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褒美奴隷というやっかいな現物支給

 

 美味い飯で満腹感に満たされ、目の前でウォッカをふぃ~とか言いながら、いい飲みっぷりを見せられるのはある種の拷問のようにすら思える。


 要するに、食後の酒を飲みたいわけだが、アルバーレスには飲酒許可年齢があり、その壁を未だ超えられずにいる。


 しかもなんだかちょっと重そうな話なので余計に飲みたい。


「以前ジルイドからの、塩や胡椒の販売を増やすための助言が役に立ったんじゃ」


 そう言われて、そんなこともあったなあとその助言を振り返る。


 王国では、胡椒や塩が専売制となっている。

 例え自治領であっても、専売制の対象商品を製造することはできない。

 

 アルバーレスには王国直轄の塩田があり、時々製造者とファルペが話し合う際に毎度話題にのぼるようで、どうやら王国は収入増加のために必死なようだ。

 ちなみに、専売制を行っている国は以前の現代世界にも存在しており、例えば、フィンランドはアルコールが専売制の対象である。


 毎回小言を聞かされるのが嫌になったのだろうか、ファルペが珍しい食事時に珍しくその愚痴を言い出したのだった。

 王国の収入が増えないと、自治領への貢納や、自主的献納の要求がそのうち増大するだろう、

 つまり、そのうち増税止むなしになってしまいそうであると。


 そんな時に俺はふととある話を思い出し、塩や胡椒のふたの穴や、あけ口を大きくすればいいと口をこぼしたのだった。


 とある話とは、もともとある調味料会社のふたの穴を大きくしたら、売上が伸びたという話である。

だが、その話は都市伝説で、実際は湿気による詰まりを避けるために穴を大きくしたらしい。


 なので、塩胡椒の容器で同じように応用したら売上が伸びるかは未知数だったが、どうせならと話しておいたのだ。


 その後、ファルペがそのことを軽めに助言を行ったところ、王国側が提案を実行したらしい。

 なお、収入は増えたようだが、微増なのかそこそこ増えたのかはファルペも知らないとのことである。


「実はわしは最近時々贅沢するためにはファルペの仕事を手伝わなきゃいけなくなってしまってのォ。

 わし主導で、アルバーレスの未開拓森林を開発するために、南方開拓団を結成しようとしたんじゃが、思うように人が集まらなかったんじゃ」


 じーちゃん主導の開拓団って、どこかの国策詐欺開拓団みたいだもんな。


「で、開拓団用にと、王国からその褒美として、処刑か重罰を待つ連座した犯罪者達の近親縁者達が送られてきてのう。

 引き取るなら奴隷として、引き受けなかったらほとんど処刑されるわけじゃ。


 わしは危険分子を領内に入れるのに渋ったんじゃが、ファルペは信仰からくる慈愛の精神で受け入れようとしたようじゃ。

 肝心なところで甘いのォ、あやつは」


 褒美として、土地でも金でもなくて、犯罪者の家族を奴隷にして送ってくるような王国もどうなんだ、そんなに財政がどっかの彫刻の国みたいにやばいのだろうか。


「せっかくなら金か財宝がよかったなあ」


「ふぉっふぉっふぉ、確かにのォ。じゃが、奴隷は1人50フィロリーナするからのォ。

 40人ばかし送ってきたから、案外悪くはないんじゃ。


 まあ、王国からしたら、厄介ものを押し付けて懐傷めず、わしらが引き取れば心傷めず、と言ったところかのォ」


 1フィロリーナは10万円くらいだから500万か……って、500万??

 高級車1台分くらいするのかよ奴隷って…


 …いやまて、人だからそりゃあそうだわな、むしろ安いよな、うん。

 きっと感覚が麻痺してきてるんだろう。

 

 つまり、王国から2億円分の褒美をもらえたようなものか。

 そう考えると案外悪くない。


「それじゃあ、全員貰って、転売すればいいのでは?」


 スッとでてきた言葉にキルロスが驚き、そんな事を口に出したことに俺も驚く。


「ジルイドもなかなかストイックになってきたのォ。

 ただあやつらはもう左腕に犯罪者の連座した近親縁者を示す紋様がいれられとるから、

なかなか勝手に流通させることはできないんじゃ。

 じゃからわしらで何かやらかさないように管理するしかないわけじゃ」


 勝手に流通させるのができないって、それ売れないってことじゃねーか!

 

 ただ、連座だからほとんど冤罪みたいなものだろうが、中には暗殺者の一味だったなんて可能性も捨てきれないという事か。


「そんなもんで、とりあえず一通りもともとの犯罪者達の罪状を聞いたらのォ。

痴情のもつれによる殺人だとか、

理不尽な上官からの命令不服従による軍規違反だとか、

貴族や大商人の奥方を寝取っただとか、

しょうもないのがほとんどでのォ。


 国家転覆罪のような重犯罪じゃったら絶対に連座した家族達も引き受けないんじゃが、そのあたりならいいかという話になったんじゃ」


 そりゃ王国もそんな理由で連座した家族まで重罪なり処刑なりするのは気が引けるわな。

 おおかた、一方の当事者のお偉いさん方の私怨で、一族郎党重罰に処せよと主張して、困った王国がまとめてアルバーレスに引き払おうとしたのだろう。


「なんだか派閥争いや権力闘争に巻き込まれた人たちもいそうですね」


「3家族10人くらいはそんなもんじゃぞ。

 勝ち組派閥一辺倒になるのを嫌がる王国の手引きにより、彼らは連れてこられたというのもある。

 これはわしももともと了承しとったんじゃがのォ」


 ……うわぁ、この上なく面倒臭そう。

 勝ち組派閥から目の敵にされたらシャレにならないのでは。


「じゃから、その10人はとりあえず形式的に引き取ってしばらく客人扱いじゃ。

 紋様はいれられとるが、大変残念なことに奴隷扱いにするわけにいかんから、

おそらく自由農民の地位を与えることになるじゃろう。


 今回の勝ち組派閥側も、それが王国の意思表示だということをくみ取ってそれ以上の事はできんじゃろうな。

 それを無視して最悪反逆になりかねんリスクは彼らもとらん」


 忖度きましたー!この世界でもとても大事なんですね。今日は大切なことを学んだよ。


「つまり、褒美という名目での保護を依頼されたと?」


「半分はそんなもんじゃな。

 残りの囚人たちは、その依頼の迷惑料分という意味合いが強いじゃろう」


 迷惑料まで現物支給かよ!


 王国は、客人を除いた30人の奴隷達で1億5千万円分の支給と同等の支払いをしたつもりなんだろうが、彼らは売れないから価値はゼロ、つまり無報酬なんて見方もできるぞ。


 なんだか本当に俺の助言で王国の収入が増えたかどうかすら怪しいな。


「ここで問題になったのはユリア一家じゃ。

 もともとユリアの祖母は緊張緩和時期の友好ムードのために、王国の人間と結婚したんじゃ。

 まあ、その友好ムードは一瞬で終わったんじゃが。


 そんなわけで、帝国語を操るユリア一家は、王国が集めた帝国の資料を翻訳したり分析したりする高級官僚貴族だったそうな」


 これはつまり、王国には諜報機関みたいな組織がすでにあるということか。

 


 王国と帝国の関係って、何度も小競り合いをした後、現状は冷戦状態が継続中で、貿易も行われていないんだよな。


 たしか領事館すらも双方の領地になくて、両国がそれぞれ正式に友好条約と通商条約を締結している中立国のワ―トスリデルン皇国にのみあったはずだ。

 そこで双方の駐ワ―トスリデルン皇国領事館員が、基本なんらかの接触なり会合なり交渉なりをしているらしい。


 しかもその領事館員とか使節団等以外の帝国人の入国すらも王国は認めていないし、これは帝国も同様だ。

 情報流出やら宣伝戦やらに対する防諜目的とか文化侵略阻止のためだろう。


 そんな王国と帝国との間に、一時的にせよ、緊張緩和の時期があったのか。



「ただのう、どうやら帝国のスパイがユリアの母親を寝取ったらしくての、

ユリアの母親が情報漏えいに加担したそうじゃ。

 ユリアの母親はもちろん重要機密漏えい罪と対帝重度協力罪で処刑されることになったんじゃ。


 ただ、気の毒なのはユリアの父親でな、情報も妻も取られてしまった上に、情報監督責任が問われてのォ。

 内部の風紀と情報管理を厳しくするための見せしめも兼ねて、資産没収の上重罪で投獄されることになったんじゃ。


 命まで取られんかったのは、これまでの働きと、妻を寝取られた男へのせめてもの哀れみじゃろう。

 帝国語を操る王国人は少ないし、扱ってた職務内容が専門的じゃったから、牢屋の中で翻訳仕事を延々とさせることになったんじゃ」


「なんだかファルペ父上の姿に似てますね」


「ふぉっふぉ、そうじゃのう。じゃが、ユリアの父親の待遇は無に等しいがのう。

 そこで、判断に困ったのがユリアと妹たちをどうするかじゃ。


 普通なら容疑に加担してるかもしれんし、連帯責任で処刑なんじゃが、

 父親が処刑にならず重罪で投獄されるのに、娘達を処刑するのかというので揉めたようでのォ。

 で、最終的な判断をわしらに丸投げしてきたというわけじゃな」


 要するにどうするかを判断した責任を取りたくないし、処刑した場合の不評を王族が被るのはごめんだと。

 アルバーレスの判断に任せたのだから、たとえ処刑することになってもそちらに今後は文句をいえと。


「アルバーレスは厄介事処理場ですね」


「上手いこと言うのォ、ま、自治領の地位などそんなもんじゃ。

 それでどうしようかと迷っとったんじゃが、ちょうどジルイドの教育のために帝国語を話せる教育係を探しとったのを思い出してのォ。


 帝国語を話せる奴隷は希少価値があるから値段が高いし、ファルペは奴隷購入自体になかなか了承せんかったんじゃが、

 ユリアはそこそこいい家じゃったから乗馬もできるし、

 こりゃちょうどタイミングよくただで手に入ると思ったんじゃ。


 その時ユリアがわしに『私はどうなってもいいから妹たちの命だけは助けてほしい!』と言い出してのォ。

 じゃからわしゃユリアに言ったんじゃ。


 『わしはお主の自己犠牲と献身の精神に感動した。

 じゃから、処刑されぬようにお主たちを引き取ろう。

 ユリアが献身的な奴隷になる代わりに、奴隷の妹達は10歳になるまでしばらく働かずにすむようにしよう』とな。


 そしたら、ユリアはわんわん泣いてとても感謝しておったわい」


「キルロス様は慈悲深いですね」


 いつのまにか皿の後片づけを終えたスザンナがそう言うと


「そうか、いや照れるのォ」


 とキルロスは照れながら朗らかに笑う。


 いやいや、いい人のように聞こえるかもしれないが、ほんとに慈悲深かったら、

ユリアたちを全員教聖院へ送るか、引き取って奴隷身分から解放した使用人にするだろ。


 ん?ユリアと過ごす時間が長くなるということは、つまり……


「けど、もしかしたら、ユリア裏切るかも」


 逆恨みで寝首はかかれるのはごめんだ


「うむ、ファルペと違ってジルイドはそのあたりしっかりしとるのォ。


 ワシもそれを防ぐために、もしユリアが裏切ったり、お主が不審死したら、連帯責任で即刻妹たちを処刑すると伝えておいたわ。


 ユリアももともと処刑されるものとおもっとったのか、素直に受け入れておったわい」


 子供にも容赦のない慈悲深きじっちゃんである。


「それで妹たちは10歳になるまで、面倒じゃからまとめて教聖院に放り込もうとしたんじゃが、ファルペがあんな腐敗したところになんていれるなといいだしてのォ。


 信仰心が厚いあやつがそんなことを言い出すなんてびっくりしたわい。

 よっぽどくさっとるんじゃろうて。


 仕方ないからファルペが、先の客人扱いの評判のいい未亡人に、少々の教育費渡して頼んで世話してもらうことになったわい。


 じゃから余計にユリアは裏切れんわけじゃ。

 そんなじゃからジルイドが教聖院送りになることはまずないぞ、安心せい」


 どうやら前にお願いしたことを覚えていたようだ。

 当面はこの貴族生活を甘受できるだろう。


「加えて、ユリアには、『お主が必要な理由がジルイドの教育のためであって、もしジルイドがおらんかったらそのまま見捨てたかもしれん』

ということをしっかりと話しておいたからのォ。


 そのせいかユリアの中では、ジルイドはユリアの命の恩人になっとるようじゃからな。

 強い忠誠心で献身的に仕えることになろう」


「気配り上手なじっちゃんカッコいい!!」


 できる男はやっぱり気遣いのうまさがちがう!

 ユリアにあんなことやこんなことやにゃんんやんをさせて好き放題にではないか!

 素晴らしい!これぞ異世界である!!


「うむうむ、結局ユリア一家の件も、

 自らの命をかえりみず自己犠牲の精神で妹達の助命を嘆願したユリアに心を打たれた我が家が特段の配慮をすることを請い、同じく心を打たれた王国が特別に許可した、

という形になって、王国と我が家のイメージアップにもなり一件落着したんじゃ」


 ……なんだかこうなるよう筋書きをかいた人間が王国にいそうな気がしないでもない


「ま、ようするに、わしの所有しておるユリアをどう好き勝手しようと勝手に殺さなければお主の自由じゃ。

 じゃが、ユリアより先に妹達が死んだ時に、好き勝手された恨みでユリアから寝首をかかれないように、ほどほどにしとくよう気をつけるんじゃな」


 ……最後の最後になってそういうオチかよ!


 ようやく管理者という意味合いを悟った。


 要するに、俺はユリア絡みの万が一の危険負担の引受を押し付けられたようなものだった。



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