103話 討伐
洞窟だった場所を掘り起こしていくと、崩れた衝撃で圧死している魔物の群れがどんどん出てくる。
アオと二人で回収しながら掘り起こしていくと、かなり深いところでお宝箱を発見でき、アオと共にワクワクしながら箱を開けてみると、箱一杯に詰まったお金が入っており、ホクホクな気分になりながら、更に奥へと掘り続けていく。
その様な作業を一晩かけて行っていくと、ようやく終着点へと辿り着いたのか、とてつもなく大きなゴブリンの死骸が現れ、スマホの中へ収納する。
収納されたゴブリンの名前を調べて見ると、『ゴブリンキング』と、表示されており、この現況を作り出したのはゴブリンキングだという事が分かった。
「やっぱりか」
俺がそう呟くと、アオがスマホを覗き込んできて、同じような反応をした。
コースはテントの中で休んでいるため、俺たち二人がこの原因について解決したことは知らない。
テントで眠っているコースをアオが優しく抱えだし、俺がテントを片付けてスマホの中へと仕舞い、廃村まで戻っていく。
コースが目を覚ましたのは馬車で、アオが御者を行っており、俺は荷台の中でスマホを弄りながらコースが起きるのを待っていた。
「よお、ようやく目が覚めたようだな」
「えっと、あれから何が……」
コースは何が起きていたのか確認したくてたまらそうに聞いてきた。
「簡単に言うと、全てが終わったと言った方が早いのかな?」
全てが終わったという言葉の意味を、コースは理解出来ておらず、食い入るように「どういう意味ですか!」と、聞いてきた。
言葉通りの意味なのだが、眠っていたコースはまだ頭が回転できていないのだろうと思い、最初の方から説明を始める。
すると、徐々に何があったのか思いだしてきたのか、コースはあり得ない出来事だったことに気が付いて頬をヒクつかせ始めた。
そりゃそうだろうなと、思いながら元凶がゴブリンキングだった辺りまで説明すると、コースは小さい声で「本当にゴブリンキングだったんですか……」と、呟いた。
「間違いない。死骸も確認したし、回収もした。後はギルドの方でどうにかしてもらわなきゃならんだろうな」
そう言うと、コースは目線を下に降ろし、「今までのことは何だったのでしょうか……」と、聞いてきた。
「お前が言う今までって、何処までを言っているのか判らん。なので、お前が望む答えを言える訳がない。そんなのは、町に戻ってからギルドマスターにでも質問すれば良いだろ。俺たちには関係の無い話だ」
突き放すように言うと、コースは黙ったまま俯いてしまう。
「だけど、一つだけ言えるとしたら、お前は呪われた奴ではなかったってことじゃないか?」
「え?」
最後の言葉にコースは驚いた顔をしてこちらを見るが、「それは自分で考えれば分かるだろ」と、再び突き放すかのような台詞を言って、横になった。
それからコースがどう考えたのかは知らないが、町に着く頃には晴れやかな表情になっていたのは確かであり、何かしらの希望を手に入れたのかも知れない。
ゴブリンキングを倒してから数日が経ち、俺たちはようやく町へと戻ってきた。
衛兵は驚いた顔をして俺たちを町の中へと入れ、その足でギルドのある建物へ向かう。
ギルドの扉を開くと、いつものように喧騒としており、俺たちはその間を通っていくと、騒がしかったギルドホールは静まりかえっていき、今度はヒソヒソと噂話をするかのような会話が聞こえて来た。
しかし、その様な事は俺たちに関係がないため、黙って奥へと入って行き、受け付けに事情を説明すると、受け付けの男性は驚いた声を上げた。
それもそのはず、呪われた町と言われた場所から戻ってきただけではなく、元凶を退治して解決までしてしまったのだ。
これを驚かない者はいないはずである。
「じゃあ、ゴブリンキングの死骸を出せばこの依頼は完了で良いんだよな? かなり大きいから場所を移した方が良いと思うが、どうする?」
どうすると言われても困ってしまう受け付けの男性は、「しょ、少々お待ち頂けますか!」と、慌てて裏口の方へと向かって行き、俺たちは暫くの間、周囲の注目を集めながら待っていると、先ほどの受け付けの男性が戻ってきて、別室に案内された。
別室にはギルドマスターのゾレットが居り、先日であったときのような顔で出迎える。
「どうも、ギルドマスターさん」
少し嫌みが混ざったような言い方をして、用意された椅子に腰掛けた。
「村の調査をするだけではなく、元凶も調べてきたらしいって話を聞いたけど、本当かい?」
微笑みを絶やさない顔をしてゾレットが聞いてくる。
「嘘だと思うのなら、この場でゴブリンキングの死骸を出しても構わないけど? どうする?」
相手の態度に少し苛立ちを憶えながら言い返すと、ゾレットは首を左右に振って、断るような素振りを見せる。
「あと、討伐したときにかかった初期費用と、成功報酬も貰いたいんだけど、それは可能か?」
「もちろん。あとでゴブリンキングの死骸を見せてもらってから、それに見合った報酬を出させてもらうよ」
余裕ぶった態度が気に入らないが、こちらとしては六連装式グレネードランチャーの購入金額である5万Gを支払ってもらうのと、弾代を支払ってもらえれば助かるし、ゴブリンキングが率いていた魔物などの死骸も引き取ってもらえるのであれば、相当な金額になるだろうと思いながら席を立とうとし、言い忘れたことを思い出してゾレットの方へ向き直る。
「忘れていたけど、船の用意も忘れないで行ってくれよ」
そう言い残してギルドマスターがいる部屋を後にして、換金を行うことになったのである。
魔物や猛獣の数が多くて換金にはそれなりの時間が掛かるらしく、今日中にはお金の準備は難しいとギルドの方から言われてしまい、俺たちは取り敢えず腹ごしらえを行うのと、今日の寝床を確保しに宿屋へと向かった。
コースも当たり前のようについてきているが、宿屋に着いたら今後について話をすることにして、先ずは腹ごしらえをすることにしたのだった。
食事を簡単に済ませ、宿屋にて部屋を二部屋借りると、コースを自分たちの部屋へと呼び、今後について話し合うことにした。
「俺たちはとてつもなく面倒な仕事を受け持っていることは理解しているよな?」
椅子に腰掛けているコースに言うと、コースは少し緊張したような素振りで頷く。
「それで、今後についてだけど、俺たちは船で別の大陸へ行かなければならなくて、君との旅はここで終わりとさせてもらいたいんだ」
そう言うと、コースは俯いてしまい、口をつぐんでしまった。
「あの村での出来事は、君にとってもとてつもない経験になったと思うし、それなりに仕事を熟していけるのではないかと思う。それに、君のことを呪われた少女と呼ぶ奴はいないんじゃないか?」
呪われた少女と言われ、コースは顔を上げる。
「村の出来事については既にギルドに報告してあり、事件も解決してある。元凶はゴブリンキングだったので、あの惨劇は仕方がないだろうという話になる」
「だからって……」
その続きは言葉に出ないらしく、コースは目に涙を溜めながらこちらを見つめる。
「報酬が入ったら、君にはちゃんと支払うし、ギルドで多少修練をすることによって、今よりも武器を扱うことが出来るはずだ。アシスターとして修練を積むのも良いし、どこかの店で働くのも良い。これから先は、君が選んで決めるんだ」
一緒に旅に行こうとは言わない。
自分たちの受け持っている依頼は、かなり遠くへ行かなければならないし、この先何が起きるのかも分からないため、一緒に連れて行く事なんて出来るはずがないのである。
目に溜まった涙は零れ始め、コースは「分かりました」と、泣きながら言い、俺たちのパーティは解散することとなった。
コースは自分の部屋へと戻り、俺とアオは、今後について話し合う。
「さて、ようやく船で移動することができるな」
「そうですね、思った以上に厄介な出来事に巻き込まれてしまいましたし、時間もとられてしまいました」
アオは小さく溜め息を吐きながら言い、船旅について思いを張り巡らせる。
「取り敢えず、魔物が出るらしいから注意しなければならないのと、他の大陸がどうなっているのか調べておく必要があるな」
「そうですね。今回のように、ゴブリンキングなどが町を襲っている可能性も考慮しなければなりませんし、道中、何が起きるのかも分かりませんから、注意をしておかなければなりませんね」
「そういうことだ。今回の出来事は、大変申し訳ないと思うが、彼女にとって最悪の出来事だったかも知れない。だけど、俺たちにとっては良い経験となったし有力な情報も手に入った」
「情報……ですか?」
「あぁ……。ゴブリンキングなどの魔物が村を襲っているって言う情報は、スマホでは分からなかったからな。それが分かっただけでも良しとしておかなければいけないだろう」
その事に対し、アオは「そうですね」と、呟き、天井を見つめ、今回の出来事を振り返るように目を瞑るのであった。
翌日、俺たちはギルドへ向かうと、昨日とは違った喧騒としており、まるで自分たちがゴブリンキングをやっつけたかのような空気に包まれていた。
しかし、俺とアオにとってはその様な事はどうでも良い話であって、本当に船を用意してくれるのかが心配であった。
受け付けの男性にはなしをして、沢山の報酬を受け取ると、見ず知らずの冒険者たちが俺たちに絡んできたので、アオが追い払ったのは言うまでも無い話であり、分け前をコースに渡すと、コースはその額に驚いた顔をしていた。
「あれだけのことをやったのだから、当たり前の話だろ? お前は呪われた村から二度も生還した冒険者なんだし、その元凶であったゴブリンキングも仕留めているんだ。自信を持って良いと思うぞ」
実際のところ、元凶を仕留めたのは俺であるが、彼女が自信を持って活動できるのであれば、手柄を独り占めになんてする必要も無い。
彼女は今まで、辛い思いをして生活してきたのだから、これくらいの思いはしても良いだろう。
コースは震えながら報酬を手にして、俺たち二人に何度もお礼を言うのだった。




