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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
25/105

24話 誰かさんより酷い

 ようやく目指していた町にたどり着き、ホッと息を吐いてから警備兵に冒険者カードを見せて町の中へ入る。

 この町の名はリヒテンブルクというらしく、エリエート町に比べるとかなり栄えている大きい町であった。

 この世界にきて、まだエリエートの町しか見たことがない自分には、まるで都会にでもやってきた気分である。


「かなり栄えている町だな~……」


 周りを見渡しながら言うと、マリーは田舎者を見るような目でアオと自分を見る。自分だってエリエートの町からやってきたはずなのに。


「わぁ~。まさかこの様な大きな町に訪れるなんて、夢にも思いませんでしたよ……」


 アオが楽しそうに言う。確かにアオの言う通りだ。エリエートの町を基準に考えていたため、それほど大きな町は少ないと思っていた。

 先ずは宿屋を探し、身を休められる場所を探すことから始めたのだが、彼女たち5人は、結局プルス一匹のみしか仕留めることができず、簡単に言えば無一文に近い状態だった。町に着いたら彼女たちのお守りは終了のはずだったが、無一文のまま放っておくのは気が引けてしまうのと、町に到着する前に土下座でお願いされてしまっては仕方がない。

 だが、宿代を出すことによって、このまま済し崩しで彼女たちを連れて歩いて行きそうな気がしてしまうのは、以前にも彼女たちに似たやつがいたため、一抹の不安を覚える。

 別に彼女達と一緒に生活をするのは構わないが、アオのように尽くしてくれるのなら良いのだけれど……。

 しかし、『働かざる者、食うべからず』と言う言葉があるように、生活費くらいはせめて納めてほしい。

 アオは奴隷だけれどしっかりと働いてくれるし、夜の相手もしてくれるから問題はない。

 30分ほど歩いていくと、『雷の剣亭』と書いてある看板を発見して立ち止まる。


「多分、あれが宿屋だろうな」


 ようやく落ち着ける場所が見つかり、ホッと息を吐いて中へ入ろうと歩き出そうとしたら、シサルが不安そうに聞いてくる。


「リョ、リョータさん……ほ、本当に……宿代を立て替えて頂けるんでしょうか……」


 重く緊張した声で聴いてくる。他の四人の表情は硬い。


「仕方ないだろ? 君達は無一文に近いんだから。結局、プルス一匹しかし仕留めることが出来なかったし、換金したところで一人2Gでしょ? 串焼きを食べたら終わっちゃうじゃん。人生」


 少し冷たい言い方で話すと、シサルは身体を小さくしてしまう。


「も、申し訳ありません……」


 泣きそうな声で謝られても状況は変わらない。

 努力をしていないという訳ではないし、切っ掛けがあれば獣程度なら、殺れるだろうと思う。それに、剣が駄目なら弓という考えも悪い話ではない。

 これから先については自分達の問題で、自分たちが生きるためには何をしたら良いのか……アドバイスは沢山してきたし、稽古もつけてあげた。全ては彼女たちの心がけ次第である。


 雷の剣亭に入り、受け付けを済ませて部屋に向かう。一人50Gで、食事はその都度10G支払うシステムとなっており、アスミカ亭に比べると宿代は結構高い。

 だが、町の規模はエリエートの町よりも大きく、人通りが多い場所で、建物もそれなりに大きく綺麗だから仕方がない。今は身体を休めるのが先で、暫くしたら安い場所を探し、そこに移ればよい。

 五人を同部屋にしようとしたが、バラバラの部屋が良いと我が儘を言いだし、仕方がなく各一人ずつ部屋をとった。

 アオは奴隷のため『物』と同じ扱いになり、同じ部屋ではないとダメだと宿屋の店員が言い、二人部屋に泊まる事となった。

 二人部屋は80Gで、二部屋を借りるよりは安かったが、別にアオと別室になるつもりはなかったので丁度よかった。

 各々が与えられた部屋に入るのを確認後、アオと共に部屋に入る。扉を開けて中へ入りベッドに腰を掛けると、アオが飛びつくように抱きついてきた。


「リョータ様~。ようやく2人きりになれましたね……」


 頬を胸に摺り寄せながらアオは言う。


「おいおい、甘えん坊だな……アオは」


 甘えた声で「だって~」と言い、目を瞑り顔を上げて唇を差し出してきたので、そのままアオの唇に重ね合わせ、甘い時間を堪能した。

 アオと甘い時間を過ごしていると、部屋のドアがノックされる。アオは頬を膨らませ「空気を読んでほしいですね!」と言いながらドアの方へ向かう。

 ドアを開けると、少女たちが立っており、「そろそろ食事でも……」と、アオに言ってきている声が聞こえる。

 彼女たちは食事代すら持っていないため、誰かに奢ってもらわなければならない。声からすると、シサルではなくキリトが話しているようだった。

 だが、アオは無表情でドアを閉めて戻ってくる。すると、再びドアが叩かれるのだが、アオはドアの方へ行こうともせず、再び身体を摺り寄せて甘えてくる。しかし、ドアを音は激しさを増したため、深い溜め息を吐き、アオの頭を撫でている。

 すると、アオは溜め息の意味を理解したのか、少し頬を膨らませながら身体から離れ、再びドアの方へ向かい、彼女たちの話を聞きに行く。

 どうせ金がないことは誰よりも知っているし、自分たちも腹ごしらえをしておくことにしてベッドから降りてドアの方へ向かった。

 やはり彼女たちはお金がないため食費を出してほしいと遠回しに言ってくる。無言の圧力をかけるアオの頭に手を乗せて、威圧するのを止めさせて彼女たちの方に目を向けると、5人は涙目になっており、アオがどれほど無言の圧力をかけていたのかが分かる。深い溜め息を三度吐いた後、彼女たちを連れて食堂へ向かい、店員に70Gを支払い、料理についてはお任せにして椅子に座った。

 少ししてから店員が料理を運んできて、彼女たちの前に置くと、お礼の言葉すらなく食べ始める。アオは呆れた目で彼女たちを見つめていたので、彼女たちに気が付かれないよう止めるよう足で注意し、運ばれてきた食事を食べるよう言う。

 食事はアスミカ亭よりも余り美味しくない。

 なのに、アスミカ亭よりも金額が高いのは納得ができなかったが、今は身体を休めることが第一なため、文句を言うことなく食べることにした。

 それから暫くして、空腹を満たしたフェルトが「この後何をしようかなぁ~」と、顎に手に起き、何かを考えるようなポーズをとる。

 だが、それはポーズだけのフェイクであり、何かを考えている訳ではなく、何かを強請っているだけである。

 こちらとしては、色々と彼女らに投資しているので、還元していただけるのであれば助かるのだが、全く還元してくれる気配はない。

 これは今後につながる先行投資と考えれば良いのかも知れないが、セリカの件もあるので、これ以上の投資は控えたい。

 フェルトの目線に気が付いているが、シカトして黙ってスマホを弄っていると、隣に座っているアオがボソッと、「やることがないのなら、ギルドの練習場で訓練でもやれば良いのに……」と、呟き俯いた。

 このまま付きまとわれても面倒だし、アオとゆっくりと休みたい。取り敢えず現金でも渡せば、自分たちの前から消えてくれるのは確かなので、スマホに仕舞っていたお金を引き出す。


「全く……仕方がないな。取り敢えず一人1,000G貸してやる。それで自分に合った装備など探してこいよ。これ以上は協力できないからな」


 そう言って一人ずつ1,000Gを渡していくと、『パァァッ!!』っと、明るい顔になる五人。

 まさかお金を貸してくれるとは思っていなかったのだろう。フェルトの言葉を無視していたのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、こいつらは本当に気が付いていないのか? 宿代を立て替えてもらい、食事代も立て替え、更には1,000Gも追加で借りていると言う事を……。

 これで彼女らは一人頭1,060Gを返済しないければならない……。


 所持金:76,655G


 気が付いていない様子の五人。

 アオは邪魔者がいなくなると分かった事で、少し嬉しそうな顔をしており、彼女らは急いで食堂から出ていくのを確認してから部屋に戻った。

 アオと一通り楽しんだ後、ベッドで抱きしめながらゆっくり眠っていると、再びドアがノックされてアオが不機嫌そうな顔をしながら服を着て、ドアの方へ向かう。アオが対応している間に自分も着替えた。

 直ぐに戻ってくると思ったのだが、中々アオは戻ってこないので、覗いてみると、ドアの向こうにはシサルが居て、何やらアオにお願いしているようだったので、面倒くさいが部屋の中へ入ってもらうことにした。

 アオは渋々部屋の中へ入れると、シサルは興奮気味に弓と矢を手にして「アオさん! 練習を見てくれませんか!」と、言い出してきた。

 もちろんアオは嫌な顔をしてこちらを見て意見を求めてくる。


「アオに聞かずとも、ギルドで練習してくれば良いんじゃないか? 的に当たらなければ獲物を仕留める事なんか夢のまた夢だろ」


 呆れた様子でシサルに言うと、恥ずかしそうに「既に練習を行ってきました……」と言う。

 だが、そこで何を求めているのか分からず、アオと顔を見合わす。


「何が言いたいんだ? 意味が分からん」


 その台詞にアオも同意したらしく、頷いている。


「練習はしたんですが……才能がないって言われてしまい……」


 どこかで聞いたような台詞が返ってきて、正直、呆れてしまった。


「そりゃ残念だったね。じゃあ、剣の方で頑張りなよ」


 突き放すように言うと、シサルは椅子から飛び降り縋るように脚にしがみつく。

 避けようと思えば避けることは可能だったが、何がしたいのか分からないため話を聞くことにした。飛びついてきた時、アオは引き剥がそうか迷っていたため、手で制止した。


「何が目的だ?」


 エリエートの町でも経験した気がするが、取り敢えず目的を確認してみる。


「お願いです! お金を貸して下さい! 神殿で魔法を習わせて下さい!」


 結局そこへ逃げる事になるのか。


「エリエートの神殿では魔法を覚えるのに、1日5,000Gほどもするんだぜ? この町の神殿では、どのくらい請求されるのか分からない。それに、今、どのくらい貸しがあるのか分かっているのか? これ以上は借りない方が絶対良い。まずは魔法を覚えるよりも他の訓練をした方が良いんじゃないか?」


「……他と言われても……アシスターしかないですし……それに、獣だって……」


 アシスターでも獣程度は仕留められると書かれてあった事を思い出し、これからどうしたら良いのかと尋ねられ、深い溜め息を吐く。

 少しの間、無言が続く。すると、再びドアをノックされてアオが対応するのだが、顔を引き攣らせながら客を部屋の中へ招き入れ、椅子を二脚用意する。

 誰が来たのかとみていると、キリトとフェイトが入ってきて、二人ともシサルが入ってきた時と同じ顔をしていた。


「えっと……。お嬢様方、如何なされましたか?」


 平静を装いながらアオが問いかけると、二人はアオに泣きつくように脚にしがみついてくる。アオはどうして良いのか分からず、頬を引き攣らせながらこちらを見てくるので、一応話だけでも聞いてやることにした。

 二人部屋なのでそれなりに中は広い。

 だが、五人も室内にいるとアオが座る場所がなくなってしまう。

 取り敢えずベッドに腰掛けて、他に誰かが来ても対応できるようアオも自分のベッドに腰掛けさせた。

 後から入ってきた二人に話を聞くと、内容は全てシサルと同じであり、椅子に座らせているのが馬鹿らしくなってしまい、床に正座させることにした。ハッキリ言って体罰は嫌いだが、馬鹿は更に嫌いである。

 それに、寄生虫セリカの方が万倍マシだったような気がしてしまい、手放してしまった事に若干後悔するのと、彼女たちを助けてしまった事に後悔した。


「何で私達は床に座らされているわけ?」


 納得ができていないフェルトが頬をピクピクと震わせさせながら言う。

 こいつはセリカと同じタイプのような気がする。


「そんな事より、俺たちに何を求めているんだ?」


 シサルは先ほど言ったのでそれ以上何も喋る事なく俯き、キリトとフェイトはお互いの顔を見合わせモジモジしていた。

 何処かコイツ等が入られるパーティがあれば良いのだが。


「用事がないのなら帰ってくれないか。俺は疲れているんだ。明日に備えたい。それに、お前ら……何か勘違いしているけど、これ以上の金を貸すつもり話はないぞ」


 三人は顔を上げて驚いた顔をする。

 やはりコイツ等は、新たに発生した寄生虫だ。


「考えてみろよ、戻ってくる可能性が低いのに、誰が金を貸すって言うんだよ。因みに、エリエートにいる冒険者が一日に稼ぐ平均金額は200G位だぞ。ここでは幾ら稼げるのか分からないが、それに近い金額を稼がないと、この町では生活ができないぞ。奴隷にでもなるつもりか?」


「そんなの嫌に決まってる! 魔法さえ覚えたら、ちゃんとお金は返す! だから……」


 やはりそうきたか。


「先ほどシサルにも言ったが、神殿で魔法を教えてくれる。だけど、あそこで覚えるためには、最低でも1日に5,000Gもするんだ。ここではどれ程するのか分からないが、1日でお前達が覚えられると思っているのか? 翌日も通うとなると、更に5,000Gだ。それに、魔法がそんな簡単に覚えられたらこの世界は魔法使いだらけだろ。お前達が覚えられる保証があれば、金を貸す事も考えるけど、そんな事はまず無理だ」


 完全否定すると、フェルトは立ち上がって「や、やってみなきゃ分からないじゃない!」と、声を張り上げ、唾を飛ばしながら言う。

 しかし、低い声でアオが追撃の言葉をフェルトに覆いかぶせる。


「そう言ってお嬢様は、背中に装備している弓を使えるようになったのですか? どうせギルドの練習場で才能がないと言われたのではないですか?」


 アオの言葉にフェルトは図星を付かれたらしく、狼狽えてしまう。シサルは涙をポロポロと流しながら「なら、どうしたら良いのよ……」と、言葉を漏らす。


「あのなぁ、一応言っておくが、俺はお前らのパトロンじゃない。そこまで生活を見てやる必要があると思っているのか? そう思っているのなら、お前達は冒険者なんか辞めちまえよ」


 更に突き放すと、先ほどまで息巻いていたフェルトは呆然とした顔になり、腰が砕けたかのように座り込んでしまう。

 キリトも同じことを思っていたらしく、項垂れていた。


 すすり泣く声が響く部屋の中。

 正直、早く自分の部屋へ戻ってもらいたい。

 そんなことを思っていると、アオが耳打ちをしてきて、「イース様と、マリー様が来られていませんが、どうなったのでしょうか……」と、小声で言う。確かにイースとマリーの2人はいまだ部屋に訪れてこない。

 二人は何をしているのかと考えていると、ドアがノックされたのでアオが対応する。

 すると、そこにいたのはイースとマリーの二人で、お願いがあってやってきたとアオに言う。

 アオは少しだけ困った顔をしながら二人を部屋の中へ招き入れると、三人が正座をして涙を流している事に驚く。


「で、二人の要件は?」


 どうせ金を貸せと言うのだろうと思っていたら、イースとマリーの要件は3人と異なっていたので驚いた顔をする。


「宿代と……飯代?」


「はい、一人で狩りを行うためには、最低でも弓を使えるようにならなければいけません。それには少しだけ時間が掛かってしまいます。一応、剣も練習したいのでアオさんに稽古をお願いできればと……。悔しいですが、今の実力ではどう足掻いても宿と食費を稼ぐ事ができません。ポーションなど購入したりすると、宿代と食事代が払えなくなってしまい、生活する事が出来なくなってしまいます! せめて1週間ほど食事代と宿代を……」


 案外まともな事を言う二人。

 やる気があり、返す当てもあるのならば貸さないと言うわけにはいかないし、三人に比べれば金額も安く、現実味も高い。

 二人合わせても1,000Gほどしか掛からないため、返せないという金額ではない。

 上手くいけば早く稼ぐ事ができ、返済できる可能性は高い……。


「分かった。それで、弓の方は見込みあるのか?」


「いえ、ギルドでは……才能が無いと言われました。ですが、ギルドの職員たちは教える気が余りないため、大抵の冒険者に言っているので、気にしていたらやっていけません。少しだけ見て、才能を判別できるのであれば、ギルドは冒険者登録をさせないはずですから」


 初めのころと比べ、精神的に随分と成長したイースとマリー。

 よし、この二人には投資をしてやろうって気にさせられた。


「だとさ、それでも三人は魔法を習いたいというのか?」


 冷ややかな目で三人に向かって言うと、イースとマリーの2人は「魔法って……」と、呆れた顔をするのだった。


 出費:宿代50G+食事代3食で30G=80G×7日=560G×5人=2,800G


 所持金:73,855G

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