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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
15/105

15話 働き蟻

 結局その日の活動は終わらせる事にして町へと戻った。

 その理由は二つあるのだが、一つは前途多難な話でありとても厄介な事だ。

 一つ目の理由は、ゴブリンが食べていた冒険者の亡骸である。

 だが、これについては別に放っておいても問題ないだろうが、そのままにしておくと夢見が悪くなってしまいそうな気がしたため、亡骸をスマホに収納しギルドへ連れて帰る。

 亡骸を見る限りでは自分と大差ない年齢だと思われ、イルスやセリカ達のことを思い出すと、せめて町へ帰らせてやりたくなった。

 そしてもう一つが一番厄介で、初めて見た亡骸に対し、アオが動けなくなってしまったのだ。

 怯えているアオに近寄ると、アオは顔を真っ青にして歯をカチカチと鳴らしながら木の陰に座り込んでしまい、動く事が出来なくなってしまったのだ。

 死というものを目の当たりにしてしまい、恐怖で身体が動かなくなってしまったのだと思われる。

 この様な状態では、これ以上の先へ進む事ができないし戦うこともできやしない。

 仕方がなく動けなくなってしまったアオを無理矢理背負い、町へ戻る事にしたのだ。

 町に到着して出迎えてくれた警備兵。

 自分達に対して何も言う事はなく、通行するために冒険者カードを提示したのだが、こちらの雰囲気を察したらしく警備兵は冒険者カードを確認する事はなく町の中へ入れてくれた。

 だが、甘える訳にもいかないためアオの冒険者カードも見せる素振りをしたところ、警備兵は「そんなに時間は経っていない。

 お前達がここを出たのを確認している。それに、そんなに怯えている娘がいるのなら、早く安全な場所に連れて行ってやれ」と言われ、一言だけ「どうも」と答えて町の中へ入っていくのだった。

 日が暮れているためギルドに顔出すことはせず、今日はアスミカ亭に戻る事にしてアスミカ亭のある方へ向かっていく。

 店の中へ入って部屋へ向かおうとしたがライフリが受け付けに座ってこちらを見ていたので、食事は一人分だけで良いと言い部屋に戻る。

 部屋の中へ入りベッドの上にアオを座らせたのだが、相変わらずアオは怯えており身体を震わせながら端っこの方に移動してしまう。

 これはどうみても食事を取れる状態ではなく、しばらく放置するしか方法が見当たらない。けれど、命令という言葉で無理矢理食べさせても良かったのだが、食べさせたところで食べた物をリバースなんてされた日にはたまったものでは無い。

 食事を済ませてくるから先に休むように言うが、アオは返事をすることはなかった。

 アオを部屋に置きざりにして、自分一人だけで食事をする事に対しライフリは何かしらの疑問を感じたらしく、食事を持ってくると同時に目の前の椅子に腰掛けてこちらを見ていた。


「あのぉ、ライフリさん? そんな目で観られていると食べ難いんですが……」


 困った声で言ってみたが、それでもライフリは黙って何かを聞きたそうな目でこちらを見る。


「ハァ……。もしかしてアオの事ですか? あいつは理想と現実が区別ができていなかったんです。それで駆け出しの冒険者が掛かる病に掛かってしまったんですよ」


「新米が掛かる病気にも色々あるだろ?」


 やけに食い付いて来るのが鬱陶しいが、答えない限り解放してくれそうになかった。


「はぁ……。まぁ簡単に言いますと、魔物の『お食事中』に出くわしたんですよ』


 その事で理解を示すライフリ。だが……。


「それを一緒に見ていたアンタはその病気に掛からなかったのかい?」


「まぁ、これは覚悟の問題ですからね。それに……いや、何でもありません」


 一度死んでいる。そう言いかけたが、それは適切ではない。要らない混乱を招くだけである。


「さばさばしてるねぇ……アンタは」


「生を受けた時から、生き物は死に向かって生きていくものなんですよ」


 なるほどね。と、一言だけ呟きライフリは席を立ち仕事へ戻っていく。

 時間的にも大分遅くなっているため明日に差し支えるのはなるべく避けるたい。

 食事を終わらせて部屋に戻る事にした。

 部屋に戻り、食事をしている間に少しは落ち着きを取り戻しただろうと思いながらベッドの隅にいるアオを見てみると、状況は全く変わっておらず、アオは震えながら蹲っていた。

 自分で何とかすると言ったくせに……と、喉まで出かかるが、グッと堪えて大きく息を吐いた。

 今はどうにかして恐怖を取り除き、普段のアオに戻ってもらう必要があるため近くに寄って、腰を下ろす。

 どの様な言葉をかければ良いのか少し迷う。


「疲れたな。そろそろ寝ようか」


 一度寝れば今日の出来事はリセットされると思い、寝る事を提案して声をかける。

 すると、アオは突然声を掛けられた事でビクッと身体を震わせる。

 アオの聴力なら誰かが部屋に入って来ている事は分かっているはずだ。

 だが、声を掛けられるとは思っていなかったようだ。

 しかし、身体をビクつかせて反応を示したアオだったが、その場から動くことが出来ないのか、声を殺しながら泣き震えていた。明日から一人で行動する事も視野に入れつつ、アオの身体を抱き上げてベッドの中央まで運び、押し倒すようにして毛布をかけた。

 長い一日がようやく終わりを告げようとしているのか、眠気が襲ってきたため自分も寝ることにして布団の中へ入り、アオを抱きしめる様にしていながら眠りに就いた。


 翌朝目を覚ますと、アオの寝顔が目の前にあり、起こさないように布団から出て浄化の魔法を唱えて身なりを綺麗にする。

 その後、食堂で朝飯を食べていながらライフリにアオの事をお願いして店の外に出ると、セリカが入り口横に立っていた。


「よぉ、おはよう」


 知らない奴ではないため一応挨拶だけはしておく。


「お、おはよう……」


 気まずそうにセリカが挨拶を返してくる。

 そして、そっけない素振りで「じゃ、頑張れよ」と一言だけセリカに言葉をかけ、町の外へ向かい歩き始めた。


 何時もならばセリカも一緒に行くのだが、今は新しい寄生宿を見つけたのだから、一緒に行動する必要はない。

 あれだけの啖呵を切ったのだから新たな仲間の所で頑張れば良い。

 それに、こちらにはやらなければならない事があるのだ。

 自分を置いて過ぎ去って行く後ろ姿を見ていたセリカだったが、慌てた声で呼び止めて来た。


「ちょっ! ちょっと待ちなさいよ! リョータ!」


 呼び止められ、鬱陶しそうに振り返ってセリカを睨みつけるように見る。


「あん? 何か用事でもあるのか? お前にゃ新しい仲間ができたんだろ? なら、俺との冒険は終わりを迎えたんだ。そっちの冒険者のところへ行け。そして俺の前に二度と姿を見せるな。この害虫野郎」


 呼び止められたので振り返り、先制攻撃を入れる。


「クッ……。あ、アンタって奴は……!! そ、そういえばアオ……アオは……アオはどうしたのよ!」


 セリカが無理矢理話題をすり替え、アオの動向を聞いてくる。


「別にお前には関係のない話だろ。今日は部屋でゆっくりと休ませてるよ。誰かさんが飯を食っている間に俺達は大変な思いをしていたからな。つーか、そんなくだらない事でいちいち俺を呼び止めるな。お前と話しているのは時間の無駄だ。この穀潰し女!」


 そう言い残し、その場から立ち去ろうと歩き始める。だが、セリカは距離を取りながらこちらの後を付いてくる。

 結局のところ、回復魔法しか取り柄がなく、戦力UPにもならないと判断され仲間に入れてもらえなかったのではないだろうか。

 しかし、それはそれであり、こちらには全く関係がない話だ。だが、セリカはブツブツと文句を言いながらも付いてくる。

 ギルドへ赴き、昨日出くわしたゴブリンの事と殺られた冒険者の事を説明し、冒険者の死体に関してはギルドの方で処理をお願いしたが、冒険者が所持していた道具の受け取りは気味が悪いので拒否した。

 その後、ゴブリンを換金してからギルドを後にしてアオの我が儘を叶えるため、町の外へ歩き始める。

 しかし相変わらずセリカはストーカーの如く付いてくるのだった。

 セリカの存在を気にする事なく警護兵に挨拶をして町の外へ出ると、セリカも仲間面の様な顔をしながらも付いて来る。

 町から少し離れた所にある林の中へ入り獲物を探すが、中々相手は姿を見せないため、林から森の方へと足を向ける。

 スマホを見ながら魔物を探していると、セリカが喋り始めた。この世界で売っているかどうか判らないが、耳栓を買うべきかもしれない。


「あのさ……昨日は言い過ぎたっていうか……」


 もちろんセリカの言葉に耳を傾けるはずもなく、無視しながら先へと進んで行く。


「わ、私もムキになって……その……」


 別にはこちらとしては苛ついてもいなければ腹を立てている訳でもない。

 なので、コイツが話しかけている人は自分ではなく他人に話しかけている。

 もし、自分に話しかけていたのなら、人違いをしているのだろう。


「あ、アンタも……アンタも悪いと思っているんじゃないの?」


 セリカが何を言っているのか理解できないし、したいとも謂わない。

 別に自分は悪いことをしたなどとは一つも思ってはいない。

 なので彼女が話しかけている人は自分ではなく、全く別の人物であろう。

 自分には全く関係の無い話だ。


「ちょっと! 聞いてるの!」


 そう言って服の裾を掴んできたセリカ。

 どうやら彼女は自分に話しかけてきていたらしいが、自分としてはこんな奴に構って暇はない。


「ハァ~……。一応言っておくが、俺はこれっぽっちも悪いとは思っていない。それどころか清々したと思っているくらいだ。お前は他所のパーティに誘われて、自分からパーティを解消した。俺からしたら、お前はただの顔見知りに戻っただけだ。別に強がりなども言っていない。まぁ新しいところで適当に頑張れよ。穀潰し女」


 そう言って歩き始めるのだが、後ろから付いて来ているはずのセリカの足音が聞こえない。何をしているのかと深い溜め息を吐きつつ振り返ってみると、セリカは呆然と立ち尽くしてこちらを見つめていた。

 ここは森の中である。林ではゴブリン程度の魔物しか現れないが、森は異なっている。どんな猛獣や魔物が出るか分かったものではない。

 本来であれば先日現れたリザネオークのような強い魔物が現れることはないらしい。

 だが、ここ最近では魔物の動きが活発になっているらしく、普段では現れる事がに魔物も確認されているとの話も聞く。

 この馬鹿女を放置しておくのは簡単だが、そう言う訳にもいかない。

 呆然と立ち尽くしているこのド阿呆は、武器を持っているわけでもないし、攻撃魔法を使えるわけでもない。

 できる事と言えば癒やしの魔法を少し使える程度だけで、魔物や猛獣等と戦闘する力など全くないのである。


「おい、そんなとこに突っ立ていると、魔物や猛獣に襲われるぞ」


 しかし何も喋ることはなくただ呆然と立ち尽くすセリカ。仕方がなくセリカの側に寄り、動くまで待つことにしたのだが、このバカ女は全く動くことはなく涙を流し始めた。優しい言葉の一つでも欲しいのだろうか……。


「はぁ……。いちいち泣くなよ……泣く暇がありゃ、魔法の練習でもやれよ。お前は魔法の才能があるんだから。そうすれば足を引っ張ることはねーだろ」


「――でも! でも全く覚える事ができないじゃん!!」


 泣きじゃくりながらこちらを向くセリカ。その顔は可愛いとは言えず、不細工としか……。


「それは、お前の根気が足りないからだろ。大体、直ぐに魔法が覚えられるのなら、世の中にいる冒険者達は魔法使いだらけになっちまう。それに、魔法の有り難味も失われてしまうだろうが。努力もしないで何でもできる奴なんて何処にもいねーよ」


 自分の事は棚に上げさせてもらう。転生者だからとは言えるはずもない。


 それでも声を上げて泣くセリカ。

 本当に面倒な奴だと思いながら頭を撫でてやると、人の胸を借りるかのようにして泣く。

 だが、風呂に入っていないのかコイツ(セリカ)の頭は途轍もなく臭い。

 さっさとこの女に浄化の魔法を教えてやって、自分の事は自分で出来るようにしてもらわないとならないだろう。

 一向にセリカは泣き止む気配が無く、頭が臭いセリカに浄化の魔法を唱えて臭いを消す。

 先ほどまで吐き気が催すほど臭かったセリカの頭が、まるで頭を洗ったかのように臭いが消えてホッと息を吐く。

 やはり清潔ほど大切な事はないだろう。

 ようやくセリカが落ち着き始めたのでスマホで辺りを確認してみる。

 どうやら自分たちは油断していたらしく。スマホには自分たちの周りに魔物が取り囲んでいた。


「なぁ セリカ。泣いているところ悪いんだけど……」


「……グスッ。な、なによ……」


「実はさぁ……。物凄ぉく言い難い事なんだけど、俺達……魔物に囲まれてるんだよねぇ」


 笑いながら言うが、冗談では済まされない状況。

 セリカは一瞬、何を言われているのか理解出来ていなかったのか、呆けた顔をしてこちらを見る。


「――え? 今……何て行ったの?」


 魔物がいると言われ、セリカは周りを見渡し始めた。

 魔物がいつ襲い掛かって来ても良いように銃に手をかけて、何時でも応戦できるよう準備する。


「――なっ! ちょ、ちょっと待って! 今なんて言った……」


突然の言葉にセリカは動揺しているらしく、掴まっていた胸から手を離して距離をとる。だが、自分から距離をとったところで囲まれている事には変わらない。

 茂みの中から現れたのは今まで見た事のない狼のような奴らで、口から涎を垂らしながらグルグルと自分たちの周りを品定めするかのように歩き、いつ飛び掛かってきてもおかしくはない状態だった。

 セリカを餌にして逃げることは可能だが、それでは夢見心地が悪い。自分が誰かを犠牲にして逃げる……セリカは自分が行った行動を思い出したのか、再びしがみ付いて逃がさないようにする。

 なんて奴だ……。お前と同じにしてほしくはない。


「さて、どうしたものか……」


 囲まれている状況で、どのように倒すか考えてみる。


「な、なに余裕ぶっているのよ!! どうするのよ! この状況を!!」


 絶体絶命に近い状態なのだから騒がれても仕方がないが、自分は戦闘なんぞ全く出来やしないくせに騒ぐ。セリカという奴はそういった奴だった。

 しかし、セリカの言い分も理解出来ないわけではない。

 どう見てもゴブリンよりも素早さが有り、鋭い爪で簡単に身体を引き裂く事ができそうな魔物。

 相手が行動を起こす前に先手を取ることにし、ホルダーから銃を取り出して狼のような魔物に銃を向ける。

 こちらの殺意に気が付いたのか、狼のような魔物の一匹が飛び掛かろうとしていたので、目の前にいる魔物の眉間に目掛け、一呼吸おいてから冷静にトリガーを引く。

 「パーンッッ……」と、乾いた音が辺りを響き渡り、狼のような魔物が横たわる。セリカは突然発した音に驚いたらしく、身を屈めて蹲ってしまい驚いた顔をしている。

 何が起きたのか理解ができていないようだ。

 セリカ同様、突然の事で戸惑いのようなものを見せる狼のような魔物。

 その隙を見逃さず、剣を鞘から抜いて地面に突き刺し、狼のような魔物目掛けて銃を向けて撃ちまくる。マガジンには17発しか入っていない。

 しかも前日に3発も試し撃ちをしているため14発+1。

 全ての弾丸が急所に当たればよいのだが、全ての弾丸を急所に当てるだけの技量は今のところない。

 従って致命傷を負わせるのが精一杯で、必ず生き残りがいるはずだ。

 片手でマガジンを取り外しすと弾丸が詰まっていたと思われるマガジンは撃ち尽くされているため空になっており下へと落下していく、その間に袋の中から予備のマガジンを取り出し、銃にマガジンを装填して次の攻撃に備える。

 虚を突かれた魔物はようやく我に返り一斉に襲いかかってくる。

 地面に突き刺していた剣を左手で抜き取り、襲い掛かってくる魔物に向かって横一線に剣を振り回すかのように斬り裂く。

 そして、セリカに向かってくる魔物に対して右手に持っている銃で撃ち、セリカの側に近づけないよう魔物に攻撃をする。

 セリカは魔物の恐怖と銃声の音で身体が動かないのか、頭を抱えながらしゃがんで蹲っており、戦闘に参加することはなくただのお荷物となっている。

 セリカに魔物を近づけまいしていると、魔物は少しだけ知性があるのか連係攻撃を仕掛け襲い掛かって来ていた。セリカに傷を付けまいと気をとられていると、背中に痛みが走り振り返る。

 すると、魔物が数匹こちらを見ており、一斉に攻撃を仕掛けてくる。

 一人であれば怪我などしないで切り抜けることが出来たのだが、セリカを守りながら戦うというのはかなり手こずってしまう。

 狼のような魔物は鋭い爪で斬り裂くかのように攻撃を仕掛けてくるが、VITが高いためか痛みはあまり感じなることはない。

 だが、攻撃は体当たりに近いやり方のため、攻撃を受けた時にバランスを崩してしまう。攻撃を避けようにもセリカは蹲ったまま動くことはなく震えているためこの場から離れるわけにはいかない。

 飛び掛かってくる魔物に剣を突き刺し、動かなくなったところで銃で止めを刺す。剣技1があるためか、巧みに剣を振り回すことができ、多少の怪我を負ってしまったが狼のような魔物を全滅させることに成功させた。

 一息ついてから足下に落ちている空のマガジンを回収して袋の中にしまう。コレがなければ攻撃の手段が減ってしまう。

 できれば頭を抱えながら震えている阿呆に援護をしてもらいたいのだが、現状では不可能だろう。


「ふぅ……。終わったぞ、セリカ」


 自分の身体に回復魔法を掛けながらセリカに声を掛ける。だが、セリカは恐怖により震えており、昨日見た光景を思い出す。

 だが、アオの場合は自分の奴隷だという事もあるし、同室なので連れて帰っても問題はないのだが、セリカの場合は異なってしまう。

 何故なら、セリカ(こいつ)が泊まっている宿の場所を知らない。

 従ってセリカを町へ連れて帰っても、何処へ連れて行けば良いのかすら分からないのだ。

 取り敢えず倒した魔物をスマホの中へ仕舞っていき、撤収の準備を始める。

 このままこの場所に居ても、再び同じよう魔物に襲われる可能性もあり、何が起こるか分からない。

 だったら一度町へ戻り、セリカを安全な場所に避難させてから一人で狩りへ行った方が良いだろう。

 仕方がなくこの場から動こうとはしないセリカを背負うと、背中に違和感を覚える。

 この違和感は『何か』と一瞬だけ考えると、直ぐに違和感の原因に気が付いた。この違和感は男性には無いもので、女性特有の柔らかい二つの山脈だ。

 それが背中に引っ付いており、少しだけ頬を緩ませてしまった。二つの山脈が背中に当たっている事はセリカに言わないで、黙って町へと向かう。

 これはセリカ(こいつ)を守った報酬だと自分に言い聞かせる。

 この事を言葉にして、後で文句を言われて、謝罪と賠償を求められても困ってしまうし、それをネタに付き纏われて責任を取らされるのも嫌だ。

 スマホで自分たちのいる場所から最短のコースを確認し、町へと向かう。暫くして町に到着して警備兵に自分の冒険者カードを見せると、昨日とは異なりセリカの冒険者カードも確認させろと言ってきた。

 昨日のように察してくれたら楽なのにと思いながら、背負っていたセリカを地面に降ろし、セリカに「冒険者カードを提示しろと言ってるぞ」と、聞いてみるが、セリカは耳を塞いで何も聞きたくないといった素振りを見せる。

 ようやく安全な場所へやって来たというのに、こいつは何を考えてやがるのだと思いつつ、警備兵の方を見る。

 警備兵は昨日の人とは異なっており、今回はしっかりと冒険者カードを見せないと入れてくれなさそうだった。


「おい、町に着いたんだ。もう安全なんだからシャキッとしろよ」


 耳を塞ぎしゃがみ込んだままのセリカに言うが、セリカは言う事を聞こうともしない。

 仕方がないのでセリカの身体をまさぐって冒険者カードを探すと、服の胸元に内ポケットが付いており、その中に冒険者カードが仕舞ってあり、取り出して警備兵に冒険者カードを見せた。

 胸元辺りを探した際、少しだけセリカの胸に触れてしまった。

 しかし、それはセリカが言う事を聞かなかったためであり、不可抗力の事故である。胸を触った事に対して文句を言ってきたら、胸ぐらをつかんで顔面をぶっ飛ばすつもりだったが、セリカは何も言わず黙って座り込んだまま。

 町へ着いたのだからこのまま放置しても良いかと思ったのだが、往来の邪魔になっているため再び背負って町の中へと入って行った。

 アスミカ亭に戻り、ライフリに一泊分の宿代を支払い食堂の椅子にセリカを捨てる。

 椅子に体育座りしているセリカを見て、ライフリは「うちの店は託児所じゃないんだけどねぇ」と、愚痴のような言葉を吐くが、「宿代を払ったんだからこれも仕事ッスよ」と笑いながら言うと、ライフリは犬を追い払うかのような仕草をして『早くどこかへ行け』と声を出さずに口を動かす。

 ライフリはセリカの事を知らない訳ではない。ライフリに任せておけば問題ないだろうと思い、再び町の外へ向かう。

 一つ気になったのはアオの姿を確認していなかった事だったが、セリカ同様、ライフリに任せているのだから、先ずは目の前にある仕事を片付けることに集中することにした。

 再び町の出入り口へやってくると、先ほどの警備兵が立っており冒険者カードを提示しようとしたところ、首を左右に振る。

 町へ戻って来た時のやり取りを覚えていたらしく、顔パスで外に出ることが出来た。

 町の外に出て、空を見上げる。

 時間的にはまだ昼頃で太陽が真上付近に上がっていた。二日続けて同じことをしている事に泣きたくなるが、文句を言う相手もいないので溜め息を深く吐き、スマホを取り出して魔物や猛獣の場所を探しながら「まるで女王様のために働く『働き蟻』だなぁ」などと思いながら歩き始めた。

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