彼女は悪役令嬢 後編
「どうなってんだ!昨日冷静になったっていってたじゃないか!」
俺は警備の居る詰所へ走っていた。学院は貴族や王族が通う場所なので警備も厳重にされているし、いざというときの詰所も用意されている。そして今セリスはそこで事情聴取を受けているらしい。
「ここか!」
詰所の前で俺は一回あらぶった気持ちを抑えるために深呼吸をした。しかしなんだってセリスがそんなことを・・・?昨日話していた感じでは落ち着いていたはずだ。ゲームの通りに進まなきゃいけないって言うのか?それにしたってアマンダが襲われたのは夕方だって話しだし、俺がセリスを送り届けてから直ぐに用意したってそんな早くは準備できないだろう・・冷静に考えてみれば色々おかしい気がしていた。
「セリス!」
俺が詰所に入るとそこにはセリスと事情を聞いている兵士。後は事件の被害者であるアマンダとその付き添いであろうフレアスが居た。アマンダは泣いているのかハンカチを目に当てたまま動かないし、フレアスはそのアマンダを抱き寄せながらセリスを睨んでいる。睨まれているセリスはフレアスには目線を向けず淡々と兵士の質問に答えている。
「だから私はそんな依頼を出してなどいません」
「しかしですな・・・現行犯で捕まった犯人達が貴方から依頼を受けたと言っているのですよ」
「ここまで証言が出揃っているんだぞ!早く認めるんだセリス!これ以上私を失望させる気か!」
毅然とした態度で否定するセリスに困惑する兵士、そして既にセリスが犯人だと決め付けているフレアス。
このままでは埒が明かないし俺は兵士に声をかける。
「そのセリスに依頼されたという奴らに会わせてはくれませんか?俺はセリスがそんなことをしたとは思えない」
「えぇ・・・犯人は奥の牢に入れてありますが・・・」
「奥ですね、では少し話をしてきます」
俺はフレアスにもアマンダ声をかけることは無く奥に向かう。牢の中には屈強な男が3人閉じ込められていた。
「お前らがセリスに依頼されてアマンダを攫おうとした奴らか」
「あ?そうだよ! あの嬢ちゃんが王子妃にはふさわしくないってな!頼まれたんだよ!」
俺の問いかけに怒鳴りながら返す男。男たちは現行犯での逮捕で開き直っているのかすらすらと答えるので俺は疑問をどんどんぶつけていく。
「いつ依頼されたんだ?」
「昼過ぎだよ、婚約破棄されたからってな」
「俺はセリスを自宅まで送り届けている。彼女と別れたのは夕方近くなんだがいつ連絡を取ったというんだ?」
「そ、それは手紙で・・・」
「朝の時点では彼女は婚約破棄されることをまだ知らないのにどうやって手紙を書いたんだ?」
「お、俺たちが知るかよ!とにかく俺はセリスって嬢ちゃんに頼まれたんだよ!」
明らかに言っていることが変わっているのだが奴らの中では辻褄があっているのだろうか・・・?
俺はここでブラフを掛けてみた。
「ふぅん・・・それにしてもお前達このままだと死罪は確定的だよなぁ?」
「は・・・?なんで男爵家の娘を攫って死罪なんだよ!?流石に罪が重すぎるだろ!」
案の定奴らは乗ってきた。まぁ嘘ばかりでもないんだけどな・・・
「それはそうだろう。アマンダはフレアスと結婚するつもりだからな。未来の王子妃を攫って軽い刑で済むわけがないだろ?まぁアマンダの狂言誘拐だってんならそこまでの罪になるかはわからんが」
俺はわかってるんだぞ。そういう風に男達に告げる。
「死罪なんて聞いてねぇ!男爵家の嬢ちゃんが王子妃になったら地位を使って俺たちを解放してくれるって言ってたろ!」
「アマンダが結婚すれば彼女も王家に連なるんだぞ?そんな彼女を誘拐した人間を生ぬるい罪で済ますわけがないだろう?」
「じゃあ俺たちはだまされたって事か!?」
アマンダが結婚して男達が処刑されれば真実を知るものは居なくなるわけだ。あの女かなり腹黒いな。
「今本当のことを兵士に話せば、俺が減刑を頼むことができる。そうすれば死罪は免れるだろう」
どうする?そう聞けば男達の反応は単純なものだった。
そこから兵士を連れてきてセリスの無罪は証明された。アマンダは狂言誘拐についてフレアスに問い詰められていたが俺にはもう関係のないことだ。
俺はセリスを連れて馬車に乗っていた。学院?そんなもの今日はもうサボりだよ。
「ニールが居てくれなかったら私・・・」
「言っただろ?俺はセリスに幸せになって欲しいんだって」
「フレアス様は私がなんと言っても信じてくれなくて・・・信じてくれたのはニールだけでした・・・」
そういって泣き出してしまったセリス。俺は持ち歩いているハンカチで彼女の目元をぬぐった。
「昨日振られたばかりでこんなことを言うのはあれなんだが・・・直ぐに結婚・・・まではいかなくても付き合うことは出来ないか・・・?まずは俺のことをもっと知ってほしい」
俺は彼女のことを見てきたから、ローズマリーのポプリが好きでよくつけていることとか、結構子供舌で辛いものが苦手なこととか。でも彼女は今までフレアスのことを見てきたから横に居た俺のことなんてほとんど知らないだろう。だからまずは俺のことを知ってほしい。俺がセリスをどれだけ好きなのかって事を。
「そうですね・・・フレアス様には昨日今日の出来事で失望してしまいました・・・私・・・嫉妬深いのかもしれませんがそれでもよろしいですか・・・?」
「大丈夫だ。俺はセリスしか見ない。他に目移りすることはないよ。だからこれからよろしく頼む」
「・・・はい!」
俺を受け入れてくれた幸せを胸に刻みながら俺はセリスに軽くキスをした。これからどんな困難が待っていても俺はセリスをきっと幸せにしてみせる。だってセリスの笑顔だけで俺はもうこんなにも幸せなのだから。