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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
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16話 チョロい

 スマホで獲物場所を確認しながら森の中へ入って行く。普段であれば役立たずが1人と、天使が1人居たはずなのだが、そんな事を考えても仕方がない。自分ができうる限りの事をするしかないのだ。

 一人で行動するのは久し振りだったので、時間を気にせず魔物や猛獣を狩りまくった。


 ゴブリンの死骸をスマホの中へ収納して大きく息を吐いて空を見上げると、日が陰り始めていた。そろそろ町へ戻った方がよさそうな時間帯になっている事に気が付き、今日の作業はこれで終わりにして町へ戻る事にした。

 町へ辿り着いたのは日が暮れた頃で、宿へ戻る前にギルドへ向かい、今回倒した魔物や猛獣たちの換金を行い、一杯だけジュースを飲んでからアスミカ亭へ戻った。

 アスミカ亭の食堂を覗いてみると、食堂の椅子に捨てた置き捨てたはずのセリカの姿はなくアオの姿もなかった。ライフリに二人の状況を確認しようとしたのだが、時間帯が悪いのかライフリは忙しなく働いており、話せるような状態ではなかった。セリカのために一部屋借りているので、もしかしたらセリカは部屋に戻っている可能性はあるが、元気になっていたら面倒臭くなりそうだったので、アオがいるはずの自分達の泊まっている部屋へ戻る事にし、食堂をあとにする。

 部屋のドアを開けてみると室内の明かりは点いておらず、室内は真っ暗で誰もいないように感じられる。あの精神状態から立ち直り、外へ買い物へと出かけているのか? などと思いながら暗闇に包まれた室内に入って行く。

 明かりや火に関してだが、魔法が詰まった石? みたいな物があるらしく、その石の事を魔石というらしい。人々はその石を使い、明かりや火を灯すようだ。

 部屋を明るくする魔石はランタンの様な入れ物の中に光魔石(コウマセキ)が入っており、指でランタンの入れ物を触ると明かりが灯る。原理に関しては全く不明。アオにでも聞いてみようかなと思っているのだが、アオは先に寝てしまうため確認することが出来ない。まぁ、アオに確認せずともスマホで調べれば早いのだが、コミュニケーションをとるネタの一つだから調べないだけだが……。

 初めてこの宿に泊まったとき、明かりを点けるのにはどうすれば良いのか、かなり迷ったものだ。窓から差し込む光でどのような部屋なのか確認し、食堂へ行ったときに辺りを見渡して、使われている明かりを見てどういう物なのか理解したのだ。


 光魔石が入った入れ物があるのは部屋に入ってすぐ側にある。その入れ物に触れると、光魔石が光りだし室内が明るくなる。光魔石の大きさにより明かりの灯る広さが異なるようだ。食堂にある光魔石が入った入れ物は、部屋に置いてあるものよりも少し大きい。

 ようやく長い一日が終わるのかと思いベッドがある方を見ると、丸まった物体がベッドの上にあることに気が付き、声を上げて驚きそうになるが、数歩後退りしただけで声を上げるのは何とか堪える事が出来た。

 その物体をよく見てみると、今朝まで怯えていたアオだった。何故、彼女はベッドの上で丸まっているのか不思議でしょうがないが、このポーズは以前までいた世界で見た事があるものだった。


「も、もしかして……。アオ……なのか?」


 ガバッと顔を上げる目の前の物体。顔を上げた物体はやはりアオであった。


「もーーーーーーーーっし訳ありません!! ご主人様!! ど、どうか私をお許し下さい!」


 アオは土下座の形で謝罪の言葉を述べる。いったい何が起きたのかさっぱり分からず、だってそうだろ? ドアを開けて明かりを点けたら土下座されてしまうのだ。誰だって固まってしまう。


「お許し下さいませ!! ほんっっっとーーーーーっに、申し訳ありませんでした!!」


 声を上げ、再び頭を下げる。こんな状況は初めてだったので、狼狽えて後退りしてしまう。


「ど、どうしたんだよ……急に……」


 何が起きているのか理解ができず、頭が混乱して口から出たのは「……はぁ?」の一言だけだった。


「私ことアオは、ご主人様をお守りすると言っておきながら、自分の役目を果たせず部屋の中でグースカと眠って、ご主人様だけ働かせてしまう悪い奴隷です! お仕置きは何でも受けます! ですから、捨てるような事だけはご勘弁を!!」


 必死の表情で謝罪するアオ。その様子はまるで『殺さないで下さい』と、必死に懇願しているかのように感じられ、戸惑ってしまう。


「な、なぁ……。か、顔を上げろよ……別にお仕置きとかもしないし、捨てたりもしないよ(いまのところ)。それより、身体は大丈夫なのか?」


「は、はひ!! ひ、一晩眠ったらバッチリと……。本当に申し訳ありません!!」


 ひたすら頭を下げるアオ。昨日の出来事よりも今の状況の方が怖いらしく、アオは身体を震わせている。本当に昨日起きた出来事が大丈夫なのか、これからの事もあるので確認する必要があるだろう。


「なぁ、アオ。本当に大丈夫なのか? 本当に町の外へ出ても問題ないのか?」


「だ、大丈夫です!! や、やれます! で、ですので……」


 何が大丈夫なのか全く分からないが、アオは何度も『大丈夫です! 私は戦えます!』と、何度も口にしており懇願するかのように頭を下げていた。


「よし、分かった。俺はアオの言葉を信じるよ。この話は終わりにしていい加減、飯にしないか? 俺は腹が減っちまったよ」


「か、かしこまりました!!」


 下げていた頭を上げ、嬉しそうな顔をして身体を起こそうとするアオだったが、立ち上がった瞬間に立ち眩みをしたのか尻餅をついて座り込む。恥ずかしそうな顔をして両足を上げて座り込む。


「あ、足が痺れて……面目ありません……」


 そう言って苦笑いをするアオ。どうやら長い間正座をしていたらしい。いったい、目が覚めてからどれほど長い時間、あの体勢でいたのだろうか……。

 馬のような態勢で移動しようとしていたアオの腕を掴み、とりあえず椅子に座らせる。


「無理に動く必要はないよ。歩けるようになるまで椅子に腰かけてろ」


 そう言ってベッドに腰掛けると、アオは苦笑いしながら「申し訳ありません」と言い、椅子に座りながら自分の足を触ったりして痺れの具合を確かめる。

 その間暇だったのでスマホを取り出し弄りながらアオの様子を窺う。アオは恥ずかしそうにしながらこちらをチラチラ見ており、本当に昨日の出来事は気にしていないように見えた。

 しかし、町の外へ出てやはり駄目でしたでは意味がない。試すか試さないか少し悩んだが、アオに昨日撮った冒険者の死体写真を見せてみた。

 すると、昨日の事が一瞬でフラッシュバックしたようで、アオの顔が真っ青に変わる。やはり思った通り、恐怖を克服している訳ではないと言う事だ。


「なぁ、アオ……もう一度聞くが、いつ俺達がこのような状態になるか分からない。それでも大丈夫と言えるのか?」


 死体が映っている画面を見せながら質問する。こんな事をする自分は本当に意地が悪いと思うが、現実を直視しなければならない事だってある。しかも自分の職業は冒険者だ。いつ、何処で、再び死体と遭遇するか分からないし、自分が同じ運命になるか分からない。人は生まれたら必ず死に向かって生きていくが、この冒険者という職業は常に死と隣り合わせだ。明日、自分が写真の冒険者のように死んでしまう可能性だって否めない。

 だが自分はスマホの力で身体能力を向上させている。そう簡単に死ぬ事は無いとは思うが、何が起きるか分かったものではない。自分は自転車に轢かれて死んでしまったぐらいなのだから、何時、どの様に死んでしまうのか神のみぞ知る世界なのだ。

 実際のところ、アオの身体能力を向上させる事は可能なのだ。だが、アオに冒険者として生きていく覚悟がないのであれば、身体能力を上げる必要は無い。それどころかアオという存在自体必要なくなってしまうのだ。

 しかし、こんなに可愛い子を手放すのは非常に勿体ないし、覚えた魔法だって無駄になってしまう。人一人であれば養う事は可能だが、ハッキリ言ってこの町で一生を終えるつもりはない。できれば早めに他の町へ行ってみたいし、世界中を旅してみたい。そうなってくるとアオをどうにかしなければならない。

 アオは奴隷であるのだから着いて来いと言えば着いて来るのだろうが、その生活にもいずれ限界が来るはずだ。


「アオ、正直に言って俺も怖い。俺だって何時このように死んでしまうか分からない。だが、冒険者になったからにはその覚悟を持っている」


 アオは小刻みに震えながら首を立てに振る。頭では言っている意味を理解しているのだろうが、現実を直視してしまうと、恐怖が勝ってしまうのだろう。


「俺は、アオには戦える力があると思っている。アオにはその環境があった。目が悪かった時の事を思い出すんだ!」


 すると、先ほどまで震えていたはずのアオが、ハッとした様に顔を上げてこちらを見る。


「見えない恐怖と、売れ残ったらどうなるのか想像していた自分を思い出せ! 今のアオは自由なんだ。今は自由に外へ出る事ができ、好きな食べ物を食べ、暖かい布団で眠る事ができる!」


 アオは口元を震わせながら真剣な目で見つめてくる。


「どんな生活を送るにも恐怖というものは付き纏ってくる。もしもアオが鉱山に行った場合、考えられる可能性は大きく3つ。一つ目は力尽きて死んでしまうこと……。もう一つは掘っている最中にガスが吹き出して中毒死してしまう事……。最後は落盤事故死だ」


 一つ一つの話にアオは唾を飲み込む。今は目が見えるようになったため言われていることがイメージ出来るはずだ。正直に言ってアオを脅すような事を言って申し訳ないが、出来る事ならアオを手放すようなことはしたくない。セリカは別だ。


「冒険者になったアオは魔物に殺されるかもしれない。もしくは、何か特別な依頼の中で命を落とすかも知れない。この冒険者のようにな……。だが、自由の無い鉱山で死ぬのと、自分の持てる全てをさらけ出し、藻掻き、足掻(あが)き続けた中で死ぬ方が、よっぽどマシなんじゃないか?」


「…………」


「アオ、お前は俺が守ってやる。アオは俺の物だ。俺は自分の物が誰かに何かされるのは嫌だ。誰かに何かされるくらいなら自分で壊す。アオ、俺が側にいてやるから覚悟を決めろ! 俺はお前を守るから、生きるために必死になれ。怖がっても良い。だが、生きるために足掻き、努力するんだ!」


 言い終わるとアオは小さく頷いた。本当に恐怖が失せたかと言えば嘘になるだろうが、この生活で生きていく事に覚悟を決めたはずだ。


「俺がアオを強くしてやる。そして、俺がお前を死なせない。守り抜いてやる」


 見せていた画面を消し、スマホをポケットの中に仕舞いアオの頭を撫でる。アオは目を潤ませ、椅子から降りて膝をつく。


「リョータ様! アオは……アオは幸せ者です!! アオは一生、リョータ様のために生きていき、お使いさせて頂きます!!」


 アオはそう言って頭を下げる。うっは! 超チョロい奴だ!


「よし! じゃぁ、飯でも食いに行くか!」


「はい!」


 そうして食堂へ行き、ライフリに食事を注文して二人で仲良く食べてから再び部屋に戻り、アオは椅子に腰かけて満腹になったお腹を摩り、満足げな顔をしていた。今後についてアオにも銃を使えるようにしておいたほうが良いと思い、アオの前に立つ。


「アオ、今から新しい武器の練習を行う。分かったな」


 満足げな顔をしていたアオに向かってそう言うと、アオは驚いた顔をして椅子から飛び降りるように慌てて姿勢よく立つ。そして「は、はい!」と返事をして見つめてくる。


「これが新しい武器だ」


 腰に仕舞っていた銃を取り出してアオに見せると、アオは首を傾げてくる。それもそのはず。拳銃の先端に(やじり)など付いてはいない。この世界で飛び道具と言えば弓矢しかない。矢の先端には(やじり)が付いている。なのでアオは首を傾げるのは当たり前なのである。しかし、アオは一度この武器を見ているはずなのだが、死体の方がインパクトが強く、拳銃の事は記憶から抜けてしまっているのだろう。


「この銃という名の武器だ。これは弓なんかよりも簡単に扱えるし、殺傷能力も高い。原理を説明するのは面倒だから追い追い説明するが、この引き金を引くと、穴から(たま)が勢いよく飛び出して相手に致命傷を与えることが出来る。だけどこの武器にも欠点がある。矢よりも弾丸……飛び出す(たま)の値段が高いのと、音が大きいことだ。音に関しては抑える道具があるから何とかなるが、弾に関してはこの辺りでは売っていないため大事にしなくてはならない。今回はこの銃ではなくて、こちらの銃で練習する」


 スマホからエアガンを取り出してアオに手渡しするのだが、アオは渡された銃を眺め少しだけ難しい顔をして首を傾げる。まぁ、銃について簡単に説明したが、理解するのに時間がかかるだろう。先ずは火薬というものについて理解をする必要があるが、この世界に火薬なんて物があるのかどうか分からないのだから、仕方がない事だろう。


「それは『エアガン』と言って、練習用の武器だ。その穴から弾が出て相手に当てるんだ。まあ、鏃が付いていない弓矢と考えてくれ」


 エアガンの説明を聞いて、アオは「は、はあ……」と言って、銃口を覗き見る。弓矢と言われても、弦がある訳でもなければ矢が付いている訳でもない。一度アオからエアガンを返して貰い、アオの太腿に向けて一発だけ撃ち放つ。アオは「痛っ!」と、声を上げてBB弾が当たった太腿を押さえて座り込んだ。※良い子の皆はエアガンを人に向けて撃つのは止めましょう。


「どうだ? 練習用でもこの威力だ。本物だとアオの太腿を貫通しているはずだ」


 涙目でBB弾が当たった場所を摩るアオ。


「どうだ? この武器がどういう物なのか体験する方が理解しやすいだろ? まぁ、練習用でもこの威力だ。当たり所が悪ければ、人を殺すことだってできる」


「ううぅ……。ですが、非常に痛いですよぉ〜」


 少しやりすぎたと思い、回復魔法の『リカバ』をかけてやり、アオは少しだけ怯えた目でエアガンを見つめる。


「悪かったな。しかし本物はもっと痛い。と言うか、弓なんかよりも強力だし、弾が出るのが目で追えないほど早いから、いつ攻撃されたのかも分からなかったろ? それに、弓は矢を放つまでに時間が掛かるが……」


 エアガンを枕に向けて連射して撃ち放つと、BB弾が連発して枕に当たる。


「これは連続で撃つことができる……」


 そう言ってアオを見ると、アオは的になった枕を見て驚いた顔をしていた。


「今の所この練習用の武器は一つしかない。したがって、アオに渡すには練習して上手く的に当てることができるようなってから本物を渡す。それまではこれで練習だ。分かったか?」


「も、もちろんで御座います!! そのような大切な物を私に使わせて頂けるなんて、光栄の極みです!」


 片膝を付き、両手で差し出すようアオ。その手にエアガンを乗せると、アオはゆっくりと立ち上がり今度は大切な物を扱うかのようにして銃を持ち、こちらを見つめて嬉しそうに微笑む。


「嬉しそうだな」


「はい! いくら練習用の武器だとしても、このような凄い物をアオに預けて頂けるなんて、アオは幸せ者です!」


 それ、玩具だけどな。と、内心思いながら「じゃあ、練習を始めよう」と言うと、アオは唾を飲み込んでから「分かりました」と答えた。

 アオの返事を聞き、先ほどまでアオが座っていた椅子を窓際に置く。もう一脚を窓際に置いた椅子の上に重ね、枕を置く。そしてアオに後ろへ下がるよう指示してエアガンを構えさせる。

 初めは恐る恐るトリガーを引き、BB弾が出る度にアオは「ヒィィィ!!」と、声を出して驚いていた。だが、次第にエアガンの音や反動に慣れてきたのか、何も言わずに黙々と撃ち続ける。暫く見ていると、BB弾が出なくなり声を上げて狼狽え始める。


「リ、リョータ様!! ア、アオは大変なことをしてしまいました!!」


 アオが練習している間、暇だったのでスマホでニュース等を観ており、何故アオが狼狽えているのか分からなかった。


「どうかしたか?」


 質問してみると、どうやら弾切れを起こしたのを故障させてしまったと思ったようだ。慌てふためきながら自分は何もしていないと必死に説明している。


「アオ、落ち着けよ。別に壊れてなんてないよ」


 アオを落ち着かせて説明をすると、ホッとした顔でエアガンの弾詰めのやり方を聞き、BB弾を補充して再び的に目掛けて練習を始める。アオは夢中で練習をしているため、再びスマホでニュースや天気予報などを調べてから眠りに就いた。


 アオは遅くまで練習していたため、明かりの眩しさで目を覚まし、明日に響くから寝るように命令し、アオは残念そうにしながら一緒のベッドで眠りに就いた。

 翌朝になり、自分に『浄化』の魔法をかけて身体を綺麗にする。前にいた世界なら顔や洗ったり歯を磨いたりしするのだが、この世界には魔法というものがあり、風呂など入らずとも『浄化』の魔法で済んでしまう。本当はお風呂に入りたいのだが、お風呂というものはない。いや、風呂はあるのだが、金持ちしか使用する事はできず、庶民は水浴びなどで身体を洗う。しかも石鹸などは高級品で、市場に出回らないらしく貴族だけが購入しているとスマホに書かれていた。

 ついでに魔石の事も調べた。魔石は宝石のような物に魔力を注入したものらしく、魔法を注入するためにはギルドにいる魔法使いか、神殿にいる魔法の神官達に依頼する必要があるらしい。だが、依頼するにもお金が必要になる。しかもギルドにいる魔法使いはそれなりに値段もするが、いつでも「魔法使いが」ギルドにいるわけではなく、神殿で依頼する多いが、奴らは一般の人たちが魔法を使用できない事を知っているため、ボッタクリの値段で補充や注入を行うとの事。本当にハイエナの様な奴らである。

 身体を伸ばして軽くストレッチを行っていると、アオも目が覚めたらしく身体を起こして欠伸をしながら伸びをする。


「おはよう、アオ。よく眠れたか?」


「あっ! お、おはようございます! 申し訳ありませんリョータ様。私の方が早く起きなければならないのに……」


 主人よりも遅く起きてしまったことに謝罪の言葉を述べ始めるアオ。「俺も今起きた所だ」と、軽い笑みを浮かべながら言うと、アオはホッとした顔をしながらも「いえ、本来ならばアオが早く起き、主人であるリョータ様の身支度を準備するべきなのです」と、まるで自分に言い聞かせるかのように言い、ベッドから降りて土下座をする。


堅苦(かたっくる)しい。一々そんな事で頭を下げるな。謝ってばかりだとお前の価値が下がっちまうぞ。俺はそんな事を気にしないから、気楽にやっていこうぜ」


 その言葉を聞いて、アオは顔を上げて嬉しそうな表情を浮かべる。


「ほら、立てよ。今日も忙しくなるんだから早く準備して飯を食いに行こうぜ」


 そう言って手を差し伸べると、アオは飛びつくように抱き着き、自分は幸せ者だと言いながら胸に頬を摺り寄せる。毎日このような事が起きたら面倒だなと思いつつアオに『浄化』の魔法を掛ける。


「ほら、遊んでいる時間はないぞ。俺達は稼がなきゃならないんだろ?」


「そうでした! 頑張ります!」


 くっ付いていたアオだったが、慌てて出かける準備を始める。アオがくっ付いていた部分の温もりが徐々に消えていく事に少し寂しさを覚えたのだった。

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