番外編 1人の少女の物語
今日も素材採取。明日も素材採取……毎日のように続く素材採取。私は一生この生活を続けて行くつもりは無い。
けれど、ギルドで訓練後、指導員は魔物や動物退治の依頼を受けさせてくれない。
その理由を聞くと、いつだって同じ答えが返ってくる。
『まだその時じゃない』
まだその時ではないって言うけれど、では、いつがその時なのよ! 噂で聞いたアシスターの女性は、凄腕の冒険者と組んだって言う話だ。
そのアシスターの女性は、初心講習時に戦闘訓練を行っていたら、指導員に戦いのセンスが無いと言われアシスターに転向したらしい。しかし、戦いのセンスが無いと言われたと言う事は、アシスターとしても役に立たない可能性がある。
それは、動物すら戦えないという事だからだ。ヴェル、プルス、ビッグラビなど沢山の動物がいる。そいつ等を数匹倒せるだけの力が必要……。けれど、そのアシスターは可愛いだけで全く戦闘に不向きらしい。なのに何故……。
そんな事を考えながら今日も1日が終わる。明日こそもう少し良い仕事にありつきたいなぁ。
私の生まれは小さな村で農家の3女。親は平凡だけれどそれなりに収入があり、私達を育ててくれている。
それに私は運が良い方らしい。
普通、生活のためにと、子供が多い家は奴隷として生活の足しのため売り出されてしまうそうだ。だが、私の家はそういった事がない。ちゃんと税収を納め、食べる物もそれなりにちゃんとしている。
家族は仲が良く、笑いが絶えない家……だった。けれど、数人の冒険者によって、私の人生観が全てが変わってしまった。
私は将来、近所に住んでいる男の子の誰かと結婚し、その家の仕事を手伝ったりするのだろうと思っていた。
そんなある日、冒険者達が村に訪れた。
私達には物珍しい冒険者。
何故なら、この村は冒険者になる者がいても、訪れてくるという事が滅多に無い。あっても年に1度あれば良い方だろう。
それに、村はそれなりに平和だったし、何か依頼があれば、村長達が町へ行って来たりする。もしくは行商人が来た時に依頼を町に出してくれるようお願いしたりする。
だから冒険者が珍しい部類に入るのだ。
今回来た冒険者の中には、私よりも若い女性も混じっていて、私は驚いた。
そして、冒険者が来たら泊まる場所へ案内したら、私よりも若い冒険者が「ありがとうございます。お姉さん」と言う。
確かに私の方が年が上だろう。だが、そうではない。何か釈然とせず、何かが負けていることに気が付く。
それが分からず家に戻り家族と話をしていると、お父さんとお母さんは冒険者について何も語ろうとはしない。話を何度も振ってみるのだが、まるで誤魔化すかのように話を反らしてしまう。
考えてみれば、何時だってそうだった。親には、冒険者に近づいていはいけないと言われ、あまり話をしたことが無い。近付けたくないのだと、この時初めて分かってしまった。
「な、何で冒険者様とお話をしてはいけないの?」
食事時、私はお父さんとお母さんに聞いた。明らかに挙動がおかしくなる家族。何故、こんなにも動揺をするのだろうか。
「ぼ、冒険者……かい? 別にしてはいけないことは無いよ」
いや、明らかにおかしすぎる。
「でも、冒険者様の話になると――」
「その話は終わりにしましょう!」
お母さんは無理矢理話を終わらせ食事をしろと促した。私は意味が分からなかったが、言われたように食事をして、納得ができぬまま部屋へ戻っていった。
翌日、私は親の言い付けを守らず冒険者の元へ向かい、その日の行動を探っていた。だが、結局冒険者達は宿から出る事はなく、部屋で何をしているのか分からないで1日が終わってしまう。私は諦めることはせず、翌日も冒険者達のところへ向かい、動向を探るが同じ様に宿から出ないで外で剣の練習などしていて1日が終わった。実際、冒険者とは何なのだろう。
物凄く自由に生きているように思える。それに比べて私はどうなのだろう。
「あれ? 君は……ここを案内してくれた子だよね」
村にいる誰よりも格好良く、優しいそうな笑顔を見せながら青年剣士が声をかけてくる。
「あ、あ、あ……」
私は緊張してしまい後退る。怖いという気持ちと、悪い事をしているのでのではないかという気持ちになってしまっていた。
「あらら……怖がらせてどうするんのよ」
女性の冒険者が呆れながら言い、私を落ち着かせてくれる。それから私は早次に質問をする。自分が抱いている疑問や冒険について。
冒険者達は言葉を選びながら教えてくれた。『それは君の事が大事だからだよ』と……。他に、どの様な冒険をしたのか、どの様な町へ行ったのかなど、沢山教えてくれた。
私の心は村で一生を終えるという考えは消え失せ、広い世界を歩いてみたいという気持ちで一杯になった。
それから親を説得するのは大変だったけれど、勘当同然のように私は村を出ていき、今に至る。
何時になったら冒険者らしく魔物と戦ったりするのだろう。
そんな事を思いながら今日のノルマを終え、お小遣い稼ぎをするために新たな素材を探しに向かうと、そこには町で見たことのある冒険者達が倒れており、私は慌てて駆け付け怪我の確認を行った。
だが、周りが見えていなかった私は、後ろからの攻撃に気が付くことなく失ってしまう。
気が付いた時は何人もの女性がいる小屋の様な建物の中……。何が起きたのか、理解するまでに時間かかることなく、目の前で豚のような魔物が、何人もの女性の身体に覆い被さり、腰を振り続けている。
そう、私はオークに捕まってしまったのだ。
行為が終わり、気が済んだオーク達は建物から出ていく。
次は私かも知れない。そう思いながら私と同時期に攫われた人達と片まりながら怯える日々を数日過ごした。
食事と水は死なない程度に提供する。まるで家畜のような扱いを受けながら、生にしがみつく私達。なんとも情けなく、両親の顔を思い出す。私はここで死んでしまうのかも知れない。そう思うと、泣けてくる。
夜になると性欲にまみれた豚がやって来る……はずだった。だが、豚は誰一人来る事はなく外は何やら騒がしい。
どうせ豚どもが冒険者を狩ったか何かで酒盛りでもしているのだろう。
そろそろ私が襲われてもおかしくは無い。
そう思いながら身を隠すようにして震えていると、徐々にオークの声が叫び声に変わっていく。
まさか…………。
そのまさかだった。戸が開き、私達の目には真っ赤になった男の人が冷めた目で私達を見る。そして舌打ちして誰かを呼び話をする。中に入って来たのは獣人の女性で「も、もう大丈夫ですよ!」と声をかけながら服を着ていない女性に身を隠すように物を渡していく。
その中の誰かが「何でもっと早く来てくれなかったのよ!」と、怒鳴るように叫ぶ。別に獣人の女性が悪い訳ではない魔物に敗けた自分達が悪いことを理解しているのだが、助けられる前日に襲われたのだから、怒りの矛先は彼女へ向けることしかできなかった……。
彼女は小さい声で謝罪しながらも身体を拭いてあげたり、着るものを用意したりして皆を安心させるように「もう、大丈夫ですから……」と、声をかけていた。
暫くして先程の男性が戻り状況を説明してくれる。辺りは真っ暗で、夜だと言う事だけは憶えている。
それからどうやって町へ戻ったのかはなんとなくだが覚えている。目付きが悪い剣士の男性と、獣人の女性2人だけで救出されるなんて思ってもみなかった出来事であるが、それは事実であり、ギルドで説明しても信じてはもらえなかった。しかし、私たちは再びその2人と出会う事になるとは……思っても見なかったのであった。




