同志ジルイドと同志ユリアの軍服コスプレでおくるなりきり尋問 前編
翌朝、じっちゃんからユリアについて聞かされた俺は、ユリアをどうしたものかと悩んでいたが、妹たちが死ななければ裏切ることはまずないだろう、
と考えるのを飽きたために一旦やめて、ひとまず軍人コスプレをさせることにしてみた。
カッカッカッと音を立てながら歩くため、すぐにユリアが来たことがわかる。
「お早うございます、ジルイド様!
……!!
お、おお楽しみ中に失礼しましたぁー!!」
勢いよくドアを開け、夜が怖いなどと適当なことを言って相変わらずスザンナと一緒に寝ていた俺を見てあわてて部屋から出ていこうとする。
「待て待て、お楽しみ中でもないし始まってもいない」
「そ、そうでありましたか、失礼しました」
顔を少し上げて直立不動で待機する様は軍人のそれだ。
「……それよりどうしてスカートではなくズボン姿なのかな?」
「はっ!本日よりジルイド様の乗馬訓練の予定と聞いたためであります!
それと自分の持つ服はメイド服のみであります!」
昨日ユリアのことを聞かされた猜疑心の強い身としては、どうしても俺がそのまま馬で誘拐されるなんてことを想像してしまうんだが……
「実は、未だ自分用の乗馬用の服を用意していなくてね、用意できてからにしたいんだ」
嘘である。とっくに済ませて後ろの衣装棚の中で使われずに眠っている。
「ついでだから、その上半身がメイド服で下半身が乗馬用のズボンという格好は、何かと不便だろう。
せっかくだから君用の服をキルロスじいじに頼もうじゃないか」
「よ、よろしいのですか?」
「女性を美しくさせるのは主人の務めだからね。
それができるまで長旅の疲れもあるだろう、ゆっくり休むといい」
「あ、ああ、ありがとうございます!では失礼します!」
胡散臭い美辞麗句と気遣いで体よくユリアを追い払い、スザンナと一緒に二度寝することにした。
遅い昼食を済ませ、じっちゃんにユリアの新しい服をねだりに行く。
「なるほど、道理でユリアがしまらない顔でずっと思い出し笑いしとったわけじゃわい。すぐに手懐けるとは奴隷の扱いが上手いのォ」
ただのコスプレのためと追っ払うためだったんだけどな。
先程の素直すぎるウブな反応といい、ユリアはやっぱりちょろいんじゃないか。
「それで、服についてなんだけどこんな感じで……」
「ふむ、これまた新しい恰好の服装じゃのう、面白そうじゃ」
夕食時には、珍しくファルペが顔を出したため、あーんはお預けとなってしまった。
ユリアも何気にしれっと加わっている。
どうやらユリアも一緒に食べることになったようだ。
今度はズボンではなく足まで届く長いスカートをはいている。
短いスカートでないことも残念なのだが、夕食の献立もまた残念で、
質素な食事を好むファルペに合わせ、ゆでたジャガイモに、サラダ、瓶に酢漬けされた魚という、なんだか貧しい北欧の食事のような、食べた気にならないような、そんな残念な夕食である。
そんな物足りない食事を唯一美味しそうに食べるユリアの姿がこの場の助けとなっている。
きっとこれよりひどい食事を牢屋で味わっていたのだろう。
そんなことを黙考していると、どうやらファルペも提案した軍服に興味を示したようだった。これは一儲けできるかもしれないなーーー。
頼んだ服ができるまでの2日間で、スザンナが長さがばらばらのぼさっとしたユリアの髪を均一に整えた以外にはいつも通りの、だらだらとした生活を送ることになった。
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3日目、ようやく服が届いたので、さっそくユリアにも彼女用の軍服を着るようにと告げ、自分用の軍服の出来もを確かめることにした。
まずは自分用に届いた軍服のうちの数着は、ユリアと同じデザインではないので、それぞれ試着してみる。
まず1着目で、ヘタリアなどという悲しい風評被害を受けている某半島国の、二次大戦時での淡い水色をした将校服を着て、さすが某半島国、おしゃれな国だと満足したものの、
2着目の服を見て、今日のイベントにはこの服がぴったりだったので、それに着替え、部屋で待つことにした。
その後、いかにもな机の奥で椅子にいかにもな姿勢で座り、雰囲気づくりに煙草でも吸いたいなどと思っていたら、カッカッカッといつも通りの響きを奏でながら登場したユリアに、思わず背筋が伸びてしまう。
最初の服は、イタリア国家警察カラビニエリを連想させる騎兵将校風の軍服である。
全体的に黒をベースとして、白のサムブラウンベルトと黒のベルトを装着、黒色のズボンには赤い横ラインがはいっている。
なお、上着はワイシャツとネクタイが不要なように襟元までボタンがある。
ただでさえ恰好いい服の上に、赤と黒で組み合わせたマントを羽織うスタイルである。
さすがはヨーロッパでもぶっちぎりで群を抜いているイタリア芸術。
PIGSなどという一時の不名誉な経済的称号など気にすることなく、今後もその圧倒的な芸術的センスでヨーロッパの芸術を牽引し邁進して欲しいものだ。
偉大なるイタリア芸術とその精神に栄光あれ!
そんなかっこいい服を、黙っていれば気品あふれるクールビューティーユリアが格好良く着こなしているのだから、いるだけでその場を圧倒するだろう。
衣装に着られているということなどなく、むしろ衣装が着る人間を選んだのだとでもいうような風貌は、まさしく男装の麗人である。
さらに胸も年齢の割には随分豊かに育っていることがわかり、ベルトで体の線がくっきりわかるためにけっこうセクシーだ。
この軍服は俺用もあって、今後乗馬用や外出用として着る予定だ。
「い、いかがでしょうか……」
「うん、ユリアの良さを見せるだけでなく引き立たてもしている」
いろんな意味で。
「良く似合っているよ。次の試着も見てみたい」
そう言われてユリアはどかどかどかと音を立てながらダッシュで着替えに行き、またすぐに戻ってきた。
なんだか誠実な副官というより、命令に忠実な犬みたいだな。
「し、失礼します」
再び現れたユリアの姿に目を見張り、正直桃色に滾ってしまった。
ユリアの着ている2着目の服は、かの崩壊した赤い帝国における大祖国戦争時代の女性兵士の服を模した軍服である。
緑系のカーキ色をベースとした上着は、肩から斜めにかける斜革をつなげた濃い茶色のサムブラウンベルトによりちょうどお腹の辺りできつくしめられ、
さらにズボンは脚幅をかなりほそくデザインされており、
加えてマントがないため、最初のカラビニエリ風軍服よりも一層ユリアの体のラインはかなり強調されて浮き出た姿となった。
これは主に室内用にするつもりだが、ゆったりとした足元まで伸びるドレスが主流の世界において、これも1着目と同様にかなり強烈なインパクトを与えることになるだろう。
軍服姿のユリアは仕事のできる冷静沈着頭脳明瞭な有能な副官という言葉が実にぴったりだ。
赤い帝国の"剣と盾"であった内部人民委員部、通称NKVDの制服を着た俺は、立ち上がってゆっくりとユリアのもとへと歩む。
さあ、本日のメインディッシュ、ユリアに対するNKVDなり切り尋問を始めよう。
北欧の食文化の貧相さといったら・・・ (´;ω;`)