11話 寄生虫
夕方になり、アオを迎えにギルドへ行くと、アオは練習場の椅子に腰掛けて灰となっていた。
教官ギルド員に状況を確認すると、言い付けを守り休憩すらせずに訓練を続けていたらしく、ようやく休憩を入れたの今先ほどだったとの事。
休憩もせずに動き続けた結果、体力は底をついてしまったらしく、まるでどこかのボクサーみたいな態勢で座っている。
「いやぁ、この子は凄いぞ!」
教官ギルド員のサナトスが嬉しそうな顔をしながら話しかけてくる。
「剣の練習を行っていたんだが、始めは素人の動きをしていたが、直ぐにコツを覚えたらしく上達したんだ! 彼女には素質があるぞ。きっと!」
サナトスの言葉に「それは良かった」と、答える。だが、セリカは不貞腐れた顔をしていた。
もしかしたらの話だが、自分に無いものを持っているアオが気に入らないのかもしれない。
疲れ切って動けなくなったアオを背負ってから、アオを指導してくれた教官ギルド員達にお礼を言って、ギルドのカウンターで本日稼いだ分を換金して、セリカに契約料を支払う。と言っても、セリカが鬱陶しくて思っていたほど稼ぐ事が出来なかったため、セリカには500Gしか渡す事ができない。
しかし、何の仕事もしないでお金が貰えるセリカ。文句など言うはずもないし、言える身分ではない。そして、今まで貰っていた額よりも遙かに高額だったらしく、嬉しそうな顔をして500Gを受け取った。
「じゃあ、俺達は宿屋へ戻ることにするから、お前は好きにしていろ」
疲れ切っているアオを宿屋で休ませる必要があり、今日はこれ以上何かをする事はできないため、セリカと別れる事にしてギルドから出ていこうとする。
「うん! また明日ね~」
手をヒラヒラと振りながらセリカもギルドから出ていき、何処か別の場所へ向かう。無駄遣い等しなければ良いのだが……。等と思いながらアオを背負ってアスミカ亭へ戻っていく。先ほどのセリカが言っていた言葉を思い出す。セリカは「また明日」と言っていたが、出来れば貧乏神と一緒に行動はしたくない。どうせなら一緒に戦ってくれる仲間が欲しい。
アオを背負いながらアスミカ亭に戻り、アオを食堂の席に座らせて食事を注文したのだが、アオは余程疲れているのか、目が虚ろで起きているのか分からない状態であった。暫くしてリッツが食事を運んできたのだが、アオは船を漕ぎながら運ばれてきた食事を口にする。
その姿は危なっかしいと言わんばかりであり、「まずはゆっくりと休んでから飯にした方が良いんじゃないか?」と、言うのだが、アオは虚ろな表情で「大丈夫です」と言い、なんとか出された食事を間食して部屋へ戻って行くのだった。
フラフラなアオを抱きかかえるようにして部屋へ戻り、着ていた上着とズボンを脱がせてベッドの上に寝かせる。
今日も床で寝ようかと考えていると、アオは虚ろ気な表情で「リョータ様……」と呟き、腕を首に回してくる。
「どうしたんだ? 甘えん坊」
アオは俺をベッドの上に押し倒す形で倒れこみ、マウントポジションをとって唇を震えさせる。
「アオは買われた時から覚悟が決まっております……」
疲れた顔をしているのだが、それでも勇気を振り絞ってアオが自分の立場を理解しているかのように言う。
「馬鹿な事を言っているんじゃない。ほら、ゆっくり休んで明日に備えろよ」
困った声で言うと、アオは「リョータ様……」と、小さく呟いてから寝息を立て始める。まるで電池が切れたかのように動かなくなり、小さく溜め息混じりに息を吐いて毛布を手にする。
手にした毛布をアオに掛けようとしたのだが、寝息を立てているアオは下着姿であり、ブラジャーをしていないため、下着が透けて胸が見えてしまう。
アオの胸は少し小さく感じるが、横になっているため小さく見えるのかもしれない。それにまだ16歳なのだからもう少し大きくなる可能性もある。そして何よりも、寝顔が可愛いので何でも許せてしまう気がする。
また、このような姿を見ることが一生に何度あるのか分からない。そのため、唾を飲み込んでアオの下着姿を凝視してしまった。
薄く見える二つの突起物を触ってしまったら、人として何かを失ってしまう気がした。
グッスリと眠っているため当分起きることはないだろうから、目に焼き付けるように見つめた後、触りたい気持ちを我慢して、アオに毛布を掛けて少し離れた場所に腰掛ける。
アオの寝息を聞きながら今後のことを考える。
イリスやセリカと行動して思ったが、怪我などした時のことを考えると、回復魔法はとても重要だ。回復魔法が使えることで、もう少し大胆に動くことができる。
どうやったら魔法を覚えることができるのだろうか。
暫く離れた場所で寝ているアオを眺めながら考えていたが、何も思いつくことが出来なかったため、町の周辺で何か面白いニュースないか確認してから眠ることした。
翌朝、目を覚ますと隣にアオが寝ていた。
昨晩はベッドに寝かせたはずだが、再び俺の横に寝ている。
これから二人で暮らし始めるとなると、宿屋では手狭になってしまう。
一人で生活するのであれば宿屋生活でも大したことではないが、今後はアオと一緒に生活するのならば、真面目に活動拠点を作る必要があるだろう。
などと考えていると、アオが身体にしがみ付くように抱き着いてきた。全く可愛いったらありゃしない。
暫くアオの寝顔を眺めた後、スマホでニュースサイトを見ていると、エリエートの町に関するニュースが載っており、ニュース内容を確認してみる。
すると、近くの森に『オークの集団が冒険者を襲う!!』という見出しで記事になっており、エリエートの町にあるギルドで、オークの集団討伐依頼が掲示されたと記載されていた。
オークの報酬を調べてみると、1匹辺り1,000Gでギルドに引き取ってもらえる。そして、肉は200Gで買い取ってくれるようだ。これは非常に美味しい値段だ。
だからオークの肉が市場に出回っていて、このアスミカ亭でもオークの肉を使った料理が出てくるのだろう。
オークの肉は、脂がのっていて非常に美味しいのだが、値段が高いためか、量は少なめだった。
また、最近はコボルトの姿も確認されていて、森では異常な現象が多発しているので、森へ行く場合、注意が必要と書かれていた。
しかし、このニュースは誰が書いているのかさっぱり分からない。
コボルトの皮は俺の着ている防具にも使われているように、防具の素材にもなる。素材の買い取り金額は100G。
肉はビッグラビと同じ値段で買い取ってくれるので、冒険者には美味しい魔物である。が、ゴブリンよりも値段が高いという事は、それなりに手強い相手だと言う事になる。それを裏付けるように討伐料は300G。コボルトには上位種もいるらしいが、この辺りでは出ない……と、言われている。
記事を読み終えると同時にアオと目が合う。
アオは満面な笑みで「お早うございます!」と元気に挨拶し、身体に抱き着いてきた。身体に押し付けられてくる二つの膨らみは、今まで味わったことのない感触だった。
「おはよう、アオ。だけど、どうしてベッドで寝ないんだ?」
「え? だ、だって、ご主人様が床で寝ているのに……私がベッドで寝るのはおかしいです。ご主人様がベッドで眠り、アオは床で寝るべきなんです!」
真剣な目でアオが言う。
「なら、今日からは一緒のベッドで寝るか……それなら文句はないだろ?」
「い、いえ……そ、そうでは無くてですね……」
「じゃあ、命令だ。俺と一緒のベッドで寝る事! いいね?」
困り顔から笑顔に変わり、アオは元気よく返事をして再び抱き着く。
「リョータ様はお優しくて、アオはとっても幸せです! 大好きです!」
頬を胸にすり寄せながらアオは言う。
自分が高校生くらいの時に転生していたのなら、勘違いしてしまいそうだ。
アオの言う『好き』は、奴隷の身分だからこその『好き』であり、恋愛感情の『好き』とは異なるものだろう。
「ありがとう、アオ。でも、そろそろ起きて飯を食べよう。馬鹿が店の入り口で待っているかもしれないからな」
そう言うと少しだけアオは考えた顔をして、口を開いて言う。
「えーと……セリカ様ですね! 分かりました」
馬鹿が誰とは言っていないが、アオの中で俺が『馬鹿』=セリカだと認識されているようだ。
それから二人で朝食を済ませて外に出ると、案の定セリカが暇そうにして、入り口の横で座って待っていた。
「遅い!! 二人で何をしていたか知らないけど、もっと早く来ることはできないの!」
「朝からうるせーなぁ……。俺に文句があるのなら、他の冒険者と一緒に行ってくれば良いだろ。いくら俺と専属契約しているとは言え、お前は自由の身なんだし、俺にはお前が居なくても問題ないし、文句すら言わないぞ」
眉間に皺を寄せていたセリカだったが、嫌な顔をしながら言われると、慌てて立ち上がって言葉を探し始める。
「な、何を言っているの! 私は……もう良い! ほら、早く行くわよ」
頬を膨らませながら歩き始めるセリカ。朝っぱらから元気な奴だと思いながらアオと一緒に、セリカの後ろを付いて行きながら町の入り口へ向かった。
すると、十数人の冒険者たちが町の外へ出ていくのが見え、セリカに質問した。
「おい、何だあいつ等? 何処へ向かうんだ? あいつ等は……」
「あれはオーク討伐へ行く人達よ。昨日、オークの集団が現れたって話があり、ギルドが依頼を出したらしいわ」
セリカの言葉でスマホのニュースに書かれていた記事を思い出し、納得をしながら話を続ける。
「オークねぇ……。確か、報酬が1,000Gだっけ?」
「そうね。だけど、Hランクの私がやる仕事じゃない。あんたもHランクなんでしょ?」
この馬鹿に「登録したばかりの奴は皆、同じランクだろ」と、この馬鹿に言ったところで、開き直られるだけだと思い、言葉を飲み込んで別の言葉を選ぶ。
「まぁ、今日はアオの訓練と、おバカの魔法練習を兼ねての仕事だから別に良いか」
そう言って町の外へ向かうと、セリカが「おバカって誰よ! ねぇ! おバカって誰のことよ!」と、何度も聞き返してくるが、セリカの存在を無視して、アオと共に町の外へ出て行く。
本当に五月蝿いやつだ。
しばらく歩いているとアオの耳が「ピクピク」と動き、「何この可愛い生物!」と、叫びたくなる気持ちを抑えつつアオの耳を眺めていると、アオが立ち止まり話しかけてくる。
「リョータ様、あちらの方に何かしらの生き物がいるようです」
アオの言葉を聞いて、スマホの地図アプリを開いて確認すると、確かにアオの指差す方角に猛獣の印があった。
「流石アオだね。何処かのアシスターと大違いだ」
ぐぬぬぬ……と、悔しそうな声を出しながらこちらを睨みつける役立たず。悔しければ仕事が出来るようなれば良いのにと思いながらほくそ笑み、アオが示す場所へ向かう事にして歩き始めた。
「いつか見てなさいよ……そのうち、アンタが泣きながらお願いしたって手伝ってあげないんだから」
ブツブツと文句を言いながら俺達の後を付いて来る貧乏神。こいつがキングになる前に、別の誰かに擦り付けたいものである。
そんな事を思いながら暫く歩いて行くと、草むらに隠れているプルスを発見したのだが、セリカは気が付いていない様子でペチャクチャ喋っていたが、アオはショート・ソードを抜いており、戦闘準備に入っていた。
「出来るか? アオ」
獲物を見る目が鋭いアオに対し、獲物を仕留めることが出来るのか確認してみる。
「リョータ様のご命令であれば……アオは何でも致します」
鋭い目付きでプルスを睨みつけながらアオは言う。
プルス程度ならセリカでも倒せそうな気がするのだが、アオの本気度を確認したいところでもある……。
「なぁセリカ、あいつ程度ならお前でも倒せるんじゃないか?」
セリカもようやくプルスの存在に気が付いたらしく、少し怯えた顔をしていた。
「馬鹿を言わないでよ。あの嘴に突かれたら……怪我をするでしょ!」
その言葉に「あ、コイツは冒険者という名前を騙った阿呆だ」と、改めて認識し、プルス退治はアオに任せることにした。
「アオ、無理をしない程度に倒して来い。そのショート・ソードは俺が使っていたやつだ。安心して使用することが出来るだろ」
どうして安心できるのか分からないが、そこら辺で購入したものに比べれば折れ難いものだと思う。
その言葉にアオは頷いてから駆け出していく。
身を隠していたプルスは何者かが近寄ってくる事に気が付いてアオのほうへ向き直り、アオに向かって嘴で攻撃を仕掛けてきた。
だが、アオはショート・ソードで鋭い嘴を払い除けると、プルスは体勢を崩してしまう。アオは嘴を払いのけた体勢のまま、プルスに向かって体当たりをぶちかました。
アオに吹っ飛ばされたプルスは地面に転がるようにして倒れこみ、体勢を取り直したアオは倒れたこんだままのプルスの首にショート・ソードを突き刺してグイッとソードを捻り、プルスの息の根を止める。
荒い息を落ち着かせながら動かなくなったプルスを確認し、ソードから手を放して地面に座り込み、空を見上げる。
そして、戦いが終わったことを理解したかの如く、深く息を吐いて安堵の表情を浮かべる。
「お疲れ、アオ」
スマホでプルスが死んだ事を確認してからアオに声をかける。
アオはゆっくりとこちらを見て、安どの表情を浮かべながら「リョータ様……不細工ながら、勝つことが出来ました……ハァハァ」と、言う。
「初めてにしては十分だと思うよ。アオは頑張った」
少しだけ優しい声で言うと、アオは嬉しそうにお礼を言う。
その後ろでは、悔しそうな顔をしたセリカがアオを見つめていた。
スマホにプルスの死骸を収納し、次の獲物を探し始める。今日の戦いは全てアオに任せる事にし、自分とセリカはアオを見守る。
何匹かの猛獣をアオが一人で仕留め、次の獲物を探そうとスマホで確認すると、時間はすでにヒルを回っており、休み無しで戦闘を行っていた事に気が付き、少しだけ休憩をすることを提案してアオに水が入った水筒を渡すと、アオは「ありがとうございます」と、お礼の言葉を言ってから水筒を受け取り口に含んだ。
横目でセルカを見ると、少しだけ羨ましそうな顔をしていたので、アオが返してくれた水筒をセリカに渡すと、セリカはお礼も言わずに水をがぶ飲みし始めた。アシスターなら、水くらい自分で用意すればよいのに……。
念のために持っていた、もう一つの水筒をスマホから取り出し、アオに渡す。
何故なのか分からないが、自分自身はそんなに喉が渇いていなかったし、汗も掻いていなかった。
「アオ、水はゆっくり飲むのよ。一気に飲んだら身体に良くないのと、疲れてしまうの。それに、直ぐ次の水を欲してしまい、身体が重くなって動けなくなるわ」
珍しくセルカが先輩冒険者らしいこと言うが、先ほど渡した水筒を空っぽにした奴が言うセリフではないし、自分がセリカに教えてあげた事である。
「分かりました! 勉強になります! セリカ様」
しかし、何も知らないアオは素直にセリカの言う事を聞き、言われた通りゆっくりと水を飲み始める。
「流石、セリカ様は物知りですね!」
屈託のない笑顔でアオが言うと、セリカは満更でもない顔で「当たり前でしょ」と、言い放つ。プルスの1匹も仕留めることが出来ない役立たずのくせに。
実は昨晩、スマホでアシスターの仕事内容について少しだけ調べてみたのだが、アシスターはセリカのように何も出来ない寄生冒険者ではない。
本当のアシスターは、冒険者のアシストしてくれる者達を表しており、セリカのような奴をアシスターとは言わない。
どうしてライフリがセリカの事を半人前と言っていたのか、少し疑問に思っていたのだが、それを見て理解することが出来た。
アシスターの事を調べた限りでは、プルスやラビ程度の猛獣であれば、アシスターは悠々と倒せるらしい。冒険者がアシスターを必要とする時は、魔物討伐をする時、最低限のアシストをしてくれる人がいてくれる場合のみであり、冒険者が一緒に居なくて、アシスターは自分一人で生活ができるだけの技量を持ち合わせている。
そして、補助魔法や回復魔法等を使用する事でき、魔物の特性を知っている者が本当のアシスターと呼ばれる人達である。
確かにアシスターの方々は力が弱く、剣などの武器を装備はできないようだが、弓を使っての牽制や、先制攻撃を仕掛けてくれるだけのアシストはできる。
ただの荷物持ちや解体しかできないセリカみたいなお笑いレベルのアシスターは、駆け出しアシスターと同等、もしくはそれ以下。そういう者はアシスターの『補助アシスター』又は、『見習いアシスター』という位置付けになるそうだ。
その分、報酬は少ないが、仲間のアシスターが面倒を見てくれるようだ。
冒険者も一緒で、先輩冒険者と一緒に行動する事で経験を積み、一人前の冒険者として成長していくものらしいし、他にはイルス達のように、共に協力し合っていく仲間を作り、一緒に成長をするのが一般的らしい。
自分のように、冒険者登録してから、何でもかんでも一人でやる奴は非常に稀らしく、バルバスが「腕の立つ冒険者」と自分の事を評した理由は、こういった背景からだろう。
セリカはギルドでその事をバルバスから聞いて、自分に寄生してきたのだろうと思われる。だが、いつまでも半人前で、ニートのようになられても困ってしまう。
「さて……。セリカ、魔法の練習をするぞ。お前は魔法が使えないんだろ?」
分かっていて言ってみる。普通の奴ならば、負い目のようなものを感じるはずだが……。
「そ、そうよ。リョータがお金がないって言って、私の勉強を邪魔するから……」
こいつはプライドってやつが邪魔をしているのだろう……。自分は悪くないと言ってくる。
「お前さぁ……。その授業料を払ったのは誰だと思って言っているんだよ。俺が払った金で勉強しているくせに、文句を言うなよ」
自分の立場を理解させるために言ってみるのだが、セリカは「な、何を言っているのよ! アンタは私を専属で契約したんでしょ!」と、素直になることはなかった。
「別にお前を専属契約すると、契約書なんかにサイン等していない。お前が付き纏っているだけだ。それに、アシスターについて調べたんだが……。お前、アシスターの見習いすらやっていないのは何故なんだ?」
すると、セリカは「うっ!!」と言って、たじろいで困った顔をする。美人を困らせる趣味はないが、寄生虫を退治するためにはこれが一番である。とにかく弱点を徹底的に突く!!
「お前、冒険者になったとき、訓練すらしないで外に出ただろ。そして、獣すら勝てなかった口だろ?」
簡単に言えば、購入したばかりのアクションゲームを、技のやり方など調べないでゲームを始めて、直ぐに負けてしまい、諦めてクソゲー扱いする奴のことである。
だが、ゲームは何度でもやり直しが利くし、クソゲーと言いながらも何度もやりながら技を覚える事ができる。
また、そう言ったゲームはある程度やり方が決まっている。そのため応用が利くし、それなりの結果を残すことが出来る。
しかし、これは現実世界であり殺伐とした世界である。自分のようなチート過ぎるアイテムを貰っている訳ではない。
こいつはただの寄生虫と同じだ。
アオみたいに奴隷だから言う事を聞く訳ではない。
可愛い面した貧乳の寄生虫だ。
自分にとってはただの貧乏神であり、そのうちキングになってしまうかも知れない寄生虫なのである。
セリカは何も言い返せないらしく、唇を尖らせながらこちらを睨む。どうやってこの貧乏神を誰かに取り付けようか……。
それを考えた結果の魔法である。魔法さえ使えるようになれば、この貧乏神を誰かに取り付けさせる事ができるかも知れない。
いざとなればイルス達に押しつけるのもありだ。
まぁ、下手に刺激をしてやる気をなくされて居座れても困る。
いつ、何が起きるか分からないこの世の中。どうにかして一人で生活できる力を身につけさせなければならない。
そうでもしなければ夢見が悪くなってしまう。
「じゃあ、ゴミ虫……もとい、セリカ」
そのセリフにセリカは頬を引くつかせる。
「い、今……ゴミ虫って言った?」
かなり怒っているようだが、そんな事を気にしていては先に進むことは出来ない。
「んな事はどうでもいい。ほら、手を出せ。魔力ってやつをお前の身体に流してやる。それで魔力がどのようなものか分かるだろ」
「そんなもの!? って、今……魔力を流すって言わなかった? あ、アンタできるの?」
「お前と一緒にするな、ゴミ虫。魔法が使えないお前と一緒にするんじゃねーよ。ばーか」
心の声が口に出てしまい、セリカの激しく怒りを見せて、背負っていた荷物を投げつけようとしてきた。
「嫌なら教えてやらん。そのまま一生アオに負けながら生きていけ。因みに、専属契約は今日で終了だ。俺にはアオがいるからな。アオは凄ーく、できる子だ。『誰かさん』と違ってね!!」
セリカに向かって『誰かさん』という言葉を強く強調して言う。
アオは自分のが褒められていることが嬉しかったらしく、頬を押さえながら喜んでいた。
何、この可愛い生き物……。
主従関係とは別な、違う喜びかただ。
「な、なんで! 何で契約終了なのよ!」
だが、それよりも先に、こいつをどうにかする必要がある。
「悪いが、俺はアシスターという職業を調べさせて貰った。その結果、お前はアシスター以下の存在だと言うことが分かったんだよ。この寄生虫!!」
こちらは強くセリカを罵っているが、アオは自分の世界に入っているようで、「リョータ様に褒められた~」と嬉しそうにしている。本当にどうしたのだろうか……。
セリカは目に涙を浮かべながらこちらを見つめる。口元はへの字になっており、言い返したいが言い返せないみたいである。
「構わないならそれでお終い。嫌ならお前は俺に逆らうな。分かったな! それじゃあ、文句を言わずに手を出せ」
悔しそうな顔をしながら涙をポロポロと流し、渋々手を出す。
「泣く暇があるのなら魔法を覚える努力をしろ! それに、神殿に行かない理由はある。神殿の修道女は、魔法を教える気は全くない。魔法をしっかり教えてくれるのだったら、お前を通わせているが、教えてくれない場所に金を払うつもりはない! 分かったな!」
泣いているセリカに魔力を流しながら言う。
セリカは魔力を身体に感じているのか、既に泣き止んでおり、眉間に皺を寄せて少し苦しそうにしていた。
「どうだ? これが魔力って奴だ。理解出来たか?」
苦しそうに頷くので流すのを止める。セリカは息を切らせ、疲れた表情をする。
「じゃあ、しばらく自分で魔力を身体の中で循環させてみろ。それが出来たら次の工程に移る」
息を切らせながらセリカは数度頷く。自分の知らない力が身体の中へ流れ込んできたため、眠っていた力が呼び起こされ、身体に負荷がかかってしまったのだろう。
しかし、そんな事に構っているほど暇ではないため、スマホを見ながら次の工程を調べて頭にたたき込む。だが、魔法というのはセンスによって使用出来ない者もいるらしい。
魔力を身体に流した際、魔力を感じ取れない人は、魔法のセンスが無いと言うことで、魔法を使うことができないと言うことだ。
神殿の修道女は、大事なことを教えないで金だけ持って行きやがった。その事をいつか後悔させてやる事を深く胸に刻んだ。




