18話 冷たい人
しかし、アオの事は別にしたとしても、オークの討伐報酬金は魅力的である。
自分だけであの集落へ襲撃したとしたら、オークの集落を壊滅させる事はさほど難しい話ではないだろう。何故なら、リザネオーク5匹を一人で倒すことができたからだ。
セリカと一緒にいた時に傷を負ったのは、セリカを守りながら戦ったからであり、一人だけならば傷一つつけることなく始末することができただろう。
だが、アオとセリカは別である。守りながら戦うという事はセリカの時と同じかも知れないが、アオとセリカでは決定的な違いがある。それは、アオは魔物と戦えるが、セリカは魔物と戦うことができないという事だ。しかも、セリカは回復魔法しか使えず武器はナイフ一本だけ。しかし、アオは銃も扱えるし、剣も使用できるという事。そして、アオはスマホで身体能力を上げることができるのだ。
抱きしめていたアオを放し、スマホを取り出してアオのステータス画面を開く。アオは抱きしめられていた余韻に浸り、顔を赤らめながら腰をクネクネさせていた。こいつは何を考えているのだろうか……。
アオのステータスだが、休憩したときと変わっていない。だが、何故かHPは増えており、その理由を調べようと思ったのだが、今はそんな事をしている場合ではないことを思い出し、顔を横に振って頭を切り替える。しかし、いきなり能力を向上させると、アオは戸惑ってしまうかもしれない。徐々に能力を上げていきたいと思っていたが、どうしたものだろうか……。
先ほどまで変な動きをしていたアオの方に目を向けてみると、未だ身体をクネらせて何かを妄想しているようで、今スマホの事を説明しても、内容を理解するとは思えない。そして、今はそのような事を話している暇はない。
課金してアオの身体能力を上げる事にして、自分のステータスを改めて確認する。アオに関しては銃を渡し、なるべく自分自身の力で身を守ってもらう事にして、オークの群れは自分で始末すれば問題ないだろう。
アオの能力を上げることはせず、自分の能力も強化する事にして、4,000Gほど課金しポイントを割り振っていく。
名前:石橋亮太
年齢:18
Lv:7
HP:100
MP:60
STR:75 → 155
AGI:97 → 177
DEX:101 → 181
VIT:72 → 152
INT:65 → 145
生活魔法:【浄化】【飲料水】【ライト】
回復魔法:【リカバ】
状態回復:【キュア3】
スキル:【剣技1】
ここまで上げると一人でもなんとかなりそうな気がしてならないが、元居た世界では無いので油断は禁物である。いくらチートなアイテムがあるとしても、自分を含め怪我をしたら意味がない。
「アオ、今回は仕方がない状況だからあそこを殲滅する事にする。もしもの時はこれを使って身を守れ。それと、一人でどうにかしようとはするなよ」
ステータスの更新を終え、スマホから銃を取り出してアオに渡す。アオは先ほどまで呆けていたが、銃を渡されると顔つきを変えて銃を見つめる。
「わ、分かりました……」
唾を飲み込み返事をするアオ。だが、どことなく緊張した表情だ。
「お姉さんに会いたいんだろ? だったら気合いを入れろ。そして怪我をするな。分かったな?」
「は、はい!!」
アオは銃を握りしめながら返事をして、オークのいる集落へ向かう。アオに関する問題は、ある程度クリア出来ている。だが、集落を攻め落とした後が問題だろう。しかし、今は目の前の敵を片付ける事に集中し、全ては終わった後に攻め落とした後の事を考えれば良い。しかも都合よく日が落ち始めており、強襲するなら今が絶好のタイミングだろう。夜になると冒険者は町へ戻る事を相手も知っているはずだし、相手も夕食など取るはずなので油断しているはずだ。
まさか二人で乗り込んでくるとは思っていないオーク共。先に突撃した後、アオが遅れて突撃してくるが、オークの標的はアオに向く事はなかった。何故なら、単身オークの群れに突撃し、次々とオークを仕留めていく。アオは死に損なったオークに止めを刺す簡単な仕事に終始していく。
なんとか自分も役に立つために戦おうとするが、オークはアオの事に気が付いていないらしく、こちらにしか突撃してこない。
次々と襲い掛かるオーク達。棍棒を振り上げ襲い掛かってくるが、振り上げた瞬間に腕を切り落とし、顔面に蹴りを入れて、倒れた瞬間に剣を突き刺す。その隣にいたオークは棍棒を横に薙ぎ払うが、直ぐさましゃがみ、薙ぎ払ってきたオークの棍棒は頭の上を通過して仲間のオークを殴りつけてしまう。
仲間を殴ってしまったオークは狼狽えるが、こちらの頭は驚くほどクリアで、次はどのように動けばよいのか考える前に身体が動き、しゃがんだ瞬間に水面蹴りの体勢に入り、狼狽えているオークの足を薙ぎ払う。そして、転んでしまったオークの頭を踏みつぶし、次の獲物に攻撃を仕掛ける。
休みなく襲ってくるオーク。アオは大丈夫なのか少し心配になり、隙を見てアオの姿を探す。アオは思っていたよりも離れた場所にはおらず、少し心配そうな顔をしながらこちらの様子を窺っていた。
------------
オークが後ろから攻撃をしようものならリョータ様の蹴りをくらう。蹴られたオークはリョータ様の蹴りの威力が強いのか、蹴られた場所が抉れ、地面に沈む。リョータ様はオークの棍棒を拾い、お返しと言わんばかりにオークに向かって混紡を振り回しす。その棍棒を頭で受け止めたオークだったが、直ぐに動きを止めて地面に倒れこむ。何故、オークが倒れてしまったのかと言うと、頭で受け止めたはずのオークは、リョータ様の力を理解していなかったらしく頭が吹き飛ばされていた。
それは行為は人が成せる業ではない。目の前で起きている出来事に目を疑うしかなかった。
視力が低下し、目が殆ど見えなくなっていた自分に光を与えてくれた主様。
目が治り、初めて主の顔を拝見した時は、目付きの悪さに少し戸惑ってしまった。だが、お言葉は優しく、常に私の事を考えてくれており、私は優しいご主人様に買われた事を心から神に感謝した。
私の我が儘でお金が必要となってしまい、なんとか汚名返上しなければならなかったのに、私は初めて人の死体を見て怯えてしまった。それからの事は記憶にないが、気が付いたときは宿の布団の中。辺りを見渡し、ご主人様を探すが、既にリョータ様は出かけていた。
宿の女将であるライフリ様にリョータ様の居場所を教えてもらおうと思ったのだけれど、ライフリ様は居場所をしらず、私は今度こそ捨てられる覚悟をしていた。だけれど、リョータ様は優しく、私の事を許してくれた。しかも私のために新しい武器も用意してくれており、感謝の言葉しか出てこない。
不思議な形をしたアーティファクトを持ち、何も恐れる事がなく敵に立ち向かって行くリョータ様。新しい武器は不思議な形をしており、その威力はどのような武器よりも圧倒的。そのような武器を自分に預け、剣のみでオークの集団に立ち向かって行く。この戦いは命がけの一戦となる。自分も命がけでご主人様をお守りしよう……そう思っていた。
だが、現実は異なっていた。
リョータ様が冒険者になり、まだ1ヶ月も経っていない……そう聞いていた。なのに、目の前で起きている出来事に目を疑ってしまう。
圧倒的な強さでオークの集団を薙ぎ払い、私に被害が及ばないよう細心の注意をはらいながらオークを倒していく。そして、私の安全を最優先しているのも分かってしまう。何故なら、戦っているのに私をチラチラと確認しているのだ。私に希望の光を与えてくれた優しいご主人様、いったい何者なのだろうか……。
お仲間のセリカ様には冷たい言葉をかけるが、私には優しいご主人様。しかし、目の前で沢山のオークを相手に戦っている方は、本当に私のご主人様なのだろうか。本当の力を隠していた……そう言われてもおかしくはない。だが、実力を隠す必要があるのだろうか。本当にこの人は優しいリョータ様なのだろうか……そう疑ってしまう私がいた。
---------
集落に襲撃をして一時間程でオーク共を殲滅した。オーク共は休みなく襲ってきてくれたため、早い時間で殲滅できたのは、運が良いとしか言いようがない。
集落を見渡すと、オーク共は小屋のような建物を作っており、思っていたよりもオークは知能が高いようだ。
まだ生き残りがいたら厄介なため、一つひとつの小屋を確認していく事にし、アオに周囲を見張ってもらいながら中を覗いて行く。いくつか小屋を確認し、生き残りがいないと勝手に判断したアオ。ゆっくりと次の小屋を確認するつもりだったが、何故かアオが小屋の中を覗き始める。
すると、アオの動きがピタッと止まる。どうしたのかと気になり隙間から中を覗いてみると、母親と思われるオークが中におり、子供らしきオークを背に隠して槍のような武器を構え、震えていた。
「リョ、リョータ様……」
まさか本当に生き残りがいるとは思っていなかったらしく、どうして良いのか分からないようで、アオは不安そうな顔をして後退る。母親オークも生きるため必死になっており、槍の様な武器を突き出し牽制する。
仕方がなくアオの手にある銃を取り上げ、アオを自分の後ろへ下がらせる。
「アオ、見たくなければ見なくて良いぞ」
そう言って銃を構え、母親と思われるオークの頭を撃ち抜くと、オークは崩れ落ちるように倒れ、子供のオークは何が起きたのか分かっておらず、母親オークの身体を摩って起こそうとしていた。子供のオークを蹴っ飛ばすと、子供のオークは蹴られた場所を抑えながら蹲って震える。
「リョ、リョータ様!!」
アオが後ろから叫ぶように名を呼ぶ……が、アオを見る事はなくオークの頭に踵を振り下ろし、オークの子供は地面に転がる。振り返るとアオは顔を青ざめ座り込んでしまった。
「……俺が怖いか?」
「…………」
座り込んでしまったアオに問い掛けるのだが、何も答えられないらしくオークの亡骸を見つめていた。まぁ、容赦なく殺したのだから当たり前だろう。
死骸は後で回収する事にしているので、他の場所を調べに小屋から出て行く。アオはそのままオークの亡骸を見つめていた。
そして、スマホに書かれていた事が現実になる。アオが見張りをしていないため一人で確認していると、蹴破った小屋の中に10人ほどの女性が足に鎖を取り付けられ、逃げられないように拘束されていた。しかも、半分近くの女性が裸にされており、既に凌辱されている女性もいるようだった。
室内は生臭く気持ち悪い。全員が怯えた目でこちらを見ており、自分が悪いことをした気分になってしまう。悪い事などしているつもりはないのに……。
なんと言葉をかけて良いのか分からず、その場から逃げるように立ち去り、アオのいる小屋まで戻り、アオを引きずるように先ほどの小屋まで連れて行く。
最初は呆けていたアオだったが、無理矢理引き摺られていく事に気が付き戸惑った声を上げる。
「ちょ……リョ、リョータ様? ど、どうかなされたのですか?」
「……うるさい。少しは仕事をしろ。どうして俺ばかりがこんな目に合わなきゃならねーんだよ……」
ブツブツ文句を言いながらアオを引き摺る。アオは何が起きているのか理解できておらず、震えた声で「ごめんなさい」と呟く。そして、女性たちが閉じ込められている小屋の前に到着し、アオを中へ放り込んだ。
「俺にはこの状況をどうにもできない。悪いが彼女たちを頼むぞ」
小屋の中に放り込まれて尻餅をついたアオは、お尻を摩って涙目でこちらをみていたのだが、「彼女たちを頼むぞ」という言葉を頭の中で反復していたのか、まるでロボットのように首を横に動かし、目を凝らしながら中の様子を窺う。すると、ようやく中の臭いに気が付いたのか、鼻と口を押さえ中にいる女性たちを見つめる。
「こ、これは……!!」
ようやく状況を把握できたのか、慌ててこちらに目を向け助けを求める。
「助けてほしいのは彼女たちだろうが……。俺は別の場所を確認してくるから、アオは彼女たちを解放してやれ。分かったか!」
最後の「分かったか!」を強めに言うと、アオは「は、はひ……」と返事し、涙目で再び中に目をやる。泣きたくなるのはこちらだと言いたいが、そんな事を言っている暇はない。他にも捕まっている女性がいるかもしれないし、もしかしたら生きている男性冒険者もいるかもしれない。微かな希望を胸に、他の小屋を調査するのだが……希望は絶望と隣り合わせだと言う事を思い知らされた。
すでに男性冒険者は骸となっており、大半の死骸は頭がない状態で、死骸は山積みとなって収納されており、いくら慣れている人でもこの状態はキツイはずだ。
慌てて小屋の外に出て、胃の中に入っていたモノを吐き出す。掴まっている女性たちの仲間だろうとは思うが、この光景を見せることはできない。
アオが解放した後、彼女たちが仲間を探す可能性は低いと思う。だが、可能性が低いだけで絶対という訳ではない。あの光景を再び見たくはない。しかし、彼女たちに見せるわけにもいかないため、渋々中に入り死骸をスマホの中へ収納し、外に出て再びリバースした。
-----
オークに掴まっていた人たちの拘束を外し、解放していく。何人かは助かったことにホッとしてすすり泣いているが、オークの手に落ちた者は虚ろな目で遠くを見ており、心から喜んでいるようには見えなかった。もし、彼女たちが妊娠していて、多分ギルドでどうにかしてくれるはず。しかし、身体の傷を治せたとしても、心までは治せないだろう。
私の前にいる10人ほどの女性達。この先、彼女たちは冒険者として復帰できる人は、いったい何人いるのだろうか。奥歯を強く噛み、言いようのない怒りが込み上げてくる。同じ女性が酷い目にあっているのに、何もできない自分が情けない。
暫くしてリョータ様が戻って来るのだが、その後ろにはこの部屋にいたような女性を何人か連れており、被害者はまだいた事を表している。
「アオ、悪いけど彼女たちも保護してくれないか? 俺はオークの死骸を処理してくるのと、服がない者のために、服を用意しなければならない。男の俺にはどうする事もできないからさ」
そう言って後ろにいた女性たちに何かを説明し、恐る恐る女性たちは小屋の中に入ってくる。私は慌てて彼女たちの安全を守るため座れそうな場所を用意した。
小屋の中は酷い臭いが漂っており、心が何かに蝕まれそうな気分になる。外に出て新鮮な空気を身体に入れて、気分を一新させて再び中へ入る。小屋の中には窓がないため、鞘から剣を抜き取り、壁の様に敷き詰められている藁を斬り裂いて窓を幾つか作る。冒険者と思われる女性から「凄い……」と、溜め息混じりな声で呟く者がおり、少しだけ恥ずかしい気分になった。
しかしこの行動が気に障った者もいるらしく、声を荒らげて「なんで早く助けてくれなかったの!! 貴方の様に剣の腕前がある者が……。なんで今更助けに来るのよ……」と、泣き叫ぶ。一瞬、何を言われたのか理解できず、固まってしまった。
「だ、大丈夫です! もう大丈夫ですから……」
自分がどのような顔をしているのか分からない。多分、顔を引き攣らせ無理矢理笑みを作っているのではないだろうか。それが正しいのか分からない。けれど、どうにかして彼女たちを落ち着かせる必要があるの確か。
「何を笑っているのよ! 何が大丈夫だっていうのよ!」
泣きながら他の女性が叫ぶ。その迫力に驚きたじろいでしまい、何かに躓いて尻餅を付いてしまった。彼女たちの目は憎悪に満ち溢れており、私は怯えてしまった……。
-----
他の小屋などを調べ終わり、オークの死骸をスマホの中に仕舞っていると、アオ達がいる小屋の方から女性の怒鳴り声が聞こえてきた。
アオが何をしたのか分からないため、スマホの中に仕舞っていたオークが身に纏っていた布切れを取り出し、アオのいる小屋へ向かう。怒鳴り声は幾つかあり、それは身勝手な内容だった。
うるさい怒鳴り声。小屋の中に足を踏み入れると、憎悪に満ちた目が一斉に自分の方へ向いたのか分かった。
「汚い物だが、無いよりましだろ。町に着くまではそれを身に着けてくれ」
そう言って手にしていたオークが身に纏っていた布切れを女性達の方へ放り投げた。しかし、女性たちの怒りは収束する事はなく、今度はこちらに向かって罵詈雑言を浴びせてくる。
言いたい放題言わせ、言葉の雨が止むのを待つ。アオは何をしているのかと、辺りを見てみる。アオは耳を塞ぎながら蹲って震えていた。ここ最近、アオは震えて蹲っている姿しか見ていない気がする……。不憫な奴だ。
一通り言い終えると、罵声の雨は止んだので「気が済んだか?」と、言い放つ。捕まった責任をこちらに押し付けられても迷惑でしかない。こちらはアオの事で他に気をまわしている余裕はないのだから。
「気が済んだのなら、さっさとそれを身に纏ってくれないか? 目のやり場に困っちまうし、さっさとこの場所から離れた方がよさそうだしな」
あれだけの罵詈雑言を浴びせられ、平然としていることに戸惑っている表情をしている女性たち。
「あれだけ騒ぐ余裕があるのなら、身体を浄化するだけで問題なさそうだな。用意ができた者は、さっさとこの小屋から出てこい。残りたいのなら別だけどな」
そう言ってアオの腕を掴み、小屋の中から引き摺り出し、しゃがんでアオに喋りかける。
「アオ、お前には悪いことをしたな。アオは悪いことをしていない。悪いのは自分の実力を見誤ってオークと戦った彼女たちが悪い。アオは全く悪くないよ」
それでも震えて怯えるアオ。このままだと帰るのに手間取ってしまうため、仕方がなく隠している顔を無理矢理こちらへ向け、唇にキスをする。何が起こっているのか分かっていないアオは、目を大きく開けて固まっていた。
「プハァ……。泣き虫、目が覚めたか? あいつらに何を言われたのか知らないが、アオは悪い事なんて一つもしていない。アオがここに来なければ、彼女たちは死んでいた。アオが彼女たちの命を救ったんだ……。自信を持て! アオには俺がいるだろ?」
唇を放し、アオの目を見ながら言う。アオは驚いた顔をしながら小刻みに頷く。
「なら、さっさとこの場所から離れよう」
「は、はひ……」
唇を抑えながらアオが返事をする。戸惑うのも仕方がない。多分、アオはファーストキスだったはずだ。とは言え、自分も初めての行為だったので、アオの唇の感触がどうだったのか思い出せない。どうにかしてアオを正気に戻す必要があり、最善だと思われる行動をしたつもりだったが、本当に最善だったかと言うと、違う気もする。
-----
自分が何をされたのか分からず、触れていた唇を触る。ここにご主人様の唇が重なって気がしたが、まるで夢の中にようだった。ご主人様は「残りのオークを仕舞ってくる」と言い残し、この場から立ち去ってしまった。
暫くのあいだ夢見心地な気分でいると、急に話しかけられ慌てて声の方へ身体を向ける。
「ね、ねぇ……私達は……町へ帰れるの?」
まだ襲われていない女性が質問してくる。一瞬、なんて答えればよいのか悩んでしまったが、素直に答えることにした。
「はい、私のご主人様……リョータ様が、必ず町へ連れて帰ります! ですから、私たちを信じてください」
まるで自分に言い聞かせるかのように私は質問してきた女性に言う。リョータ様なら、どうにかしてくれると信じて……。
-----
多少、逃げたオークもいたのだが、オークの集落は殲滅し、囚われていた女性たちを助ける事に成功した。倒したオークの死骸を収納し、アオが居る場所へ向かう。
何人かの女性が小屋の外へ出てきており、周りを見渡していた。この集落を襲撃した仲間を探しているように見える。アオは小屋の中にいるのか姿が見えず、再び罵詈雑言を浴びせられていたら面倒だと思いながら女性たちの側へ近づく。
「君たちは……冒険者か?」
辺りを見渡している女性に声をかけると、声を掛けられた女性は身体をビクッとさせてからこちらに向き直る。
「は、はい!」
緊張した顔で答える女性冒険者。その顔はまだ幼く感じ、オークは年齢なんて気にせず攫っているらしい。
「そうか。歩く事はできそうか?」
「多分……。ほ、他に仲間はいないのですか?」
不安そうな表情で答える女性冒険者。素直に「ここに来たのは俺と獣人の子だけだよ」と答えると、女性冒険者は顔を青くする。
「おいおい、今更不安になっても仕方がないだろ? 自分だって冒険者なら、シャキッとしろよ。で、その獣人の子は?」
顔を青くしている女性冒険者は、震えながら小屋の方を指差す。やはりアオは小屋の中にいるらしい。
「俺が中を覗いても問題は無いか?」
女性冒険者に質問すると、震えながら小さく頷く。何をそんなに怯えているのか理解できず、小さく溜め息を吐いてから「ありがとう」と、お礼を言い小屋の中を覗いてみる。
アオは虚ろな表情をしている女性に布切れを巻き付けようとして悪戦苦闘していて、まだしばらく時間がかかりそうだった。
仕方がなく中に入り、アオの側によると、「あ! リョータ様……」と困った表情をしながらこちらに目を向ける。
「何をしてるんだ?」
「も、申し訳ありません……。オークに被害を受けた方が……」
アオが何か言いかけていたが、そんな事はお構いなしに虚ろな目をした女性の頬を引っ叩く。一生懸命身体に布切れを巻き付けていたアオは、驚いた顔をしてこちらに向き直る。
「な、何をなさるんですか!」
「うるさい、黙れ」
驚いているアオを押しのけ、再び女性の顔を引っ叩く。虚ろだった女性は、次第に我に戻ってきたようで、こちらに目を向け、叫び声をあげた。多分、オークに襲われているのだと勘違いしているのだろう。
「うるさい、黙れ」
そう言って再び顔を引っ叩く。次第に我に返り、目を潤わせて泣き始めた。
「泣いている暇はない。こんな腐った場所から離れ、町に戻ろう」
女性の肩に手を乗せ、言い聞かせるように言うと、女性は泣きながら頷きアオから布切れを受け取って身体に巻き付ける。
「あとは全員を浄化の魔法で汚れを落とし、こんな場所から離れれば良いだけだな」
「は、はい! 流石、リョータ様です!」
小屋から出て不安そうな表情をしている女性たちに目を向けると、一人ひとりに浄化の魔法をかけて汚れを落とす。
「じゃあ、これから町に戻るけど、何か質問はありますか?」
移動するにあたり、何か問題があっても困る。すると、恐る恐る一人の女性が手を上げて質問をする。
「あ、あのぉ……他に仲間は――」
「いませんよ。ここに居るのは俺たち二人だけ。偶然この集落を発見したんで襲撃をしたまでです」
一応、笑顔で答える。質問した女性は膝から崩れ落ちるように座り込んでしまう。不安な気持ちはわかるが、助かったのだからもう少しシャキッとして欲しい。
「ふぅ……これが現実だよアオ」
いきなり現実と言われても理解ができるわけではない。アオが分かりやすいように、「アオは運が良かった」と言うと、アオは「運……ですか……」と、一言呟く。
「そうだ。アオは運が良かった。アオには俺がいた。彼女達には俺がいなかった。それだけの差だ」
「リョータ様が……居ないだけで、彼女たちはこのような目にあった……ですか……」
「そうだ、彼女たちには俺がいない。俺は必ずアオを守ると約束した。だからこの様な場所で死ぬ訳にはいかない」
「リョータ様は……私を守ってくれるんですよね……」
「あぁ、命を賭けて守り抜くよ」
そう言ってアオの頭に手を置くと、アオは顔をクシャクシャにして「――泣くの……許してくれますか……」と言うが、答える前にアオは泣き始めており、小さく溜め息を吐いてアオを抱きしめると、アオは声を上げて泣き出した。
その光景に女性達もつられたのか、女性たちも声を上げて泣き始めてしまい収拾がつかなくなってしまい、皆が泣き止むのを待つしかなかった。
ようやく皆が落ち着き、「いつまでもここに居ては危ないので町へ戻りましょう。皆は俺達が護衛します」と言うと、ようやく皆は集落を後にしたのだった。




