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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
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2話 エリエートの街

『では、これから今いる所が何処なのかをご説明させて頂きますね!』


 ショップ店員の小林は楽しそうに言うのだが、俺はそんな気分になれない。なれるはずが無い!


『今いる世界ですが、『エルラレッド』と名の世界に居られます』


「――エ、エルラ……レッド?」


『はい。そこの世界は石橋さんの世界でいうと、中世に近い文明の世界になります。しかもその世界では、魔物も存在している世界……と、なっている……ようですねぇ』


「ま……魔物! な、なんだよ! それ! 聞いてないぞ」


 慌てて周囲を見渡して小林が言う魔物の存在を確認したのだが、魔物らしき生き物は見当たらず、ホッと胸を撫で下ろした。


『一応言っておきますが、貴方はこの世界を救う勇者でも何者でもありません。特別何かに選ばれた人物ではなく、不慮の事故によって異世界へ来てしまっただけ。何処かの町でゆっくりと生活するも良し、気が向いたら世界を救うもよし、何をするのも自由なのです』


 だからといって「じ、自由って言われてもなぁ……」と、ボヤキながら、立ち尽くして周りを見渡し、この後はどう答えて良いのか言葉を探す。


『何時も言っていたじゃないですか、石橋さん。別の世界へ行ってみたい! チートな生活を送りたい! って。ですので、こちら側が不備を起こしてしまいましたので、石橋さんの想いを叶えてあげましょう! って事になりました(笑)』


 確かに不幸な生活から脱却したいがために、別の世界が在るのであれば行きたいと思っていたが、だからって急に異世界を受け入れろと言うのは無しである。

 普通は何かしらの説明があって、異世界へ行くものだと思う。


『自転車に轢かれて死んでしまったのですから、元の世界へ戻ることはできません。既に石橋さんは遺骨となって、無縁墓地に埋葬されてしまっていますから。死んだ人間を蘇らせた事により、世の中を混乱させる訳にはいかない。だったら石橋さんの願いを叶えてあげるのも一つの優しさ。と、言うことで、異世界生活(ライフ)を楽しんでください。チートがご希望と言うことだったのでスマホを差し上げます。使い方はアプリの取説をダウンロードして下さい。それでは楽しい異世界生活(ライフ)をエンジョイして下さい!』


 言いたいことだけ言って電話を切られ、スマホを見つめながら途方に暮れてしまう。

 すると、手に持っていたスマホが急に鳴り響き、驚きのあまり落としそうになってしまい、慌てて画面を確認した。

 どうやらショップ店員の小林がメールを送ったようで、内容は『この場所から少し先へ歩くと町がありますよ』と、無駄な親切心を出していた。

 だったら最初から安全な場所の町に転送してくれれば良かったのではないだろうか。


 ボヤいていても仕方が無いし、先ずはこの場所から移動する必要がある。しかし、手ぶらで移動するのは危険すぎるのではないだろうか。

 小林はチート能力を授けたと言っていたのを思い出し、先ずは周りが安全なうちにスマホの使い方を理解する必要がある。

 このスマホにどのようなアプリがあるのか確認すると、画面上のアイコン数が異常に少ない。


「えっと……先ずは電話……と言っても、中世に近い世界で電話があるはずねーじゃん! 誰に電話しろって言うんだよ!」


 スマホを叩き付けたくなる衝動を抑えつつ、通話ボタンに思いっ切りツッコミを入れる自分が非常に虚しく感じる。

 画面にあるアイコンは、時計と受話器と地図、リュックサックにメール、検索バーに人型マーク、アプリストアとカメラ、蝦蟇(ガマ)口財布のアイコンのみである。

 小林が言っていたように、先ずは取説を読んだ方が良いかも知れないと思い画面上のアプリストアをタッチすると、見慣れた画面に切り替わる。

 だが、その早さは異常であった。


「――スッゲー……」


 処理速度の速さに驚きながらも取り扱い説明書をダウンロードするのだが、待ち時間は1秒にも満たずにダウンロードされる。

 今までのスマホと比べても段違いの性能だという事を身を持って知る。

 最初に確認したのは初期アイコンである。

 受話器のマークは緊急電話らしく、押せばコールセンターに繋がるらしい。と言うか、異世界でコールセンターとは一体何なのだろうか。

 他には誰かと連絡を取る事も可能……。だからぁ、中世に電話なんか無いだろ! 再びツッコミを入れた後、虚しさだけが心の中に広がる。

 次に地図アプリのアイコンだが、普通に地図が表示される。だが、地図は異世界の地図であり、航空写真の様に表示されている。

 しかし、道を調べるには最適かも知れないし、他にも色々使い方があるかも知れない。何よりも、ストリートビューが備え付けられているのが凄い。

 次はリュックサックのアイコンだが、これはアイテムボックスになっているらしく、取り出したい物のアイコンをタッチして取り出し、カメラを起動して収納したいアイテムをスマホの中へ収納する事ができるようだ。

 これは使って確認する必要がある。

 メールは……よく分からない。ただのメールのようにしか思えない内容しか書かれていない。

 この世界の誰が、この様な(スマホ)を持っているのか教えて欲しいものだ。

 検索バーに関しては、ただの検索バーである。

 しかし、元いた世界の情報を知ることができるが、異世界の情報も仕入れる事ができるようだ。

 以外と便利な機能だ。

 人型マークのアイコンはステータスと書かれており、自分のステータスを確認できるらしい。

 アプリストアで能力向上アプリをインストールし、自分の能力を課金することができるようだ。

 と言うか、力を課金できるって凄くね?

 アプリストアは本当にアプリストアらしく、スマホアプリをダウンロードできる。

 ダウンロードしたアプリの中に身体能力向上などのアプリがあるらしく、後で確認した方が良いだろう。

 蝦蟇(ガマ)口財布のアイコンはそのまま財布のようで、電子マネーとして使う事はできない。だが、スマホで購入した物に関しては引き落としが可能らしい。

 いったい、何を引き落とされるのかは記載されておらず分からない。もしかしたら金かも知れないが、これも早めに確認する必要があるだろう。

 初期の確認を終わらせ、リュックのアイコンをタッチする。すると、画面が切り替わり、現在中に入っているアイコンが表示された。

 ショート・ソードと書かれた剣のアイコンをタッチすると、目の前に剣が現れた。

 数秒間だけ宙に浮き、剣は地面に墜ちる。

 どうやら浮いている最中に剣を掴むことができるようだが、そういう事は説明書に書いておいてくれると助かる。

 今度は収納させるためにカメラを起動させると、画面に『収納』『撮影』『切り替え』等が表示され、『切り替え』とは何を切り替えるか分からなかったため、タッチしてみる。

 すると録画モードと背面カメラから内側カメラのボタンが出てきた。

 ここは他のカメラと同じであることが分かり、画面を戻して収納ボタンを選択すると、『対象物をタッチして下さい』と表示される。

 画面に映っている剣をタッチしてみると、画面の剣を収納しますか? と、聞かれてきたので「はい」のボタンをタッチてみる。

 すると、選択した剣が光の粒子みたいな物に包まれ、一瞬で目の前から消えてしまう。

 再びアイテムを確認してみると先ほどの剣が表示されており、収納された事を表していた。

 次に確認するのはステータスのアイコンである。

 人型のアイコンをタッチしてみると、自分の名前やステータスなどの数値が表示された。


 名前:石橋(いしばし)亮太(りょうた)

 年齢:18

 Lv:0

 HP:5

 MP:1

 STR():3

 VIT(生命):2

 AGI(敏捷):2

 DEX(器用):1

 INT(知性):1


 泣きたくなるほど弱過ぎるステータスである。

 平和ボケしている国で育つと、これが常識的なステータスに成るのだろうか。

 学生の頃、何かの記事で読んだ記憶が有る。

 ゲーム内の力は、1上がるだけでもかなり強くなると……そう考えるとこの能力が当たり前なのか、それとも、元々自分が弱過ぎるのか……まぁ、どちらかしかないのであるが、それにしても弱過ぎて、魔物に出くわしたら直ぐに死んでしまいそうだ。

 だが、実際の年齢と異なっているのはどういう事だろうか……。

 また、チート能力が有るはずなのにこのステータス。

 小林はどうやってチートな生活を送れというのだろうか……。

 いつまでも貧弱な能力を観ていても変わるはずがないのでステータス画面を閉じて、財布のアイコンをタッチした。

 直ぐに画面が切り替わり、現在の所持金が表示される。


 所持金:500G


 多いのか少ないのか全く分からない。

 だが、無一文よりはマシである。

 最後に地図アプリを開き、どの様に表示されるのか確認すると、普通に地図が表示される。

 だが、自分のいる位置も表示されており、異世界なのにどうして自分の位置が確認できるのだろうと疑問に思わざる得ない。

 考えを巡らせたところで状況が変わる訳では無いので首を左右に振り、考えるのを止めて取り敢えず表示されている町へ向かうことにした。

 一応、ショート・ソードを取り出して装備するのは忘れてはいないが、ずっしりとして重い。


「そう言えば……身体能力を課金して上げることが可能だったっけ……」


 鞘を左の腰に設置して歩きながらスマホを立ち上げ、ステータスを表示させる。改めてステータス画面を見てみると、各ステータスはタッチすることができるらしく、試しにAGIをタッチしてみる。

 すると、『+』『-』と『0=0G』と書かれており、『+』を押してみると『1=10G』と表示される。


「能力を1ポイント上げる毎に10Gするのか……だけど、今の能力はヤバすぎるから少しだけあげておくか……」


 HPとMPを除き、全てのステータスを5ポイント課金して残金は250Gとなる。スマホの画面に「支払いが完了しました」の文字が出ていると、効果が直ぐに現れたのを実感した。

 どの様に実感したかと言うと、身体が少し軽くなった気がするのと、腰に下げていたショート・ソードが軽くなった気がする。


「本当に能力が上がっている?」


 もう少しお金があれば分かるのだが、今の状態だとこれが限界だろう。町に到着してもお金が有りませんでは話にならない。

 取り敢えずスマホをポケットの中に仕舞い、地図に示されていた町の方へ歩き始めた。


 暫く歩いていると、草むらからウサギが現れる。

 うん、確かに兎だ。いやいや、少し待て……奴は本当に兎なのだろうか……。

 兎の眼はキュートな眼をしている筈だが、この兎の眼は血走っているように見える。

 自分の知っている兎は滅多なことがない限り鳴くことはない。が、このウサギは『グルルルゥ……』と、まるで猛獣みたいな声で威嚇するように鳴いている。

 兎というのは『クー』もしくは『ブー』等であるが、獣じみた鳴き方はしない筈である。

 しかもこの兎、既に戦闘モードになっており、いつ襲ってくるのか分からない。しかも兎のくせに猪位の大きさだ。


「ま、まさか……」


 その『まさか』だった。

 慌てて鞘から剣を抜き出して構える。

 すると、兎の奴は「幾人も始末しました!」と言った様な前脚を突き出して飛び掛かり襲い掛かってくる。


 突発的な攻撃をなんとか躱すと、兎の背後へ回り込む形となって不利な状況から一変する。

 兎が襲ってきた事によりここは異世界だと改めて認識させられ、殺られる前に殺らなくてはと剣を強く握りしめた。

 兎の背後を取った俺は、握りしめた剣を背後から突き刺して攻撃をする。

 ギャン! と、兎が悲鳴に似た声を発した。剣を突き刺した事により致命傷を負わせ、兎の動きが止まる。

 さらなる攻撃が可能となったが、兎はまだ生きていて、まだ戦闘は終わっていないと言わんばかりに睨んでくる。

 逃したところで改心してくれる訳ではなさそうだ。

 突き刺した剣を抜いて次の攻撃に備えろと誰かが頭の中で囁いた気がして、その指示に従うかのように身体を動かす。

 ここは自分がいた世界とは異なる世界。ただ、兎のサイズに驚いてしまったのと、兎は臆病な生き物という認識をしていた違いである。

 動けなくなっている兎を蹴っ飛ばし体勢を崩させ、首元に剣を突き刺して止めを刺した。

 初めての戦闘で「ハァ〜……」と息を吐き、落ち着くためにもう一息吐く。

 初めてにしては身体が動いた。

 どうやら課金したことにより判断が速くなっているらしく、相手の動きを先読みできている様だ。

 また、初めて自分の手で生き物を殺めたのに、全く罪悪感が湧くことが無いし、気持ち悪さもない。

 どうやらこの世界で生きていくのに適応させてくれているようだった。

 死骸に目をやり、少しだけ思考する。

 ゲームや小説ではこういった物は素材や食料になるはずである。

 スマホを取り出し兎の死骸を収納できるか確認すると、問題なく収納できた。

 表示されているのは兎という名前ではなく『ビッグラビ』と表示されている。

 あの兎はビッグラビと言う名だという事が分かった。

 また、アイテム欄には解体コマンドが表示され、それを押してみると『ラビの毛皮』と『ラビの肉』に変わる。

 いちいち面倒な解体等をせずとも、スマホの中へ収納すれば解体してくれるというのは楽である。

 そもそも解体なんてした事がないので非常に助かる。

 それから猪の姿形が似た生き物の『ヴェル』を3匹、鶏の様な生き物の『プルス』を1羽仕留め、その死骸をスマホの中に収納した。

 この世界にいる動物は凶暴だということが分かるのだが、豚や牛も凶暴なのかと疑問に思ってしまう。

 

 それからどの位歩いたのだろうか。身体が水を欲し始めている事が分かる。

 その都度、動物に襲われしまい、なんとか倒していくとようやく街が見え始めた。

 心なしか歩調が早くなって行くが、嬉しさに負けてしまい最終的には走り始めてしまった。

 町に付いたら、先ずは水を飲む!!

 何度も動物に襲われており、その都度戦っているのだ。

 いい加減、喉が渇いた。

 水が飲みたい!

 心の中でそう叫びながら入り口に近付いて行く。

 そして、ようやく街の入り口に到着し、中へ入ろうとしたところで呼び止められた。


「ここはエリエートの街だ。通行証かギルドカードは持っているか?」


 兵士に呼び止められ、通行証か何かの提示を求められる。もちろん、そのような物を持っているはずが無い。

 そして、言葉が理解できる事に少しだけ驚きを隠せずに動揺してしまった。


「は? 通行……いえ、持っていませんが……」


「なら、向こうで手続きをしてくれ」


 兵士が促す方を見る。そこにあるのは検問所のような建物を示しており、大人しく従う事にして建物の中へ入る。

 建物の中には数人の兵士がおり、腰掛けるよう言われたので目の前にあった椅子に腰掛けた。


「ここに来たという事は通行証を持っていないんだな? それじゃあ、幾つか質問させてもらうのと、通行料を支払ってもらう」


「えっと……はい、分かりました」


 よくあるお約束である。金を払わなければ町にいれてくれないのだろう。


「名前と出身地を紙に書いてくれるか」


 出された書類に目を通すと、異世界文字で書かれており、一瞬だけ書いてある文字が理解することはできなかった。

 だが、直ぐに文字が日本語のように見え始めて異世界文字を理解する事ができ、取り敢えず日本語で書類に自分の名前と出身地を書くと、文字が異世界文字に自動変換された。

 書類を見ていた兵士は何も言わず、書き終えた書類を手にして内容を始める。仲間の兵士に「ニホンって知っているか?」と、聞いている程度で文字が自動変換された事に全く気が付いていない事に、ホッと息を吐く。


「この街には何しに?」


「えっと……旅をしてまして、街を見つけたのでここに寄りました」


「なるほど、旅をしていたと言うわりには冒険者って訳じゃなさそうだな……。冒険者にならないのか?」


 冒険者? 旅人は冒険者ではないのか?


「えっと……。落ち着ける場所があれば、そこで冒険者になろうと思っています。今まで住みやすい街が無かったもので……」


 適当に話を合わせていくと、兵士は頷きながら納得し通行料の50Gを求めて来た。なのでスマホを取り出すと、兵士は目を丸くする。


「あ、これは魔法の板です。これに道具を仕舞ってあります」


「あ、あぁ……。なるほど、アーティファクト持ちだったのか……」


 どうやら世界は中世並みのレベルでも、以前は古代文明が栄えていたらしいな。アーティファクトという言葉が何よりの証拠だ。


 スマホから50Gを取り出して兵士に渡す。兵士はお金が本物か確認し、「エリエートの街にようこそ!」と言って、笑みをみせながら握手を求めてきた。

 一応握手を交わし、建物から出ようとして聞き忘れていた事を確認する。


「冒険者登録は街のギルドで良いんですよね?」


 ゲームでありそうな「ギルド」という言葉を出して見る。間違っていたら適当に話を合わせれば問題ないだろう。


「あぁ、街の中央に案内板があるから確認すると良い。ここがお前にとって良い街だと良いな」


「そうですね、ありがとうございます」


 お礼を言って建物の外へ出る。ようやく安全地帯に入ることができて、ホッと息を吐くのだった。

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[良い点] …主人公は大変で理不尽な状況でしたが、物語の出だしは上々で面白そうで良かったです!…門番さんもイイ人でしたし、主人公も生まれつき目付きが悪いだけで善人でしょうし!主人公と作者さん!がんばれ…
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