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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
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20話 お荷物を抱える

 ギルドマスターらしき男と約束した時間はまだ先だったので、泣き止んだアオを連れて武器屋に向かう。何故、武器屋に行くのかと言うと、オークとの戦いで現在使用している武器に限界を感じたからである。以前訪れた防具屋アルマの店員、アルに紹介して貰ったのを思い出したので、そのお店へ行ってみる事にした。

 武器屋に到着して中へ入ると、「いらっしゃい!」と、厳ついオッサンの声が店内に響き渡る。カウンターの向こうに座っているオッサンをチラッと見て、無視するのも気が引けたため軽く会釈をする。

 アオは飾られている武器に興味があるのか、目を輝かせながら武器を見ていた。オッサンのことは視界にすら入っていないようだ。

 買う物は大体決めていたので、目的の武器を探していると、オッサンが話し掛けてくる。正直に言って、このような接客が大嫌いだ。なので、「アオ、店の人が色々と教えてくれるらしいぞ」と、アオにオッサンの相手をしてもらうことにして、目的の武器を探す。基本的にウインドウショッピングが嫌いだ。いつも欲しい物は先に決め、目的の物だけを買って家に帰る。この様にしないと、使わないのに物を買ってしまうため、お金がいくらあっても足りなくなってしまう。そして、いま欲しい武器は大剣である。目的の物が見つかり手にしてみる。目的の物とはツーハンデッドソードだ。

 ツーハンデッドソードを手にして、軽く振ってみる。本来であれば両手で持つ剣なのだが、ステータスのSTR()が高いため片手で持ち上げる事ができてしまう。そして、振り落とした感じを確かめてみると、全くふらつく事はなく振り落とせる。『チートの力は世界一!!』などと思ってしまった。

 本当であればもう少しましな武器を手にしたいのだが、この町ではこれが一番強い武器となっているらしく、もう少しましな武器を求めるのであれば、もう少し大きな町へ行く必要があるらしい。

 何故、この町では売っていないのかと言うと、この町の周辺では魔物が弱いのが原因で、それほど稼ぐことができないからだ。

 取り敢えずこの武器を購入しようとカウンターの方を見ると、アオがオッサンにダガーのような物を勧められており、困った顔をしながら話を聞いていたので、暫くその様子を眺める事にした。


「分かったかい? 嬢ちゃん、獣人で嬢ちゃんみたいな人は素早いのが特徴なんだ。だから、こういった武器で戦うのが一番合っているんだよ」


「そうなんですか……。ですが、どうやって戦えば良いのでしょうか?」


「それはな……」


 オッサンが言っているのは通常の獣人の話だが、アオはスマホで強化された獣人だ。そのため、STRやAGI、DEX等は平均にしている。だからダガー系の武器でなくてもアオは構わないのだ。

 普通に剣を装備したとしても、その重さは果物ナイフと変わらないくらいしか感じないはずだが、この事を知っているのは自分だけで、オッサンやアオが知るよしもない。

 また、護身用に銃も持たせており、遠距離と近距離に対しては問題ないはずだが、アオは目を輝かせながらダガーを見つめているため、溜め息を吐きつつオッサンが勧めるダガーを2本とツーハンデッドソードを購入した。何故ダガーを2本も購入したのかというと、オッサンがアオに力強く勧めており、アオが欲しそうな眼をしていたからである。

 確かにあの店はボッタクリの値段で物を販売はしていないが、何も知らない人に物を売るのが得意な店。簡単に言えば、接客を重視している店だと言う事がよーく分かった。

 次は防具屋に向かう。自分は防具を装備しているが、アオの装備を疎かにしていたため、全く装備をしていないのだ。自分の側にいれば、敵の攻撃を受ける事はないので購入していなかったのだが、リザネオークとの対戦時に、アオが酷く怪我をしたのと、自分の身は自分で守りたいとアオが言うからである。

 アルが勤めている防具屋アルマに到着し、中へ入る。防具に関しては全く知識がないので、アルにお願いして防具を購入しようと思っていたのだが、アルの姿は店の中にはなかった。

 それほど大きい店ではないため、グルッと周りを見渡して姿を確認するのだが、やはりアルの姿はなく、仕方なしに店の人にアルはどうしたのか聞く。すると、アルは数日前に店を辞めてしまったらしくい。どうしてアルが店を辞めたのか聞くと、言葉を濁してしまい、辞めた理由については教えてくれない。

 問い詰めても仕方がない。前回アルが自分のために皮系の防具を選んでくれたので、アオのサイズを確認しながら皮系の防具を選び、購入してからアオに装備させる。アルがいたのなら、アオのサイズ合わせも一緒にお願いしたのだが、店の人は男だったので自分でサイズ合わせを行い、防具を選んだ。大切なアオを他の男に触らせたくないからだ。

 この町から離れる前に、世話になったお礼を言いたかったのだが、店を辞めてしまったのならば仕方がない。どこに住んでいるのかも分からないし、そこまで親しいわけでもないから。

 スマホで時間を確認すると、かなり良い時間なっていたため、次の町へ向かおうかと思ったのだが、ギルドマスターらしき男との約束を思い出し、渋々ギルドへ向かう。

 のんびり歩いていたため、昼になってギルドに到着し、カウンターの向こうにいる女性ギルド職員にギルドマスターと約束をしていると話すと、確認するから少し待ってほしいと言われ、アオと共に椅子に腰かけて待つことにした。

 くだらない話をしながらアオと待っていると、ようやく先ほどのギルド職員が戻り、部屋へと案内された。随分と仰々しいと思いながら案内された部屋の中に入ると、ギルドマスターらしき男と、バルバス、5人の女性がソファーに腰かけており、一斉にこちらを見たため、アオと共に少しだけたじろいでしまった。


「お、お待たせしました……」


 別にこちらとしては用が無い。だが、礼儀として一応言っておくべきだろう。


「おう、彼女たちを覚えているか? お前が助けた冒険者だ」


 そう言ってバルバスが立ち上がると、座っていた5人も慌てて立ち上がり軽い会釈をする。彼女たちを助けたと言われても、ハッキリ言って顔まで覚えていない。何故なら、裸の女性もいたので、ジロジロと見るわけにはいかないのと、ほとんどアオに任せていたからである。

 女性……というか、アオよりも若いように見える。見た目は中学生くらいか? そんな事を考えていると、一人だけ顔を思い出す。アオの居場所を確認した時に話しかけた少女……。

 だが、そのような事で一々戸惑っていられない。すると、その少女と目が合い、恥ずかしそうな素振りを見せる。ハッキリ言って早くこの茶番劇を終わらせてもらいたい。

 バルバスに促され、先ほど目が合った少女が言葉を詰まらせながら「助けてくれて、ありがとうございます」と、礼を言う。すると、他の4人も「ありがとうございます!!」と頭を下げた。

 しかし、あの時助けた女性の数は12人程いたはずである。だが、他の人について聞く訳にはいかないので、「助けられて良かったよ」と、無難な台詞でその場を終わらせる。アオはなんとも言えない表情をして立っており、服の裾に掴まっていた。

 会話を続けた方が良いのか考えていると、後ろの方に座っていたギルドマスターらしき男が笑いを我慢しているのが見え、ぶっ飛ばしたい気持ちを抑える。それはアオも一緒だったらしく、掴まっていた裾を強く引っ張っており、服が伸びていた。


「えっと……君達は冒険者……なのか?」


 一応、話を続けることにして聞いてみると、「は、はい! 私達は冒険者になったばかりです!」と、一番初めにお礼を言ってきた少女が背筋を伸ばして受け答えをする。意外と礼儀が良いなと思ってしまうのだが、2人ほど例外がいたことを思い出す。


「そうか。でも、無理をしては駄目だよ。先ずは近場に現れるビッグラビや、プルスなどを相手にした方が良い。そこから経験を積んで、ゴブリンなどに獲物を変えていく。その間に、ギルドにある練習場などで修練を積み重ねると良いと思うよ」


 そんな事を言っている自分は、スマホで能力を課金しただけである。どの口がこの様な事が言えるだろうと自分でも思ってしまう。

 しかし、少女たちは目を輝かせながら「はい! ありがとうございます!!」と元気に返事する。やはりオークの集落を壊滅させた実績は高く、尊敬の眼差しで見つめてくる。その純粋さが眩し過ぎて直視したくなかった。助けた冒険者にお礼も言われたのだから、これで終わり。そう思っていたのだが、バルバスがニヤニヤしてこちらを見ていた。この親父は何を考えているのだろう……。

 すると、一番初めにお礼を言ってきた少女がとんでもない事を言い出す。


「も、もし宜しければ……私達をパーティに入れて頂けないでしょうか!!」


 最初は何を言われたのか理解できず、「はぁ?」と、間の抜けた声を出してしまい、後ろの方で座っているギルドマスターらしき男が、腹を押さえながら声を殺し笑っていた。


「わ、私たち……リョータさんのような凄い冒険者になりたく……お願いします!」


 改めて仲間になりたい理由を言い頭を下げる。続いて残りの4人も「お願いします!!」と、言って頭を下げた。彼女たちが言いたい意味を理解することができず戸惑っていると、バルバスが笑いを堪えながら言う。


「お前さん、ウチのマスターに若手冒険者を育てた方が良いって言ったらしいじゃないか」


 やはりあの男はギルドマスターらしい。


「え、えぇ……。確かに言いましたけど……」


 かなり動揺しているのだろう。声が上擦っているのが自分でも分かる。


「今のところギルドは若手冒険者に基礎的な事しか教えて上げる事ができない。そこで、暫くの間は優秀な冒険者に育てて貰う事にした……という訳だ」


「は、はい?」


 言われている意味が理解できず、聞き返すような返事をすると、バルバスは話を続ける。


「そう言っても、いきなりベテラン冒険者にお願いするわけにもいかない。これは試験的に行う必要があり、何人かの冒険者を選別して依頼しなけりゃならない。そこで、先ずは言い出しっぺであるお前にやって貰おうと言う事になったんだ――」


 バルバスの話はしばらく続くのだが、簡単にまとめると、自分たちが部屋を出た後、ギルドマスターの緊急会議が行われたらしく、自分が言ったことを各ギルドマスターに説明したら、いきなり設備を整えるのは難しいから、段階を踏んで整えていく事にしたのと、取り敢えずオークの被害を低くするために、女性冒険者を中心に育てたら良いのではないかと言う話になったらしい。そして、今回被害にあった若手女性冒険者に今後の事を聞いたところ、冒険者を続けたいと言われたらしい。

 どの冒険者に依頼するかがネックになっていたらしく、今回お礼をしたいと言ってきた少女たちに意見を聞くと、二人でオークの集落を壊滅させた自分達に習いたいと言ったとのことだった。


「ちょ、ちょっと待って下さい! 俺達は次の町へ行こうとしているんですよ! それなのに育てろって……無理に決まっているじゃないですか!」


「ハハハ……。それなら問題ない」


 まるで言われることが分かっていたような顔をするバルバス。問題ないと言われ「え?」と、間の抜けた声を出してしまった。


「冒険者ギルドは世界中のギルドと繋がっているんだ。だから、誰が何処の町で活動しているのか分かるようになっているんだ。そして、冒険者として活動をしていない者が何人いるのかも把握しているし、王国に雇われた場合も分かるようになっている」


 登録した時にも貰った冒険者カードで、現在の状況が分かるようになっているらしい。だが、ハッキリ言って足手まといになるのは明白。しかし、セリカのように寄生虫になられても困るのは確かだ。


「お前さんが冒険者を育てないと駄目だと言ったんじゃないのか? ギルドとしてはベテラン冒険者に依頼したいが、直ぐにそれはできない。そこで、たった2人でオークの集落を壊滅させた凄腕の冒険者に強くなる秘訣を聞いたが、あっさりと断られちまった。そこで、ギルドとしては困ってしまい、若手冒険者に誰が良いかと聞いたところ、お前さん等を指名してきた。ギルドとしても判断に困ったが、お前さんの実績は十分だと判断し、仕方がなくその2人に新人を付けさせて、勉強してもらおう結論になった。で、お前さんは断るというのか? お前さんが若手を育てろって言ったんだぞ。それに、駄目だったら駄目で構わない。これは試験的な話だからな」


 もし死んだらそれはそれで仕方がない。そういう運命だったと言う事。と、バルバスは付け加えると共に、何の処罰等は与えないと約束するのと、育ててもらった分の報酬はギルドから出すと付け加えた。そして、隣町に行く間だけでも構わないと言われ、逃げ道はないと遠回しに言われ、渋々引き受ける事になってしまった。決して、1人頭=日数×1,000Gという報酬の誘惑に負けた訳ではない。

 バルバスに「引き受けるってよ」と言われ、飛び跳ねながら喜ぶ少女たち。アオは頬を引き攣らせながらこちらを見ており、何と言って良いのか分からず深い溜め息を吐いた。

 ギルドマスターの部屋を出て行き、ギルドホールに戻る。すると、イルスが椅子に腰かけて誰かと何か話していたので、取り敢えず無視して出て行くのも気が引けたので声を掛ける。


「よぉ、イルス」


「あ、リョータ! と、どうしたのさ……その子たちは」


 驚いた顔をしているイルス。それもそのはず、いつの間にかハーレムみたいな状態になっており、誰が見たってドン引きになるはずだ。ちなみにアオは少し離れた場所からこちらを見ており、頬をヒクつかせている。


「これはギルドからの依頼でね……。彼女たちを暫くの間、面倒を見る事になったんだ」


 簡単に説明すると、イルスは同情するような目で見つめてくる。


「ギ、ギルドからの依頼なら仕方がないね。それにしてもリョータ、モテモテじゃないか。羨ましいなぁ」


 引き攣った顔で笑うイルス。どう見ても羨ましいとは思っていない。


「まったく……笑い事じゃないぞ。あ、イルス……言い忘れていたけど、俺達はこの町を離れる事にしたんだ」


 突然のカミングアウトにポカーンとした顔をするイルス。何を言われたのか理解するのに時間がかかっているようだった。


「ちょ、え? なんで? いきなり……」


 言われた言葉を理解してイルスが動揺しながら聞いてくる。いつもだったら興味も示さないカルキダも驚いた顔をしていた。


「まぁ、簡単に言うともう少し見聞を広げようかと思ってね」


 そう言うと、寂しそうな表情をするイルス。


「そっかぁ……。リョータがいなくなるのと寂しくなるなぁ……」


 本当に寂しそうに言うイルス。別れを惜しんでくれていたが、後ろに座っていたカルキダは何故か嬉しそうな顔をしている。コイツ、本当にむかつく奴だな……。


「でも、永遠の別れって訳じゃないだろ? 冒険者を続けて行けば、その内どこかの町で会えるかも知れない。それにイルスたちが名を上げれば俺達の耳に入るかも知れないだろ? その時は自慢させて貰うよ」


「それはこっちの話さ! リョータが活躍したら俺は一緒に狩りをしたって自慢させてもう! それに、いずれ俺達も拠点を移すかも知れないしね」


 そう言ってイルスは立ち上がり、握手を求めてくる。


「お互いに頑張ろう!」


 差し出してきた手に握手をすると、後ろで見ていた少女たちは「素敵な友情ですよ!」と、楽しそうに話していた。何なんだよ君たちは……。本当に台無しだよ……。


「あ、そう言えば……俺達も新たに仲間を加えたんだよ」


 イルスはそう言って仲間を紹介しようとしてテーブルの方に目をやるが、今は席を外しているらしく、カルキダの隣は空席だった。


「へぇ~。どんな奴だ?」


 紹介したくとも席にいなかったので少しだけでも情報を仕入れておこうと思い、質問をしてみる。


「最近治癒術士になったばかりの子でね。戦闘は苦手らしく戦う事は今のところできないけど、もう少ししたら火魔法を覚えられるかも知れないって言ってたんだ」


「へぇ……そうなんだ。治癒術士が一人でもいれば、戦いの幅が広がるもんな」


「そうなんだよ。カルキダも魔法が使えないから、探していたところだったんだ。お、丁度戻って来たようだ……おーい!」


 イルスが手洗いの方を見て手を上げる。すると、見覚えのあるシルエットで困惑し、見間違いではないかと再びイルスが呼んでいる人物を探す……が、やはりあの女はセリカだった……。


「あ! イルス……さん?」


 セリカもこちらの存在に気が付いたようで、引き攣った顔をしていた。その様子を見ていたアオも頬を引き攣らせている。


「紹介するよ、リョータ。彼女はセリカさん。最近回復魔法を覚えたらしく実戦経験は浅いけど、それなりに冒険者としての知識があるんだ」


 素敵な笑みで紹介するイルスだったが、自分はどのような顔をしているのか分からない。取り敢えず何か言わなければならないと思い、「そ、そうか……。宜しく……セリカ……さん。俺はリョータって言うんだ……」と、挨拶を交わすことにした。


 セリカも気まずさそうにしながら「宜しく……」と、一言だけ言う。


「昨日、バルバスさんに紹介されてね。一応、パーティを組んでいたらしいんだけど、リーダーと馬が合わなかったらしい。勿体ないよね、魔法使いは貴重なのに」


 腕を組みながら前に所属していたパーティの事を説明してくれるイルス。そのパーティが目の前にいるのは黙っておくことにして、早くこの場から立ち去ろうと思った。


「そ、そうか……。それは良かったな……え、えっと……セリカ……さんだっけ? えっと、イルスたちを頼むよ」


 当たり障りのない事を言い、その場から離れようとすると、セリカは「は、はい……。リョータ……さんも……頑張って下さい」と、心にもない事を言いつつ、後ろに控えている少女たちに目をやり、一瞬だけ鋭い目で睨みつけてきた。別にお願いして彼女たちに付いて来てもらっている訳ではない。そして、勝手にどこかへ行ってしまったのはセリカであり、恨まれる筋合いはない。


「じゃ、じゃあ、俺達はこれで失礼するよ。イルス、カルキダ……頑張れよ。あと、セリカ……さんも」


 返事をするのはイルスだけで、カルキダはそっぽを向きやがった。セリカはどういう意味なのか分かっておらず首を傾げる。


「リョータも頑張ってね!」


 再びイルスと握手を交わす。そして、ギルドから出て行こうとしたが、忘れていることがあり立ち止まり振り返った。


「あ、セリカさんは……魔法使いなんでしょ? もし良ければこれをあげるよ。暇なときに役立ててくれ」


 そう言って1枚の紙をセリカに渡し、次の町へ行くため外へ向かった。


-----


 リョータが可愛い女の子たちとギルドから出ていき、イルスさんが椅子に腰かけ、カルキダさんが話し始める。二人の会話を聞く限りだと、どうやらリョータの奴は町を出て行くらしい。私はあいつに捨てられたような気分になり、少しだけ呆然としてしまった。


「そう言えばセリカさん、さっきリョータから何を受け取ったの?」


 リョータの奴がくれた物が気になるのか、イルスさんが聞いてくる。私はその紙に書かれている内容を見て、驚き涙が溢れ出してきた。書かれている内容は、前に教えて貰った火魔法のやり方だけではなく、他の基本魔法の覚え方が書かれてあり、いつか言っていたリョータの言葉を思い出す。


『お前は魔法使いの素質がある』


 私は彼に魔法の素質を見出され、回復魔法を覚えられるようなった。そして、自分は捨てられた訳ではなく、彼のいる世界から逃げたのだと気が付いてしまった。


「ちょ……ど、どうしたの……セリカさん」


 突然涙があふれ出てきた私を見て、カルキダさんが慌てて聞いてくる。私の居場所は今はここなのだから、しっかりしなければならない。


「い、いえ……彼は見ず知らずの私に優しくしてくれた人だった……そう思ったら涙が出てきて……」


 そう言うと、イルスさんは「彼は本当に優しい人だよ」と、一言だけ呟きハンカチをくれた。いつか再び会う事ができたら……その時は素直にお礼と謝罪をしようと心に誓った。

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[良い点] …これにて第一部完!…ですかね? …しっかし!最後の同行者は蛇足でしたし…依頼を受ける報酬に、エルフの形をした狸親父の顔面を一発ぶん殴ってほしかった…です…いずれ主人公がSランク近くに登…
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