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調査名目

「うわーあのおねーちゃんかわいー」


「こらっだめでしょ、人を指さしちゃ」


「わたしもあんなお姫さまみたいになれる?」


「良い子にしてたらなれるかもしれないわね」


「ねえみて、あの女のひと、かわいすぎるんですけどっ。

 私の結婚式にはあんなドレス着てエスコートしてほしいんですけどっ」


「無茶いうなよ、指輪で精いっぱいだよ」


「あんれえ、ファルペ様の亡くなった奥様のドレスじゃないかね」


「あれま、ほんとだよ、マリア様も光り輝いてたけど、お日様を背にしてるからか、あの方も何だか後光さしてる感じだわねえ。いったい誰なんだろうねえ」


「前の馬に乗ってる方はたしかジルイド様じゃなかったかねえ?」


「もしかしてご婚約されたのかね、見たことない服着てるし」


「でもそんな話まわってきてないよ」


「お忍びじゃなんじゃないかい、あんた、鼻伸ばしてないでちょっと聞いてみておくれよ」


「ええっ、そりゃ勘弁しておくれよ母ちゃん」


「あんた、図体でかいのに、肝っ玉はほんとに小さいねえ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ユリアがレポートをまとめている間に乗馬訓練をこなし続けて一週間。

 一人でなんとかゆるゆるな常歩と速歩を身につけることができた気がする。

 中々馬小屋へと重い腰を動かそうとせず、さぼろうとした俺に対して、

敵に囲まれた時に馬ですばやく逃げることができますよとのユリアからの

たった一言で乗馬訓練に打ち込むことになろうとは。

 もしやユリアめ、俺のことをちょろいとか思ってまいな。


 そんなことを馬に揺られながらぼんやり思慮していると、ふと乗馬ができてないために未だに街でカラビニエリ風軍服を見せてないことを思い出し、ファッションショー気分でドレス姿のユリアを伴って馬でゆっくりと街へとくりだしたのであった。


 馬を街の検問所にあずけ、さっそくユリアと共に先の見えない石畳の道を歩みだした。

 が、どうやら、このカラビニエリ風軍服よりも、ユリアのドレスのほうが話題になっているようだ。

 頭にティアラまでつけさせたのは少しやりすぎたか。


 街道の両脇にはバルコニ―つきの石造りでできた建物がどこまでもたち並び、建物の手前では色んな屋台が開いていて街に活気を与えている。

 さて、当然買い食いしたいわけだが、当座の金はユリアが持っているためにできずにいる。

 とくれば、おねだりするしかあるまい。


「さーらっしゃいらっしゃい、炭で焼いた牛串1本4ドネロだよー!」


 ドネロは銅貨で1ドネロ100円くらいの価値がある。肉の香ばしい匂いが胃を刺激する。


「ユリアー、あの牛串買ってー」


「えっ、ですが、ファルパ様から渡されたお金は」


「いいじゃんいいじゃん庶民が何を食べてるかを知るのも調査の1つだって。

 それに俺はユリアと一緒に食べたいんだよ」


「え、えへっ、そ、そういうことでしたら」


 ちょっろっ!!


 ちょっと頬を染めながらユリアはコインの入った袋をいそいそ取り出し、8ドネロを店主に支払う。

 そんな様子を見ていて新たな趣向に目覚めてしまった。


「まいどありー!」


 さっそく濃く味付けされた油の滴る牛串を頬張っていると、なんだかのどが渇いてきたな。

 おっドリンク屋台さっそく発見。

 屋台主たち中々うまく計算してるじゃないか。


「ユリアー、のどかわいたからあのアーモンドミルクかってー」


 わざと店のおばちゃんに聞こえる様に大きな声でねだる。


「どうも、1杯2ドネロですよ」


 そういってこちらに両手でアーモンドミルクの入ったコップを差し出してきたおばちゃんにユリアはおされてしまったようだ。


「確かに喉が渇いてきましたね」


 などと言い出し、小袋から4ドネロを取り出しておばちゃんに渡した。

 蜂蜜の入ったアーモンドミルクは濃厚で甘ったるい。

 お口直しでもしたいところだ。


「らっしゃい!ハリネズミのあんかけグリルはいかがですかい?おひとつ5ドネロでっせ」


 ハリネズミ?!えっ、ハリネズミって食えるの!?

 これは食べなきゃダメだろう。


「ユリア―、ハリネズミ食べたことないから買ってー」


「えっ、食べたことないんですか!?」


 ユリアはあるんかい!!


「ないよー、どんなものか知りたいから社会勉強のために買ってー食育食育」


 小さい子が甘えるようにわざとねだるのが癖になってきたぞ。


「食育…?」


「食育とは、食事に関わる知識を深めて、健全な食生活を実現可能とする人間にするための教育及び食文化の促進に寄与することだよー」


「そ、そうですね、確かに食文化の知識として必要かもしれないですね」


 そう言ってなんとなく納得しながらユリアは小袋から10ドネロを取り店主へ以下略。


「まいどありー!」


 片手で持てるように工夫されているハリがついていない丸裸のこんがり焼けたハリ無しハリネズミをさっそく頬張るとしよう。


「んんっ!意外にもなかなかクリーミーな濃い肉の味が噛めば噛むほど口に広がって結構いけるな!」


「はい!おっしゃるとおりの味ですよね!実は私の好物の一つなんです!」


「まじかよ!」


 どうやらユリアは見た目に拠らず可愛さよりも食欲重視らしい。

 よかったカワイイはりねずみちゃん食べちゃうなんてかわいそうとか言い出さなくて。


「さあさあ、アカミミガメのあんかけ燻製はいかがかねー!できたてだよー!」


 なにっ!すっぽん以外の亀でも食えるのか!

 これは食べ以下略。


「ユリア―アカミミガメのあんかけ買ってー」


「えっ、まだ食べるんですか?!」


「うん、ユリアと一緒に食べ歩くの楽しいからね。

 ユリアは楽しくないの?」


「いえっ、そんなことないです!楽しいですよ!」


 ユリアは健気に首をぶんぶん振ってはわはわしながら微笑む。


「ほんとう?」


「ええ、本当です。私はジルイド様に嘘などつきませんよ」


 胸を張りながらそう宣言するユリアに対して


「じゃあいいじゃんいいじゃん」


 と押し切ってみる。


「おひとつ10ドネロになりやす」


 店主もすかさず空気を読んで援護射撃を繰り出す。


「もう、しょうがないですねえ、じゃあ、2つ下さい」


 はにかみながらユリアはまた凝りもなく小袋から20ドネロを取り以下略。


「あっりゃりゃす!お嬢さん可愛いから1つサービスしときます!」


 ちょっと照れながらアカミミガメの燻製を受取るユリアの周りは、ホンワカした空気が流れているようでいて、その実全員この子ちょろいなとの感想を隠しているだけである。

 甲羅を皿代わりにて揚げたてのぶつ切りにされた肉をつまめるように一工夫してある。

 さて、さっそく頬張ってみるとしよう。


「ふむ!味は鶏肉に近いな。なかなか噛みごたえがあってこれもまたけっこういけるな」


「私もアカミミガメは初めてですが、好物の一つになりそうです」


「じゃあ、他の亀は食べたことある?」


「ないですね。すっぽんは美味と聞きます。今度食べてみてはどうでしょう」


「すっぽんかぁ。俺まだ10代前半なんだけどね」


 どうやらすっぽんが人気食材である理由を思い出したらしい。

 ユリアはすっぽんでも食べたかのように身体が熱くなり真っ赤に顔を染めて俯いた。

 変わらない純粋チョロさが、そこにはある。


「ジルイド様、トロトロマンゴーなんてどうでございますかい?」


「ほう、ひとついくらかい?」


「おひとついまなら15ドネロぽっきりです」


「ユリア―デザートは別腹って言うよねー買ってー」


「えっ、で、ですが、すでに食べ歩きだけで結構なお金を」


「ユリアの笑って楽しそうにしている幸せそうな顔、好きだなー。もっとみたいなー」


「そ、そんな、え、えへへ、もーう、しょうがないですね。

 私もジルイド様が幸せそうに食べる姿が大好きなんですよ…って、あっいえ、なんでもないです、ふふっ」



 計画通り。



 俺はユリアに金を出させることに悦びを見出しながらユリアのヒモになった気分を存分に味わい、ユリアはユリアでまんざらでもない顔で金を毎回払っている様は、誰がどうでみてもヒモをほおっておけずにかいがいしく世話するチョロくて生真面目なタイプの女だ。

 これぞまさしくwin-winな共生関係。

 決して寝取られものにでてくるような人の弱みにつけ込むチャラ男ではない。

 そして金の支出で怒られるのは金銭管理を命じられたユリアであろうから、それだけ出費しようと俺には関係ないはずだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 どうやら俺とユリアの買い食いの光景を見ていたらしい稼ぎ時とばかりに満面の笑みを浮かべる店主達によるプロパガンダの嵐をそっくり鵜呑みにしながら食べ歩きをしていたら腹がぱんぱんに膨れてきた。

 時折きっとジルイド様はいいとこのお嬢様を捕まえたんだよという声が聞こえる度にユリアはそっと頬をそめ俯くから余計にそのデマの信ぴょう性が上がる。

 なんだかんだでもうすでに300ドネロは使っただろう。

 そろそろ宿でも決めたいところだ。


「ジルイド様~今日の宿はもうきまったかしら~?

 よかったら私達とやすんでいかな~い?」


 胸を強調した派手な衣装の女2人が路地裏を指さして甘い声で誘ってきた。

 その方向をみると、路地裏の店の前で鼻を伸ばした男が派手な女と腕を組みながら店の中へと吸い込まれたり、すっきりした顔の男がお世話になったであろう女に手を振ったりしていて実に賑わっている。

 これは新たな味見をせざるをえまい。


「ユリア、いい機会だから俺はこれからこの女性達とともに奥の店で貧困調査しに行こうと思う。

 これも立派な次期当主としてしなければならない公務の一つであろう。

 だが、俺の大切なユリアを万が一でも危険にさらすわけにはいかない。

 だから今日の宿は2手に分かれて泊まることにしよう。

 そういうわけだから10グラッソ俺にわたしてくれないか」


 1グラッソ5,000円くらいだから10グラッソもあれば足りるだろう。

 色町へいくから金くれと女にねだるのはなかなかできない経け、いや、ちがうちがう、これはれっきとした貧困調査だ。

 上級国民たる貴族が領民の生活を親身に聞き取るための必要経費である。


「えっ、あの、いや、どうみても、その、えっと」


 純粋さ故にどういう店で何をするかを言い出せずにもじもじしているユリアの純粋さを大人なお姉さんたちはニヤニヤみつめている。


「そうか、ユリアは俺のことを信じてないのか」


 そう言ってオーバーにしょげてみる


「そんなっ!!私はジルイド様のことを信じておりますっ!」


 よし、このチョロさならもうひと押し。


「なら、貧困調査のための宿代をだしてくれ。

貧困は人が宗教にのめりこむ一つの要因でもあるんだ」


「う、うう………」


 ユリアが俯き小刻みに震えながら小袋を取り出そうとしたその時。


「あら、それならウチに泊まっていったら」


 後ろを振り返ると、そこには買い物帰りのジト目をした奪幸美女トロワが仁王立ちしていた。


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お読みいただきましてありがとうございます
もし『ブックマーク評価感想をしていただけたら
もうかなり嬉しいですし助かりますのでよろしくお願いします
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