸へ近寄っていく。それを見ていたアオは「上手く連携を取って戦いましたね」と呟き、こちらに目を向けた。どうやら自分たちの存在に気が付いていたようだ。
二人はお金を出し合って購入した魔法の袋に、コボルトの死骸を収納させてアオの方を見ると、アオは自分たちに目を向けていなかったため、アオの目線の方を見ると、こちらに気が付いた。
そして、急いで死骸を袋に仕舞い、こちらの方へやってきた。
「よぉ、随分と連携が上手くなったじゃないか」
息を切らせながら駆け寄ってきたマリーに言う。3人は後ろに隠れるようにして様子を窺っている。
「アオさんが教えてくれたからです。本当に感謝しています」
イースが言うと、アオは嬉しそうに笑い「それはイース様とマリー様が努力をした結果です。アオはそれのお手伝いさせて頂いたまで。全てはお嬢様達の実力ですよ」と、答えた。
アオ達と合流し、ようやく町へ戻ることとなったが、イースとマリーの二人は、先ほどの戦いについて反省会を開きながら歩いており、シサルたちは無言で俯きながら付いてきていた。
耳が良いアオは、先ほどの会話を聞いていたらしく、「折角リョータ様が指導して下さっているのに……もったいない」と、呟く。
「俺は何も指導してないぞ。全てアオに任せていたからな」
アオの呟きに答えると、アオは優しく微笑んだ。
「ですが、アオは精神的なことは教えておりません。アオは未熟者なので、そのような事は説明できません」
精神的な事は教えられない。アオはそう述べた後、声を少しだけ大きくして、後ろにいる三人に聞こえる声で続けて言う。
「確かに戦闘では技術が必要です。ですが、一番重要なのは生き抜くという信念だとアオは思います」
強い言葉でアオは言い、生き抜く信念が大事だと……。
「信念ねぇ……。いまいちピンとこねーなぁ」
いまいち理解ができないため、そう口にする。アオは「リョータ様は分からなくても良いのです。アオの危険が迫った場合、リョータ様がアオを助けてくれるから……」と、嬉しそうに笑いながら町へ向かうのだった。
町にたどり着くと、直ぐにギルドへ向かう。
そして、イースとマリーの二人と同様に、ギルド職員に三人のことを説明すると、ギルド職員は微笑みながら「しばらくお待ちください」と言って、ギルドマスターのところへ向かう。その間にイースとマリーは換金を行い、報酬を二人で分ける。
それを離れた場所で羨ましそうな眼差しで見つめる3人。
「アオ、悪いけど職員の人が来たら話を聞いてくれないか? どうせ、暫くの間は三人の様子を見ていろって、言うかもしれないだろうけどさ」
そう言って3人のもとへ向かい、換金を行うよう促す。全てが初めてだらけのため、3人はオタオタしながら換金を行う。そして、初めて手にした報酬に感動し、頬を緩ませていると、話を終えたアオがこちらへやってきた。
「リョータ様、ギルドの方針ですが……」
「様子を見てほしいって言ってきたろ?」
どうせ二人の時と同じだろうと思いながら言ってみると、アオは笑顔で「断りました」と言い放つ。
「はぁ? 断った?」
「はい。ギルドのお願いと言われましても、依頼や命令ではないのでいちいちそのような話を聞く必要はありませんので……」
素敵な笑顔で答えるアオ。
イースとマリーの二人を暫くの間、面倒を見ていた手前、このお願いを断る訳にはいかなかった。
取り敢えず、アオに大急ぎで訂正してくるように言い、三人を連れてイースたちのところへ向かう。
「よう、調子はどうだ?」
換金を終えたイースとマリーに話しかけると、二人は気さくな笑顔で答える。
「だいぶ慣れてきました。これもお二人のおかげです!」
「そんな事はない。これはお前たちの実力だ。で、これからについてだけど、明日からはお前たちだけで行動するんだ」
その言葉に二人は驚いた顔をする。
「ど、どういうことですか……」
「どうもこうもない。俺たちが教えることはもうない。あとは自分たちが経験して覚えていくんだ」
納得できないと言った表情をする二人だが、「経験を積め」という言葉に渋々了承し、二人は宿へと戻っていく。
その後、アオがギルド職員のお願いを聞き入れ、自分たちも宿屋へ戻ることにしたのだった。
翌日、三人を引き連れて、獲物を探しに向かう。
前回の二人と異なっているのはアオが一緒についてきている事にある。
スマホで魔物の印を複数発見し、その場所へ向かう。
三人は、昨日のこともあり気合いが入っていた。
獲物を発見し、弓を構える三人。
少しだけ緊張しているように見えたので、緊張を解きほぐそうとしたのだが、三人に睨みつけられ、少しだけ苛ついたので黙って見守ることにした。
三人が狙っている獲物はゴブリンの群れ。
目視で確認できる数は三匹ほどだが、スマホでは五匹ほどいる事を教えてくれる。
だが、それを教えるつもりもない。アオは腰に下げていた剣の柄に手をかけ、様子を窺っていた。
狙いを定め、タイミングを合わせて引っ張っていた弦を離し、矢が解き放たれ飛んでいく。
しかし、狙い定めていたはずの矢は、ゴブリンの横を通り木に突き刺さる。
狙われていたことに気が付いたゴブリンは、一斉にこちらの方に顔向けて、犬歯をむき出しにし、威嚇するような声を上げた後、突進してくる。まさか外れるとは思っていなかった三人は、慌てて剣を抜こうとしていたが、混乱しているのか中々剣を抜くことができない。
直ぐそこまでゴブリンが迫っており、三人の慌てようから、間に合わないと判断し、ホルダーに収めていた銃を取り出そうとしたところ、既にアオが銃を抜いてトリガーを引いていた。
少し驚いた顔をしてアオを見ていると、視線に気が付いたアオはこちらに顔を向けて満面の笑みを浮かべる。
いつの間に銃を抜き出して構えていたのかも分からなかったため、乾いた笑いで返すのだが……いつの間にこんなに凄くなったのだろう。
アオのステータスを弄った覚えはないし、宿ではいつも二人でイチャイチャして、あんなことやこんなことをして楽しんでいた事だけ……。
何がどうなっているのか分からず、取り敢えずアオのステータスを確認してみることにして、スマホでステータス画面を出すと、その能力に顔を引き攣らせた。
名前:アオ
年齢:16
Lv:3
HP:43
MP:3
STR:23
AGI:25
DEX:29
VIT:24
INT:15
スキル:【超回復】【丈夫】【聴覚2】【嗅覚2】【剣技2】【狙撃1】【弓1】
魔法:【浄化】
何と言う事でしょ……気が付いたら剣技が2になっているし、弓のスキルも付いている。しかも、INTが少し増えているし、MPも1ポイント増えている。
そりゃ、ベッドで楽しんだ後はアオの魔法で綺麗にしてもらっているから、MPが増えていてもおかしくはない。
だが、INTが増えているというのはどういう事なのだろうか?
そんな事を考えている間にゴブリンの群れを始末したアオが、袖を引っ張り上目遣いで甘えるような目で見てくる。
3人がいなければ抱きしめてキスの一つでもしているところだったが、グッと堪えて頭を撫でるだけにとどめた。
その後、反省を済ませた三人は、次の獲物からはしっかりと仕留めることができ、三人はホッと息を撫で下ろす。
数日間、三人の行動を確認し、ギルドで換金を行う。三人の様子を窺っていると、ギルドの職員がアオに話しかけ、アオは笑みを溢す。
何を話していたのか気になったのでアオに話しかけると、ギルド職員から「今まで面倒を見て頂きありがとうございました。
これからは自分たちの判断で行動して頂きます」と、三人のお守りはしなくて良いとギルド職員が言ってきたらしい。
その事を三人に話すと、驚いた顔で油の切れたロボットのようにこちらを見るが、いくら見られても面倒を見るつもりはない。
ようやくアオと二人で生活が送れることに胸を撫で下ろした。
所持金:138,660G




