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演者達の宴 後編



 わかってる。さっきとはがらりと変わったちょっと困り顔で、

 初めてなのにさっきはちょっと睨みすぎたりして悪かったけどよ、

 このままの流れでいくともうそのままお開きになるんじゃないの、

 どうするつもりなのよって言いたいのもわかってる。

 わかってるからちょっと諦めの表情みせないで。

 早いから。諦めるにはまだ早いから。


 当初の予定では、俺とトロワがメインになってファルペに提案し、ユリアは補佐役になってもらうつもりだった。

 話の流れで帝国に関する情報を言わねばならなくなった際に、父からこんな話を聞いたことが~という枕詞を使って、その提案に現実味を与える肉付けをするためだ。

 またスザンナを適当な頃合いで、介抱という名目で宴から連れ出させる役割もあった。

 あまりスザンナを巻き込みたくないし、情報の秘匿は人数が少ないほうがいい。


 だが、酒を飲んでいいというのが、全くの嬉しい誤算だったのだが、当初の予定が狂った原因だと後から気付いた。

 ユリアが飲むことと、ユリアがどれくらい飲めるかというのをすっかり想定していなかったのである。


 わかってるから。自分が持ってるのはストレートのウォッカの入ったコップなのに、

ユリアがめちゃくちゃ薄まった酒の入ったコップを持ちながら、のみくらべましょうよぉ

って逆に酒を飲まされようとしてるのもわかってる。

なんだかんだで付き合ってあげてるのもわかってる。

 ユリア、わたしもぉジルイドさまにぃいいところぉみせたいんですぅっとかいうなら、飲もうとするのをやめろ。

 そのたびに俺がアイコンタクトで絶対させるなとトロワにいって、代わりにうまくかわして飲ませないように何度もしてるのもわかってるから。


 ちっくしょう、なんで席を隣にしなかったんだ、次回の飲み会のための反省点だ!


 わかってるから。俺が泣いたあんな言い訳を言ったせいで、さっきからずっと成長を喜ぶスザンナから、頭撫でながらよしよしされて抱き着かれそうになって余計動くに動けない俺をみて諦めかけてるのもわかってるから。

 ちょっと待って。まだ待って。


 わかってるから。ファルペは出された料理を味わずに、食べるスピード少しあげて、

もうただ機械的に口の中に放り込んで処理してるだけで、

 『では、私はやりかけの仕事がのこってますので、これにて失礼します。

 あとはみなさんでお楽しみください』

といって中座しようとしてるのわかってるから。

 一次会で途中退席みたいな感じになりそうなのわかってるから。

 給仕たちもファルペの食べるスピードに合わせようとちょっと小走りになって料理を運んでくるのわかってるから。


 ようやくてらてら光った青りんごのタルトが運ばれてきたので、宴の終わりを悟る。

 話を切り出すならラストチャンス。

 ユリアにスザンナを介抱させて人払いさせるつもりだったが、スザンナにユリアを介抱させて人払いさせることにした。手段は真逆だが目的は同じだ。


「スザンナ、タルトを食べ終わったら、ユリアを部屋まで連れて寝かしつけてくれる? 

 スザンナも明日仕込みあるだろうし今日は寝かしつけたらそのまま部屋に戻っていいよ。

 僕は宴の最後まで出席して今度は僕が礼を述べないと、トロワさんに悪いし。

 ファルペ父上も、その席に一緒にいてくれますよね?」


 まずは、人払いしたうえで、ファルペを拘束。

 こんなの客の前で言われたら、すごすごと抜け出すわけにはいかないだろう。


「あら、ファルペ様もいてくださるなんて嬉しいですわ」


 すかさずトロワが意図を忖度してナイスキャッチ!

 言葉のキャッチボールはなんとか手遅れにならずにすみそう。

 ファルペはもはや左右からゴキブリホイホイの粘着並みに拘束された様なものである。


「……もちろんですとも。トロワさん、どうぞごゆっくり」


 よっしよしよし!

 いつこの宴が終わらせるかは、奪幸美女トロワさんが主導権を握りました!

 メシが食卓に並んでたのが話しづらかった原因なのだ、一通りの来客用メニューが終わるまでまつしかない。


「じるいどさまぁ、わたしまだまだのめますよぉ、だいじょうぶですぅ」


 よっぱらいの酔ってない飲んでないだいじょうぶって

 信用力ゼロで酔っている乱酒してたもうだめですって意味なんだよ?


 スザンナに耳元で囁く。


「スザンナ、これ以上客人の前で恥を見せたくない。

 今日の宴で一番余裕ある大人の女をみせたスザンナに、ユリアの介抱を頼みたいな。

 そしたら今回の宴で、色気に満ちた鷹揚な大人の女は間違いなくスザンナだよ。


 それと、明日ユリアから何を聞かれても、ユリアはいつものユリアだったといってごまかすように。

 きっと色々ユリアもたまっていたんだろう。

 慣れてないからついうっかりはずしてしまった、よくあることだよ。

 スザンナ、君にしかできる人が他にいない。頼りにしてるよ」


 そうユリアにごまかさないときっと明日にはくっころとか言い出しそうだからな。

 …なんだろう、だんだん日本にいた時のような人格に戻ってきている気がする。


「ふふっ、もうジルイド様ったら、そうお願いされちゃったら私が断れるわけないのを知ってるくせに」


 宴の中で一番イージーなちょろさなのにさらに自分で拍車かけてどうすんの。

 スザンナ、君もちょっと酔ってるよね。

 サイドポニテを垂らしてちょっと火照って持て余してますみたいな反応やめてほしい。 こっちもいろいろ限界だから。


「皆さま、本日は私たちはこれにて失礼します。よい夢を」


「おやすみなさい、スザンナさん、ユリアさん」

 トロワは手を振りながらそう応える。


「さっ、ユリアちゃん、明日の朝食の準備のために、もうおやすみしましょうね」


 さすがスザンナ=サイドポニテ、慣れたあやし方で格を見せつける。

 ユリアを連れて行くため肩をかそうとしたその時。


「ふぇ…!?じるいどさまいるのになん…で………

 やっ…、やっ、やだあぁぁさいごまでいるぅぅ!

 じるいどさまにいらないされたくないよおぉぉ!」


 このポンコツゥゥゥーーー!!

 今この瞬間捨てたくなったわ!

 何でどうしてそうなるんだよ!

 酒にのまれてバブってるんか!

 俺だってまだやってないのに!

 皆ドン引きしてんじゃねえか!

 とんでもねえ未処理地雷だわ!


「くさったすーぷもうのみたくないよおぉぉぉぉ!

 じるいどしゃまぁ!たしゅけてくだしゃいぃぃ!」


 スザンナが珍しくてんぱってんじゃねーか!

 腐ったスープって何だよ腐ったスープって!

 俺のほうが今一番助けてほしいわ!まじで!


「じるいどしゃまあぁぁ!ゆりゅしてくだしゃいぃぃぃ!

 わたひをしゅてないでぇぇぇ!!なんでもしましゅかりゃあぁぁぁ!!

 おねがひでしゅかりゃぁぁぁ!!」


 言い方!皆様方に多大なる誤解を招きかねない言い方!

 何もしてないのに聞いてて心が痛くなってくるわっ!

 ジト目で訝しむトロワさんに気付いて全力で首を横に振らなきゃいけなくなるし!

 トロワ様誤解だから!冤罪だから!捨てないで!何でもしますから!お願いですから!


「ユリアちゃんっ!落ち着いてっ!大丈夫よっ!ねっ?

 ユリアちゃんが大事だからジルイド様は早く寝るように言ってるのよ?

 ユリアちゃんは身を挺してジルイド様をかばったのよ?

 ジルイド様がユリアちゃんを捨てようだなんて思うわけないでしょう?」


 今日初めて思っちゃいました!


「ほんとぉ…?すざんなおねえちゃん………?」


「本当よ、そうね、きっと変な夢でも見ちゃったのかしらね。

 さあ、もう遅いから、今日はもう一緒に寝ましょうね」


「うんっ!じゃあいっしょにねるぅ」


 すごいなサイドポニテは偉大だな!間違いなく今日の一番だ!

 一同いろいろとあっけに捉われてるわ!

 俺も今度あんな感じであやされてみようかな……。


 ……とにかく早くこの変な空気を収めないと。


「トロワ様、先程は我が家のユリアが騒ぎお目を汚してしまい申し訳ありません。

 昨日のみならず今日もまたトロワ様にご迷惑をお掛けしたのは心痛の至りです」


「トロワ様、父である私からも重ねて陳謝します」


「い、いえ、お、お構いなく」


 そんな戸惑った顔しないでしっかりしてよトロワさん。

 領主と領主の子息から謝罪されて困惑するのもわかるけど、

 頼れるのもう君しかいない俺の気持ちわかって下さいお願いします。


「不躾ながら釈明を申し上げますと、ユリアは込み入った事情であの年で母をなくしてしまいました。

 彼女は未だか弱き少女です。まだ彼女の純粋な心の傷が癒えていないのでしょう。

 私も早くに母を亡くしております。

 そんな心に傷を負った彼女に少し同情してしまっていたようです。

 躾が甘いかと思われるかもしれませんがどうかご理解ください」


 ファルペやキルロスがユリアをちゃんと躾てない苦言を呈する前に、

同情など全くしていない言い訳でひとまず回避。

 お願いいつもの薄幸美女トロワ様に戻ってぇ!


「え、ええ、そうでしたの。かわいそうですわね。

 きっと、お母さまが生きてらした時の頃を思い出してしまったのでしょう。

 無理も無いことですわ、今日の宴は暖かみのある宴で私も心が安らぎましたから」


 よくやった、さすが知的才女トロワ、うまくまとめた。会話のバイパス手術は成功だ。


「トロワ様からご理解頂いて幸いです。私も彼女の境遇には少し同情しておりました。

 ところでジルイド、一応聞くが、腐ったスープ云々に心当たりは……?」


 今聞く?それ。いや、トロワの目の前でよからぬ疑いを晴らしておきたいのはわかるけど


「いえ、私も初耳で、びっくりしています。なんのことだか皆目見当もつきません。

 捨てられるだのなんだのというのも彼女の口から初めて聞きました。

 そもそも私は正式な所有者ではなく、まだ管理者の立場です。

 なので勝手に捨てるだのなんだのできるわけありません。

 全くもって事実無根です。

 私はとても悲しいです」


 うそっぽいけど本当だよ!信じて!


「ならかまわないが………」


「きっと、家にくる前の事だったんじゃろうなぁ」


「なるほどそうかもしれませんね」


 それ以外考えらんねーよ!


「でしたら、ユリア様には深く聞かないほうがいいかもしれませんわね。

 辛いことを思い出させるのは酷でしょうから」


 さすがは医者の娘である知的薄幸美女トロワだ、術後のフォローアップにも慣れてる。



 さて、もう殆ど料理もないことだし、そろそろ本題に入るか。


「そういえば、先程の腐ったスープで思い出しましたが、

 昨日トロワ様と衛生に関することで話が盛り上がりましたよ」


 ようやく、演者の1人となって崇高な使命を遂行できそうだ。


 運命の力の序曲が奏でられていないのが実に残念でならない。



かなり長い文だったので迷いましたが前後編に分けようと思います。すみません。


トニ・セ○ヴィッロは作者の中では男の憧れと勝手に思ってます。

そんな彼の主演映画 ローマに消えた男 原題 Viva la liberta に

ヴェルディの『運命の力』の『序曲』がメインテーマの一つとして使われています。

作者の好きなイタリア映画の中でも特に好きな作品です。



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