帰属意識と新たな選択肢
"魂の消滅を願うか? 日本にまたうまれるのを望むか? それとも、異世界への転生を欲するか…?"
「仕事がようやくひと段落して、ようやく少しは頭を休ませられると思ったら、
俺の脳がこんなになるまで現実から逃避したがってたなんて……
なんだか湯船の中で潜ってるみたいな感じだなあ。
しっかし、ここまで自意識を保つ夢はこれまでみたことないな。
…いや、夢自体ずっとみてないけど。
っというか、これが職場でガン寝だったほんとにやばい!もうやだあ……
起きたくないけど起きろ、俺!」
"貴方はすでに死亡した。よって生前に戻り目覚めることはできない。"
「うぅっわっまじかよ、助かってないけどなんか助かったわぁー。
……はぁ~~~~………で、いい加減起きろ、ストライキを起こすな俺の脳みそ」
"繰り返すが、貴方は死亡した。よって生前に戻り目覚めることはできない"
「…わかった、なんかもうそういうことでいいわ、というか気分的にそっちのほうが楽になってきたわ。
それに7万人も毎年行方不明なんだから何となく異世界転生というのはありうる気がしてきたし。
きっと、全てを放り投げるのってこんな感覚なんだろうか」
"では、魂の消滅を願うか? また日本でうまれたいか? それとも異世界へ転生したいか…?"
「まず、2番目の選択肢は、却下。
あとは……ひとまず休憩いいですかね?久々にゆっくりぼけーーっとしたいんで」
"貴方はすでに死亡しており、この空間において眠ることはできない。"
「ああ、それでもいいんですよ、こう、気持ち的に」
どのくらいたったのだろうか、思考ゼロのままかなりぶぉっけぇぇぇ~~っとしつづけていたあと、
徐々にじわじわと思考していくように無自覚なまま頭が整理されていった。
「……もしかして、異世界って、ここ?」
"ここは先の問いの異世界に該当しない"
「ですよねー って、まさか、ここが天国?」
"ここは天国ではない"
「じゃあ、転生先が天国?」
"転送先は天国ではない"
「……つまり、どゆこと?」
"この選択肢における異世界転生は自身の人格と記憶が継承され、異世界先にて産まれ育つことである。"
「というか、なんで選択肢にはいってるんです?」
"近年、特に日本人、なかでも若年層の多くが、宗教に対する帰属意識がかなり薄く、自分の属している宗教以前に、そもそも自分が宗教に属しているかどうかすら曖昧だ。"
"一方で、それよりも死後に異世界へ転生するという出来事のほうが、よほど若年層を中心に、具現化されていく異世界に関してのイメージが浸透を続けている。
それゆえ、代替機能としての異世界転生が新たな選択肢として追加された。"
「人間の想像力半端ないな、オイ。
"人類は宗教を発明した"とは、よく言ったものだ」
「……あ、そういえばなんで俺は死んだんですか?」
"死因は過重労働と精神的疲労だ"
「っっはっはっはっはっはっぁ~~……あーーあ、あっっほらしいわ」
「こうならないよう学生の時からずっとなんとかしてきたが、結局、一度選択を間違えると、どうにもならんわな…
俺に足りなかったのは、過労死しない努力ってか、笑えんわ」
「あ~、そういや彼女無し歴=年齢だったけど死に方が怖い自殺願望者だったから、1番目の選択肢、魂の消滅でも……
いや、いっそのこと、転生先で、俺が健康な身体で、異性に困らず、堕落した生活ができるような、富と地位をめちゃくちゃもってる家にうまれ育つなら、3番目の選択肢、異世界転生で。
言ってみるだけ言ってみた、言うだけならタダだし」
"3番目の選択肢、異世界転生、だな"
「このリアクションの無さがすっきりするほどすごいです」
(あぁ~なんだか新たな出発の前にやりとげた感がするぞ。『ガタカ』の主人公ってこんな気分なのかな)
だんだんと意識が重みを持ちながら微睡んでいくのを感じ始めた。