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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
12/105

12話 いじける寄生虫ほどウザい奴はいない

 町へ戻りギルドで換金を終えてセリカに本日の報酬を支払う。昨日よりは少ないが、それでも報酬があるは感謝して欲しい。

 しかし、セリカは差し出した報酬を受け取ろうとはしない。


「どうしたんだよ? これはお前の分だぞ」


 アオが動物を狩っている最中も、セリカは魔力の流れを掴む練習を繰り返し行っていた。そのため、町へ帰り着く頃にはグッタリとしており、明日に響かなければ良いが……と、思っていた。

 1日で魔力の流れを掴むのは、難しい事だとスマホの『魔法を覚えるためには』と、名のサイトに記載されていた。

 魔力の流れを掴むのには、早くても2~3日は掛かるらしい。また、流れを理解できないためか、かなりの魔力を消費してしまうため、どんなに頑張っても一日で覚えるのは困難とも書かれていた。

 しかし、セリカには元々魔法を使う素質があったのだろう。町へ辿り着くころには、魔力の流れを掴む事が出来始めていた。

 だが、その喜びは小さく、ギルドでアオが仕留めた獲物を換金している間もセリカは黙っており、少しだけセリカから不気味さを感じていた。

 受け取ろうとしないのなら、報酬は要らないという事だろうと思い袋の中へ仕舞おうとした時、セリカが重い口を開く。


「……でしょ……」


「はぁ?」


 何を言っているのかさっぱり分からない。

 セリカの声が小さ過ぎたためアオの方を見ると、アオには聞こえていたらしく、耳打ちして教えてくれた。


「あの、セリカ様は『今日でお終いなんでしょ』と、言っております」


 どうやら寄生虫(セリカ)は落ち込んでいたようだ。しかも、アオの耳でないと聞き取れないほど小さな呟き。本当に鬱陶しい奴だと思い、深い溜め息を吐いた。


「はぁ~。……そうだな。なら、報酬は要らないって事で良いのか?」


 面倒くさいので適当に言うと、俯いていたセリカは『バッ!!』と、顔を上げ、涙を流しながら睨み付けきて、「最っ低!!」と、大きい声を出して言う。

 そんな声が出せるのなら、先ほども出してくれたら話が早くて楽なのに……などと思いながら続きを言う。


「全く、面倒くさい奴だな……。この際だからハッキリ言わせてもらう。この件に関して俺は悪くない。何故なら、アシスターとして雇ってくれと言ってきたのはお前だ。何度も言っているが、俺にアシスターは必要ない。だからアシスターとして雇うのはこれで終わりだ。魔力の流れを理解したのだから、明日からは仲間として一緒に連れていてやる。だから俺の言う事をしっかりと聞いて、魔法を覚えろ。明日も今日のように、アスミカ亭の前で待ってろ。この泣き虫」


 その言葉にセリカは顔をクシャクシャにして、声を上げて泣き始めてしまう。

 このままでは帰らせてもらえそうにないので、セリカの手を掴んで今日の報酬金を握らせ、アオの手を掴んでギルドから逃げるようにして出て行く。

 アオは引っ張られるように連れられていたが、体勢を立て直して腕に抱き付くようにして歩き出した。


「リョータ様はお優しいですね!」


 アオが嬉しそうな声で言う。


「別に優しくなんてない。アシスターとして雇うのは面倒だろ。報酬金額の何パーセントって、計算が面倒なんだ。顔色を窺いながらあいつ(セリカ)に支払わなけりゃならない。あいつは泣き虫だから、情に流されちまう。だったら仲間にしたほうが計算も楽だし、顔色も窺わなくて良い。その日の稼ぎを分配すれば良いだけなんだからな」


「そうですね! そんなリョータ様が大好きです!」


 屈託もない笑顔でアオは言う。

 本当に可愛い生き物だなこいつ(アオ)は……。


 アスミカ亭に戻り食事をした後は部屋でゆっくりする。いつまでも宿屋(ここ)に泊まっている訳にもいかない。

 だが、どうしたら良いのかも分からない。

 それに、アオとの生活をどのようにしていけば良いのか考える必要があるし、寄生虫(セリカ)の事も考えなければならない。

 セリカには回復魔法以外の魔法も覚えさせる必要もあり、それについて勉強もしなければならない。

 実は今日手渡した報酬だが、今日換金した分を全額手渡したのだ。

 なんて勿体ない事をしたのだろうと思うが、全く蓄えがないセリカを放っておくことはできなかった。

 

「リョータ様、どうしたんですか?」


 色々と考えを巡らせていると、アオが眠たそうな顔をしながら聞いてきた。

 だけれど、いつ眠りについてもおかしくはないため、アオに【浄化】の魔法を掛け、先に眠るよう指示する。

 アオはベッドの方に向かうのだが、「リョータ様も一緒に寝てくれるんですよね?」と、聞いてきた。

 その表情は本当に天使がいるように思えてしまった。

 アオはベッドに横たわると直ぐ眠りに就いたため、ようやく静かに他の魔法や、この町で起きている状況について調べることができ、しばらくしてから眠りに就いた。

 

 翌朝、スマホのアラームが鳴り目を覚ますと、アオが慌てて武器を手にし、構えながらスマホに向かって「今すぐ鳴くのを止めなさい!」と、叫ぶ。


「……何をやってんだ? アオ」


 そう言ってスマホのアラームを止めるために手を伸ばすと、アオが素早く自分の前に立ち、「リョータ様! 危険です!」と言って、スマホから遠ざけようとする。


「朝っぱらから何を言ってんだよ、あれは目を覚まさせるため、鳴るように俺が時間をセットしたんだよ。兎に角、武器を仕舞ってくれないか……」


 説明するのが面倒くさく、最悪の目覚めだと思いながらキョトンとしているアオの横を通り、スマホのアラームを止める。


「アオ、これは俺の道具だ。だから俺の言う事しか聞かない」


 欠伸をしながら『道具』と説明してみるのだが、アオは理解が出来ていないらしく、可愛く首を傾げた。


「追い追い説明してやるけど、先ずは着替えて飯にしようぜ。セリカの阿呆が外で待っているかもしれないだろ?」


 セリカの名前を出すと、アオは一瞬だけ考えた素振りを見せ、言う事に従ってくれた。

 それから朝食を食べに食堂へ向かったのだが、先ほど自分が言った言葉に引っ掛かるものがあり、アオに準備をお願いしてから外へ出てみると、セリカが入り口横で体育座りしながら眠っているようだった。

 何故、このような場所でコイツは寝ていやがるのだろうか。

 ハッキリ言って、営業妨害としか言いようのない状態だ。このまま放置していると、ライフリに怒られる可能性があるため肩を叩いて起こすことにした。


「ん……何よ……。あ、りょ、リョータ……」


 こちらが「何をしているんだよ」と言いたい。


「おい、店の前で座っているな……邪魔になるだろ」


 俺の言葉を無視するかのように顔を逸し、頬を膨らませる。

 顔は良いのに頭が悪すぎるのが残念過ぎる。


「何時からそこに居たんだよ。どうせ飯も食ってないんだろ。飯を食わせてやるから早く中に入れよ」


 中へ入るよう指示すると、セリカは「え?」と、驚いた顔してこちらに向き直る。本当に喜怒哀楽が激しい奴だ。


「朝食を奢ってやるって言っているんだよ。『腹が減っては戦はできぬ』俺が住んでいた『場所』では、こういう言葉があるんだ。飯を奢ってやるんだから、今日こそは回復魔法の一つくらい覚えろよな」


 腕を掴んで無理やり中へ連れて行き、食堂の椅子に座らせてからライフリに一食分追加注文をする。

 その間、セリカは何も言えずに俯いたまま食事が運ばれてくるのを待っていた。

 アオはその様子をポカーンと眺めていたが、ライフリが食事を持ってくると、こちらの顔色を伺ってから食べ始める。

 自分も運ばれてきた食事を口にしていると、ライフリが何か聞きたそうな顔をしていたので状況を説明すると、ライフリは「あんたは物好きだねぇ」と、苦笑いをしながら仕事へ戻って行く。

 ライフリの言う事はもっともである。だが、人として放っておくことが出来ないのは、以前いた世界での常識が、身体に染みついているためなのだろう。

 セリカが朝食を食べ終わったのを確認し、アオにセリカを外へ連れ出すように指示する。

 追加の食事代を支払いているところを見せると、後々面倒になりそうな気がした。

 居なくなったのを確認してからライフリに追加分を支払って店の外へ出て行くと、セリカとアオが店の外で待っており、気怠そうに二人の側へ向かった。


「さて、昨日でお前との契約を終わらせたんだが……本当に良いのか?」


「……アンタが言ったんでしょ。責任くらい取りなさいよ……」


 口を尖らせながらセリカが言う。


「馬鹿かお前は? なんで俺がお前なんかに頭を下げる必要があるんだよ? 昨日も言ったが、俺達にアシスターは必要ないの! お前だってわかってんだろ。俺達の仲間になるなら、自分でも何かができるようになれよ」


 冷たく突き放すように言うと、セリカは悔しそうな表情で「……今までやってきたつもりよ……」と、呟く。


「なら、それを俺達に実践して見せろよ。実際に魔法が使えるようになったら、ちゃんと名前を呼んでやる。それまでお前は寄生虫だ。人に寄生しないと生きていけない寄生虫だ。悔しかったら魔法の一つでも覚えて見返してみろ」


 と言っても、自分も人のことを言える立場では無い。

 ただ単に、元居た世界では無くて、別の世界で生活をしてみたい。

 チートな生活を送ってみたいと思った結果がこれなのだ。セリカに言っている言葉は、自分に向かって言っているようでなんだか情けなく感じてしまう。


「分かったわよ! アンタを見返してやるわよ!」


 頬を膨らませながら顔をそむけたセリカ。

 その言葉を聞いて笑いが零れてしまうが、さっさと見返してもらうため、セリカを人が少ない場所へ連れて行く。

 アオも周りを気にしながら跡を付けてくる。


「ここなら人が来ることはないだろう。さて、もう一度聞くけど……覚悟は決まったか? 魔法を覚えるための覚悟が」


 最終確認を行うと、人気のない場所へ連れてこられたセリカは、少しだけ戸惑った声で「うん」と、答えて頷く。

 同意を得たことを確認し、セリカが持っている解体用のナイフを借りて、セリカの腕を掴み脇で固定する。


「ちょ、ちょっと……」


 何をされるのか全く理解していないセリカが、藻掻くようにして掴んで固定している腕を引き抜こうとする。


「アオ、この寄生虫を押さえてろ」


 こちらの様子を見ていたアオ。急に命令されて「は、はい!」と、返事をしてからセリカを逃がさないように後ろから羽交い絞めする。

 ようやく逃げられなくなったセリカ。だが往生際が悪く、セリカは振りほどこうと暴れているが、アオの方が力が強いため、振りほどくことが出来ない。

 セリカから借りたナイフを逆の手で持ち、暴れているセリカの手を刺した。

 セリカは突然襲ってきた痛みで叫び声を上げる。


「うるさい! 我慢しろ! 騒ぐなアホたれ!」


 刺したナイフを抜き、固定していたセリカの腕を脇から離す。セリカは傷口を見て更に声を上げた。


「な、何を馬鹿なことを言ってるの!! は、早く治癒術士のところで治療を……」


 傷口を押さえながらセリカは言う。しかし……。


「ギャーギャー喚くな! 自分の魔法で治せ! 傷口が戻るよう想像するんだよ」


 耳を塞ぎながら言うが、セリカは涙を浮かべながら言葉を続ける。


「ば、馬鹿な事を言わないでよ! は、早く!!」


 馬鹿なことなど言っていない。セリカは『見返してやる』と言っていたのだから、これくらいの事をしなければ、こいつはやる気を見せることはない。


「うるさい、早くやれ。この寄生虫が!」


 痛い痛いと泣き叫ぶが、ここは人が中々通ることのない場所。

 いくら叫んでも助けに来る人などいないのだ。

 何故、セリカにこのような事をしたかというと、回復魔法の基本は治すことである。治すイメージができなければ回復魔法を覚えることは出来ない。

 などと、基本魔法を覚えるサイトに書いてあった。

 自分はスマホで覚える事ができるため、セリカのように痛い思いをする必要はないが、他の者は別である。

 針で指を差すというやり方もあるが、甘ったれのセリカだと覚えるまでに時間がかかってしまう。

 セリカは自分の危機でない限り、やる気を見せることはないのは、ここ数日一緒に行動して良く分かった。

 だから回復魔法でないと直ぐに治らない方法でやったのである。

スマホでセリカのステータスを弄ることが出来るのなら、既に行っている。

 だが、いくらセリカと共に行動しても、アオのようにセリカの名前が表示されることはなかった。

 どうしてアオだけがスマホに表示されるようになったのか判らないが、ある程度の見当はできている。

 それは、アオが自分の『所有物』という扱いになった事により、アオのステータスが現れたのではないだろうか。これを立証するには、アオの他に新しい奴隷を購入しないと分からない。

 現状ではお金がないため検証することは出来ないが、これが一番可能性が高い。


 アオにも魔法を覚えてもらいたいのだが、獣人は魔力が低いため、魔法を覚えられる者は世界で数パーセントしかいないらしい。

 これについては獣人であるアオ本人に確認しようとしたが、いつも先に寝るため確認することができずにいた。

 セリカの腕からはドバドバと血が出ており、傷口を手で押さえながら涙を流しており、一向にセリカの傷が治る気配はない。

 このまま放置しても意味がないため、回復魔法の【リカバ】を唱えてセリカの傷を治す。


「何をやっているんだよ。覚悟は決まったんじゃないのか? さっき言ったことは嘘だったのかよ?」


 呆れた声で言うと、セリカは息を切らせながら睨んでくる。


「だって、いきなり手にナイフを刺すなんて聞いてない!!」


「言ってないんだから当たり前だろ! ほら、もう一度やるぞ!」


 そう言って再びアオに羽交い絞めさせ、暴れるセリカの腕にナイフを突き刺すと、再び響き渡るセリカの悲鳴。セリカが魔法を発動させるのに半日ほど時間を費やすしたのだが、本当に魔法を使うセンスがあったようで、回復魔法を一日で覚えてしまった。


 翌日、魔法を覚えた寄生虫ことセリカ。

 朝食を食べに食堂に向かうと、セリカが何故か食堂の椅子に座っており、運ばれてきた食事に嬉しそうな声を上げて食べ始めた。

 それを見ていた俺とアオは、呆れて立ち尽くす。確かに、昨日は落ち込んでいるセリカに飯を奢ってあげたが、今日は一言も奢ってあげるとは言っていない。

 なので離れた席に座り、ライフリに食事をお願いした。

 優しいアオも何も言わないと言うことは、同じ事を考えている可能性も考えられた。

 ライフリは何も言わずに食事を運んできて自分たちの前に置き、何も言わずに立ち去る。朝から肉料理は胃が凭れそうだと思いながら食事を終わらせ、アオは二人分の食器を厨房がある方へ運んでいく。

 すると、ライフリが嬉しそうな声でお礼を言う。アオが席から離れている間にスマホで今日のニュースを確認すると、魔物に関する記事が載っており、それを読み始めた。

 魔物は卵から産まれて来るのではなく、子を産んで育てる者もいるらしい。

 その代表としてゴブリン、コボルト、オークなどが上げられており、卵から孵るのはドラゴンや両性魔物等だと記載されている。

 また、動物が魔物化することもあり、魔物化した動物の繁殖力は半端ないらしい。

 と言うことは、ビッグヴェルも繁殖している可能性が考えられると言うことである。

 スマホで能力の向上させたからこそ、ビッグヴェルを簡単に始末することができたが、通常の冒険者がビッグヴェルと対峙しても、退治できるかは五分五分らしく、もし勝てたとしても、二匹目、三匹目とビッグヴェルが現れた日には、ここら辺の冒険者では退治することはできないだろう。同じくらいの実力をもった複数人の冒険者だったらどうか分からないけれど……。


 記事を読み終わると同じくらいにアオが戻ってきたので、アスミカ亭の食堂から出て行こうと席を立つと、セリカが慌てて席を立ちついて来ようとする。

 だが、ライフリの動きは素早く、追いかけようとしたセリカの肩を掴んだ。


「食い逃げは許さないよ」


 ニタァッと笑いながらライフリが言う。

 その手には包丁が握られており、セリカは涙目になりながら「はひ……」と言って、ライフリにお金を支払うのだった。

 その様子を入り口付近で観ていたら、お金を支払い終わったセリカが慌ててやってくる。


「アンタのせいで余計なお金を払っちゃったじゃない! どうしてくれんのよ!」


「いやいや、自分で食べた物は自分で払えよ。寄生虫」


「だったらアオだって自分で払わせなさいよ!」


「お前は馬鹿か? アオのお金は俺が持っているんだから、俺が支払うに決まっているじゃないか。これだから寄生虫は困るんだよ」


 セリカの言葉に肩を竦め、馬鹿にした目でセリカを見る。

 それ以降は何も言わなかったが、「納得ができない!」と、言った表情をしたままセリカは付いてくるのだった。

 それから町を出て、先日ビッグヴェルが現れた森へ向かう。初めての森にアオは落ち着かないのか、キョロキョロと周りを見渡している。

 あの記事に書かれていることが正しければ、ビッグヴェルがここら辺にいる可能性は高い。スマホでチェックしながら魔物や猛獣を狩っていくと、お目当ての獲物と出くわす。


「お、大っきい……ですね……」


 物陰に隠れていたアオが、呆気にとられながら呟く。


「あれがビッグヴェルだ。調べた所によると、繁殖率が半端なく高いらしい。この間、6匹始末したが、まだ他にもいる可能性があった。だからこの場所へ来たんだけど……やっぱり居たな」


 そう言ってビッグヴェルが後ろを向くのを待っていると、ビッグヴェルは首を左右に振ってから後ろを向いた。

 相手は1匹のみ……剣を抜いて駆け出す。

 こちらに気が付いていないビッグヴェルなので、始末するのに手こずる事はない。あっという間に止めを刺し、剣に付いた血を払い鞘に収める。


「流石リョータ様です!!」


 アオは嬉しそうに飛び付いてきたので抱きしめる。


「アオだけだよ、そう言ってくれるのは。どこかの寄生虫はそんな事よりも他のことが気になるみたいだからね」


 そう言ってセリカの方に目を向けると、セリカはイヤらしい笑みを浮かべながらビッグヴェルを触っており、まるで自分で始末した気分になっているようだった。

 ビッグヴェルをスマホに収納し、他に反応がないか確認していると、少し離れた場所に青色人型の印と、赤い獣の印が複数あり、誰かがそこで何かと戦っている可能性があり、急いでその場所へ向かうことにした。

 人型の印は複数あるが、一向に赤い獣印が減ることがなく、嫌な予感がしてならない。もしかしたら、人型はイルス達かもしれない。

 だが相手次第では、こちらも身を引かざる得ないことは、頭の片隅に入れておかなければならいだろう。

 何せ、こちらにはアオとセリカがいるのだから。


 急いで向かって見ると、2メートル程の大きい豚頭が、見知らぬ冒険者達と戦っていた。豚頭の数は10匹以上おり、冒険者の数は5人。

 倒れている冒険者もおり、状況からして劣勢であることは間違いない。


「セリカ! 怪我人に回復魔法を! アオ、無理をするなよ!」


 二人に指示を出して、豚頭の方に向かって駆け出し、セリカは倒れている冒険者の方へ向かい、アオは後ろから追いかけてくる。

 勢いよく飛び出して、先頭に立っている豚頭に向かって飛び蹴りを食らわせると、先頭に立っていた豚頭は吹っ飛ばされ、後ろの方に立っていた豚頭達に先頭の豚頭が突っ込んで倒れた。


「「ブォーン……!!」」


 何匹かの豚頭が遠吠えのような叫びを上げて、怒りを露わにして、倒れている冒険者達から離れてこちらに向かってきた。

 そして、手に持っている混紡を振り上げて攻撃を仕掛けてくるのだが、動きが大雑把だったため、簡単に避けることが出来、その間にセリカが怪我をした冒険者を引き摺って、豚頭達から少し離れた場所で治療を開始する。


 こちら気が向いているため、アオの存在に気が付いていない豚頭達。その隙を衝いて、アオがショート・ソードを鞘から抜き取り、勢いよく豚頭のお腹に剣を突き刺した。

 未だ油断しているため、アオは豚頭達に続けて攻撃をしようと、突き刺した剣を力一杯引き抜こうとしたのだが、でっぷりとしたお腹に刺さった剣が抜けないらしく、豚頭の事をよりも剣を抜くことに集中してしまう。


「アオ!!」


 名前を呼ばれ、「ハッ!」と、顔を上げて現状を思い出し、豚頭から慌てて距離を取ろうとするのだが、夢中になりすぎていたために回避するタイミングを逃してしまい、他の豚頭が繰り出した蹴りをまともに受けて、アオは勢いよく吹っ飛ばされた。

 タイミングを逃したからといっても、防御する事だけは忘れていなかったが、それでも身体を木に思いっきりぶつかってしまい、アオは口から吐血する。


「アオ! 大丈夫か!」


「ガハッ……。うぅ……な、何とか……いつつつぅ……」


 どうやら蹴られる瞬間に、アオは吹っ飛ばされる方に身体を飛ばしたらしいのだが、豚頭の蹴りは途轍もなく強かったらしい。

 吐血したからといっても、それほど酷いダメージという訳ではないらしいが、暫く動ける状態ではないようだ。

 しかし、アオの判断力が高いことが分かった。

 慌ててアオの側により、回復魔法の【リカバ】を唱えて傷を癒やしてあげる。

 だが、まだ身体に力が入らないらしく、動けないようだった。

 豚頭はセリカ達がいる方ではなく、こちらの方へ向かってきており、一気にピンチの状態となってしまった。

 豚頭の身体は厚い脂肪の鎧なのだろう。

 剣が奥まで届かなく、決定的な有効打にならないのかもしれない。アオの剣が突き刺さったまま豚頭は起き上がり、汚らしい笑みのようなものを浮かべて、突き刺さった剣を抜き、棍棒を拾って歩き始めた。

 スピードは自分の方が上なのは先ほど立証済みである。なら、先ずは相手の動きを止めるしか方法はない。

 アオに「ここで動けるようになるまでジッとしていろ」と言い、豚頭に向かって駆け出す。


「うぉぉー!!」


 素早く豚頭の股下に潜り込んでアキレス腱辺りを斬り裂き、倒れる前に態勢を整えて次の豚頭へ向かう。

 足を斬られた豚頭は前のめりに倒れ込み、這い蹲るようにして方向転換し、豚頭共は俺一人に敵意をむき出しにして襲いかかるのだが、豚頭共よりも素早さが勝っているため、次々と攻撃を躱しながら豚頭共の足を斬り裂いていき、行動不能にしていく。

 だが、豚頭の斬られた足は、ブクブクと音を立てながら傷がゆっくりと治っていき、再び立ち上がって殴りかかってくる。

 アオが突き刺したはずの傷も治っており、傷跡すら見当たらなくなっていた。

 先ほどまで戦っていた冒険者たちがやられた理由が分かり、豚頭達から距離をとった。

 どうやら豚頭の標準は全てこちらに向けられているようで、他の冒険者達からどんどん離れていく。更に豚頭共の注意を引き付ける必要があり、少しずつ距離を取って、スマホを取り出しフラッシュをたいてからステータス画面を開き、AGIとDEXを20上げた。


 名前:石橋(いしばし)亮太(りょうた)

 年齢:18

 Lv:3

 HP:68

 MP:49

 STR():54

 AGI(敏捷):72

 DEX(器用):78

 VIT(生命):56

 INT(知性):50

 生活魔法:【浄化】【飲料水】

 回復魔法:【リカバ】

 状態回復:【キュア3】

 スキル:剣技1


 所持金:6,420G

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