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スマホチートで異世界を生きる  作者: マルチなロビー
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1話 プロローグ 自転車に轢かれました

 皆は一度くらい思ったことはないだろうか。

 ゲームのような別の世界へ行って、女の子にチヤホヤされたり、チート能力で悪い奴らを退治したりする順風満帆な生活を送ってみたいと……。

 だが、現実はそう簡単なものではない。

 いつだって現実は非情であり、無情で情け容赦が無いものである。

 そして、人は二種類に分類されている。

 それは、人生の勝ち組と負け組……この2つだ。

 俺はどちらかというと、負け組の部類になるのではないだろうか。

 眼付が悪く、ヤンキーに絡まれることは数えきれないほどあり、生まれてこの方、彼女という物が出来たことが無い。

 ベリーハードな人生ゲーム。

 一体どのくらいの人が、このベリーハードなゲームをクリア出来たというのか教えてもらいたいものだ。


 俺の名前は石橋(いしばし)亮太りょうた

 この春、大学を卒業したばかり。

 大学二年の頃から幾つもの面接を受け、その度に桜が散る手紙を受け取って落ち込む日々を過ごしていた。

 最終的に内定を貰う事ができずに卒業式を迎え、俺は就職難民となってしまった。

 それからは駅に置かれている就職雑誌や、コンビニで売っている就職雑誌を購入したり、ハロワで手あたり次第、求人募集に履歴書を送ったりする日々を過ごす羽目となった。


 そして、今日もいつものようにハロワへ向かい、パソコンの前で仕事を探していたのだが、自分に見合った仕事が見つからずに肩を落として家路につく。

 すると突如、スマホに夢中になって前方を確認していなかった自転車が、ノーブレーキで俺の背中へ突っ込み、油断していた俺は後ろから突き飛ばされるかのように、前方へ吹っ飛ばされ、電信柱に思いっきり打つかって倒れ込む。

 普通であれば自転車に乗っていた奴は俺の側へやってきて、怪我がないか確認をするはずなのだが、自転車に乗っていた奴は、悪びれた様子もなく自転車を起こしそのまま走り去ってしまう。

 そう、俺は自転車に当て逃げされてしまったのだった。


「いてて……。最近の自転車に乗っている奴はマナーが悪いな……」


 頭から電信柱へ突っ込んだため、一瞬気絶をしてしまったらしく、身体を起こすのに少しだけ時間が掛かってしまい、打つけてしまった頭を摩りながら起き上がり、身体に付いた砂などを叩くと、ポケットに仕舞っていたスマホが無いことに気が付き、慌てて周りを見渡す。

 打つかった衝撃でスマホはポケットから飛び出しってしまったらしく地面に転がっており、俺は転がったスマホを拾い上げ、液晶画面を見て泣きたい気分になってしまう。

 スマホには一応保護フイルムを付けていたのだが、打つかった衝撃が強すぎたらしく、地面に落ちた衝撃で保護フイルムごとスマホの液晶も割れてしまっていた。

 何年も使用していた事もあり、液晶が割れてしまったスマホには愛着もあった。最新機種に後ろ髪を引かれることがあったが、機種変更はせずに使い続けていた俺のスマホ……。

 項垂れ肩を落とし、踏んだり蹴ったりな人生を嘆きながら機種変更を行うため、近場の携帯ショップへ向かう事にした。

 一番近い携帯ショップは駅にある。

 深い溜め息を吐きつつ仕方なく駅へ向かうことにしたのだが、空き店舗だった場所に携帯ショップができており、いちいち駅へ行く必要が無くなって少しだけホッと息を撫で降ろす。


「こんな場所に携帯ショップが出来たんだぁ……。いつも通っている道だけど気が付かなかったなぁ。まぁいいや、駅前まで行くのは面倒だし、ここで機種変更をするか」


 そう呟き、俺は店内に入っていく。

 店内には客が誰もおらず、ラッキーだと思いながら展示されているスマホを手に取り、感触や動きを確かめる。最近のスマホは色々な機能が付いていて、どの機種にしようか目移りしてしまう。

 暫くの間、どの機種にしようかと悩んでいると、店員の男性が話しかけてきた。


「お客様、随分とお悩みのようですね?」


 店員に話しかけられるというのは嫌なものである。

 服を観に行くと、勝手におすすめ商品だと言って、ゴリ押ししてくる事があるからだ。しかもセンスを疑う物を押し付けてくる。

 だが、この現状を打破するのにはちょうど良いのかもしれない。

 目移りばかりして決めきれなかったのだから、ここは一つアドバイスを貰う事に決めた。


「こうも沢山あると、どれにしたら良いのか分からないんスよねぇ……」


「確かに。最近のスマホはどれも似たような機種ばかりで、機能も似ていますからね」


 店員も笑いながら言う。昔は機種によって使い勝手が異なるのだが、最近のスマホは困らないように使い方は殆ど同じである。

 違うところはRAM等のスペックくらいではではないだろうか。


「お客様、これなんか如何です? こちらは最新機種となっておりまして……」


 店員が見せてきたスマホだが、店内の何処にも展示されていない代物……。

 それに、通常であればSO×YやPa×as×nicなどの名が書かれているのだが、このスマホにはどこにも書かれていない、怪しい機種だった。


「それ……何処のメーカーの機種ッスか?」


「こちらは本日発売となった新機種となります! メーカーは『アドベンチャー』と言う会社になります。この会社は先日、携帯産業に参入されたばかりになります。しかも、数量限定でしか販売せず、価格は……なんと8,000円!! お財布にも優しい値段です。使い方は他のスマートフォンと同じですし、使い勝手は変わらない。そして、当店での在庫は一個しか無いので、それを逃したら終わりです!」


 そう言われてしまうと購入したくなるのが人の心情である。

 さらに数量限定で、物がクソ安い。俺は取り敢えず話を聞く事にしてカウンター席に座ることになった。


「パンフレットとか、あるんですか?」


「こちらになります」


 渡されたパンフレットを手に取り、ページを捲ってスペックを確認する。俺は3G以下のRAMは使いたくない。

 今まで使用していたスマホのRAMは2Gで、ゲーム等のアプリをインストールすると、動作が悪くなってしまい、暫くやっていると強制終了されてしまう。だからRAMだけは妥協したくなかった。

 従って最初に確認をするところはスマホのスペックになる。


「おっ? RAMが16Gってありえなくないですか? ゲーム会社のパソコン並みっスよ……安い奴なんか目じゃないレベルじゃないですか……」


「だから言っているじゃないですか……これは本日発売された、最新機種! これしかそのスペックは有りませんよ」


 胡散臭い話だが、素敵なスペックだ。だが、電池はどのくらい長持ちするのか気になる。パンプレットを見て、電池の消耗量を確認するのだが、今までは考えらえないことが記載されていた。


「光吸収電池? なんだよ……この電池は……」


「新機種に搭載されているのは光吸収電池! リチウム電源なんて既に古いんです!! 時代遅れ! 今はエコの時代ですよ! もし、災害で使用できなくなったらどうするんですか? 誰にも連絡することができませんよ? この光吸収電池は、光がある場所ならどこでも充電することが可能なんです。最近の開発された技術なんです。技術の進歩は凄いですよね!」


 言われている事は理解できるのだが、何故だか信用することができない。光吸収電池なんて聞いた事は無い。俺はこの店員を疑いの目で見つめる。


「さらにこのスマホの凄いところは、各キャリアのWi-Fiにも接続可能なので通信に困ることは有りません! どうです! 如何ですか?」


 物凄く胡散臭い。その言葉しか思いつかない……。

 暫く悩んでいると、隣の店員が俺を担当している店員に声をかけて、何か耳打ちをしてこちらを見てから自分の持ち場へ戻っていく。


「お客様……まことに申し訳ありません。他のお客様がこの商品を見たいと仰有りまして……」


 え? 先ほど店内を見たときは客など何処にもいなかったのに、今は人で溢れかえっている状態であった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 本当にこの金額なら購入するよ! だから……」


「え? あ、はい……少々お待ちいただけますか……」


 隣の店員に耳打ちして俺のほうに向きなおり、笑顔で答える。


「では、こちらの用紙にお名前を記入していただいても宜しいですか?」


 隣のやつが先に購入する前に書類を書いてしまえば良いと思い、何も確認せずに名前を記載して店員に渡す。

 店員は書類をスキャナで取り込み、原本をファイルに挟んで席を立つ。


「ただいま機器を持ってまいりますので、少しお待ち頂けますか?」


 柔らかい笑顔で言ってから奥へと消えていく店員。

 俺はホッとして周りを見渡すと、先ほどまで溢れかえっていた客の姿はなくなっており、俺は狐にでも化かされた気分になる。


 客は俺一人となっており、先ほどまでの騒がしさが嘘のように静まり返っている店内。

 いったい何が起きているのか理解できずに辺りを見渡していると、スマートフォンを持ってきた店員は椅子に座り、一緒にスマホの確認を始める。


「これって……防水機能や防塵機能はどうなんですか?」


「もちろんございますよ。水深30メートルまで対応しております。フィルムはポイントから使用しても宜しいですか?」


「は、はぁ……」


 曖昧な返事をする俺だが、店員はガラスフィルムのような物を持ってきてフイルムの箱を開けてスマホにフイルムを貼り始める。

 何気なくフイルムの箱を見ると、G対応と書いており、どういう事なのかと俺は思いながら首を傾げ、再び店員の方に向き直りフイルム張りに手こずっている店員を見て微笑ましく感じた。


「故障した際は、アドベンチャーの方で無償交換致しますのでご安心下さい。それではいってらっしゃいませ(・・・・・・・・・・)


 おいおい「無償交換て……」と、スマホを手に取り、言いかける。

 すると、急に目眩がして意識が遠のいていくのを感じ、気が付いた時は見慣れない花が咲いた花畑が広がっていた。ここは一体何処なだろうか……周りを見渡すのだが、人がいる気配はない。

 取り敢えず何が起きたのかだけを考える事にした。


 だが、考えても何もわかる事はなく、途方に暮れる。


「ここは一体何処なんだよ……」


 身の回りに何か無いのか確認すると、インチキ臭いスマホが俺の手元に有る。


「なんなんだよ……。このスマホ……まさか……あのスマホか?」


 何か情報が手に入るのかと思い、俺はスマホの電源を入れる。すると、画面が立ち上がり「ようこそ」の文字が浮かび上がって、初期情報を入れてくれと文字が浮かび上がる。

 俺は個人情報を入力して、初期設定を登録していく。暫く進むと、「データを確認しています」という画面が現れ、少しだけ状況打破の希望を抱く……。


 だが、データ情報確認終了の画面が表示されると、幾つかのアプリだけがあり、以前登録してあったデータは全部消えていた。


「う、嘘だろ……な、なんだよ……これ……」


 途方にく、その場に座り込み茫然としていると、突如着信が入り、驚いて体を飛び跳ねさせた。


「ち、着信? だ、誰からだ……」


 画面を見るが「非通知」と書かれており、出るのに一瞬躊躇うのだが、このままだとどうしようも無いので電話に出ることにした。


「も、もしもし……」


「あ、石橋さんですか? ショップの小林です。先程はどうも~」


「あ、あんた! 一体どこに居るんだ! ここは何処なんだよ!」


 電話に出た相手はショップの店員らしく、俺は慌てて状況を確認する。


『落ち着いて下さい。真に言い難のですが……実は、石橋さんは自転車に轢かれた時、お亡くなりになったんです』


「は?」


 何を言っているのだ? コイツは……。


『我々としてもイレギュラーでしたので救済措置を取らせて頂こうと思いまして……』


「いやいやいやいや……ちょっと待って、意味が理解できない。だって俺は携帯ショップへ機種変更をしに……」


 慌てる俺は、目の前に誰がいるでも無いのに手を振り、小林という男が言っている言葉の意味を理解できず苦しんでいた。


『はい、あれは霊体でございます。石橋さんが普通の携帯を選んでいたらあの世行き。今使っている携帯を選んだら救済措置を取ることになっておりまして……。いや~石橋さんなら選んでくれるかと思ってましたよ』


 電話の向こうで笑いながら言うショップ店員の小林。

 俺は何も答える事が出来ず、ただ茫然としているだけであった。

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