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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
14/105

14話 我が儘

 セリカのおかげで食堂は静けさに包まれてしまい、無言のまま食事を終わらせて部屋に戻り、椅子に腰掛ける。

 アオはベッドの方へ行き腰を掛けると、小さく溜め息を吐いて寂しそうな顔をみせる。

 寄生虫との別れが寂しくなったのだろうか。一応、ムードメーカのような役割もしていた……のかもしれないが、戦闘で使えない奴をいつまでも一緒にいるわけにはいかない。

 自分の殻を破ってくれないと、こちらが困ってしまう。


「どうした? アオ。何か心配事でもあるのか?」


「い、いえ……。何でもありません」


 何か言い難い事でもあるのだろうか。


「セリカの事が心配なのか?」


 セリカの名前を出してみると、アオは何を言われているの変わっておらず、キョトンとした顔をしてこちらを見ていた。


「へ? セリカ様ですか? えっと……ご主人様に隠し事など言語道断。アオはセリカ様がどうなろうと知った事ではありません」


 ハッキリと知った事ではないと言い切るアオ。

 どうやら本当にセリカの事が好きではないようだ。

 そう言えば、セリカが食堂から出ていこうとしたときは全く身動き一つせずに黙って座っていたのを思い出した。


「あ、あの……。リョータ様……ほ、本当に町を離れるのですか?」


 真剣な瞳でアオが聞いてきた事が、町を離れることが気がかりだったようだ。


「あぁ、その事か……。うん、元々そのつもりだった。前からもう少し大きな町へ行きたいと思っていたんだ。それに、他の町はどんな場所なのか気になるしね」


「そ、そう……ですか……」


 先ほど見せた顔は、町を離れることに対して何か引っかかることがあるようだった。


「寂しいのか?」


 取り敢えず話を聞いてみる必要がある。


「い、いえ……。あの……それにつきましてはリョータ様がお決めになった事なので、アオはその意見に従います」


「じゃあ、アオ。何を考えているのか話すんだ。これは命令ね」


 あまり使いたい言葉ではないが、アオが隠し事をしているのならしょうがない。


「め、命令……ですか……。しょ、商館に居た……アオに優しくしてくれたお姉さんが商館に居るんです! も……もしも町を離れるのであれば、その人に……一言だけ……一言だけで良いのでお礼を、お礼を言わせて下さい!」


「――お礼?」


「は、はい。そのお姉さんは凄く優しくて強い人でした……」


 そのアオの恩人は、奴隷になったばかりのアオに対し、奴隷のイロハって奴をアオに教えてくれたらしく、先日アオを購入した際、アオが自分を売り込んできたのは、そのお姉さん奴隷が売り込み方を教えてくれたからだとアオは教えてくれた。

 そして、もし買われることがあったら、暴力を受けないために精一杯尽くすようにと、身体の売り方まで教示してくれたらしく、寝る間際にアオが甘えてきたのは、それを実践するためだったとも教えてくれた。


「なるほどね……アオの気持ちは良く分かった。後で商館へ行ってみて、そのお姉さんとやらが買われていなかったら会わせてもらい、お礼の一言を言わせてもらおう」


「は、はい! ありがとうございます!」


 嬉しそうにするアオ。

 しかし、身体の売り方まで指導するというのは少しやりすぎな気がするが、この世界で生きていくためには……と、一瞬だけ思ってしまったのは、自分がこの世界に対して順応し始めているのかも知れない……。

 アオの話を聞き終わり、少し状況を整理してからアスミカ亭を後にし、ギルドがある方へと向かうと、アオが「商館はこちらの方ではありませんよ? リョータ様」と、言ってきた。


「馬鹿がちゃんと酒場に居るのか確認しとかなきゃならないだろ? あんな奴でも、死んでいたら目覚めが悪くなっちまうからな」


 そう言うと、アオは少し驚いた顔をしたが、直ぐに満面な笑みを浮かべて「流石リョータ様! 本当にお優しい方です!」と言い、元気に歩き出すのだった。

 ギルドの中へ入るとイルス達は宿に行ったようで、ギルドの中にはいなかった。

 だが、昼間からギルドの酒場には冒険者達が酒を飲んでおり、辺りを見渡してみると、セリカが助けた冒険者達と仲良く話をしながら飲み物を口にしており、顔を赤くしていた。


「アオ、よーく見ておけ。あれが馬鹿の見本だ。俺たち新人冒険者、昼間から酒なんぞ飲んでいる暇はない。最近、この辺りは物騒になっているんだ。死にたくなかったら先ずは、自分の腕を磨いた方が良い」


 セリカから離れた場所に立ってアオに言うと、アオは「流石リョータ様です。勉強になります……」と、答えた。

 アオの本心で言っているのか疑問に思い、チラッとアオの表情を見てみると、まるで汚物を見ているかの表情をしており、勉強というよりも完全にセリカの存在を否定しているように思えた。

 一応確認もできたことだし奴隷商館へ行こうと思ったが、ギルドの訓練所に顔を出す事にし、階段を下っていく。アオは不思議そうな表所をしながら付いて来るのだった。


「リョータ様、商館へ行くのではなかったのですか?」


 疑問に思ったのか、はたまた、嘘を言われているのか不安そうな表情で話しかけてくる。


「行くよ。けど、先ずはここで訓練をしてから行くことにした」


「――え? 何故ですか?」


「何故って言われてもなぁ……。アオ、さっき俺は何て言った?」


「えっと、あれが悪い見本と、最近物騒になっている……です」


「半分正解で半分不正解。死にたくなければ腕を磨けって言ったろ? 今日、アオは油断して危ない目にあった。だから、油断しないために少しだけ訓練するんだ。お姉さんがすでに売られているかどうか分からないが、もし会えたとして、それが最後の言葉だったら、お姉さんはどう思う?」


「さ、流石リョータ様……」


 小さい声で「なるほど……」と、納得したような声を出すアオ。

 もちろん嘘は言っていないが、本音で言えば、アオには死んでほしくないだけ。

 今日みたいな危険なことが、再び起きた時、アオを守ってやれなかったらと考えてしまう自分がいるからである。

 ギルドの教官に声を掛け、教官に今日の出来事を説明すると、教官は近場で訓練している冒険者達に声を掛け、模擬戦形式で訓練をしてくれる事となった。

 離れた場所でアオの訓練を見ていたが、流石ベテランの冒険者だった教官。

 細かいところに気が付いて、他の冒険者やアオに的確なアドバイスを与えていた。

 アオの事は教官に任せる事にして先日見つけた武器が本物か確認してみると、やはり本物だったようで、威力などが記載されていた。

 取り敢えず注文をしてみる事にし、カートに商品を入れてみる。普通であれば納品場所を何処にするのか聞かれるはずなのだが、その画面すら現れることなく決済画面に切り替わる。

 どうやら決済はスマホの中へ保存しているお金で決済されるらしく、現在スマホの中に入れてある金額と購入する品物の金額が表示された。

 他のパーツなどを買うとなると、スマホの中に入れてある金額では足りなかったため、魔法の袋の中に仕舞ってあるお金も全額収納して、購入画面に切り替える。

 本当に購入するのかと改めて聞かれたので、『購入』をタッチすると、『ご購入ありがとうございます』の画面に変わり、スマホの中に仕舞っていたお金も減っていた。

 どうやって運ばれて来るのか気になるところだが、考えていても仕方がないため、アオの訓練を眺めていると、後ろから誰かに声をかけられたので振り返ってみると、目の前が一瞬だけブラックアウトしたかのような感じになり、強い吐き気に襲われた。


「石橋さん……大丈夫ですか? お届け物です。判子かサインを頂けますか?」


 背中をさすりながら言う男は、黒い猫の宅配業者みたいな服装をした奴で、何が起きたのか分からず眉間に皺を寄せて声をかけてきた奴を睨みつけるように見つめる。


「石橋さん? 顔が怖いですよ。ほら、スマイルスマイル! あ、お荷物が届いておりますので判子かサインをお願いできますか?」


 商品受け渡し確認票のような物を渡され、黒い猫の宅配業者のような姿をした人からボールペンを借りてサインをする。

 周囲の目が気になったが、周囲の人物たちは宅配業者らしき人に気が付いていない様子で「ありがとう御座いました~」と言って、納品書が付いた二つの段ボール箱を手渡され、どこかへ去っていく。

 宅配業者らしき人物の姿が見えなくった途端、現実の世界に引き戻された気がして辺りを見渡すが、何かが変わった様子は見受けられなかった。

 納品書が付いた二つの段ボール箱を除いて……。


 この世界に段ボールというものが存在しているのかは分からなかったので、周りの目を気にしながら段ボール箱を開けてみると、箱の中には先ほど注文した商品が入っていた。

 その商品とは『銃』である。その他に弾丸数発と換えのマガジンも入っており、もう一つの箱にはサプレッサーと換えのマガジン、エアガン、BB弾が入っていた。

 いきなり実弾で練習するのは危険というか、弾が勿体無いためエアガンで練習してから実践に移った方が良いと思ったからだ。

 それに、サプレッサーもとい、サイレンサーを使えばそれほど大きな音を立てる事もなく敵を仕留めることが出来る。現代社会最強の武器の一つだ。

 一応、金額は弾丸100発で1,000G、拳銃は1丁42,000G、マガジン1,500G、サプレッサー1,500G、エアガン2,000G、BB弾1000発入り100G。

 合計で48,100G! まさかこんなに安い金額で最強の武器の一つを手にすることができ、嬉しさのあまり顔をほころばせるのだが、貨幣は金で出来ているものあり、その価値は日本円にしたら数十万するのではないだろうか。


 現在の所持金:35,607G


 早速手に入れたエアガンを使いたく、弓の練習場が空いているのか確認してみると、弓を練習している者は数人しかいなかったので、空いている場所を確保してエアガンに弾を詰め込み、的へ向かって試し撃ちを開始する。

 周りからしたら何をしているのかさっぱり分からないだろうが、これは現在時点では最強の武器の練習器具であり、場合によっては相手を怪我させることもできる。

 そんな事とは知らない他の冒険者達は、気になるのかチラチラとこちらを見ながら話していた。だが、そのような事を気にしていたら、この世界では生きていけないと思い、辺りを気にすることはせずに的に向かって試し撃ちを始めた。

 実弾と異なり、エアガンの音は本物と比べると軽い。パシュッ!! パシュッ!! と、軽い音を立てながら的に向かってBB弾が飛んでいく。

 しかし、思い描いていた場所にBB弾は飛んでいかず、的外れなところに当たる。

 どうして的に当たらないのか、考えてみればエアガンや本物の鉄砲など使った事など無い。もしかしたらスマホに銃の使い方が載っているかもしれないと思い、エアガンの撃ち方を検索してみる。

 やはり扱い方が載っており、一通り目を通してみる。

 どうやらリヤサイトとフロントサイトという物があるらしく、リヤサイトの間にフロントサイトを入れ、均等な高さと幅にしてトリガーを引くと、狙ったところに飛んでいくらしいが、風の計算など入れなければならないため、少しずらして狙うと記載されていた。

 暫くの間、エアガンで的の中心に向かって撃ち続けていると、少しずつだが的の中心に当たるようになってきて、だんだん楽しくなってきた。


「リョータ様? 何をされているんですか?」


 夢中になって練習していたため、アオの事を忘れており、いつの間にか訓練が終わっていたアオが声をかけてきたらしいが、周りが見えていなかったため、口から心臓が出るのではないかと思うほど驚いてしまった。


「よ、よう。訓練は終わったのか?」


「はい、一通り訓練を行いまして、先ほど終わりました」


 程よく身体を動かしたらしく、少しだけ息が荒くなっていた。


「そうか。俺の方もそれなりに良い訓練ができたことだし、次は約束通り商館へ行こうか」


 商館へ行くと言うと、アオは嬉しそうな声で「はい!」と返事をした。

 しかし、もしもアオの言っている女性が商館で売れ残っているのならば、鉱山や娼館送りになる可能性があると言うことだ。

 正直、商館へ行くのは気が引けてしまう。アオはその事に気が付いているのだろうか。

 そんな事を考えながら歩くと、商館へ辿り着く。

 あまり乗り気はしないが、アオと約束しているので店の中へ入ると、先日アオを購入した時の奴隷商が対応してきたので事情を説明する。

 しかし商人の顔は渋いままで、女性に会わせる事はできないと言われてしまう。アオは納得ができない顔をしながらこちらを見ているが、奴隷商の言い分が理解できてしまうため言葉に詰まってしまう。


「やはり無理ですか……。じゃあ、会わせてもらえないと言う事は、まだ売れたと言う訳ではありませんよね?」


「はい。仰る通り売れておりませんが、時間の問題だと思われます」


 どちらの意味で「時間の問題」と言っているのか分からない。

 だが、アオの顔を見ると「諦めきれない」と、言った表情をしているため、少しだけ息を吐いてから交渉してみることにした。


「正直に言って、手持ちは30,000Gしか有りませんので購入は無理だと分かっていますが、分割などで彼女を購入させていただけませんか?」


 できる交渉と言えばこの程度しか無いし、金を払うから会わせてくれと言っても最初の交渉で断られていることから無理だと言われてしまうだろう。


「分割……ですか? 今までそのような話を言われた事がありませんが、イシバシ様は冒険者だったと記憶しております。貴方様が依頼途中でお亡くなりにならないとは言えませんので……。ご理解ください」


 もしも自分が奴隷商と同じ立場であれば同じことを言うだろう。


「冒険者だから一括でなければ売ることが出来ない……と?」


「はい。イシバシ様も私の言い分を理解して頂けていると思っております。冒険者は危険な仕事です。何かを担保として売ることはできないし、予約する事も出来ないのもご理解ください」


 担保の話をされる前に言われてしまい、言葉に詰まる。


「わかりました。なら、彼女の詳細と値段を教えていただけませんか?」


「本来であれば教えることはできませんが、バルバス様が認められたお方と言う事で特別にお話しさせていただきます。年齢は19。未経験。読み書きや計算ができます。値段はバルバス様の顔を立てて60,000G。これ以上は安くすることはできません。これで充分でしょう」


 先ほどの話からすると、バルバスはこの町でかなりの権力を持っていることが窺えるが、バルバスと一緒にこの店へ来たと言う事は、ギルドからお墨付きであると言われているのと同じらしい。

 銃を購入しなければ何とかなったが、もう一人養うのは正直に言って難しい。

 だが、アオの目を見てしまうと、主人として出来る範囲の事はしてやらなければならない……という気持ちになってしまう。


「わかりました。一応確認ですが、彼女に伝えて頂く事もできませんか?」


 購入するのが難しいのは先ほど言った手持ち金額でアオも理解してくれているだろう。

 ならば、最後の悪あがきはしなければアオの気持ちが治まってくれそうにない。


「イシバシ様はお話が分かる方と思いますが……」


 困った表情をする奴隷商。これ以上の話は無駄だと判断し、話を切り上げることにした。


「分かりました。仕方が無い話ですね……行くよ、アオ」


「で、でも……分かりました……」


 奴隷商との会話を一緒に聞いていたので内容は分かっているが、なんとかして欲しいという気持ちが強く、渋々といったように店を後にした。

 店に入る前は自分の隣を歩いていたアオだったが、店から出てからはトボトボと肩を落としながら付いて来る。


「全く……しょうがない奴だなぁ、アオは」


 立ち止まって聞こえるように言ってみるが、アオは何も答えずに立ち止まるだけ。「ハァ……」と、深い溜め息を吐いてから先ほど奴隷商が言っていた事を説明すると、アオは「はい……」と小さく答える。


「アオ、俺はお前以外に二人も三人も養うことができるほどの稼ぎはない。それくらいは理解しているだろ?」


 値段も確認して購入することが出来ないことはアオも知っていることだし、セリカの件もある。


「……私が……頑張ります」


「おい、お前は何を言っているんだ? アオが頑張るって言ってもどのように頑張るんだよ。それに、お前は何を望んでるんだ? 俺はアオの心を読める訳ではないから言葉にしてくれないと分かるはずがない」


「…………」


 言いたいけれど言えない。アオは自分の立場を理解しているから言えないのだろうが、このままでは話が進まないのと、アオの士気にかかわる。


「仕方がないなぁ……。アオ、今日は夜になるまで帰られないから覚悟しておけよ」


 溜め息混じりに言い歩き始める。


「!! は、はい!!」


 少し驚いたような声で返事をして、駆け足で追いかけてくる。そして、腕にしがみ付く様に抱き着き、ようやく元気を取り戻した。しがみ付いた腕に伝わってくる二つの柔らかい感触。その感触が気持ちよくて頬を緩めてしまいそうになるが、アオに気が付かれないよう我慢し、面倒くさそうな態度を取りながら町の出入り口へ向かう。

 時間にしたら大体16時であり、この時間から外に出る奴は少ない。

 警備兵が俺達に「夜は魔物が活発になる。本当に出掛けるのか?」と質問する気持ちも分かる。

 すぐに戻ると言って俺達は町の外へ出ていく。アオは嬉しそうな顔して俺の手を握っており、いつもより歩くスピードが速いように感じた。

 かなり日が傾いていて、電池の事を考えるとスマホの使用は控えておいた方が良いだろう。何かあった場合、使用できないとなったら元も子もない。


「アオ、悪いがお前の耳を頼りにして良いか? なるべく俺の道具は使いたくない」


「承知いたしました! アオにお任せください!」


 お願いすると天使のような笑顔で答えるアオ。

 もしかしたら自分はこの笑顔の虜になっているのかもしれない。

 暫くすると日が沈み、辺りは闇夜に包まれていく。

 別に暗くなるのが怖いわけではないが、スマホが使えないため必要以上に周りを見渡す必要があるのと、慎重に行動する必要がある。

 林の中に入って行くとアオが立ち止まり「向こうの方で何か物音がしました! もしかしたら何者かがいる可能性が考えられます!」と、指差して小声で言う。

 アオが指差す方へ目を凝らして様子を窺うが、辺りは暗闇に包まれており遠くを見ることが出来ない。

 できる範囲で物音を立てないよう、ゆっくりとアオの示した方へ向かっていく。

 念のために今日仕入れた銃を取り出してマガジンに弾丸が入っている事を確認てサプレッサーを装着し、右手に銃を手にしてゆっくりと足音を消しながら歩いていく。

 するとアオが手で制し、耳に手を添えて、音を拾う仕草を見せる。


「リョータ様、多分……ゴブリンらしき物が数匹いると思われます……」


 目をつぶりながアオが言う。


「相手の数は分かるか?」


 一生懸命音を拾い敵の数を聞き分けようとするが「……申し訳ありません。複数いるのは確かなのですが、正確な数は分かりかねます」と、難しい顔をしながらアオは答える。


 音だけで数を知るのはかなり難しいだろう。ソナーがあるのなら分かるが、色々な音が混じっているのだから識別するのは難しい。ゴブリンらしき魔物と分かっただけでも十分すぎる情報だ。

 スマホで数を調べることもできたが、アオに頼ると決めた手前、スマホで調べるのは邪道だろう。

 

「十分すぎる情報だ。相手に気が付かれないようにゆっくりと近づくぞ」


「承知いたしました」


 物音を立てないように足元を注意しながら進んで行くと、アオが言っていた通りゴブリンが3匹たむろしていた。

 しかもゴブリン達は現在お食事中だったようで仲間達と機嫌良く咀嚼していた。

 ゴブリンの食事を初めて見るアオ。

 ゴブリンが何を食しているか分かっていないらしく「相手は完全にこちらに気が付いておりません。好機ですね!」と、チャンスをモノにしたい気持ちを強く表していた。

 確かに相手は食事に集中しており、こちらの存在に気が付いていない。アオが言うようにチャンスであり、仕掛けるのならば今しかないだろう。

 右手に持っていた銃を両手で構え、相手(ゴブリン)の頭を目掛けて狙いを定めるが、相手(ゴブリン)は食事中のため頭は動いている。

 だが、そこまで大した動きはしていないためしっかり狙えば外れることはないだろう。

 初めて見る武器に対しアオはこちらが何をしているのか理解できておらず、こちらの動きを観察していた。

 しかし、アオの視線を気にしていても仕方がないので、気にしないようにして狙いを定めて練習した通りに狙いを定め、トリガーを引いた。

 パシュッと乾いた音がしたが、辺りに鳴り響くほどの音は出ず、狙った先に居るゴブリンの確認をしてみると、ゴブリンは何が起きたのか理解ができず、狙撃されたゴブリンはゆっくりと前に倒れてしまった。

 何が起きたのか理解ができていない仲間のゴブリンは、倒れこんだゴブリンの身体を摩って起こそうとしたが全く動く気配がない。

 外傷と言えば頭に何かが埋まっているだけで、別に身体に矢のような物が刺さっている訳ではなく、仲間が急に動かなくなってしまったため理解ができずに辺りを見渡す。

 そして、ゴブリンと同じように何が起きたのかさっぱり分からないアオ。隣で乾いた音がしたと思ったら、食事中のゴブリンが倒れてしまったので不思議そうな顔して、銃と倒れているゴブリンを何度も見ていた。

 しかし未だにゴブリン共は何が起きたのか分かっていないため、アオの事は放っておいて次の獲物に銃を構える。

 そして、狙いを澄ましてもう一度トリガーを引き、摩っていたゴブリンを仕留めると、漸く敵の存在に気が付いたゴブリン。

 辺りを見渡してこちらの姿を探すが、草陰に隠れていたのと暗闇の中にいるこちらの姿を探し出すことが出来ず、焦りを見せるかのように周りを見渡すゴブリン。

 こちらに気が付いていないのは好機であり、再び銃を構え狙いを定めてゴブリンに向かって撃ち放つ。

 先ほどのように頭には当てることはできなかったが、致命傷を与えることはできたようでゴブリンは悶えるように倒れこんだ。


「アオ、あいつ等の止めを刺しに行くが、周りに敵の気配はあるか?」


 仕留めそこなったゴブリンに止めを刺しに行こうとするが、辺りに魔物が居たら厄介なのでアオに確認する。


「だ、大丈夫です! 周囲に魔物や猛獣の気配は感じられません」


 どんな武器を使用したか分からないことで動揺を見せていたが、我に返り索敵を行うアオ。辺りに魔物がいないのなら安心してゴブリンの始末に行くことが出来る。

 アオの言葉を信じていない訳ではないが、アオだって人であり音を聞きもらす事だってあるため周囲を警戒しながら倒したゴブリンの側へ近寄る。

 3匹のうち1匹は仕留めていたが、残りの2匹は虫の息状態だったが生きていた。だが、初めて撃ったにしては上出来だろう。

 虫の息になっているゴブリンの頭に剣を突き刺し、ゴブリンの死骸をスマホの中へ収納して一息つく。

 そして、ゴブリンが食べていたモノを確認してみる。それは想像していた通りのモノで、やり切れない気分になる。


「リ、リョータ……様……」


 アオは死体を見たのが初めてだったらしく、激しく動揺していた。とは言っても、自分も死体を見るのはこれが二回目である。

 だが、生物が『生きる』という事はそういう事で、これが食物連鎖というものである。


「魔物にやられたらこうなっちまう。これが冒険者の末路ってやつだな。これであの奴隷商が言った意味が理解できただろ。……アオ、大丈夫か?」


 アオの顔が青くなり、慌てて近くの木に駆け寄って昼に食べたものを吐き出す。

 それだけアオの中で衝撃的だったという事だ。

 この世界に来て冒険者になった時点でいつかはこの様な出来事に出くわすこと可能性はあった。

 生きるか死ぬか……これはこの世界にやって来て、初めて猛獣と戦闘をした時点で覚悟を決めていたことだし、スマホで身体能力を上げているためそう簡単に魔物なんかに殺られる事はない。

 それに、これは生きるためにはどうして避けては通れない道。この世界に来て、魔物が出ると教えられた時点で自分もいつかはこの死体のように、同じように殺されてしまうかも知れない。

 だが、チートアイテムがある限り、そう簡単に殺される様なことはないだろう。

 しかし、自分が死なないためにはどうしたらよいのか、それは常に考えていく必要がある。

 アオはこの世界での現実を直視出来ていなかった。

 猛獣等をなまじ簡単に倒せてしまったため自分の力でもどうにかなると思い込んでいたようだ。

 その結果がこの状態で、何も考えていなかったアオは「頑張る」と気軽く口にしていた。

 だが、いつか訪れるかも知れない死の可能性。その可能性を知ったうえで、「死ぬかも知れない」という現実を受け入れ、その恐怖を乗り越えるためには、いま目の前で起きている現実を直視して生きるためにはどうしたら良いのかと最善の方法を考えて行動する事だ。

 これはどの世界でも同じであり、自分は親が死んでしまった時にその現実を受け入れ、最善の方法を探して生活をしていた。

 アオはその現実を知らずに生きてきた……ただそれだけの話である。

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