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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
22/105

22話 弱すぎる少女たち

 プルスを狩りに向かったシサル。。プルス程度で慌てるわけはないと、アオと共に微笑ましく見ているた。シサルは音を立てないよう気を付けながら背後をとり、プルスに向かって剣を振り落とす。何故、剣を勢いよく横へ薙ぎ払わないのだろうと思っていると、プルスは背後にいたシサルの存在に気が付き、慌ててシサルの剣を躱す。

 まさか外すとは……と、肩を落し小さく溜め息を吐いた。プルスは襲われたことに慌てふためいており、次の攻撃を仕掛けるチャンスは残っている。だが、シサルも外したことで動揺しており、チャンスをふいにしてしまった。逆にプルスはそのチャンスを逃さず、シサルに向かって鋭い嘴で突き刺そうとしてきので、アオが大声で「シサル様! 危ない!!」と、シサルに危険を知らせる。

 その声で我に返ったシサル。慌ててプルスの攻撃を躱し、四つん這いになって動物のようにプルスから逃げようとする。プルスは獲物を逃がさまいと嘴が突き刺さるまで攻撃を仕掛ける。

 このままでは危ないと判断したアオ。シサルのもとへ駆け出しながら鞘から剣を抜く。まるで動物のように逃げているシサルの横を過ぎ去り、アオは素早く剣を横一線に薙ぎ払う。勢いをつけて走って来たプルスは急に止まる事はできず、アオはプルスが向かってくる勢いを味方にし、シサルを追いかけてきていたプルスの首を跳ね飛ばした。

 誰が見ても完璧な一撃で、プルスの身体は首を無くして地面に転がり、首も地面に落ちて転がっていく。シサルはプルスがアオに仕留められたことに気が付いておらず、真っ青な顔でこちらにやってくる。アオは剣を納め、プルスの首と胴体を拾い上げて、呆れた顔をしながらこちらの方へ戻って来る。プルス一匹に手古摺るどころか殺されそうになるとは、思ってもみなかった。戻って来るアオを見て、戦闘に参加しなかった4人は、「オオォ~!!」と、声を上げる。だが、別にアオが凄いわけではなく、シサルができなさ過ぎるのだ。スマホに5人の情報が載っていないため、ステータス知る事ができない。しかし、レベルが0だったアオですら、プルスやビッグラビなど倒している。

 登録料金さえあれば誰だって冒険者になることができるのはセリカを見ればわかる事だったが、彼女たちはセリカと違い、武器を所持しており、魔物や猛獣と戦う気があるはず。なのに、この為体(ていたらく)では戦う事すらできないではないか。

 難しい顔をしながらアオが戻り、手にしていたプルスをスマホの中へ仕舞う。アオは何か言いたげな表情をしていので苦笑いをしてしまった。


「お疲れさん。アオ」


「ありがとございます……。ですが……」


 そう言って泣きじゃくっているシサルを慰めている4人に目をやり、アオは珍しく深い溜め息を吐く。


「彼女たちは……本当に冒険者……なんですよね?」


 アオの気持ちは痛いほど理解ができる。


「それ以上言うな……。言いたい事は分かっている。それも含め、今後について考えなければならないな」


 その言葉の意味を理解しているのか、アオは「ですね……」と、残念そうに相槌を打った。それにしても、どうして彼女たちがオークに囚われていたのか理解できない。プルスごときも倒せないのに、魔物を狩りに行くなんて自殺行為としか言いようがない。本当に彼女たちは運が良かったと言う事だろう。だが、プルス一匹だけでは食料としては心もとない。早く次の獲物を狩りに行く必要がある。


「おいおい、いつまでそんな事をしているんだ? これだけでは全く足りないだろ……」


 泣いているシサルに言うと、「だってぇ……」と、甘えた声をだす。だってもクソもない。彼女たちの夕飯がかかっているのだ。少しだけ苛立ちを覚えると、アオが「次の獲物を探しに行きましょう。でなければ、皆様の分が用意できませんよ」と、優しい声で言う。その言葉に渋々シサルは立ち上がり次の獲物を探しに向かった。

 次に発見した獲物は、プルスよりも凶暴なビッグラビだった。シサルが単身でプルスと戦い、呆気なく負けた事を忘れているのか、イースがビッグラビのもとへ向かう。別に1人で行けとは言ってないが、集団で襲えとも言っていない。彼女たちはどこまで物事を考えているか知りたかっただけである。シサルがプルスにすら敗北したのに、それよりも凶暴なビッグラビをイースが倒せる筈はない。案の定、イースも不意討ちに失敗し、ビッグラビに追いまわされる羽目となり、見かねたアオが助けたのだった。

 プルス一匹の肉だけだと少なく、全員のお腹を満たす事はできないが、ビッグラビの肉も加われば、手持ちの食材と合わせて今晩の食事は事足りる。だが、次の町へ向かう時間が遅かったのと、新米冒険者の食料調達に時間がかかったため、町からそれほど離れていない場所で夜を迎える事になった。

 因みに、彼女たちはテントを持っていないため、毛布を二人一組で使うよう指示し、交代で不寝番をする事にした。

 しかし、彼女たちが魔物や猛獣を発見したところで、倒せるわけではない。したがって、自分かアオを起こすよう言いつけ、食事を作り始めた。

 食事を作り始めたのは良いが、小娘共に食事を作った事が有るのか確認したところ、誰一人として作ったことは無いと答え、落胆しながら一人で全員分の食事を作る羽目になった。

 因みにアオは、目が不自由だったので、食事を作った事はない。しかし、アオは自分の立場を理解しているのか、率先して火などを点け、「次は何をしたら宜しいでしょうか!」と、楽しそうに聞いてくる。

 料理と言って簡単な物で、先ほど狩ったプルスとビッグラビの肉をブツ切りにし、塩を掛けて焚火で肉を焼いただけである。本当ならばお吸い物を作りたかったのだが、町の道具屋で購入した器は自分とアオの二つしかない。彼女たちの器がないため作る事は止めたのだった。

 5人の新米冒険者達はと言うと、何も手伝おうとはしなかった。しかも、彼女らのために焼いてあげた肉を食べるように言うと、まるで不味そうな物を食べるような素振りで口にしていた。いったい何様のつもりだろうか……。

 食事を終え、腹が膨れてようやく気持ちも落ち着いたので、今夜の不寝番を決めようと思い、話をしようしたが、どのように話を切り出そうかと考えていると、フォルトがとんでもない事を言い始めた。


「あの……私、朝が弱いので先に寝かせて貰っても良いですか?」


 その言葉に唖然とするアオ。しかし、他の4人は「朝が弱いっていうのなら、しょうがないよね」と言って、フォルトの主張を承認してしまう。こいつらは阿呆なのか?


「ちょ、ちょっと待て下さい!」


 フォルトは自分の主張が通ったと思い、先に休もうと立ち上がったが、アオが呼び止め。すると、フォルトは怪訝な顔してアオを見る。年上の割に何もできないため、5人の中では一番むかつく奴だ。


「何でしょうか? 話し合いは終わったと思いますが……」


 私は眠い。そう言った表情をしているのが良く分かる。


「これからリョータ様が不寝番の順番を決めます。その中にはフォルト様も含まれており、勝手な行動をされては困ります!」


 アオの言葉は少し強めで、威圧しているようにも感じられる。


「で、ですが、私は朝が弱いんです……」


 呆れた主張である。それに対してアオの怒りが高まっていた。


「フォルト様、フォルト様は冒険者ですよね? リョータ様は、お嬢様方から仲間にしてほしいと言われ、また、ギルドからお嬢様方を育ててほしいと依頼されました」


 まるで他人事のように聞いている4人。フォルトは少し苛ついているような顔をしてアオを睨みつけている。


「自分達でお願いし、ギルドからも依頼されたため、リョータ様は仕方なしにお受けしたのです。冒険者として育ちたくないのなら、ただのお荷物になってしまいます。リョータ様の話や命令を聞けないのなら、今すぐ町へ帰って下さい! リョータ様に失礼です!!」


 声を荒げてアオは言う。アオが声を荒げているところは珍しい。今までアオは黙っていたが、勝手すぎる5人に対して怒りがあったのだろう。


「これは他人事のように聞いているお嬢様達も含まれています! やる気がないのなら、今すぐ帰路について下さい!!」


 言おうとしたことを全てアオが言ってくれた。自ら嫌われ役を買ってくれくれたのだろう。アオの怒っている姿を見て、シサルが立ち上がる。


「い、至らない点があれば……言っていただけないでしょうか!」


 アオを見るのが怖いのか、目を瞑ってシサルが言う。至らない点と言われると、それは全てである。異世界転生者の自分ですら、この生活に適応しているのに、彼女たち現地人がどうしてできないのか……。甘えているしか言いようがない。


「質問するが、君達は今までどうやって生活してきたのさ? 今日確認させてもらったところ、プルスすら仕留めることができないのに、冒険者として生活が成り立つとは思えない。金に釣られてオークと戦ったと言うのか?」


 アオは怒りで頭が沸騰しているので、代わりに質問してみた。これに答える事ができないのなら、直ぐにでも町へ帰すつもりだった。彼女たちは、出会って全くコミュニケーションをとっていない事に疑問を抱いており、納得する回答が欲しかった。町を出る前にアオに確認したが、確かに彼女等はオークに捕まっていたらしい。だが、まだオークの餌食になっていないかったとの事。

 しかし、プルスすら倒せない奴が、どうやってオークと戦ったのだろうと疑問に思うのは当たり前である。5人はオークの集落で知り合ったことまでは聞いている。だが、その前については全く聞いていなかった。

 恐る恐るシサルが口を開き、オークに掴まる前について話し始める。その後、口火を切ったかのようにキリトとイースが話す。

 どうやらシサル、キリト、イースの三人は、掲示板に貼られていた採取の依頼を別々に受けていたらしく、その際、森へ入ってしまい、オークに捕まったらしい。

 フォルト、マリーの二人は、パーティを組んでいたらしく、仲間と共に護衛の依頼を受け、近くの村まで護衛をしている最中に襲われ捕まったとの事。一応、仲間がいたと言う事は、多少なりとも戦える可能性がある。だけど、新人冒険者なのは変わらないため、それほど強くはないだろう。

 だが、二人は同じパーティではなく、別々の護衛依頼を受け、オークに襲われて攫われた。その仲間は、あの死体の山にいたものかもしれないが、黙っておくことにした。


「――理由は分かった。で、君達は冒険者としてやっていけると思うか?」


 ここで諦めてくれれば町に引き返すことができる。だが、その思いとは裏腹に、5人は頑張ると抜かしやがった。頑張っても無理なことはある。今思えば、セリカは自分なりに考えた結果がアシスターだったのだろう。多少だが悪い事したかも知れない。


「頑張るのは結構なことだけど、今日の様子を見る限りだと全く剣が使えていないじゃないか。ギルドで基本的な事を教えてくれるんじゃないのか?」


 たしか初心者救済処置として、基本的な事を教えてくれるとバルバスが言っており、アオもその訓練を1日だけ受けた。


「……一応ですが習いました」


 ギルドに登録して、直ぐにシサルは1週間ほど基礎を学んでいたらしいが、それだけでは生活が出来ないため、採取の依頼を受けたらしい。

 しかし、1週間も受ければそれなりにできるのではないだろうか……。この世界に転生された時、初めてショート・ソードを手にしてみたが、ずっしりとして剣を振るのが結構大変だったことを思い出し、女性の手で剣を振るのは難しくて当たり前かもしれない。支度金で武器を購入したのであれば、武器を振るのは初めてだろう。


「じゃあ、悪いけどアオが訓練をしてやってくれ」


 急に名前を呼ばれたアオ。ビックリした顔してこちらを見る。


「これはアオの訓練にもなるだろうし、丁度いいだろ? 俺が教えたところで実力の差が激し過ぎる」


 納得してもらおうとしたが、アオは納得してない様子でこちらを見ていたが、逆らうことはできないと判断したらしく「う~……。リョータ様のご命令であれば……仕方がありません。分かりました……」と言って、アオは立ち上がる。これから何をするのか理解していない5人は、ポカーンとした顔で見つめていた。


「何をしているんだ? 今からアオが君らを鍛えるんだ。もし、怪我をしたら俺が治してやる。だから思いっきり胸をかりな」


 その言葉に顔を引き攣らせる5人。朝が弱いと言っていたフォルトは嫌そうな顔をしていたが、言う事を聞かなければ町に帰らされると思ったのか、渋々アオの指導を受けるのだった。

 アオが素振りの仕方を教えているあいだ暇だったので、スマホで目的の町について調べる。アオと二人であれば2日で到着する距離だったが、この子らを鍛えながらだと、もう少し時間がかかるだろう。目安として一週間程度だとみておくことにした。


 一時間ほど素振りをさせて、今日の訓練は終わりにしたアオ。それからようやく不寝番の順番を決めたのだった。基本的にツーマンセルで不寝番をおこない、1人だけ余るの事になってしまうため、彼女らに任せるのは可哀想だから自ら引き受けた。

 スマホで索敵をおこなったが、半径一キロには魔物や獣の姿は確認できなかったので、先に休ませてもらう事にし、何かあったら呼ぶように言って眠りに就く。彼女らがいなければアオとイチャイチャしながら休む予定だったが、彼女らがいるためそのような事はできない。それはアオも理解しているようで、少しだけ恨めしそうな顔をしてこちらを見ていた。

 夜中の3時に起こされ、俺の番だとイースが言う。時間的におかしいだろうと思ったのだが、やってくれた事に文句を言う訳には行かない。アオと2人だと、もっと眠れなかった可能性があるのだから。

 誰かが身体を揺さぶり、目を覚ます。誰が身体を揺さぶっていたのかと確認すると、イースの姿が目に入った。どうやら不寝番の交代らしく、仕方なく身体を起こしてイースと交代する。

 アオと二人で休む予定だったテントは彼女たちに使わせており、アオと自分がテントの外で毛布を被り寝ていた。ようやく交代になり、嬉しそうにマリーとイースはテントに入って行く。スマホを取り出して時間を確認すると午前3時になったばかりだ。眠った時間は22時頃だったため、5時間ほどしか眠っていないことになる。約束では2時間交代だったはずだが、どこかの組は時間を間違えていて交代したのかもしれないし、三組とも時間を間違えているのかもしれない。

 しかし、起こされてしまったからには不寝番をするしかなく、固まっていた身体を解してからスマホで辺りの索敵をおこなった。

 スマホの画面には、近くに獣の印があり、もしかしたらここへ向かってきている可能性が考えられ、仕方なく始末しに向かう。

 見つけた獣はビッグラビで、予想していたようにこちらの方へ向かってきていた。銃を使って始末すると、音で皆が起きてしまうかもしれないので、スマホから剣を取り出し、ビッグラビの横を駆け抜けるかのように走りながら身体を斬り裂き、ビッグラビを始末してスマホの中へ仕舞う。

 日が昇り始め、スマホをポケットから取り出して時間を確認する。時間は午前4時半を過ぎたところで、朝日が目に染みる。少しだけ朝靄が出ており、幻想的な風景が広がっているように思えた。この様に朝日が昇るのを見たのは二度目だったが、前回は周囲を気にしていたため、このようにゆっくりと周りを見ている余裕はなかった。昨夜は簡単な物しか作っていなかったので、今朝は少しだけ手を加えようと思い、朝食を作り始めた。

 食料を購入する際、パンの他に何があるのか確認したところ、この世界には米が存在していた。基本的な主食はパンだったが、やはり馴染みがある米が食べたくなるところ……。アオと二人で食べる予定だった米を少しだけ使う事にし、朝食を作り始めたのだった。

 キャンプなどは学校の企画で行ったくらいしかないため、朝食を作るのに手古摺り、出来上がったのは7時半頃になっていたが、誰も起きてくる気配はなく、なんと緊張感が無い奴らなのだろうと思いながらテントの外で寝ているアオを起こす。毛布を頭から被って寝ていたアオは、毛布を剥ぎ取られ、機嫌悪そうに目を覚ます。


「随分と偉い立場になったじゃないか。いつからアオは俺よりも偉くなったんだ?」


 機嫌悪そうな顔を見ながら言うと、アオは直ぐに状況を理解したらしくジャンピング土下座をして平謝りしてくる。


「まぁ、本来なら一緒に寝ている予定だったから仕方がない……と、言う事にしておいてやる。そら、他の奴らも起こしてこい」


 そう言うと、アオは「かしこまりました!」と、慌てて立ち上がりテントに向かって行く。アオがテントへ突撃したのを確認し、皆が食べやすいように作った机の上に、木皿に肉などを盛りつけて並べた。取り敢えず木を剣で斬り、板状にした物だが、無いよりはましだろう。ちなみに箸も作ってみた。

 アオに起こされ、ようやく目覚めた5人。眠たそうな顔をしており、ダラダラとやってくる。そのだらしなさに少し苛立ちを覚え、スマホから桶を取り出して【飲料水】の生活魔法で桶に水を溜め、満水になったところで5人に向けて水をぶっ掛けた。

 突然水を掛けられた5人。目を丸くさせて何が起きたのか考えを巡らせ、された事に対してリアクションを各々がとる。言われる言葉は「信じられない!」「何をするんですか!」等、色々言われる。だが、そんな言葉は無視した。


「お前ら、良いご身分だな。やはり、お前らは冒険者としての覚悟が足りないんじゃないか?」


 朝から水を掛けられ、怒りを露わにしている5人。アオは苦笑いをしてみており、タオルなどを出す気配はない。


「ここは町の外だぞ。いつ、魔物や猛獣がやって来るのか分からない状況なんだぞ」


 呆れた顔をしながら言うと、「だからって水をかける必要はないじゃないですか!」と、怒り沸騰させながら言うイース。昨夜とは人が違うように思える。


「水をかけられたくなければ、さっさと起きろ。文句を言われる前に飯の準備を始めろ。そして移動の準備や訓練の準備を始めろ。次の町までしか俺達は一緒にいないんだ。それまでに自分達で獣が狩れる力を身に付ける努力をしろ。阿呆共が」


 悔しそうな顔をしながら睨みつけてくるイース。だが、アオが後ろからイースの頭にタオルを被せ、「リョータ様を睨みつけるなんて、随分とお嬢様達は偉くなられたものですね」と、低い声でイースの耳元で囁いた。その目は酷く冷たく、イースを除く4人は慌てて自分のカバンがある所へ走り、タオルで濡れた服を拭き始めるが、イースは納得ができないらしく、今度はアオを睨みつける。

 アオはチラッとこちらを見たので頷いてみると、アオはイースの顔面を殴りつける。いきなり殴られたイース。何が起きたのか理解できていないらしく、地面に転がりながら倒れた。

 戻って来た4人は、突如イースが地面に転がったところを見て、立ち止まり怯えた目でこちらを見る。


「取り敢えずリョータ様に謝罪して下さい。お嬢様方に貴重な食料を使って朝食を作ってくれたのです。それに対し、お嬢様方は文句しか言っておりません。食べたくなければ謝罪しなくても構いませんが、お昼や夕食は自分達で用意してください」


 敵意を剥き出しにして5人に向かって言うと、驚きに戸惑っているイースを除く4人は、慌てて横一列に並び「申し訳ありませんでした!」と、頭を下げる。その光景を見て、イースは立ち上がり遅れて謝罪の言葉を言うのだった。

 まさか天使のアオがイースを殴るとは思っていなかったが、動揺している姿を見せるわけにはいかないため、「早く飯を食って、アオに訓練してもらえ」と、言うだけ言ってから朝食を食べ始めた。

 5人は慌てながら朝食を食べ、急いで片づけてから装備をまとめ、アオの側で横一列に並ぶ。イースは頬が腫れており、少し可哀想だったため、朝食を食べるのを中断してリカバの魔法で頬を治す。だが、イースはお礼を言う事はなく、黙って睨みつけるような目で見ていたため、再びアオに殴られ、溜め息を吐きつつ傷を治してあげた。

 アオが朝食を食べ終わるまで素振りおするよう命じられた5人。ショート・ソードを鞘から抜いて、素振りを始めようとする。すると、アオは先ほどとは異なり、無邪気な笑顔で味わうように朝食をゆっくりと食べ始め、「リョータ様は食事を作るのも一流なのですね! アオはリョータ様のように美味しい料理を作る事はできませんが、心を込めてリョータ様のために食事を作りたいです!」と言い、5人の存在はなかったことにしているように思えた。

 それから暫くして、アオが朝食を食べ終わる。5人はホッとした顔をして素振りを止めると、アオは低い声で「まだ止めて良いとは言ってません!」と、5人に向けて言い放ち、5人は顔を青くして再び素振りを始める。こちらを向き直ったアオの顔は、いつものように可愛い笑顔で、楽しそうに食事が終わるのを待つ。

 食事を終わるのを待つんじゃねー! と、5人は思っているだろうが、気にせず自分のペースで食事をし、アオが食べ終わってから5分後に食べ終わった。

 アオが食器を片付けてから水を一杯飲み干すと、ようやく5人がいる方へ向かい、素振りを止めさせて移動の準備を始めさせる。だが、アオは彼女たちに休憩など取らせる事はなく働かせているため、5人は素振りを休みなくしていたため、息を切らせ、ふらつきながら準備をしてた。


「なぁ……アオ、少しくらい休憩させた方が良いんじゃないか?」


 少し心配になり言ってみるのだが、アオは「リョータ様はお優しいです! ですが、あのくらいでへたばるのであれば、冒険者なんて辞めた方が良いかと思います」と言い、彼女らに休憩をとらせることなく、次の町へと移動を開始させたのだった。

 移動を開始したのは9時半頃で、旅をするには丁度良い天気だったいる。だが、自分の後ろを歩いている5人の表情は暗く、疲労困憊の顔をしている。


「キビキビ歩いて下さい! 予定よりも遅いじゃないですか!」


 予定もへったくれもないのだが、アオは5人に向かって早く歩けと文句を言う。いつものアオらしくないと思ったが、黙って様子をみる事にして歩く速さを落とさず進んでいく。

 11時頃になり、そろそろ狩りを始めた方が良いだろうと思い、アオに言う。すると、ようやくアオは5人に休憩させることにした。5人はようやく腰を下ろし、息を整える。その間に周囲を索敵して獣を探していると、アオが「リョータ様が獣を見つけたら、お嬢様方が仕留めてください」と言い放つ。5人は昨日の事を思い出し、返事をすることなく項垂れたのだった。

 彼女らの体力を考え、アオに10分後に獣を探すことを言うと、アオは納得はしていなさそうな表情で了承し、ゴミでも見るかのような目で5人の様子を窺う。

 それから暫くして、獣がいるか調べてみる。すると、意外にも近くに獲物がおり移動する。5人は少し緊張した表情で着いて来ており、動きが硬くなっては獲物を仕留める事は出来ないのではないか……と、思いながら獲物の側へと向かった。

 獲物が目視できる場所へ到着し、誰が行くかを相談する5人。どうして一緒に戦わないのだろうかとアオと2人で話していると、5人の話し合いは終わったらしく、今度はキリトが1人で獲物に襲いかかるが、昨日同様キリトは獲物だった獣に追い回される。

 何を学んでいるのだろうと思いつつ、アオに目配せする。アオは苦笑いをしながらキリトを抱きかかえ、こちらへとやって来た。相手は弱いと思ったのか、今度はキリトを抱きかかえたアオを標的にしたらしく、獣はアオを追いかけ始める。アオが自分の横を通り過ぎた瞬間、スマホから銃を取り出し、獣の眉間に弾丸をぶち込んだ。

 眉間に弾丸をぶち込まれた獣の正体はヴェルで、走っていた勢いを止める事はできずに前のめりになって転げまわり4人が立っていた場所に突っ込んだ。

 突然の出来事に避けることができなかった4人は、まるでボーリングのピンのように弾き飛ばされ、4人の運動神経の無さに涙が出そうになった。通り過ぎたアオが戻り、抱えていたキリトを下ろす。ヴェルに追い回されてぐったりとしているキリトは、地面に寝転がる。疲れのピークがやって来たのかもしれない。


「なぁ、キリト……。なんで君たちは皆で襲い掛かろうとしないんだ?」


 ぐったりと横たわるキリトに言うと、ゆっくりと身体を動かしてこちらに顔を向けると、キリトは涙目になっており、何故なのかその目で見つめられると罪悪感が込み上げてきた。キリトの顔はアオのように可愛い顔で、守ってあげたくなってしまう気分になり、恐るべき14歳だと思いながら見つめる。


「泣いてもどうにもならないだろ。お前たちは冒険者として生きていくのであれば、あの程度の獣を仕留められるようにならないと、一人で生活はできなくなっちまうぞ。誰かに養ってもらえるんなら、話は別だけどな」


 涙目になっているキリトに言うと、キリトは口を震わせながら「養ってください……」と、小さく呟いた。が、直ぐに顔色を変えて「じょ、冗談です!」と言い、慌てて立ち上がった。キリトは何かに怯えたような表情をしており、何に怯えたのかは見当もつかない。アオの方に顔を向けてみるが、アオはいつものように満面の笑みでこちらを見ていた。

 仕留めたヴェルをスマホの中へ仕舞い、再び獲物を探し始める。すると、スマホの索敵に魔物の印が表示され、近くに魔物がいる事を表していた。ぐったりしている5人に目をやり、どうしようかと考えていると、アオが声をかけてくる。


「リョータ様、如何なされましたか?」


 スマホを見つめていた事に違和感を感じたらしく、少し心配しているようだった。


「いや、大した事はないんだけど……近くに魔物がいるらしく、どうしようか迷ってる」


 迷っているという言葉を聞いて、アオはチラッと5人が座り込んでいる方を見る。言葉の意味を直ぐに理解したらしく、アオも難しい顔をした。


「取り敢えず俺が仕留めてくるよ。アオは5人を見ていてくれないか?」


 少し悩んだ顔をしたあと、アオは口を開く。


「いえ、ここはアオが魔物と戦います。リョータ様はお嬢様達を見て頂けないでしょうか? 今の状態では、お嬢様達はアオの実力を分かっておりません。アオの力が分かれば、もう少し言う事を聞いてくれると思うんです」


 真剣な表情でアオが言う。アオなりに考えているのだろう。アオの提案を聞き入れ、銃をアオに渡す。アオは両手で銃を受け取り、マガジンの弾数を確認し、魔物の数は何匹なのか聞いてきた。


「数は3匹。相手はどんなやつなのか分からないが、オーク程度だったらアオでもなんとかなるか?」


 真剣な目で見つめながら頷き、「多分、大丈夫です。これがありますから」と言って、銃に目をやり深く息を吐いた。

 次の獲物を仕留めに移動する事を5人に伝えると、5人は再び自分たちがやるのだろうと思っていたが、アオが「今回は私がやりますので、お嬢様達は見ていて下さい」と、自分が手本を見せるようなニュアンスで言う。だが、銃を使う時点で手本もクソもないだろ。

 スマホで場所をチェックしながらゆっくりと移動を開始し、離れた場所に魔物の群れを発見する。相手はゴブリン3匹で、できる事なら彼女らに任せたいところだが、彼女たちに目をやると、足を震わせているのが分かり、彼女たちではゴブリンと戦う事は出来ないと、改めて理解した。

 アオは腰に装備していたダガーを左手で握り、銃を右手で握りながらゆっくりとゴブリンの側へに近寄って行く。その目はいつものよな笑みは見せておらず真剣な表情で獲物を睨みつけており、5人は息を飲んでアオの行動を見守っていた。

 つい先日まで魔物に怯えていたアオ。成長した事は喜ばしいのだが、それよりもこの5人がさっさと成長してくれるか、冒険者を諦めてくれる事の方が喜ばしい。

 少し間を開け、アオは自身の素早さを生かし、ゴブリンの側へ駆け寄り左手に握っていたダガーでゴブリンの首を斬り裂くと、ゴブリンは血しぶきをあげて膝から崩れ落ちて

倒れる。仲間のゴブリンは戸惑いを見せており、その油断を見逃さないアオは、右手に装備していた銃でゴブリンに向けて弾丸を放ち、2匹目を仕留めた。

 素早い対応に5人は目を丸くしてり、何が起きているのか理解するのに思考が追い付いていないようだった。最後の一匹は、振り上げたナイフの様な武器を掻い潜り、喉元にダガーを突き刺して地面に押し付け、右手で持っていた銃をゴブリンの眉間に押し付け、トリガーを引いた。

 残るは1匹となると、ゴブリンは勝てないと判断したらしく逃走を試みる。だが、左手に持っていたダガーを逃げるゴブリンに投げつけ、倒れたゴブリンに銃口を向けてトリガーを引く。

 だいぶ手際が良くなったと思いながら見ていると、5人の少女たちは大喜びをしながらアオのもとへ近寄って行く。あの程度の魔物で手古摺るならば、アオのステータスを弄る必要がある。

 手を重ね合わせ、目を輝かせながら「格好いい……」とマリーが呟く。あのくらいなら誰でも出来るとは思うが、プルスなどの猛獣達に追い回されるのだから思うだけ無駄だろう。


「ご苦労さん。怪我はないか?」


「はい! 大丈夫です」


 尻尾をブンブンと振り回すように尻尾を動かし、頭を突き出して撫でて欲しいと言わんばかりの仕草をみせてきた。ご褒美だと言わんばかりに頭を撫でて上げると、「この一瞬のために頑張りましたぁ」と、嬉しそうな声を上げながら抱き着いてくる。その光景を見ていた5人から、冷たい目で見られる。


「な、なんだよ? アオは俺の従者だぞ……」


 一番酷く睨んでいるように思えるマリーに向かって言うと、「べ、別に……」と言って、そっぽを向いた。この女は危険かも知れない。頭の中で警戒音が鳴り響いているような気がしながら、ゴブリンの死骸へ近づいてスマホの中へ回収した。

 昼食を食べ、先を進むために街道を目指して暫く歩いていると、アオは急に立ち止まる。耳がピクピクと動いているため、何かに気が付いたようだ。急に立ち止まったため、5人は怪訝な顔をして説明を求める目で見つめてきたが、この世界では獣人が珍しいわけではないはずだ。自分よりもこの世界に詳しいはずの人間が、知らないのは不思議でならない。

 今は説明をしている暇はない。先ずはアオが反応した『音』の方が重要なので、スマホを取り出して索敵を始める。すると、スマホの画面に獣の印が現れ、近くに獣がいる事を示していた。取り敢えず食材になるため5人に狩ってくるように指示すると、5人は顔を見合わせた後、アオの方を見た。何を考えているのかさっぱり理解ができないが、自分よりもアオの方がランクは上だと思っているかも知れない。

 5人はお互いの顔を見て、何かを決意した顔をする。そして、5人は我先に……と、獲物めがけて突進していく。何をやりたいのか理解できないが、スマホで5人の動きは把握できており、アオと共にゆっくりと5人のいる場所へ向かった。

 5人で1匹の獣を囲み、逃げられないよう包囲する。スマホで確認するだけならば、そのように見えるが、実際は囲んでいるだけで手を出す事は出来ず、手をこまねいているだけなのだろう。


「リョータ様」


 名を呼ぶアオ。5人が倒せなかったら……と、アオは言いたかったのだろう。目を見る限りだとそのように思えるので、頷いてみる。すると、アオは足音を立てずに駆け出し、5人の後を追う。

 スマホの画面を眺めながら5人の後を追う。すると、5人の後ろにいた6人目が素早い動きで目標を仕留めたらしく、獣の印が消えてしまう。この様子だと、5人はずっと睨み合いを続けていたようだが、動く事ができなかったため、アオが仕留めたのだろう。

 暫くしてアオのいる場所へ辿り着くと、5人は疲れ切った顔して座り込んでおり、アオは苦笑いをして仕留めた獲物の側で立っていた。

 獲物の正体はヴェルで、何故5人もいるのにヴェルの一匹すら仕留めることができないだろうかと思いながら、スマホの中にアオが始末したヴェルを仕舞い、情けない顔をした5人をチラッと見て、先へ急ぐことにしたのだった。

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