彼女は悪役令嬢 中編
伯爵家と辺境伯家の家格の誤解があったため、ニールがセリスを口説くシーンの言い回しを変更しました。
「な!なんなんですか!いきなり!」
俺の突然の告白にセリスは動揺しながらも俺に怒り出した。そりゃそうだよなぁ、今まで許婚の親友ポジションに居た奴がいきなり告白して来るんだから。
「いきなりじゃない!俺はずっと前からセリスのことが好きだったんだ。でもフレアスと婚約していたから・・・この気持ちは抑えてきた。俺が幸せにする!だから!」
セリスの手を握って熱く語る俺。やっべぇ・・・自分で言ってて恥ずかしいぞこれ・・・顔が熱い・・・絶対赤くなってるんだろうな・・・まぁ今目の前で告白されているセリスも真っ赤なんだけれども。
「私は・・・王子に婚約破棄されたのですよ・・・?そんな私に求婚など・・・外聞が悪くなるじゃありませんか・・・」
俯きながらぼそぼそと話すセリス。その言葉にフレアスは自分の行いによってどれだけ彼女が傷ついているのかわかったのか、眼を横にそらしている。
「あぁ!そんなことは承知の上さ!だがそれは君ほどじゃない。しかもセリスは伯爵家だ。家格的にも次の相手を見つけるのも難しいだろう?うちは辺境伯家だから俺からの求婚であれば周りの奴らだって大きく非難することは出来ないだろう。それに俺は長男だから嫁いで来てもらうことになる。ウチの領地周りならうるさく言う奴も居ないだろうし、なにより言わせない。セリスを傷つけるような事はしない」
「ニール・・・」
俺の熱弁にセリスの心は揺れているようだ。もう一押し・・・
「捨てられて直ぐに別の男性に靡く方だったんですね~、フレアス様やっぱり婚約は破棄して正解ですよ」
先ほどまでの怯えた様子もなく言い放ったのはアマンダだ。いつもの小動物然とした態度はなく、まるでこちらを嘲笑うかのように見ている。
「そもそもお前がフレアスを誑かしたんだろう!」
ゲームであれば主人公であるアマンダ。しかしここは俺の生きている現実だ。そいつが婚約者の居る相手を篭絡するなど普通ではありえない。俺の視線が怒りを孕んだものになるのも仕方のないことだろう。
「フ、フレアスさまぁ・・・」
「ニール!アマンダを睨むな!彼女が怯えているだろう!」
先ほどのアマンダの言葉を聞いていたのだろうか。フレアスはアマンダを庇い睨みつけている俺を睨み返してきた。
「フレアス、お前わかっているのか?相手は男爵家の娘だぞ?セリスと結婚して妾に居るくらいなら俺だってまだ許せたよ。婚約破棄だと?家同士の事情を考えたのかよ?」
あまりにもフレアスがバカなことをしている気がして、俺も今まで溜めていた鬱憤を出してしまった。
「どうせ兄上が居るのだから俺がアマンダと結婚しようとも問題はない!」
「だから家の事だって言っているだろう!破棄された伯爵家のことを考えろ!」
結局言い合いは平行線を辿り俺たちは喧嘩別れをした。フレアスはアマンダを連れて行き、俺もセリスをエスコートして伯爵家まで連れて行った。
「ニール・・・貴方の気持ちは嬉しいけれどやはり私はフレアス様のことが・・・」
「そうか・・・わかった。でも馬鹿な事だけはしないでくれよ・・・セリスに何かあったら悲しむ奴が居るって事を忘れないでくれ」
館の前で別れる前、セリスに俺は振られてしまった。セリスがどれだけフレアスのことを好きだったのか俺は近くで見てきたから知っている。だからきっと俺がどれだけ思いのたけを告白しても最後には振られるのだろうとも。
「えぇ大丈夫・・・今は冷静だから。どうにかもう一度話し合いの場を用意してもらえないか聞いてみるわ。だからそのときはニールも一緒に来てくれない?きっとわたしだけだとまた感情的になってしまうかもしれないもの」
「・・・!おう!とりあえずは明日また学院で会おう」
「えぇ、また明日ね」
拒絶されなかった上に付き添いをお願いされた。嫌われなかったことに内心で安堵を覚えつつ俺も帰宅した。
このときはこんなことになるとは思っても居なかった。
朝学院に着いた俺の元に届いたのはアマンダが暴漢に襲われフレアスに助けられたことと、その暴漢の証言でセリスが容疑者として捕まったという話だった。